BANGA パティ・スミス | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-July01PattiSmith


◎BANGA

▼バンガ

☆Patti Smith

★パティ・スミス

released in 2012

CD-0255 2012/7/1


 パティ・スミスの新譜を今日は取り上げます。

 

 どうしてもすぐに紹介したかった、なぜか。


 3曲目がFuji-sanという曲だから。


 昨年の東日本大震災を案じたパティが日本に心を寄せて書いてくれたメッセージソング。
 自らの精神がより高みを求めて少しずつ昇って行く様を、富士山に登ることに喩えて歌ったものと僕は解釈しましたが、明るくて前向きで勇気づけられるほんとうに素晴らしい曲。

 このような曲をアメリカの人が作ってくれるのだから、やはり富士山からゴミがなくなってほしい・・・

 なくなってほしい、と書いたのは、それまであったものがなくなる、もう最近は誰も捨てていない、という願いを込めたのですが、現実はどうかな・・・
 国内盤がまだ出ていないのでマスコミやネットでもこのことはまだあまり話題になっていないようなので取り上げました。
 ほんとはYou-Tube画像などを張り付けて聴いていただくべきなのでしょう。

 今回はほんとうにそれをしようかかなり迷ったのですが、でも、やはり初志貫徹(笑)。

 ともあれ、素敵な曲を作ってくれたパティ、ほんとうにありがとう!


 実は僕、彼女が苦手だったんです・・・

 もちろん70年代にすごかったことは10代の頃から知っていたし、その頃のアルバムも10年くらい前にリマスター盤CDが出たのを機に買ったけどよく聴いていなくて、難しい人、というイメージを勝手に作っていました。


 R.E.M.にもゲスト参加して歌っていますが、彼ら、特にマイケル・スタイプがパティに憧れるのはすごくよく分かるしつながりも感じるんだけど、でも正直、ちょっとその曲が苦手でした。

 今回のアルバムも、Fuji-Sanが入っていなければ少なくともすぐには買わなかっただろうけど、思い切って買って聴くと、なんだ意外とシンプルでオーソドックスな音楽であることが分かりました。
 シンプルすぎますね、僕が最近聴いている音楽の中でもとりわけ。

 彼女は元々が詩人であり、詩に旋律をつけて表現するというのが基本だと思うのだけど、だから演奏には特に強いこだわりがなく、その時の気持ちやその曲に合うスタイルを採用しているのかもしれない。
 だから今回は、シンプルでオーソドックスなアメリカのロックの見本のような感じで僕の心に真っ直ぐに届いてきました。


 楽曲について、詩はもちろんすべてパティが書いていますが、曲は一部パティが書いているけれど多くは参加ミュージシャンのトニー・シャナハンとレニー・ケイが書いています。

 僕が買ったのは本のような装丁になった特別盤で、ボーナストラックが1曲入っています。

 通常盤より千円近く高かったんだけど、富士山のことを歌ってくれているし、彼女の場合は本というのが似合うし、思い切って買いました。




 1曲目Amerigo、パティがささやくように語りかけてから入ってくるギターの響きは高校生の練習のようで、簡単な音をこれだけ心に響かせるのは逆に至芸ともいえる域に達しているのではないかと。

 この曲は歌としてもとってもいいですね。

 アメリーゴはアメリカの名前の由来になった人の名前だけど、ニール・ヤングのAMERICANAとほぼ同じ時期にアメリカの昔に思いをはせたのは偶然なのかな。


 2曲目April Fool、爽やかな中にちょっとかげりがあるこれも歌としていい。

 曲は他の人が作っても歌のフックはヴォーカリストが作ることが多いそうで、だとすればこれもパティが作っているのかな、そうだとすればパティ・スミスは歌メロを作るセンスに長けた詩人ということなのでしょうね。


 3曲目が富士山。


 4曲目This Is The Girl、はごくシンプルなリズム&ブルーズ風のバラード。

 5曲目の表題曲Bangaなんてほんとに爆発する力がある曲で、全体的に痛快だけど心に響いてくるものが大きい。

 なんとなく、アフリカの国立公園でレンジャーとライオンを探しているような、力強く野性的なビートの中に、どこか洗練されたものを感じます。

 これは曲もパティが書いていますが、なかなかいいじゃないですか。


 6曲目Maria、こちらも古臭いスタイルのワルツのバラード。


 7曲目Mosaic、フォークというよりは英国のトラッドの雰囲気で、例えばペンタングル、もっというとレッド・ツェッペリンの3枚目4枚目6枚目のアコースティックな曲につながる感じ。

 オーソドックスでシンプルとはいっても音楽の幅は広いことが分かりました。


 8曲目Tarkovsky (The Second Stop Is Jupiter)、アンドレイ・タルコフスキー監督のことかな、「惑星ソラリス」は録画して観たことがある。

 宇宙的な広がりの中でこれは語りですね。


 9曲目Nine、地球に戻ってきて大地を歩くようなまた違った広がりがある曲で、やっぱり歌メロがいいですね。

 

 10曲目Senecaはアコースティックギターと弦楽四重奏の響きが悲げな文芸的な曲。

 

 11曲目Constantine's Dream、文芸路線は続きます、この辺はさすがという感じ。

 歌詞の背景的なものは、いろんな意味で今の僕には分からないのが残念。

 唸るような不思議な響きのギターの音が、何かの狂気をきっと表しているのでしょうね。


 12曲目After The Gold Rush、言うまでもなくニール・ヤングの名曲、一部歌詞を変え、低音でぐぐっと歌い上げるパティの姿は迫真的。

 後半は語りが中心で前2曲が重たい響きだったところにこの曲が出てくるとまるで解放された(開放、ではない)気持ちになります。

 この曲の並べ方は効果的ですね。

 そしてパティが曲そのものの持つ力を見極める眼力に優れていることも感じました。

 もちろん大好きなニールの曲だというのがあるんだけど、ここにこの曲が入っていたことで、僕は一気にこのアルバムに、パティに引かれました。

 

 13曲目Just Kids、これは限定盤のボーナストラック。

 ドラムスの野性的な響き、歌詞にIndianと出てくる、おとなしいけど力強さを秘めたような曲。

 ところで、パティ・スミスの英語の発音は聴きとりやすいですね。

 やっぱり、言葉をひとつひとつ、他の人よりもうんと大切にしているのかもしれない、と思いました。


 

 僕は、言ってみればパティ・スミスをよく知らないまま、この新譜だけ聴いて気に入って記事を書いています。

 これから彼女の音楽を聴いてゆくと、もっといろいろと違ったことを感じるに違いありません。

 でも、このアルバムを聴いて、彼女は音楽に対して誠実な人であるのはよく分かったので、もう難しい人というイメージは捨てて聴いてゆけそうな気がしてきました。

 

 ちなみに、最初の3枚と現時点で最新のこれしか持っていないので、全部揃えるにはあと9枚かな、前のアルバムのタイトルがTWELVEだったと思ったから。 

 中古でもあるだろうし、まあ急がず集めてゆきたいです。


 2012年上半期の快作といっていい、素晴らしいアルバムです。

■追伸


 7月1日は富士山の山開きの日なんですね。

 今ニュースで見て知りました(知らなかったのか、と言われそうですが・・・)

 偶然だけど、今日この記事を上げてよかった。