SAXOPHONE COLOSSUS ソニー・ロリンズ | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-Aug10SonnyRollins


◎SAXOPHONE COLOSSUS

▼サキソフォン・コロッサス

☆Sonny Rollins

★ソニー・ロリンズ

released in 1956

CD-0270 2012/8/10


 今回はジャズのアルバム、そしてインストゥルメンタルのミニシリーズ第3弾。


 ソニー・ロリンズの名盤として誉れ高い「サキコロ」

 アートワークも含め、ジャズをあまり聴かない人への知名度の高さはジャズのアルバムでもトップグループだと思います。

 僕も中学時代から知っていたくらいですから。


 ただ、今回の記事も少し前のブランフォード・マルサリス同様、音楽そのものについての話はほとんどありません。

 特にジャズがお好きな方に対して、予めお断りしておきます。



 ジャズは、10年ほど前に一時期とても凝っていたことがあります。


 きっかけは、バカと呼べるほど単純な話。

 村上春樹の小説を読んでいて、ジャズとクラシックとブルース・スプリングスティーンが一緒に出てくるのがカッコよく、そうした音楽全方位性に憧れ、ジャズも聴いてみようと思ったのです。

 クラシックはその少し前にやはり凝って聴いていた時期があって既に「制覇」していたので、残るはジャズだけとなっていたのもありました。

 なお、僕は、村上春樹は心酔するほど好きとかそういうことはなく、何冊か読んだことがあるだけで、動きを追っている人ではあるけど、というのが正直なところです。


 まあしかし、なんとも浅はかな人間であること。


 ジャズのCDは、100枚はいかないかな、でも50枚以上は買ったと思う。

 名盤と呼ばれるものもかなり聴きました。

 マイルス・デイヴィス、ビル・エヴァンス、キャノンボール・アダレィ、ウェイン・ショーター、それに女性の足のジャケットのやつとか。

 ソニー・ロリンズの「サキコロ」もその頃に買って聴きました。


 ジャズは父がベニー・グッドマンが大好きで、それまでまったく縁がなかったわけでもなく、「サキコロ」は洋楽を聴き始めた頃にはその存在を知っていたので、きっと父の影響で知ったのだと思います。

 

 ソニー・ロリンズはまた、ローリング・ストーンズのアルバムに参加したりと、洋楽を普通に聴いていればどこかで必ず接するミュージシャンズ・ミュージシャンでもありますね。



 10年ほど前のジャズへの熱は3年ほど続きました。


 或る日、今思うと突然のように感じるけど多分ふた月ほどの葛藤があった後、俺はジャズを本当に好きなんだろうか、そんなカッコだけで聴き始めただけなのに、という思いが強くなり、ついに自分の意志で聴くのをやめました。
 CDも、マイルスすべてと特に気に入った5枚くらいだけを残して、あとはすべて中古屋に売りました。

 「サキコロ」とも一度サヨナラしました。


 今思うと、そんなきっぱりとやめなくてもよかったのかな、と。

 でも、その時は、ただカッコつけているだけのような自分に嫌悪感すら催していました。

 ついでにクラシックもやめて、持っていたCDの2/3は売りました。



 そこまで思い切れたのは、やっぱり自分が歌が好きだから、という思いもありました。

 クラシックはオペラなど歌ものも割と聴いていましたが、ジャズは逆に歌ものを意識的に聴かないようにしていました。

 クラシックはしかし、歌といってもドイツ語かイタリア語で言葉が分からないから、結局のところ自分にとっては歌ではなくただの音にすぎず、居心地の悪さを感じました。

 クラシックやジャズで歌から心が離れて寂しかったのかな。

 やっぱり自分のいるべきところは英語の歌ものだと。


 ただし、クラシックやジャズそのものが嫌いになったわけではない。


 それに、凝っていた頃にCDを聴いたりコンサート(クラシックはよく行っていた)で学んだことは、知識としても感覚としても今の自分の中に残っています。


 ロックの演奏に対する見方や感じ方それに考え方が以前とは変わり、クラシックやジャズを聴いてよかったと思っています。

 具体的には、僕は歌が好きだから、以前はインプロビゼーションとか演奏が長いのが苦手でしたが、ジャズやクラシックを聴くようになって全体の流れとして聴けるようになりました。


 もうひとつ、「この音が面白い」というのは、以前のロック時代にも感じることは感じていましたが、それを楽しめるようになったのもやはりジャズやクラシックを聴いたからだと思います。



 ここまでは実は、前のブランフォード・マルサリスの記事の際に書いていたことでした。

 もちろん今そこに書き足しはしましたが、大筋は変わっていません。


 書いたのですが、長くなりすぎたというよりは焦点がぼやけてしまうので、こちらの部分はまるまる削って別の機会に回すことにして、別の記事の下書きを作って時を待っていました。



