◎FEAR OF THE DARK
▼フィア・オヴ・ザ・ダーク
☆Iron Maiden
★アイアン・メイデン
released in 1992
CD-0270 2012/8/14
Iron Maiden-05
アイアン・メイデン9枚目のアルバム。
3枚目から加入したヴォーカリストのブルース・ディッキンソンはこのアルバムの後に一時脱退、その後暫くメイデンは暗黒の時代を迎えることに・・・
◇
ロンドン五輪も終わりましたね。
僕の中では英国の代表的なロックバンドであるアイアン・メイデンは、やはりというか、開会式でも閉会式でも曲を使われず、もちろん出演もしませんでしたね。
分かるのですが、やはりヘヴィメタルとなると、愛聴している者からすれば不当に差別されているような感じはしないでもありません。
まあ、メイデンの場合は名前がよろしくないかもしれないし。
ただし僕は逆に、ヘヴィメタルを異様に持ち上げるつもりも毛頭ありません。
ヘヴィメタルもロックのひとつにすぎない、と思って聴いているだけです。
ただ、メイデンは英米では「大人も安心して聴けるヘヴィメタル」として特別の地位を築きつつあるので、ここは五輪主催者側も冒険して出演してもらってもよかったのではないか、と。
やっぱり、名前がよくないかな・・・
メイデン自身は自らが英国人であることを、おそらく現役のバンドの中では他の誰よりも誇りに思っているだけに、残念です。
また、このところこのBLOGの記事は3回ほどインストゥロメンタルものが続いていて、しかも前回はジャズと、自分で運営しておきながら「アウェイ感」が強かったので、英国と絡めて、ここは思いっきりホーム中のホームに戻りたくて、今回はメイデンを取り上げることにしました。
メイデンは、昨年までは、R.E.M.に続いて現役で2番目に好きなバンド(アーティストではない念のため)だったのですが、R.E.M.が解散してしまったがために、押し上げられて、現段階では現役で最も好きなバンドとなっています。
◇
このアルバムは、アイアン・メイデンの中で僕がいちばん好きなアルバムであり、アイアン・メイデンを聴く直接のきっかけになったアルバムでもあります。
初めて買ったメイデンのアルバムは、1988年の7枚目SEVENTH SON OF A SEVENTH SONで、それはそこそこ気に入ったのですが、そこからすぐにメイデンを好きになったわけでもなく、8枚目のアルバムが90年に出ていたのを何年か後に知ったくらい。
1990年から92年にかけては、中学2年以降の僕の人生の中で、最も音楽から遠ざかっていた時期でした。
遠ざかっていたとはいいつつ、月に数千円は買い続けていましたが、当時はCDが普及して安くなり、バイトでお金に少し余裕が出た頃でもあって、音楽を「商品」として捉える面が強かった時期でした。
換言すれば、あまり真剣に聴いていなかった・・・
詳しい話はまた追々織り交ぜてゆきますが、もしそのままの状態で今まで来ていたら、人生の楽しみのひとつが失われていたかもしれないと思うと、自分でも恐ろしく、また寂しいですね。
このアルバムを初めて聴いた状況はよく覚えています。
仕事の休みで札幌の家に帰っていた時のこと。
当時メイデンに凝り始めていた現英国ファンクラブ会員の弟が、「このアルバムはいいからちょっと聴いてみろ」といい、出掛けにCDをかけて出かけていきました。
当時の僕は主に失恋により心が荒んでいて(笑)、ただ疲れていて、音楽に対するこだわりもなく、弟にそういわれても、ま、どうでもいい心境でした。
しかし、そこから流れてくる音楽、うん、これは確かにいいかもしれない、と思いました。
思いましたが、でも、アルバムが1回再生されて終わると、次に聴くまでにおよそふた月という時間を要しました。
次に札幌に帰った時、弟がそのアルバムをかけてくれたことを思い出し、よかったからもう一度聴かせてくれといい、CDを聴きました。
聴くと、3曲目のギターフレーズが一気に心にしみてきました。
そして、東京に戻って、自分でもCDを買って聴き、いつしか大好きなアルバムになっていました。
このアルバムのテーマは、己の恐怖心を克服する精神力。
ヘヴィメタルという音楽は内省的であることで特徴付けられます。
ヴァン・ヘイレンやモトリー・クルーといったアメリカのバンドのようにその部分が希薄な(もしくはない)ものもありますが、そこが、音以外にも、重くて、暗い部分であり、その点でいえばこれはヘヴィメタルらしいアルバムでもあります。
音も重たくずしーんと響く「真性ヘヴィメタル」。
ヘヴィメタルに対して、正直、なにがしかの抵抗感はあったのですが、このアルバムを好きになり、もうそれは皆無に等しくなっていました。
音楽的な面については、曲解説の中でも触れてゆきます。
◇
