RAM ポール&リンダ・マッカートニー | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-June18PaulLindaRAM

◎RAM

▼ラム

☆Paul & Linda McCartney

★ポール&リンダ・マッカートニー

released in 1971

CD-0249 2012/6/18

Paul McCartney-05


 6月18日は、サー・ジェイムズ・ポール・マッカートニーの誕生日です
 ポールおめでとう!


 1942年生まれだから今年でついに70歳、古希か。
 まだまだ元気な姿を見せてほしいですね。


 というわけで今日は、ポールのビートルズ解散後の2枚目のアルバムであり、当時の奥さんのリンダ・マッカートニーと共同名義のRAMのリマスター盤が先ごろリリースされたので、それを取り上げます。

 今回もアルバムのみ1枚もの、ボーナス音源ディスクつき2枚もの、さらにCDとDVDがついた豪華限定盤などが出ましたが、僕は豪華限定盤も買いました。


 届いてすぐにCDを聴いていたところ、弟はこのアルバムをよく聴いたことがないらしく、最初に聴き終った後で「なんか変な音楽だった」と感想を漏らし、僕はそれを聞いてニンマリしました。


 このアルバムの魅力はずばりそこだと思います。
 僕が言うのもなんだけどさすがは弟、核心を突いている(笑)。


 このアルバムは年を追うごとに、特にCDの時代になってから「傑作」としての評価が上がってきたように感じています。
 僕が10代の頃は、まあ一応No.1ヒット曲は入っているけど、ポールのビートルズ解散後のアルバムで聴きたい順番としては、だいぶ後ろの方で、結局はCD化されるまで聴くことがなかった。
 当時はまだ「ロック」としての評価よりも「いい曲が多い人たち」としてのビートルズやポールの評価が先行していた感がありましたが、このアルバムについては、REVOLVERが時代を追うごとに評価が高まっていったことと無関係ではないような気がしてなりません。
 アヴァンギャルド性というか、挑戦意欲というか、ただいい歌を作るだけではなく人をあっと言わせてやろうという音楽を作る創作意欲及び能力への評価が高まっていったのでしょう。
 今ではポールの最高傑作という人もいるくらい。


 このアルバムでもうひとつ特徴的なのは、「名盤」というよりは「傑作」という言葉が合うということ。
 「名盤」は、流れがよくていい曲が多いアルバムで、どちらかといえば、安心して聴ける、という感じじゃないかな。
 一方で「傑作」は先述のように音楽的に工夫を凝らしていて面白く、作りが素晴らしいという意味合いが強いと僕は考えます。
 このアルバムは、まあポールだから並み以上にいい曲ばかりだけど、でも、「名曲」という感じの誰もが認めるいい曲ではなく、癖があって好きになれない人もいる曲という感じがするだけ余計に。

 曲は、ポールがカントリー系が好きなことがよく分かるもので、アコースティックな手作り感覚は前作から受け継がれていますが、アレンジはもっと丁寧に施されています。
 ポールの魅力のひとつは「主にアコースティック系の小品(こしな)」だと僕はずっと思ってきているのですが、このアルバムは、妙な言い方だけど、「小品を少し拡大発展させた」という趣きの、売れ線のロックとはひと味もふた味も違う曲作りをしています。
 でも、それもまたポールの一面であることが自然に納得できるもので、どちらもできる、どちらも違和感がないのがポールのポールたるゆえんであり、ロックの表現者として偉大な人だと思わされます。
 アレンジは丁寧だけど、ロックらしい力強さもあってシンプルに響いてくる曲ばかりです。


 このアルバムの音の印象を決定づけているのはリンダの声、ヴォーカルとコーラスだと思います。
 なんというのかな、声質がそもそも爽快感がなくねとっとしていて、曲に絡みついてくるようでもあり、聴き手の神経にまとわりつくような独特の声の持ち主がリンダでしょう、良くも悪くも。
 しかしその声を聞いたポールは天才が刺激されて、この声しかない、これを活かそうとひらめいたのではないか。
 ただしポールもある面冷静であり、ウィングスを始めてからは、バンドがポップになるにあたって、やはりリンダのこの声は前面に出すには抵抗感があると判断したのか、リンダの妙なコーラスは次のウィングスのデビューアルバムまでとして、それ以降はまあ普通の女声コーラスっぽい感じに落ち着いてゆきました。
 その点でもこのアルバムは実験的で画期的なのでしょう。
 僕はよくは知らないけど、リンダに対する批判のような声はきっと少なからずあったのだと思います、今でもあるかもですが。
 それは、リンダは歌手でもないし歌も上手くないし美声でもないのに、自分の名前のアルバムを出せたところに依拠しているのでしょうけど、少なくともこの時期のポール・マッカートニーにとっては、頭の中に
あるアイディアを具現化するには、リンダのこの声以外はあり得ない、どんなに上手い人でも代えが効かなかったに違いありません。
 

 なんて書いているけど、それは今だから書けることで、はっきりいって僕も最初の頃はリンダの声に面喰いました。
 なんかこう、頭にこびりつくんですよね、良くない意味で。でも、聴いてゆくうちにそこが面白くなり、魅力と感じられるようになったのだから、音楽というのはある意味恐ろしいですね(笑)。


