THE BRAVEST MAN IN THE UNIVERSE ボビー・ウーマック | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-August02BobbyWomack


◎THE BRAVEST MAN IN THE UNIVERSE

▼ブレイヴェスト・マン・イン・ザ・ユニヴァース

☆Bobby Womack

★ボビー・ウーマック

released in 2012

CD-0267 2012/8/2


 ボビー・ウーマックの新譜がこの6月に出ましたが、これが18年振りの新作。


 ちなみにその18年前のアルバムRESURRECTIONは、ロッド・スチュワートが参加していることにひかれて当時買ったのですが、よく聴くことなくそのまま18年間CDの棚の埋め草となっていました。


 ボビー・ウーマック、僕は、それを含めアルバム3枚とベスト盤しか聴いたことがないのですが、でも、10代の頃からいろいろなところで名前に接していて、一目置いている人ではありました。


 ただあくまでも僕の感じでは、曲が難しいというか、凝っているというべきか、素直にいい曲だなあ、とは思えなかった。

 しかしこれは、僕のほうが音楽を聴く力及びソウル系の音楽への愛情が足りなくて理解できていないからだという思いがずっとありました。

 それでも2008年にソウルに凝りだしてからは、オリジナルアルバムを集めるつもりでいたのですが、廃盤になっているものが多く、下手に手を出すと揃わないものが出てきそう、ということで後回しになっていました。


 新譜が出ると聴いて、もちろんというか、すぐに買いました。


 聴くと、ううん、曲に素直に入れなくて、難解なアルバムだな、というのが第一印象でした。

 ある意味プログレッシヴなソウルだな、と、どちらかといえばトンチンカンな印象(笑)。


 でも、聴いてゆくと、その奥深さに気づきました。

 それこそ「宇宙的」な広がりを持った音楽であり、宇宙といっても星空を見上げるくらいのちっぽけな生活をしている僕には、最初はあまりにもその広がりが大きすぎて、そこにいきなり放り出されたような感覚になった、そんな感じです。



 "Universe"を歌った曲、アルバム、その他宇宙をイメージした音楽は結構あります。

 僕はつい最近、ブッカー・T・&・ジ・MGズ(この日本語表記はどうにかならないものか)のUNIVERSAL LANGUAGEを買って聴いたのですが、アートワークも宇宙をイメージしたものであり、音楽も「宇宙的」な広がりを持った音楽だなと感じました。


 このアルバムを聴いてふと思った。


 「宇宙」に関する音楽のイメージ、音楽が宇宙を感じさせるイメージというのは、万人共通の感覚なのかもしれない、と。

 そもそも音楽への感覚、喜怒哀楽などはある程度は普遍的なものだと思いますが、とりわけ宇宙については、地球上のほとんどの人が宇宙に行ったことがない以上は、イメージが収束されるのかもしれない。


 なんて書くと、僕がこの音楽を適切に自分の言葉で表すことができず、一般的なイメージに訴えて間接的に説明しようとする言い訳みたいなものだと気づきましたが(笑)、でも実際にこの音楽を聴くと、多くの(少なくない)人は、宇宙を感じるのではないかます。


 何がそうさせるのか。


 音楽の「間(ま)」、音楽のミックスの問題でしょうね。


 ストリングスもしくはキーボードが薄く広く低めの音で入り、全体的に抑圧された感じで、目立つ楽器や声はそれらと距離を置くように少し大きめの音で入っていて、上と下の音にあたかも何もない空間があるように感じられる、そんなところだと思います。

 いずれにせよ、広がりを感じるミックス、それが宇宙を感じさせる。


 曲はトラッドが2曲とサム・クックの1曲以外はオリジナルですが、僕のトンチンカンな印象のごとく、1970年代のいかにもソウルらしいソウルというものではありません。

 今回思ったのは、ボビー・ウーマックの曲は短い中に展開が多いことで、劇的といわれるのはそういうところからくるのかなと。


 ボビー・ウーマックはギタリストとしても特にアコースティックギターで味のあるプレイを聴かせてくれますが、もちろん今回も。

 3曲目Deep Riverはトラッドをアレンジしたもので、アコースティックギターの弾き語りスタイルですが、不思議なことに、それでもやっぱり宇宙を感じます、しかも川という地球らしい事象を歌っていても。

