SOME GIRLS ローリング・ストーンズ | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-July05RollingStonesSG

◎SOME GIRLS

▼サム・ガールズ

☆The Rolling Stones

★ローリング・ストーンズ

released in 1978 

CD-0256 2012/7/5

Rolling Stones-05


 ローリング・ストーンズのSOME GIRLSのデラックス・エディション2枚組が出ました。

 1枚目は通常のアルバムのみのリマスター、2枚目はシングルB面や未発表曲などが収録されています。


 ストーンズのアルバムは何がいちばん好きかと聞かれると、BEGGARS BANQUETかな、LET IT BLEEDかな、STICKY FINGERS、TATTOO YOU、もしかしてTHEIR SATANIC MAJESTY'S REQUESTか、などとしばし悩みます。

 でも、いちばん聴きやすいアルバムは何かと聞かれると、僕は迷わずこのアルバムと即答します。

 このアルバムは、ストーンズのポップな面がいちばんよく出ているのではないかと。

 ロックという言葉の中にあるアートな部分や深刻さがあまりなくて、いい意味で適当にやっていると感じますが、そこがストーンズらしい。
 おまけに楽曲がみな素晴らしく、ほんとうに捨て曲なし。

 このアルバムの前にかのパンクロック・ムーヴメントが起こり、ストーンズは「化石」としてやり玉に挙げられました。
 10年前は若者のパワーの象徴のような存在だったのに、流行の移ろいは早いというか、10年はあっという間というか。
 ただ、当時の彼らはまだ30代半ば、少なくとも今の僕よりは若いのですが、当時はまだまだロックは評価が定着しておらず、流行りものという認識が世間一般では強かったのでしょうね。
 いい意味で適当というのは、「化石」と言われたことに対して、逆に開き直って攻めてゆけたのがよかったのではないかと。
 しかも楽曲の良さはそんじょそこらの若造には真似できない。
 結局、「化石」は腐らないから、逆に長く残ることができたのでしょうね。

 当時はまた空前のディスコブーム。
 ロックの大物も次々とディスコに走り、ロッド・スチュワート、ポール・マッカートニー、キッス、バッド・カンパニー、キンクス、などなど、やらなかったのはザ・フーくらいなものというくらいに大挙してディスコサウンドを採り入れていた時代でした。
 今はそれをロックの汚点として見る向きも多いようですが、僕は、いい曲はとってもいいと思います。
 でもやっぱり、ちょっと苦笑いではあるかな(笑)。

 ストーンズはこのアルバムではディスコにも呼応していて、No.1ヒットとなったMiss Youを生み出したわけですが、でも、アルバム全体はそれ以外は特にディスコっぽいわけではなく、2曲目以降はストーンズ節満開といった趣き。
 でもそれが不思議と違和感なく流れていきます。
 ストーンズはリズムにはこだわりを持っていたバンドだから、ディスコを採り入れたのは、僕には特に違和感はなくて、とってつけたような感じは不思議と受けませんでした。
 ディスコサウンドだってソウルから発展していったものであり、ソウルはR&Bから、と考えると、ストーンズも同じだし。
 1曲目はディスコだけど、聴いてゆくうちにだんだんと本格的なストーンズになってゆく、考えようによっては深いアルバムですね。
 まあそもそも、Miss Youもリズムがディスコっぽいというだけで、曲自体はいかにもどう聴いてもストーンズらしいですからね

 このアルバムの録音の頃は、キース・リチャーズは、薬に起因する問題をいろいろと抱えていて、一節によれば「体の血を入れ替える」手術をしたと言われている頃で、録音には参加しているものの、ミック・ジャガーが中心になって作業が進められたとのこと。
 だからこれはミックらしさがよく出たアルバムとも言えるのでしょうけど、それが聴きやすさにつながっているのかもしれません。
 なお、キースは、改心の意味を込めて、このアルバムから、”Richard"から"Richards"へと"s"と加えて苗字を変えました。

