CHARIOTS OF FIRE ヴァンゲリス | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-August04Vangelis


◎CHARIOTS OF FIRE

▼炎のランナー

☆Vangelis

★ヴァンゲリス

released in 1981

CD-0268 2012/8/4


 ロンドン五輪も盛り上がってきましたね。


 英国はサマータイムで日本との時差が8時間。
 日本では夕方に現地の朝の競技が始まり、夕食、入浴して寝て翌朝起きて、まだ競技が終わりきっていないというのはなんだか不思議で面白い。


 僕は、毎朝のA公園の自然観察をやめるわけにはゆかないし、生活のリズムを崩したくなくて、22時以降は五輪のテレビは見ていません。
 

 逆に、寝て起きると日本がたくさんメダルを取っているのは、このところの毎日の楽しみ、それはそれで朝から気分いいですね。
 内村航平の金メダルは、うれしいけどそれ以上にほっとしました。


 五輪で僕はやっぱり陸上競技が好きですね、トラックもフィールドもマラソンも。
 でも陸上は間違いなく寝ている時間帯の放送が多いだろうなあ。



 五輪の表彰式の映像をニュースなどで見ていて、よく耳を澄ますと、アナウンサーの声の向こうから、現地の会場に流れている曲が聴こえてきます。

 それが今日のお題、ヴァンゲリス 「炎のランナー」 Chariots Of Fire。



 「炎のランナー」は、同名の英国映画のテーマ曲としてヴァンゲリスが作曲し1981年にリリースされました。

 映画についてはここでは短く、「炎のランナー」は、英国の五輪の陸上選手にテーマをとった映画で、第54回アカデミー賞において最高の栄誉である作品賞を受賞し、ヴァンゲリスのサウンドトラックも同時にオスカーを受賞しました。


 英国は映画の国でもあり、一時期は低迷していましたが、その英国のオスカー受賞作が陸上競技の映画というからには、これはもう五輪で使わないわけにはゆかないですよね。

 僕も初めてニュースで見て聞いて、当然のことと感じました。



 ヴァンゲリスは、名前だけはよく知っているとうアーティストで、カルト的人気映画「ブレード・ランナー」の音楽も手掛けていますが、ここはおさらいというか勉強ついでに、「ビルボード・ナンバー1・ヒット」(下巻) (音楽之友社)から、ヴァンゲリスやこの曲について引用しながら話します。
 なお、引用者は一部表記変更や補足を行い、改行を施しています。



 ヴァンゲリスの本名はヴァンゲリス・ロ・パパサナシュー。
 これは「よい知らせを伝える天使」という意味。

 

 アテネで生まれたギリシア人のこの天才音楽家は、4歳で作曲をはじめ、6歳でコンサートを開き、’60年代にはフォアミンクスを結成した。

 本国の政治情勢のため彼はロンドンに逃れ、さらにパリへ渡り、同じギリシア人のデミス・ルソスとアフロディテス・チャイルドを組み、1969年、彼らはたちまち「雨と涙」でヨーロッパを席巻した。


 バンドは’70年代初めに解散し、それからヴァンゲリスの作曲家・演奏家としての今日のキャリアが始まる。

 1974年にロンドンへ行き、マーブル・アーチの傍らに穴ぐらのようなシンセサイザーのスタジオを作った。

 初めの頃は、彼独特のサウンドも、かえり見る人がいなかったが、「天国と地獄」(カール・セーガンの「コスモス」に使われている)、「反射率0.39」「螺旋」「霊感の館」「チャイナ」などのアルバムで地味な活動を続けた。


 「ぼくは楽譜が分からないんだ。作曲もオーケストラの編曲も、全部耳でやる。そういう技術を学校でも教えるけど、創造する、というのは習えることじゃない」


1980年にはイエスのヴォーカルのジョン・アンダーソンと組み、ジョン&ヴァンゲリスとして3枚のアルバムを出した。


 大きな映画の仕事は「炎のランナー」が最初だった。

 「1924年のオリンピック・パリ大会に青春をかけた2人のランナーの本当にいい話だったから、プロデューサーのデヴィッド・パットナムと契約した。オリンピックは好きだし、楽しい仕事だった」

 映画の最初のタイトルバックに流れた曲は「タイトルズ」と名付けられてシングルになり、1981年12月12日、HOT100の94位に入った。
 8週目には、タイトルもChariots Of Fireに変えられ、1982年5月8日についにNo.1に輝いた。


 この曲は、1位になるまで最も長く時間がかかったNo.1ヒット曲であり、チャートインから21週を要している。(注)


 また、インストゥルメンタルとしては23番目のNo.1ヒット曲であり、この曲以降はインストでNo.1になった曲はない。(注)


(注):データは本が刊行された1988年4月時点でのもの。

 ただし、以降は僕も把握していません、あしからず。



 この曲がヒットしていた当時の僕はまだ洋楽聴き始めの頃で、FMでヒット曲を熱心にエアチェックして聴いていました。
 この曲はインストゥロメンタルでNo.1になったということで、どれだけすごい曲なんだろうと期待していたら、その期待を遥かに上回る素晴らしい曲でした。
 もう1年僕が洋楽を聴くのが早ければ、間違いなくドーナツ盤を買っていたと思うのですが、少し遅かったので、エアチェックしたのを聴くだけで終わり、CDの時代になってベスト盤を漸く買って聴きました。