 とにかく音楽のセンスが並の人間では推し量れない、ポール・マッカートニーがそういう人であることを示したアルバム
 というと聞こえがいいけど、要は「変なアルバム」なのです(笑)。
 その「変なところ」を楽しめるかどうかは、聴く人がロックが好きかどうか、主にロックに必要なユーモアがどれだけあるのか、或いはないのか、それを計るものさしのようなアルバムだと思います。
 僕はちなみに、大学時代に友だちの付き合いで手相占いをしてもらった時に、ユーモアの線がとても多いと言われた人間です(笑)。



 1曲目Too Many People、アコースティックギターの低音のカッティングに乗ったポール、いきなり「ケーキひときれ」と歌い出し、あららどうしちゃったのって。
 "A piece of cake"は「そんなの簡単さ」という意味だけど、何が簡単なんだろうなって昔から思っています(笑)。
 妙に力んだ曲で、ポールも声をきしませながら歌います。
 リンダのコーラスはまだ控えめかな。
 ギターのオブリガードの入れ方やフレーズを聴くと、ポールもやはりブルーズが大好きで意外とよく知っていると感じます。
 その意味ではポールもブルーズの呪縛から解かれてはいないけど、ブルーズの要素を一般化するセンスに長けていてさらっと聴かせる。
 よく聴くと思いのほかブルージーな曲だと気づく、音が全体的にダイナミックに動き回る爽快な曲。


 2曲目3 Legs、カントリーブルーズ風の曲。
 ポールの声が特殊効果で前に後ろに、クリアだったりくぐもったりと歌詞の内容に合わせて表情を変えるのが面白い。
 やはりオブリガードが、エレクトリックでもアコでもブルーズ調。
 リンダの後追いコーラスがだんだんとらしさを見せてきています、なんというか、気の抜けたような声の出し方・・・
 基本的には牧歌的でのどかな曲と言えるかな。


 3曲目Ram On、軽快なウクレレ、軽快な曲なのかと思わせて、歌が始まると明るいようでどことなく重たい雰囲気で進む不思議な曲。
 口笛が入るのが余計にそう感じます。


 4曲目Dear Boy、メランコリックで哀愁が漂う、ちょっとポールらしくない雰囲気。
 時々あるんですよね、ポール、どうしちゃったのってくらいに重たく沈んだふさいだ苦しい感じの曲が。
 まあだからYesterdayが書けたのでしょうけど。
 この雰囲気にはリンダのコーラス以外には考えられない。
 とってもいい曲だkど、口ずさむにはやっぱり重いかな。


 5曲目Uncle Albert ~ Admiral Halsey、アメリカではシングルカットされ、ポールにとってはビートルズ解散後初めて全米No.1ヒットとなった曲。
 ポールお得意のメドレー形式の楽しい曲で、タイトルからしてYellow SubmarineやSGT. PEPPER'Sの続編なのかな、と思わせる仕掛けがポールらしいところでしょう。
 僕はこれ、中3の時にFMでエアチェックして初めて聴きました。
 当時はビートルズ関係の本を読み漁っていたので、この曲がポールにとって初のNo.1ヒットであるのは知っていて、「FMファン」の番組表にこの曲を見つけた時には、胸躍る気持ちで放送を待って聴くのを楽しみにしていました。
 いざ聴くと、なんか変わった曲だな、もちろんいい曲で楽しくて1発で気に入ったんだけど、なんか違うぞ、と思ったものでした。
 当時はそこまで考えていなかったけど、これがまさに先述のようなポールの名曲の系譜とは流れが違う曲なのだと思います。
 それでも大ヒットしたのは、アメリカ人はやっぱりポールがポップス最前線に復帰するのを待っていたのでしょうね。
 こういう曲もあるのがポールらしいところ。


 6曲目Smile Away、前の曲がフェイドアウトしきらないうちに変なギターの音が入り、重たいビートを刻んで曲がぐいぐいと進む、いかにもポールが好きそうなオールドスタイルのロックンロール。
 リンダのコーラスもオールドスタイル、ポールは声を軋ませて力唱。
 曲はポールにしては人を食ったかのように至極単純なんだけど声や歌い方それにちょっとした節回しに変化を持たせていて飽きさせないで聴き通せるのはさすが。
 アルバムいちへヴィな曲でもあるかな。


 7曲目Heart Of The Country、タイトルそのままの雰囲気のカントリー調ロックンロール。
 ほんとにポールはこの路線がうまいですね。
 途中の裏声のハミングにアコースティックギターでユニゾンで音をつけていて、ポールはアコもやっぱり上手いのが分かります。