 またこのアルバムは、ロン・ウッドが初めてフルに録音に参加したアルバムとしても意味がある1枚でしょう。

 変わらないのはチャーリー・ワッツだけ(笑)。

 1曲目Miss You、この曲については既に触れましたが、軽く記事1つ分は書くことがあるので(笑)、まだ話します。
 この曲について僕がどうしても言わなければならないのはジョン・レノンのWALLS AND BRIDGESに収められたBless Youについてのジョンの言葉を、「ジョン・レノン・プレイボーイ・インタビュー」から引用します(引用者が一部表記などに手を加えています)。

JL:この曲(Bless You)を書いた時、ぼくは震え上がっていた。
 ヨーコからまたく離れて、自分が必要な唯一のものを失った気分だった。
 ミック・ジャガーはこの曲から「ミス・ユー」を作ったんじゃないかと思う。
 スタジオで、エンジニアがぼくにこう言った。
 「テンポを早くしたらヒット・ソングになるのにね」
 彼は正しかった。
 「ミス・ユー」はぼくの曲を早くしたものじゃないか?
 ぼくはミックのレコードの方が好きだ。
 ミックのしたことには何の悪感情も持ってはいない。
 ミックは無意識だったかもしれないし、そうではなかったかもしれない。
 でもミュージックはすべての人の所有物なんだ。
 人が所有しているなんて考えるのは、音楽出版社くらいのものさ。

 確かに似てます。

 特に「あははぁ~ ふううううん~」というハミングはMiss Youのイントロと出だしの歌メロそのまま、間奏部ではご丁寧にもハミングしているし。
 でも、ジョンは好意的に捉えているのがほっとしますね。
 しかしそれもジョンの皮肉と受け取ることもできますが(笑)。
 まあいろんな意味で、ストーンズの僕が好きな10曲のひとつかな。
 ところで、この曲の歌詞にはジョンが愛した"Central Park"が出てくるけど、それは単なる偶然なのかな。

 2曲目When The Whip Comes Down、「鞭が振り下ろされる時」、いったい何を歌っているんだ、と頭を抱えたくなってしまうのもストーンズらしさでしょうね(笑)。
 もしかして「ホイップ」は「ホイップクリーム」、スイーツの曲か?
 なんて、そんなわけないでしょうけど、アップテンポでごりごりと押してゆくいかにもストーンズらしい能天気さがある楽しい曲。


 3曲目Just My Imagination (Running Away With Me)、テンプテーションズのNo.1ヒット曲にして、その後にテンプスを去るエディ・ケンドリックス一世一代の名演をカバー。
 オリジナルはエディのファルセットを強調した切ないバラードを、ストーンズはやはりゴリ押しのストーンズカラーに染めきっていて、オリジナルのイメージがほとんど残っていないといっていい、これはロックのカバーの中でも秀逸な1曲だと思います。
 テンプスは彼女が去ってしまうことを現実として受け止める一方で、ストーンズは幻想の中でも女性といられて楽しかった、みたいな。
 ストーンズはテンプスが大好きなようで、Ain't Too Proud To Begもカバーしているし、BitchのリズムパターンはGet Readyのぱくり、いや、愛情を込めていただいているくらいですから。
 ストーンズも当時は既に超大物だったはずなのに、よく知られたヒット曲を割と平気でカバーしますね。
 いい意味で節操がないというか、でもそれ以上にテンプスへの愛情を感じられるのが、テンプスを好きな僕としてもうれしいところ。


 4曲目Some Girls、もったりとした曲をのらりくらりと歌うミックの粘つきがすごい。
 女性は誰でも素晴らしいという女性讃歌ととるか、女性なら誰でもいいというミックの本音ととるか・・・
 ブルーズマンのシュガー・ブルーのハーモニカが聴きどころ。