 ヴァンゲリスって聞いて、最初はグループ名かと思いましたが、この本を買って読んで個人名であることを知りました。


 ギリシア人の彼はロンドンに渡りさらにパリに渡ったわけですが、そんな彼がパリ五輪の英国人選手の映画の音楽を手掛けるとは、出来すぎた話、というより、運命だったのかもしれません。


 この曲のヒットに至る背景を考えると興味深いですね。
 初登場が1981年12月というのは、アカデミー賞候補が秋に発表され、それを受けてアメリカで映画が再上映されるなどで話題性が高まり、つられて曲も注目されヒットし始めたのでしょうね。


 No.1になったのは5月8日、この年のオスカー授賞式は3月29日。
 5月8日付というのは週刊誌だから日付が1週早く、実際には5月1日にNo.1になっているということで、オスカー受賞を受けて曲が注目され、ほぼひと月でヒットした、ということでしょう。
 当時はネットもないしアメリカは広いので、話題が全米に広まるのが今よりもうんと遅かったという時代背景もありました。


 カール・セーガンの「コスモス」は、僕が中学生時代に話題になり、僕もテレビを見ていました。
 天文学が特に好きとかそういうわけではなかったのですが、潜在的には昔から興味があったようで、それが分かったのがその時。
 しかしもちろん、そこにヴァンゲリスの音楽が使われていたことはまったく知らず、この本は20年近く前に買っていましたが、そのことは今この記事を書くのに読み直して初めて気づきました。
 なんだかいろんなところでつながっているなあ。



 「炎のランナー」は、アレンジとかそういう次元ではなく、純粋に曲そのものが素晴らしい!

 至ってシンプルな曲だけど、シンプルだからこそ素晴らしく、シンプルだからこそ奥が深い、そしてシンプルだからこそ旋律の美しさが際立つ。

 

 この曲の旋律は、誰かが作曲したというよりは、僕がよくいう、天使の声をヴァンゲリスが人間に聴こえるよう翻訳したとしか思えない。
 彼の名前が天使が関係しているも、やはり運命かもしれない。
 図らずも、今回はサウンドトラック盤を聴いているのですが、同じ作曲者の他の曲はこれほどまでに輝いていなくて、この曲は創作能力を超えた領域に到達していることが証明されています。


 その上で、アレンジが素晴らしい!
 夜明けをイメージさせる勇壮な響きのイントロから、主旋律を1番はピアノ、2番はシンセサイザーと管楽器と弦楽器が奏で間に「でんでん太鼓」みたいなパチパチとした音が鳴り続ける。
 広がりがある、先に確かに光の筋が見える音。
 まるで心身ともに包まれるような、勇気を与えてくれる音。


 でも基本はやっぱりピアノの曲なのでしょうね。
 僕はピアノは弾けないのですが、今からでも習えないものかと密かに思っていて、弾けるようになるならこの曲は弾いてみたい曲の筆頭ですね。


 インストゥロメンタルだけど確かな旋律があって、口ずさむことができるのもヒットした要因でしょう。
 しかも、旋律がこれ以上ないほど感情や魂をなぞっているがために、かえって歌詞がないほうが伝わるものが大きい。


 ところで、インストゥロメンタルの曲を口ずさむ時、どんな音で表現しますか?
 僕は、この曲の場合、ピアノの部分は「タンタタタタンタ」で「タ」で表し、2番のシンセサイザーと管楽器と弦楽器の部分は「ファンファファファファンファ」と「ファ」で表します。
 でも、他の人が聞くと間違いなく間抜けでしょうね(笑)。



 今の若い人は、この曲をどう感じるんだろう。

 今のところ日本人のメダリストはみな20代以下だから、この曲がヒットしていた頃はまだ生まれてもいないし、有名な曲だから耳にしたことはあっても、知っている人はあまりいないかもしれない。


 でも、表彰式で聴いたこの曲にはきっと何かを感じたのではないかな。
 それはメダリストのみならず、会場に応援に行った人、そしてテレビで中継を見ていた人。
 音楽を愛する者としては、このような名曲が聴継がれていくのはうれしい限りですね。
 ましてや、僕のリアルタイムで出てきた曲であるだけに。


 「よい知らせを伝える天使」の曲だなんて、メダル授与式にこれ以上ふさわしい曲はないかもしれない。

 記事を書くのに本を読みなおすまで知らなかった(忘れていた)のですが、そのことに気づいてちょっと感激しました。 

 真に感動する曲。
 涙が出るほど心が動かされる曲。
 そんな曲はこの世の中にもそうはないでしょうけど、その中でも「炎のランナー」はとりわけ輝く真の名曲ですね。



 今回僕が聴いた写真のCDは、2006年に出た25周年記念リマスター盤。

 実は、この曲を記事にしたくて、でも僕のBLOGはアルバム単位が基本だから、サントラのアルバムは確か持っていないと思い、ネットで探して注文して買ってから記事にしようと思いました。

 ところが、弟に聞くと、実はこのCDを持っていたということで一件落着(笑)。


 この曲は、「ロッキー」のテーマ曲Gonna Fly Nowと並んで僕が最も好きな映画のテーマ曲のひとつです。
 もちろんビートルズは除くのですが(笑)。


 

 最後に余談。

 

 今回、 「ビルボード・ナンバー1・ヒット」に目を通していたところ、「炎のランナー」の次にNo.1に輝いたのが、開会式でHey Judeを歌ったあのポール・マッカートニーとスティーヴィー・ワンダーのEbony And Ivoryであることが分かりました。

 ヴァンゲリスからポールへ、それもまたよい偶然ですね。