 8曲目Monkberry Moon Delight、ポールいちの問題作と言ってしまう。
 ポールにもこんな狂気があったのかというクレイジーな曲で、メロディメイカーとしてのポールしか聴いたことがない人がこれを聴くと、ポールだとは最初は信じられないのではないか。
 イントロの単純な音を繰り返すピアノが気持ちを煽りまくり、ポールは高音で声を軋ませ荒らげながら汚い声で歌う。
 後半では息苦しそうにほんとうに汚い声で叫びまくる。
リンダの美しくない声もまさにこのためにあるかのよう。
 最後のフェイドアウト部分は変な声を次々と出しながら引っ張れるだけ引っ張っているのも、尋常じゃない何かを感じます。
 だけどやっぱり歌メロはあくまでもポップなのはポールらしいところ。
 このアルバムのダイジェストともいえる曲で、こんな曲が作れてしまうからこそ、ポールは真の天才といえるのでしょう。
 すごい、ほんとうにすごい曲。
 誰の心にも某かの狂気が潜んでいることを示す曲ですね。


 9曲目Eat At Home、「家で食べよう」、狂気の後は平穏な日常。
 軽い曲調に重たいギターのリズムはこのアルバムの音的な特徴の一つといえるでしょう。
 これまた古臭いロックンロール、プレスリーを意識しているかな。
 リンダはコーラスではなくヴォーカルをポールと張り合っていて、なんというのか、もう言葉が浮かばない(笑)、とにかく面白い響き。
 この曲も途中のハミングが印象的だけど、ほんとうにポールは、曲の中にちょっとしたアイディアを入れ込んで曲の表情をより豊かに聴かせることが上手い、名人芸の域に達しているでしょうね。
 そういえばこのアルバムはベースが旋律として印象に残る曲がなく、ひたすら強く激しく音を刻んでいわばベース本来の仕事をしているのがポールらしいのか、らしくないのか、やっぱりらしいかな(笑)。


 10曲目Long Haired Lady、ポールが"Well"と5回呟いた後に入るリンダのヴォーカルは、間の抜け方が最高潮に達しています(低音を歌うのが苦しそう)。
 やっぱり曲がブルーズっぽいというか古臭いR&B調で、ちょっと切ないいかにもポールらしい歌メロを静かに歌います。
 まあでもやっぱり変な声を出すところはあるけど(笑)。
 やはり歌メロが一本調子で流れていくのではなく、幾重にも折り重なるように繰り出されていくのはさすが。
 ホーンのアレンジもポールは得意ですね。


 11曲目Ram On、ポールお得意のリプライズもの。
 前半はウクレレ風を踏襲しつつ、途中からエスニックな雰囲気で異様な盛り上がりを見せる中、違う旋律を歌い始めるポール。
 それは、この2枚後のRED ROSE SPEEDWAYの1曲目Big Barn Bedそのもので、この時は最初だけできていたのか、それともアドリブ的に歌ったものを発展させて後のアルバムに完成品として録音したのかな、興味深いところです。


 12曲目The Back Seat Of My Car、最後はちょっとしんみりとしたポールらしい抒情的な曲で、きっとアメリカを意識したであろうドライヴの模様を歌った歌。
 ここでのリンダの声がまるで酔っ払いのように何を言っているかまるで分からない、声ではなくもはや音としてのみ機能しています。
 でもやっぱり最初の頃はなんかちょっとイライラしてきたけど(笑)。
 断っておきますが、リンダのこの声を僕は今はほんとうに好きで、くどいようですがこの声じゃないとこのアルバムは成り立たない。
 だけどその境地に達するのに時間を要したのも事実ですが(笑)。
 前衛的ともいえる妙な音のロックを作り上げてきたところで、
最後はやっぱりショービジネス的な型にはまった終わり方、ポールは根っからのエンターティナーだと実感します。
 やっぱり、妙な音楽であっても最後はほっとしたいですからね。
 大変な1日だったけど最後はなんとか落ち着けるかな、という流れでアルバムが終わります。



 2枚組のDisc2には、ポールのシングルレコードとして日本では最も売れたAnother Dayなど8曲が収録されています。


 ポール・マッカートニーは確かに稀代のメロディメイカーですが、もしそれだけの人であれば、ポールもここまでは評価は高くなかったかもしれない。
 エキセントリックでアヴァンギャルドでシュールリアリスティックなとにかくカタカナのちょっと変わった(!?)フィーリングを持ちながら音楽を作り続けていたからこそのポール・マッカートニーであり、そんな別の一面の魅力が1枚に凝縮されたのがこのアルバムでしょう。
 もちろん、その上で曲が、歌が素晴らしい。
 このアルバムは誰にでも作れるものでもないでしょう。


 繰り返しになりますが、ポール・マッカートニーをメロディメイカーと認識している部分が強いか、ロックミュージシャンとしてのそれが強いかによって
 このアルバムは聴こえ方がまるで違うと思います。

 そしてリンダの声を受け入れられるかどうか・・・これはかなり大きいでしょうね。
 僕ですら最初は抵抗感がありましたから。


 でも、やっぱりポールらしいポップさは失われていない、ポール・マッカートニーはほんとうにすごい人だと実感します。


ほんとは歌詞についてもっともっと言いたいことがあるんだけど、それを始めると終わらないので、アルバム概観だけにて終わります。


 あらためてポールおめでとう!!