WHO'S NEXT ザ・フー | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-July31TheWho


◎WHO'S NEXT

▼フーズ・ネクスト

☆The Who

★ザ・フー

released in 1971

CD-0266 2012/7/31


 ザ・フー5枚目のスタジオアルバム。


 僕がザ・フーを真面目に聴くようになったのは30歳を過ぎてからでした。

 20代後半にリーズのライヴの拡大盤を買って聴いて気に入っていて、その前に一応ベスト盤も買っていましたが、そこからスタジオアルバムにたどり着くのに少し時間がかかりました。


 ロンドン五輪の開会式は僕は家を出るまでの間に少しだけ見たのですが、「英国ロック」の部分で、ローリング・ストーンズの(I Can't Get No) Satisfactionに続いてこのザ・フーのMy Generationが使われていました。

 僕は、たまたまですが、その数日前に、「1960年代を代表する英国ロック」を、1曲で代表するならストーンズのSatisfaction、2曲ならそれとMy Generationだろうな、と考えていて、その考えを英国人のダニー・ボイル監督が証明してくれたようで、うれしいというか、納得しました。


 そんなザ・フーはもちろん中学時代から存在は知っていましたが、真面目に聴くのが遅くなったのは、なんとなく恐そうなイメージがあったからでした。


 真面目なんだかぶっ壊れているんだか分からない、そんな感じです。

 でも、突き詰めていえばそこがまさにザ・フーの魅力なんですよね。


 このアルバムは、ザ・フーの中でも真面目というかシリアスな部分が強く出ているアルバムでしょうね。 30歳を過ぎて初めて聴いたのですが、このアルバムの完成度の高さに舌を巻きました。

 僕は「アルバム至上主義」の人間であり若い頃はその傾向が強かったことはよく言いますが、このアルバムであれば二十歳の頃に聴いていても間違いなく気に入ったであろうと、多少の後悔の念を交えつつ思いました。


 でも、仕方ないですよね。

 CDを買うお金だった限られているし、興味の対象は音楽だけでもないし。

 音楽には巡り合わせのタイミングがあって、僕にとってザ・フーは30歳を過ぎてから聴くものと決まっていたのでしょう(笑)。


 ザ・フーについて2つほど勘違いをしていたこと。


 ひとつ、ザ・フーは歌メロがいい。


 僕は、上記のようなイメージから、なんとなくテキトー(カタカタで書く場合は悪い意味です)に曲を作っているのではないかと勝手に決めつけていました。

 実際、I Can't Explainくらいしか、まだ20代前半に買って聴いたベスト盤では頭に残りませんでした。

 でも、ネット時代になって、評論家ではない人による音楽にまつわるいろいろな話に接するようになって、ザ・フーは「歌メロがいい」と言われているらしいことを知って驚きました。

 そりゃポール・マッカートニーやフレディ・マーキュリーのような良さとは違うかもしれないけれど、でも、実際にそういわれて聴くと、印象に残りやすく特にサビが耳にこびりつく曲が多いことが分かってきました。


 ここで少し外れて、ザ・フーの魅力のひとつは「しつこさ」だと僕は思います。

 さらっとしていないし、爽快感もないし、浮くような軽やかさもない、とにかく耳に体にこびりついて引きずり回されるような音楽。

 僕はそれも苦手だったのかもしれない。

 これはしかし、聴いてゆくと意外と早くなじめました。


 もうひとつが、ザ・フーはハードなロックである。


 ザ・フーは、ハードロックに分類されないバンドの中では最もハードな音を出すバンドではないかと思います。

 ザ・フーを聴いてバッド・カンパニーを聴くと、どうしてバドカンはハードロックと言われるのにザ・フーは違うんだろう、と思うことがあるくらい。

 ザ・フーのハードさというのは、うまく言い表せないのが申し訳ないのですが、物理的な音が大きくてハードなだけではなく、根底に流れる気持ちの強さ、当たりの強さ、そして聴き手にハードな心で接することを求める、ということではないかと。


 ともあれ僕は、ザ・フーを真面目に聴くようになってから、彼らは「ハードなロック」であると認識しています。

 僕は、今はソフトなロックも好きですが、そもそもビートルズのYer Bluesを中学時代に聴いて狂喜乱舞したというくらいに、デフォルトがハードなロックである人間であり、ザ・フーはまさにそのど真ん中という感じがします。


 なお、このアルバムの"Next"とは、TOMMYでロックオペラをやり、リーズでライヴ盤を出してそれまでのキャリアをひとくくりしたところで、さて次の局面へ、という意味だということです。



 1曲目Baba O'riley

 この曲はなんといってもシンセサイザーの音が印象的ですが、なんでも、シンセサイザーをこうして装飾音ではなく、バックにずっと流しているというのは(シーケンサーと呼ばれているらしい)ロックでは初めての試みであり、それが、後に続くロックのシンセサイザーの使い方の基本になったということです。