1曲目Be Quick Or Be Dead
ギターリフが素晴らしい、切れ味抜群のアップテンポでスリリングな曲。
歌メロもいいし、1曲目としては最高のスタート。
ブルース・ディッキンソンとギタリストのヤニック・ガースの作曲ですが、ガースはこの前のアルバムから加入していました。
彼は曲作りのセンスがよく、彼の2枚目であるこのアルバムから才能とセンスが一気に開花した感があります。
僕はこれ、西部劇をモチーフにした曲かと思っていたのですが、ブルースは、世の中は何も変わっていない、むしろ悪くなっている、というメッセージを忍ばせたものだと何かのインタビューで読みました。
2曲目From Here To Eternity
メイデンの中でもとりわけ明るくてポップな曲で歌メロも口ずさむのによく、最初に聴いた時いちばん気に入ったのがこの曲でした。
タイトルは、オスカーに輝いた名画「地上(ここ)より永遠(とわ)に」 FROM HERE TO ETERNITYからいただいていますが、メイデンはSFや冒険小説などからタイトルやモチーフを取った曲が多いですね。
しかし、内容は映画とはあまり関係がありません。
その映画は「戦時下の休息」がモチーフ、この曲は、バイク乗り、というよりもバイクそのものに恋した女性の熱愛とスリル、そしてその危うさを歌ったもの。
その点でいえば、メイデンでは珍しいラブソングともとれます。
間奏のギターソロが始まる前にディキンソンこう言います。
"Gentlemen, start your engines"
これは、アメリカ最高峰のレースである「インディ500」の開始の際に主催者が宣言する言葉ですが、女性ドライバーもいる時はLadies and gentlemenと言っています。
だめで元々、当たってみろ、たとえだめでも、地獄は決して悪いところじゃないよ、みたいな感じで、ここでの恐怖心は、むしろスリルというべきポジティブなものでしょう。
こういう曲が余裕で出来てしまうのが、メイデンの凄み。
3曲目Afraid To Shoot Strangers
僕がいちばん好きなメイデンの曲!
ということはすなわち、ヘヴィメタルでもいちばん好きな曲でしょう。
戦時下での兵士の心境を歌ったもので、メイデンには特に戦争をモチーフにした曲が多いですが、戦時下の特殊な人間の精神にひかれるものがあるのでしょう。
敵は撃ちたくない。
しかし、撃たなければ自分が死ぬ。
国のために戦っているので逃げようがない。
撃たなければならない。
撃つのも、撃たないのも恐い。
願わくば、このような状況に巻き込まれたくはなかった。
そして、この状況が、金輪際、訪れないように・・・
この状況では、「誰かを撃つ」ことが勇気ではない。
現実に直面して前に進むことが勇気である。
曲は明確な4部構成になっていて、1部はワルツでソフトなバラード風、2部と4部が、マーチ風の、東欧風ともスコットランド風ともとれるギターの旋律を中心としたパート。
このギターの旋律があまりにも美しく、ほんとに、これを聴くと、そして弾くと、勇気が湧いてきます。
しかも、2部と4部では旋律を一部変えている部分もあって、感動を増幅しています。
3部はいかにもヘヴィメタルという速くて力強いギターインストパート。
とここまで書いて、実はこの曲は異例であることに気づきました。
僕は、歌メロがいい曲を好きになる傾向が強いですが、この曲は歌が中心ではなく、歌自体も、言ってしまえばそれほどでもありません、もちろん口ずさめるくらいではあるけれど。
しかし、なんといってもギターフレーズが美しく、演奏、展開、もちろん歌も含めた全体の雰囲気が好きなのです。
これは自分でも当初は不思議だったのですが、しかし、僕は後にクラシックも聴くようになり、クラシックでは交響曲がいちばん好きだと分かり、そういう風に音楽を聴く耳も持っていた、ということですかね(笑)。
メイデンはこの曲をもう15年以上コンサートで演奏していないようですが、次のツアーでは演奏するかもしれず、そうであるなら僕は死んでもそのコンサートに行ってこの曲を生で聴きたい、そして涙を流して冥途の土産にしたい、と思っています(笑)。
4曲目Fear Is The Key
続いてメイデンで僕が2番目に好きな曲。
3曲目がいちばん好きというメイデンファンも珍しいでしょうけど、この曲が2番目という人はきっと世界中探しても他にはいないと思います(笑)。
これはいってしまえばツェッペリン風で、Kashmirのようなオリエンタルな雰囲気。
そういえばメイデンで他の誰かっぽい曲というのは珍しいのですが、これは、70年代ハードロックフリークである作曲者のひとりのヤニック・ガースの趣味かもしれません。
それだけでもひかれるのですが、さらには以下の部分の歌メロが最高!!!