 

 4曲目Dayglo Reflection(サム・クックの曲)のラナ・デル・レイの揺らめくような不思議な声も宇宙的。


 僕はすっかり気に入り、いまだに買ってからほぼ毎日聴いていますが、ひと月ほど経った或る日、ふと気づきました。

 ワールドミュージック、という言葉がありますが、このアルバムはまさにワールドミュージック的な響きのソウルである。

 打楽器の強さがアフリカ的なものを感じさせたり、太平洋地域だったり、ラテンアメリカっぽいものも感じたり、民族舞踊風だったりと、ワールドミュージック的な要素が、強調されるのではなくさらりと溶け込んでいる感じ。

 そうか、「宇宙」というのは、地球上のそれらを総括した上で、地球も宇宙のちっぽけな一部であり、宇宙から地球を見てゆこうという思想が基になって作られているのではないか。


 ワールドミュージックならぬ「ユニヴァースミュージック」だ! 


 なんて、世界で最も大きなレコード会社グループみたいですが(笑)。


 10曲目Nothin' Can Save Yaはファトゥマタ・ジャワラというアフリカのマリの女性アーティストによる愁いを帯びたヴォーカルが、まさにユニヴァースミュージックこのアルバムの白眉。


 マリといえば、ピーター・バラカンさんが最近凝っていることを本で読んだのですが、そうか、ここで僕もマリとつながってきました。


 ただ、ワールドミュージックを総括するのはやはり現時点では「世界標準」となっているアメリカのポピュラー音楽であるというのは、ワールドミュージックがまだ浸透しているとまではいえない部分かもしれません。

 しかしもちろん、ポピュラー音楽はまだまだこれからも、エスニックな要素をより多くの人の耳に届けるという役割も重要であることも分かります。



 もうひとつ、僕にとっての驚きが、デーモン・アルバーン。

 (デイモン・オルバーンと書きたいんだけどもはや日本では有名な人だから)。


 このアルバムではボビーと共同でプロデュース及び作曲をしていますが、デーモン・アルバーンってあのブラーのでしょ!?!?!

 「お~~~るざぺぃぽぉぅる」とか能天気に歌ってた人でしょ!?! (ちなみにPark Lifeのことです)。

 

 ファンのみなさん、ごめんなさい、僕はブラーは嫌いでした。

 1990年代に僕がMTVをよく見ていた頃がまさにブラーやブリットポップの全盛期でしたが、僕はブラーが出てくるたびに「なんだかなぁ・・・」と思いながら、面白いかもしれないけどでも自分が聴くものではないなとも。


 今回、この素晴らしい仕事をしたデーモン・アルバーンを、ちょっと、だいぶ、かなり、見直しました。

 

 1990年代にMTVで見て聴いていたけど買わなかったCDをブックオフで500円以下で見つけると買うのが僕の楽しみのひとつですが、ブラーはまだそこにも達していなかった。

 でも、このアルバムを聴いて、ブラーも買って聴いてみようと、少しずつ思うようになりました。



 このアルバムは、人間の枠を超えた大きな広がりを感じる、まさに宇宙的な広がりを持った音楽であり、広い宇宙に包まれる感覚には胸を打たれます。

 こういう響きの音楽は、他にはちょっとない、まったくかもしれない、それくらいに素晴らしい響きの音楽です。


 僕は毎年大晦日にその年の新譜のランキングをつけて記事にしているのですが(こちらではまだ昨年からだけど)、ボビー・ウーマックのこのアルバムは、現時点で今年の1位、それくらい気に入っています。


 ソウルから、ブラーにもマリにも、いわば正反対の要素につながり広がっていきますね。

 

 さて、ボビー・ウーマックの過去のアルバムも、新譜が出たのを機に出直さないかな、再プレスでも構わない。