 そういえばこのアルバムは1971年のリリースですが、えっ、と思うくらいに古さを感じないのは、今の音につながる部分があるからでしょう。
 彼らの代表曲のひとつであり、音域が広くて耳にまとわりつく歌メロに気持ちが引っ張られてゆきます。
 中間部では、ピートがヴォーカルを取って代わりますが、力強いロジャー・ダルトリーの声とは対照的に、ピートは、不安定に揺れて聞こえる声が持ち味で、まあ「ヘタウマ系」と言えるものでしょう。
 曲自体は割と単調に淡々と流れてゆく中で、このヴォーカルの交代が劇的な効果をもたらします。

 キース・ムーンのドラムスも負けずに歌っているし、1曲目のつかみとしては最高の部類!
 なお、タイトルの人の名前は、ピートの友達と、ピートが影響を受けた音楽家の名前をひとつずつとったものだということです。


 8/13補足

 ロンドン五輪閉会式にザ・フーが登場し、この曲Baba O'rileyを歌っていました。

 これで少しはこの曲の日本での知名度も上がったかな・・・

 と思ったけど、夜のNHKのニュースでは、スパイス・ガールズとペット・ショップ・ボーイズは映像つきで紹介されていたものの、ザ・フーについては言及なし・・・
 でも、このような場で選ぶほど彼らも気に入っている、真の名曲である、とあらためて分かりました。



 2曲目The Bargain

 いかにもR&Bフリークの彼ららしい、力強くも憂いを帯びた曲。

 力強いを通り越し、ロジャーのヴォーカルには恐さすら感じます。

 中間部ではまたピートがヴォーカルを取りますが、このピートの揺れる声は不安や虚しさを表すにはうってつけであり、曲の途中で交代するだけに効果てきめん。
 胸に迫ってくる曲ですね。


 3曲目Love Ain't For Keeping

 カントリーっぽい軽いタッチの曲。

 ロジャーの声が、すっとんきょうな感じを狙っているのかな、だけどやっぱり重たく響いてきて、この人は不思議な歌い方をする人だなと思いました。
 ロジャー・ダルトリーについて、この人は僕がそれまで聴いてきたロックヴォーカリストとは違う声の出し方をする人だなって思いました。

 声の質、というよりは歌い方、お腹から直接声が出てくるようなずしんと重たい響きの声で、最初はかなり違和感があったのですが、少ししてそれを個性として楽しめるようになりました。


 4曲目My Wife

 ジョン・エントウィッスルの曲で、彼の曲はだいたいシンプルでストレートなソウル系ロックンロール。

 ヴォーカルもジョンで、ベースは暴力的なまでにぶんぶんと唸っているし、この曲はコンサートで盛り上がったそうですが、こういう時、ヴォーカリストのロジャーは何をしているんだろう。

 タンバリンを叩いている写真は見たことがあるけど、でもロジャーはあのマイク振り回しパフォーマンスをしていたのかな(笑)。

 ところで、僕がザ・フーを真面目に聴き始めてほんとうに数か月でジョン・エントウィッスルが急死してしまったのは、当時ショックで残念でした。

 

 5曲目The Song Is Over

 一転、静かなピアノとギターの装飾音のムード溢れるイントロの曲が始まる。
 静けさの中で、ピートが揺れる声で不安げに歌い始める。
 もう、それだけでゾクゾクっときて、これは名曲と実感。
 ピートの歌が終わると、キースのドラムスが派手に入り、ロジャーが、不安を一掃するかのように爆発的に歌い始める。
 ピートはやはり中間部でもまた不安げに歌い、曲は劇的展開に。
 そしてエンディングのキースの魂を感じさせるドラムス。
 この曲は「凄い」と心底思える凄い曲ですね。

 これだけ「凄い」曲というのも、ロック界にもそうはない。

 初めて聞いて、それこそ倒れそうな衝撃を受けた曲ですが、30歳を過ぎてそれだけ感じたのだから、やっぱり凄い曲なのでしょう。

 ロジャーが歌う部分の歌詞があまりにも素晴らしい!
 I'll sing my heart out to the infinite sea
 I'll sing my visions to the sky and mountains
 I'll sing my song to the free, to the free

 これと次の曲のピアノはニッキー・ホプキンス。


 6曲目Getting In Tune

 続けて、ニッキーの静かなピアノからバラードっぽく始まる。
 この曲は、ロジャーが言葉を大切に歌っている感じがします。
 このアルバムがすごいと思うところは、まったく単純な理由で、歌メロが素晴らしい曲が多いことであり、僕が勘違いに気づいたのもこのアルバムを聴いたから。
 これでもか、これでもかというくらいに粘っこい執拗な歌メロで攻めてきて、嫌でも耳に残らざるを得ない、そんな気分にさせられます。
 後半は一転してファンキーに盛り上がって曲が終わります。
 なお、この曲は、楽器のチューニングと「心を合わせる」ことをかけている内容で、人類愛を訴えた前の曲とは違い、歌詞の割には曲が少し大仰だな、と思うのがまた面白い部分。


