GREEN ONIONS ブッカー・T&ザ・MG’s | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-August07BookerTMGs


◎GREEN ONIONS

▼グリーン・オニオンズ

☆Booker T. & The MG's

★ブッカー・T&ザ・MG’s

released in 1962

CD-0269 2012/8/7

Booker T.-02


 ブッカー・T&・ザ・MG’sのデビュー作にして名盤、「グリーン・オニオンズ」の50周年記念盤が先ごろリリースされました。

 アルバムはリマスター処理され、ボーナストラックとしてライヴ音源が2曲追加収録されています。

 もちろん、早速買いました、買い直しというか、今日はその記事。



 前回のヴァンゲリス「炎のランナー」は、23曲目のインストゥルメンタルのNo.1ヒット曲であり以降はインストゥルメンタルで1位になった曲はないと書きました。


 逆にいえば、それまで22曲もあったのか、と驚くかもしれない。


 ビルボードのヒットチャートは1955年に始まったものですが、チャートをまとめた本を見ると、1960年代までは映画音楽のヒットが多かったことが分かります。

 また、ジャズに分類されるものも当初はかなりチャートインしていて、CMでも有名なデイヴ・ブルーペックのTake Fiveなどはシングルチャートで最高位5位を記録しています。


 今回取り上げたこの作品は、全編インストゥルメンタルの楽曲により構成されています。

 アルバムチャートの最高位は38位ですが、表題曲Green Onionsがシングルチャートで3位を記録する大ヒットとなりました。



 僕は2008年からソウル系を真面目に聴き始めたのですが、このアルバムの存在はそれ以前から知っていて、2008年のうちにRHINOから出ているCDを中古で買って聴いていました。


 率直な感想は、堅苦しい言い方をすれば、1962年当時はこの手の音楽にも需要があったのだろうか、というものでした。

 ヴァンゲリスもインストゥルメンタル曲としては久しぶりの大ヒットだったように、僕の時代になるとヒットするのは歌物というのがいわば常識、だからこのような音楽がヒットしたということが不思議でした。



 しかし、1960年代前半くらいまでは、聴いていて楽しいポップなよい音楽であればなんでもよかったのではないかな。

 中村とうようの本「ポピュラー音楽の世紀」には確か、ジャズも1950年代まではポップスだったけれど、テクニック中心主義に走った結果として一般大衆が求める音楽とかい離し、自らポップであることを辞めた音楽だと記されていました。

 だから、1960年くらいまでは、今ではジャズに分類される音楽も普通にヒットチャートに顔を出していたようです。


 一方で1950年代後半になると、エルヴィス・プレスリーやバディ・ホリー、そしてチャック・ベリーなど、ロックの興隆に伴い歌物の比率が高くなっていったのでしょう。

 歌物の流れが決定的になったのは、おそらく、プレスリーとモータウン、そしてビートルズでしょうね。

 それ以降もハーブ・アルパートが大ヒットを飛ばしはしましたが、1970年代になる頃にはもう、インストゥルメンタルの音楽は時代の真ん中にはいないという状況になりました。

 余談ですが、ハーブ・アルパートがあれだけヒットしたのは、人々がジャズに求めていた楽しくて聴きやすい部分だけをポップに抽出した結果であり、反面、ジャズを見切ったということだったのかな、と今ふと思いました。


 これは映画音楽にも言えることで、1960年代の年間チャートを見ると、映画のサントラが強いことが分かるのですが、それもやはり70年代に入ると収束しています。

 ただし、1980年代以降はロックの楽曲を集めたサントラが注目されヒットしますが、それはまた別のこと。


 もうひとつ言えるのは、歌物にシフトしたという以前に、1960年代初頭くらいまでは、そもそも音楽市場のパイがまだ小さくて、ちょっとでも話題になればチャート上位に昇りやすかったのではないか、ということ。

 まあこれとて、音楽市場を飛躍的に拡大させたのは、英国から来た4人組を中心とした新勢力だったのでしょうけど。



 しかし、1990年代に入ると音楽が多様化。

 聴く側の趣向と演じ手側の意識がほぼ並行して音楽の趣向がより広くなり、ヒットチャートが以前ほど重要ではないという意識も広がり、CDにより音楽の選択肢も増え、自分に合った音楽を選べるようになりました。

 僕が思うに、昔は誰もが知っていて誰もが認める洋楽の大ヒット曲というものが少なからずあったけれど、そう呼べる最後の曲は、ホイットニー・ヒューストンのI Will Always Love Youだったのではないかと、これは日本国内のみならず。


 話は逸れましたが、趣味の多様化により、「グリーン・オニオンズ」のようなインストゥルメンタルの音楽に接する機会が増え、、聴く意欲も高まってきたこともまた想像されます。

 1980年代にラジオの洋楽番組でこの音楽がかかると違和感だらけだったかもしれないけれど、今なら、こういうのもありと素直に受け入れられるのではないか。

 