I remember the time when we used and abused
We fought our battles in vain
僕が洋楽ロックが好きな大きな理由のひとつが、英語の歌詞とロックのリズムと旋律の絡みなのですが、この曲のこの部分はそれが最高に素晴らしく、とりわけwe以下はいつ聴いても歌ってもゾクゾクっときます。
この曲は、タイトルではなく歌詞の中に映画からの引用があって、IN THE HEAT OF THE NIGHT、これは、1967年度オスカー作品賞受賞の「夜の大捜査線」の原題であり、レイ・チャールズが同じ題名でテーマ曲を歌っています。
そのことを頭に入れると、この歌詞は、男女の関係を歌っていることは、読み取れていましたが・・・
5曲目Childhood's End
タイトルはアーサー・C・クラークの小説「幼年期の終わり」の原題。
僕はSFは生涯30冊は読んでいるかな、くらいのものですが、僕がいちばん好きなSF小説が「幼年期の終り」で、2回読んだことがあるくらいですが、このアルバムを聴く前に1回目を読んでいたので出典がすぐに分かったのはうれしかった思い出が(笑)。
メイデンは引用が多いことは過去にも触れましたが、もう台詞を含めて既に4つめです。
暗い中にほのかな光が差したような、それこそ宇宙的な広がりを感じるアップテンポな曲ですが、これはイメージ的にも小説から直接インスパイアされた感じがします。
地球環境が悪くなっている。
この先、もし地球環境がよくなるのであれば、宇宙的な視点で考え直さないといけない・・・
というのが、僕がこの曲から感じたメッセージ。
6曲目Wasting Love
そしてメイデンで4番か5番目に好きな曲もここに入っています。
ヘヴィメタルが流行していた頃、「メタルバラード」がずいぶんともてはやされましたが、これはメタルバラードの傑作と断言します!
メイデンの中ではもっとも甘いラブバラードで、ここまでストレートなラブソングは初めてじゃないかな。
しかし、うまくいかなくなってただ惰性だけで過ごしている男女の冷めた仲を歌っていて、虚しさがしみてきます。
しかし、虚しさの向こうには、美しさも見えてくる・・・
ツインギターのイントロのフレーズも印象的で、作曲者のひとりでもあるヤニック・ガースのギターソロもメイデンの中でも僕は特に大好きなソロ。
虚しさを通り過ぎた向こうに何か信じられるものが見えてくる、というメッセージを感じます。
7曲目Fugetive
ハリソン・フォード主演で日本でも大ヒットした映画「逃亡者」、またも映画からの引用です。
内容もまさにその通り、追われて逃げるスリルを体感できる曲で、曲全体を、無念さ・無常さが支配しています。
8曲目Chains Of Misery
ある意味「メイデンっぽくない」、珍しく展開があまりない、ストレートな英国ブルーズロック風の曲で、「普通にいい曲」ですね。
ディッキンソンとデイヴ・マーレィの共作。
9曲目Apparition
夏らしいタイトル「お化け」。
ギターの音がぐさっとささるソリッドな曲だけど、弟曰く「このアルバムでいちばん地味な曲」。
それこそお化けのごとく、イントロもなしに性急に、すすっと始まってささっと終わりますが、人を食ったような妙な明るさが印象に残ります。
この曲もヤニック・ガースが作曲に加わっていますが、バンドが硬直化せず前進を続けられたのはガースの加入が大きかったのでしょうね。
こんな変な曲は後にも先にもないから・・・(笑)・・・
ただ、アルバムの中にあってこの曲は流れをしっかりつかみつつ変化をもたらしているのは効果的です。
別に嫌いな曲ではないけれど、大好きなアルバムの曲がすべて大好きとも限らないし、むしろそうであれば聴いていて疲れてしまうこともあるでしょう。