 7曲目Going Mobile

 唯一のコミカルな、人をおちょくった曲。

 こんな曲には「ヘタウマ」のピートの声がぴったりで、ほんとにおちょくっているようにしか聴こえないんだけど、これがロジャーが歌うと真剣すぎてつまらなかったと思います。
 「警察も税務署も俺を見つけられないんだぜ、なんせ俺はモバイルだからね」
 携帯電話もない時代のことでした・・・

 もっともこの"Mobile"とは、ローリング・ストーンズが開発した移動式スタジオのことであり、ピートは、俺たちならそんなものでもたやすくアルバムを作れるぜ、と言いたいのかもしれない。

 8曲目Behind Blue Eyes

 名曲。

 メランコリックでマイナー調の心にしみ渡るアコースティック・ギターが基盤のバラード。

 ここまで、これでもかこれでもかと執拗に歌メロで攻めたてられ、しかもまだ最後の前にこんなにまでもいい曲を用意するなんて・・・
 聴く側はもう完全に体力が消耗し感覚も麻痺してきていて、「参りました」とならざるを得ないし、さらにいえば、気持ちがそのまま宇宙にいってしまう、それくらい凄い曲。

 歌い出しのくだり"No one knows what it's like to be a bad man" これを最初に聴いた時からもう既に心の奥底に届いてきました。
 僕がザ・フーでいちばん好きな曲はやっぱりこれかなあ。

 シェリル・クロウがザ・フーのトリビュートで歌っているのもポイント高い(笑)。

 繰り返し、名曲。


 9曲目Won't Get Fooled Again

 アルバム最後も、派手なギターとともに始まり、シンセサイザーの音が一気に曲の世界を築き上げます。

 7分以上ある長尺ものですが、大作主義的な面とは一線を画し、このアルバムの緊張感を一気に緩めるかのようにユーモアとウィットに富んだ雰囲気を漂わせ、軽く明るいタッチでアルバムは終わります。

 でもやっぱり残るものは重たくて大きい。

 最後のほうに入るロジャーの爆発するような叫びは、すべてを解き放つパワーに溢れていて、これぞロックの原初の形、と思わされるもの。

 ザ・フーは、パンク連中に化石と言われなかったという話だけど、この曲を聴くとそれもなんとなく分かります。

 ヴァン・ヘイレンもサミー・ヘイガー時代のライヴ盤でカヴァーしていたこの曲は、いわゆる名曲の系譜とは違うかもしれないけれど、ロックの魅力を余すところなく伝える傑作といえるでしょう。



 なお、このアルバムは現行盤CDには7曲のボーナストラックが収録されていますが、これがまたよろしい。

 未発表曲が中心で、オリジナルもありますがホランド=ドジャー=ホランドのカヴァーBaby Don't You Do Itなどもあり、R&Bフリークぶりが色濃く出ています。

 ボーナストラックはともすれば本編の味わいを台無しにしてしまうこともありますが、この頃のザ・フーは創作意欲が溢れていたようで、流れや勢いはそのまま、クオリティは高いし、聴きどころがありますね。


 久しぶりに聴いたけど、やっぱり凄い。

 暑い夏に聴くと、人によってはしつこくて暑苦しいかもしれないけれど、でも、真夏にカレーを食べるのと同じような効果があるかもしれません。

 カレーじゃまだ甘いかな、真夏にしゃぶしゃぶかな、もちろん冷しゃぶではなく熱い鍋を囲んで(笑)。


 
 ところで、枝葉の話。


 ザ・フーは僕は「ザ・フー」と言っていますが、「ザ・フー」と「ザ・バンド」だけは日常的にザをつけて名前を言いますね。

 ビートルズだってつけないし、ローリング・ストーンズはザが要るだか要らないんだか分からないし(笑)。

 まあ、でもこの場合は、「フー」と言うと、なにかこう間が抜けていて拍子抜けしてしまう、僕はそう感じています。

 「バンド」の場合はどのバンドだか分からなくなるし(笑)。

 もっとも、「バンド」の場合、おやじバンドなどの一般的な意味でいう場合はアクセントがない平坦な言い方をしますが、「ザ・バンド」を指す場合だけザをつけなくても英語のアクセントで言うので、違いがわかる人には分かるでしょうけど。



 最後に、ザ・フーは、ロンドン五輪の閉会式でパフォーマンスを行い、新曲を披露する予定とのことです。

 ここにいるオリジナルメンバーのうち今は2人しかいないのですが、ベースはセッションマンとして幅広く活躍してきたピノ・パラディーノ、そしてドラマーはリンゴ・スターの息子のザック・スターキーが今のメンバーです。

 ロンドン五輪はまさに佳境に入ってゆくところまだ気の早い話ですが、閉会式も楽しみですね。


 と、今回は無事ロンドン五輪につなげることができました(笑)。