 僕は、ヒットチャート中心に聴いてきた人間ではあるけれど、今の音楽の趣味の多様化はとてもいいことだと思っています。

 ブルーズが本格的に復権したのだって、1990年代に入ってからのことですし。



 長々と周りの事ばかり書いてきましたが、肝心の音楽についても触れないと記事として失格ですね(笑)。


 最初に聴いて、なんて軽い音楽なんだろうと思いました。


 そもそも僕は根がロック人間だから、この軽さはそれまで、少なくとも自分の意志で聴く音楽としては経験したことがありませんでした。

 分かりやすくいえば、スーパーのBGMを名のある人たちが真面目にやっているだけ、という感じ。


 でも、ただ軽いだけではなく、味わいがある音楽であることに気づくまでは、やっぱり少しかかったかな(笑)。

 最初に買ってひと月ほどの間は2日に1回くらい聴き続けていたけれど、それから1年以上封印して、一昨年くらいからまた時々聴くようになっていました。

 聴いてゆくうちに、少なくとも面白くて楽しい音楽であることは分かってきました。


 それが昨年、ブッカー・Tのソロアルバムを聴いてとっても気に入り、彼の原点でもあるからここはひとつ気持ちを入れ直して聴くようになったところ、今では人前で臆面もなく大好きなアルバムと言えるまでになりました。

 やっぱり何でも気持ちの在り様が大事ですね(笑)。


 ブッカー・Tの語りかけるようなオルガンはともすれば歌声よりも心に多くのものが届いてくるし、ヴァンゲリスでも書いたけど、言葉がないだけ余計に気持ちの部分に直接触れられるように感じます。

 ただ、基本的にずっと高音というかオルガンの音が高いので、疲れた時には耳についてあまり癒しにはならないかもしれない。

 あくまでも楽しい気分の時にその楽しさを増幅させてくれる音楽かな。


 スティーヴ・クロッパーのギターが出てくるタイミングが素晴らしくて、彼らは後にスタックスで数多のソウルの名曲のバックを務めることになるけれど、歌とのタイミングやバランスの取り方は、ブッカー・Tとのオルガンと演奏することによって身についたものなのだろうなと思います。 

 そのくせ、刺さるところは突き刺さってくる攻撃的なギターもまたすごく、スティーヴ・クロッパーが秀でたギタリストであることが分かります。

 特に表題曲Green Onionsの12小節の「歌」の部分が終わった後で強引に突っ込んでくるテレキャスターのチョーキングのフレーズは、ソウル史の中でも燦然と輝く名フレーズでしょう。

 

 ロックサイドの人間におなじみの曲としては、ハニードリッパーズが演奏していたレイ・チャールズのI Got A Woman、そしてビートルズでおなじみアイズリー・ブラザースのTwist And Shoutがあります。

 もちろん、軽い軽い、シャウトしてないですね(笑)。


 他の曲もみな素晴らしく、楽しく最後まで聴き通せます。

 メロウな曲もあるし、朗々とした曲も、ロックンロール風も、スウィングも、でもソウルというにはまだ少し早いし、ファンクというのは後からいわれたことで、ファンキーではあっても音楽としてのファンクではないかな。

 音楽がいろいろな要素を取り込みながら発展していた頃のことです。


 なお、このアルバムはまだベースがドナルド・「ダック」・ダンではなく、ルイス・スタインバーグが務めていますが、ボーナスマテリアルはドナルドがベースで、移行期にあったのでしょう。




 軽い軽いと何度も言っていますが、そういう音楽もあるというだけのことで、僕がそれを以前は認めていなかった、だから新鮮な感覚でもあった、ということでしょう。


 そうそう、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でマイケル・J・フォックスが過去に行って両親を引き合わせようとした体育館かどこかのパーティのシーン、あんな雰囲気の音楽ですね。

 映画のそのシーンは歌がある曲だったと思ったけど、大勢が集まった場所で踊れるような音楽でもあります。


 ただ、余談というか、このCDの旧盤を2008年に最初に買った時の話。

 僕はそれを札幌市内では最も大きな中古レコード店「レコーズ・レコーズ」で買いましたが、その時中古が2枚あって、有名だから聴いてみようと思ったけどあまり感触をつかめなくて売る人が結構いるのかな、と、思いました。


 疲れた時以外は割と聴く時宜を選ばないので、リマスター盤を買ったばかりでもあるし今は毎日のように聴いています。


 ところで、僕は時々意固地になって一般的ではないカタカナ表記をしますが、アーティスト名については(涙を飲んで)、日本のレコード会社が記している通りに書くことにしています。

 ただ、国内盤をあまり買わないので、知らずに勝手な書き方をしている場合もあるかもしれないですが。


 この「ブッカー・T&ザ・MGズ」は、カタカナ表記、日本語表記がなんとかならないかと、今回書いていて強く思いましたね。


 英語ではBooker T. & The MG's。


 ピリオドもアポストロフィもある上に「&」まであって、確かに、日本語表記にするのは極めて難しく不自然が生ずることは分かります。

 でも、これはファンクションキーを使っても一発で変換できないし、PCで入力すると面倒で困りますね。

 日本語にすると「T」の後のピリオドは省略されているのもどうなんだろう。


 しかも、「ザ・MG’s」じゃない、正しくは「ジ」のはずだし・・・