 ブランフォードのそれを買ったきっかけはジャケット買いでしたが、そこで一度ジャズを聴いて、自分の中にジャズへの流れが、ほんの小さなものだけど、できていたようです。


 或る日、ネットのHMVでセールがあり、購入金額を5000円以上にするために何か買うものはないかと考えていて、ふと、「サキコロ」が頭に浮かびました。

 調べてみると、RVG=Rudy Van Gelder Remastersのリマスター盤が出ていることが分かり、HMVに在庫ありでした。


 RVGリマスターは、ブルーノートのエンジニアだったルディ・ヴァン・ゲルダーが直々にリマスターに携わったシリーズで、装丁を見ればすぐに分かります。

 ジャズに熱を上げていた頃は、RVGの新譜が出ると知らない人でも買って聴くことにしていましたが、音楽の間口を広げる手立てのひとつとして僕にはとてもよい切り口でした。

 しかし当時はまだ「サキコロ」のRVGは出ていなくて、おおこれが出ているのかと感激し、すぐにカートに入れて5000円に到達し注文しました。


 こうして「2代目サキコロ」がわが家にやって来ました。



 「サキコロ」は10年前に聴いた時もとても気に入った覚えがあります。

 

 でも、何をどう気に入ったかはまるで覚えていません。


 これに限らず、名盤と呼ばれるものはおしなべてよいと感じたものですが、それは、洗脳とまではいかなくても、名盤関係の本で紹介されたり世の中でいいと言われていることが頭にあった上で選んで聴いていたからかもしれない。

 極端な話、いいと思えなければ自分を疑ってしまう、みたいな。

 

 でもやはり、そうした情報は抜きにしても、いいものはいいと感じるんじゃないかな、そう思いたい。

 ただ、情報がこれだけ溢れた世の中で、100%予備知識なしで「名盤」にたどり着く人はほとんどいないでしょうね。

 友だちがいいと言った、それだけでも予備知識だし、それが起こるのは、ほんとうにアーティスト名すら知らずに店頭でジャケット買いした人くらいでしょうね。


 音楽のことを考えると不思議なのが、よいと感じるかどうかについて、人々の間である程度の共通認識が存在することです。

 そんなことは音楽に限らず当たり前じゃないか、と言われればそれまでですが、でも、しつこい性格の僕は(笑)、そもそもどうして、ということを考えることが好きだったりします。 

 

 今回は、テーマであるジャズの問題に限ってみると、ふたつほど考えるに至りました。


 ひとつは、そもそも音楽とは人間にとって無条件で気持ちがいいと感じるものなのではないか、ということ。

 野鳥の囀りが鳥たちの特に雌にとって気持ちがいい響きであるように、人間、以前に生き物としてそういう感覚がある。

 

 もうひとつ、気持ちがいい音楽を完璧に聴かせてくれるテクニックによって演奏してくれる人たち、それがジャズという音楽ではないかと。

 サックスの音色は脳裏を刺激し、ピアノの小気味よい響きは心が浮くようだし、ドラムスには心をぴしゃりと叩かれるように感じる。


 今回注文する時、1曲目St. Thomasの旋律が頭に思い浮かんできました。

 不思議、それまで10年ほどまったく思い出さなかったのに、ジャケットを見た瞬間に浮かんできました。

 僕はいつも曲の覚えがひと数倍悪いと書いていますが、この曲はポップな旋律を持っているので、無意識に覚えたのでしょうね。

 St. Thomasでソニー・ロリンズがサックスで奏でる旋律を聴くと、なんだか歌詞をつけたくなります。

 またこの曲はカリプソ風で、そのリズム感も印象に残りやすかったのかもしれない。
 他の曲では特にそうは感じないので、やはりこの曲はとりわけポップな感覚であるということでしょう。

 そういう曲がある時点で、名盤と言われる要素はあるのかもしれないし、ジャズという音楽はそういうものでもないのかもしれない、それは今の僕には分からない。

 

 いいですね、買い直す前に思っていた以上に、聴いていて楽しい。


 僕もいつか、この先何年生きられるか分からないけど、クラシックもジャズも、凝るというほどではないにしても、割と普通に聴けるようになれるかな、なるんじゃないかな。

 

◇ 


 ぐたぐたいわずによい音楽を聴けばいいんじゃないか!


 という声が聞こえてきそう。


 確かにその通りですね、若干の自省を込めてそう思います。


 でも、いいと感じた音楽を素直に聴けばいいんだ、と、いわば反面教師として思っていただければと思い、こんな文章でも敢えて記事として上げさせていただきました。

 

 最後までお読みいただきありがとうございます!