 5曲目Lies、元気一発ストーンズ! という曲。

 6曲目Far Away Eyes、カントリーブルーズ風の、もたっとした歌というよりは語り。
 パンクの後でよくぞこんな曲をやれたよなという度胸というか開き直りというか。


 7曲目Respectable、元気2発ストーンズ! という曲(笑)。
 この曲はミックもギターを弾いてトリプルギターとなっていて、とにかくギターの楽しさが味わえるロックンロール。
 ビル・ワイマンのベースが前に出てクールにきめています。

 8曲目Before They Make Me Run、キースはいろいろと調子が悪かった中で、やっぱりキースが歌う曲がアルバムには1曲は入っていてほしい、だからこれはよかった。
 キースはミックが歌う曲でも作曲しているはずだけど、でもキースが歌う曲は後のソロにもつながるくらいキースらしくて、ミックはやっぱり自分が歌う曲は歌メロを作っているのでしょうね。
 もしくは、キースはこれは自分で歌うと決めて作るのか、逆に作った曲が自分が歌った方がいいと判断するのか。
 キースの歌は、ダブルトラックのヴォーカルがずれまくってるけど、そんなちっぽけなことは気にしない気にしない(笑)。

 9曲目Beast Of Burden、これは名曲ですよね。
 僕は70年代のストーンズは、今はもう廃盤のREWINDというベスト盤のCDで初めて聴いたのですが、その中でもこの曲を最初から気に入りました。
 なんといっても歌メロが最高にいいですね。
 高音で歌うミックの切なさ、虐げられることをむしろ喜ぶ態度・・・
 間奏の「ぷりてぃぷりてぃ」というコーラスはちょっと笑えるものだけど、笑えることを真面目にやることもロックには重要な部分。
 イントロのギターもよくてすぐにギターでコピーしましたが、間奏の1'48"からのギターは音色もフレーズもスケベっぽいのが、なんというか絶妙の味わい。
 ストーンズ一流の美意識が結実したといっていい名曲、傑作。
 この曲も、ストーンズの僕が好きな10曲に常に入るかも。

 10曲目Shattered、僕が生まれて初めて買ったストーンズのLPは、中3の頃の1982年に出たライヴ盤のSTILL LIFEで、当時かなりよく聴き込みました。
 このアルバムは、Tr3とこれと、そこに入っている2曲があるのが僕の思い入れにつながっている部分なのです。
 ただこれ、ライヴでは普通のゴリゴリとしたロックだったのが、アルバムではニューウェイヴっぽい音作りで少々驚きました。
 つまり、最初と最後がちょっと違って新しい、というわけですね。
 ううん、世の中の流れは関係ないようでいて、しっかりと世の中について行っていたのはさすがというか、そうでもなければ半世紀も続けていられなかったでしょうね。
 「閉ざされた」という割にはなんとなく引きずって、音こそ唐突に終わりますが、でもなんとなくぴしっと閉まった感じもなくアルバムは終わります。

 まあそれも人を食った部分でしょうけどね。


 このアルバムのジャケットも問題になったそうで。

 LPでは確か、外側は女性の頭の顔の部分がくりぬかれ、中の紙にメンバーの写真があり、合わせるとモンタージュみたいになるという趣向だったと思います、LPは持っていないのですが。
 裏の女性のイラストには実在の女優のものも使われましたが、その中のラクウェル・ウェルチが肖像権をめぐって訴えた、ということは10代の頃から話として聞いていました。

 僕は高校3年の頃から映画に凝り始めたのですが、ラクウェル・ウェルチは当時は映画を観たことがなくて、30歳になった頃にWOWOWで放送された「ミクロの決死圏」で初めて見て、ああこの人がそうなんだって、なんだか妙に感激しました。
 聞くところによれば、彼女はセクシー路線の女優だったらしく、高校生が観るものではなかったでしょうから・・・あ、もしかして逆かな(笑)。


 ありきたりの言い方だけど、ストーンズはやっぱりいいですね。

 久しぶりに聴いて、心からそれを実感しました。