◎AMERICANA
▼アメリカーナ
☆Neil Young with Crazy Horse
★ニール・ヤングwithクレイジー・ホース
released in 2012
CD-0250 2012/6/21
Neil Young-03
ニール・ヤングの新譜が出ました。
クレイジー・ホースを従えてのものですが、今回は、アメリカのフォークソングを歌っていて、つまりはカヴァーアルバムということになります。
最初にその情報を聴いた時、ポール・マッカートニーまでがそうしたように(オリジナル曲もあったけど)、またもやヴェテランがカヴァーアルバムを出すのか、と、ちょっとだけ残念に思いました。
でも、ニール・ヤングは、新作も過去の音源ものも含めてほんとにここのところ毎年何か新しいものをリリースしているし、一昨年の新曲だけの新譜だって素晴らしかったし、だからニール・ヤングならまた新曲のアルバムをすぐに出すだろうと思うと、ああ今回はこれでいいんだと、むしろ期待が高まりました。
アメリカのフォークソングを歌うということは、自らの音楽及び人間的なルーツを衆目の下に確認しようという考えであることは分かります。
ニール・ヤングはカナダ人ですが、彼の音楽を聴いていると、国籍よりはアメリカ大陸という土地やそこに暮らす人間へのこだわりや思いが強く感じられるだけに、「アメリカーナ」というタイトルは極めて自然に納得することができます。
ひとことでいうと、やっぱりニール・ヤングはニール・ヤングである、というのがこのアルバムの感想。
もちろん、とっても素晴らしい!
ニール・ヤングは歌で伝えたい思いがたくさんある、というよりも歌で伝えることが生きる動機づけのような人であって、歌うことは呼吸と同じであり、それをしなければ生活ができないという人なのでしょう。
今回はいわば他人の曲を歌っているわけですが、そこが最初は不安だったのが、他人の歌を歌ってもそれはまったく変わらない、ニール・ヤングの歌として響いてきます。
1曲目Oh Susannah、フォスターのあまりにも有名な曲ですが、ざくざく鳴るギターでもったいぶったかのように始まって、タイトルを連呼するコーラスが入り、始まった歌は、あれれ、聴いたことがないぞ・・・
ブックレットには各曲の短い解説があるのですが、それを読むと、1963年のティム・ローズによる新しい旋律のヴァージョンを基にしているということで、ニール・ヤングがまだ10代の頃からフォークソングには興味が高かったことが分かります。
2曲目Clementineもアメリカの唱歌として一応知ってはいる曲だけど、これも僕が聴いたことがあるものではなく、新たな旋律を乗せたということ。
4曲目Gallow's Poleはレッド・ツェッペリンもおそらく同じトラディショナルソングをアレンジして歌っているものだと思うけど、やっぱりニール・ヤングの音楽でしかない。
この曲はニール・ヤングの歌い方が上手いというか味があるというか、こんな芸もある人だったんだってちょっと驚きました。
9曲目This Land Is Your Landはピーター・ポール&マリーで有名なウディ・ガスリーの曲で、これはリズムやテンポそしてざくざくの演奏が違うだけで歌はそのまま、ちょっとほっとした(笑)。
僕がきわめてよく口ずさむ歌だけど、ニール・ヤングのはPPMのに慣れているとちょっと遅すぎて、僕の歌が先走ってしまう(笑)。
11曲目God Save The Queenはいわずとしれた英国国歌。
なぜ「星条旗よ永遠なれ」ではないのか、それはニール・ヤングは英国連邦であるカナダ人だから、と最初は単純に思っていたんだけど、ブックレットを読むと、1776年より前には北米で広く歌われていたということで納得。
ワルツに仕立て上げていて、そうですね、国家という重々しさはなくて、ほんとにフォークソングという感じがします。
他の曲は知らなかったのでさらりと。
3曲目Tom Dulaは19世紀の妻を殺された(殺した)男の話ということだけど、"Tom Dula"というコーラスがずっと入っているのが耳にこびりついて嫌でも口ずさんでしまう。
このアルバムはコーラスが印象的な曲が多く、それはクレイジー・ホースとの一体感を感じさせて楽しいですね。
5曲目Get A Jobはフォー・シーズンズとかその辺のオールディーズ風のコーラスのアレンジが楽しい。
これはテーマが今でも、今でこそ通じるものであるのが興味深い選曲。
6曲目Travel Onは英国のトラッドを1958年にビリー・グラマーという人が録音し発表したもので、そうか、フォークソングを探ると同時に、ニール・ヤングの10代の頃の音楽の追体験というのがこのアルバムの図式のひとつで、いわば二重構造になっているんだな。
7曲目High Flyin' Birdはイントロの重たいギターリフとソロは誰が聴いてもニール・ヤング。
ネイティヴアメリカンの霊歌のような曲だとのことだけど、ニールもBirdsのような曲があって、そういう精神を大切にしているんだな。
8曲目Jesus Chariot、ああこれカッコいい!
ギターが「ザッザッザッザッ」と低音で刻み続ける中で英雄的な響きの歌が繰り広げられます。
10曲目Wayfarin' Strangerはアコースティック・ギターが静かに響くほの暗くておとなしい、しかしなんとなく急いているような切迫感がある曲。
昔のサントリー・オールドのCMで流れていた「だんだんだだ~だでぃでぃだで」という曲のような雰囲気。
ところでこのCD、ブックレットの形がちょっと変わっています。
普通はCDのケース(これは紙ジャケット形式だけど)に沿った正方形に近い形のブックレットだけど、これは高さは同じで幅が半分強くらい、タテ横比3:2くらいのタテ長の普通の本の形をしています。
物語を伝えるには正方形では不自然だと感じたのでしょうかね。
単に紙の使用量を減らしたいだけではないと思うんだけど・・・
ニール・ヤングの歌は曲の覚えが人数倍悪い僕でも覚えやすくて、これはきっとニール・ヤングが歌の旋律を作る才能に長けているのだと思ってきました。
でも、これを聴いて、一部は自分なりの節を入れたりしているでしょうけど、基本的には他の人が作った旋律でも同じように響いてくることが分かりました。
だからニール・ヤングの歌が覚えやすいのは、旋律がどうこう以前に、ニール・ヤングの歌がいいということなのでしょう。
歌として伝える才能に長けている人。
もちろん旋律を作る才能もあるのでしょうけど、やっぱりニール・ヤングは素晴らしい「歌手」なんだと強く思いました。
「語り部」、というべきかもしれない。
正直いえば、ここまで素晴らしいとは思っていなかったし、既成の曲がこんなにまでもニール・ヤング色に染まっているというのも想像をはるかに超えていました。
普通のニール・ヤングの新譜として楽しめるし聴き込めます。
でも、新しいオリジナル曲の新作も、できれば早く出して欲しい、というのはファン以上の人間の勝手な願いです(笑)。