僕はアルバムを聴く時にはどんなに嫌いな曲があっても飛ばさないで聴きますが、アルバムを聴くというのはそういうことだと思うし、逆にいえばそういう曲はアルバムでしか聴けないのだから。
10曲目Judas My Guide
この曲も普通のブルーズロックっぽいストレートな曲だけど、バースもサビも流れるような歌メロがすばらしい佳曲。
曲としては素晴らしいけど、メイデンとしては地味、という典型例かな。
これもデイヴ・マーレィが書いた曲ですが、デイヴの曲は複雑な展開が好きな人たちが集まったこのバンドにおいては、逆に単純なことで他が引き立つ、そんな役割を担っているように思います。
ディッキンソンが復活したBRAVE NEW WORLDはこのような曲ばかりで構成され、今となっては評価が低い部分である一方、このアルバムが現在の彼らの下地であることをこの曲は証明しています。
そういう点では意外と存在感がある曲かもしれない。
11曲目Weekend Warrior
「週末の戦士」とはフーリガンのこと。
普段は真面目に働く人が、サッカーになると暴徒化する・・・
フーリガンが社会問題となってきていた当時を、ユーモア溢れる曲調で、ある意味嘲笑するように表現しています。
この曲は暗さがほとんど感じられませんが、そのせいかどうか、どこか冷めた感触が残るのは、自分は巻き込まれたくない・・・という思いかもしれません。
これもメイデンでは他にはあまりないタイプの曲ですが、そうした曲が複数入っているのが、逆をいえば創作意欲が高まっていたということなのでしょうね。
12曲目Fear Of The Dark
中期メイデンの最高傑作。
リリース以降、コンサートではほぼ必ず演奏され続けています。
ヘヴィメタルを知らない人に、ヘヴィメタルってどんな音楽と質問されたら、僕は、迷わずこの曲を聴くことをすすめます。
ヘヴィメタルの全ての要素が詰まっているから。
この曲について語り始めるとここから更にここまで書いてきた分を費やしてしまいそうだから、敢えて短く、上記の言葉をこの曲の魅力として書き記してアルバムは終わりたいと思います。
メイデンの中でも僕がきわめてよく口ずさむ曲のひとつでもありますね。
◇
このアルバムは英国の14世紀の城の跡の建物で録音されたそうですが、そこでメンバーはお化けを見たという話で、そんなこともアルバムに反映されているのかもしれません。
かもしれない、というのは、僕は実は霊感ゼロ人間であり、肝試しやお化け屋敷にも特に興味がない人間だから、分かる、というか感じようがないのです、悪しからずご了承ください(笑)。
このアルバムの後、ブルース・ディッキンソンが脱退し、バンドは最大の「危機」を迎えます。
僕がせっかく好きになって、さあこれからだという時に、このアルバムの後のコンサートで、彼はバンドから去りました。
彼は彼なりにメイデンでの活動が煮詰まり、それと同時に、達成感のようなものを感じて、ソロ活動を展開したかったのでしょう。
その後のソロ活動、僕自身は好きなアルバムもありますが、まあそこそこ、くらいで展開されていて、決して大成功とはいえないものでしょう。
その後の「暗黒の時代」については、いずれその頃のアルバムを記事にしたいとは思いますが、それも恐いなあ・・・
ディッキンソンは結局2000年にバンドに戻り、復帰作BRAVE NEW WORLDをリリースし、今は、かつてよりもバンドとしての結束が強くなりました。
大人になったということでしょうか。
先にちょっと触れましたが、このアルバムは2000年の「再結成」以降の下地になった、とよく言われていますが、まさにその通りで、現在のメイデンの音楽面での充実を考えると、このアルバムは、その点でも意義深い作品であるでしょう。
このアルバムはメイデンでいちばん日本でCDが売れたのではないかな。
その証拠に、どこのブックオフに行ってもだいたいあります、しかも500円以下で・・・
見つけた際には、ぜひ聴いてみてくださいね。