WHO'S ZOOMIN' WHO? アレサ・フランクリン | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-June17ArethaFranklin


◎WHO'S ZOOMIN' WHO?

▼フリーウェイ・オブ・ラヴ

☆Aretha Franklin

★アレサ・フランクリン

released in 1985

CD-0248 2012/6/17

Aretha Franklin-02


 アレサ・フランクリンが1985年に発表した復活作。


 僕がアレサ・フランクリンを初めてそれと認識して見て聴いたのは、映画「ブルース・ブラザース」がテレビで放映された時のことでした。

 映画のことはブルース・ブラザースの記事でも少し触れましたが、アレサは、先ごろ亡くなったドナルド・ダック・ダンの妻の役で、夫バンドをやるのを考え直してほしいと"Think"を歌い、でも結局夫は考え直さないでバンドに出て行ってしまった、という話だったと思います。

 主婦なのにあまりにも堂々とした歌いっぷり、身のこなし、もちろんミュージカル的な演出だけど、それを笑顔を見せずにやり通してしまったこのおばちゃんはすごい、と、10代の僕は思いました。

 今ふと思った、アレサは1942年生まれだから、実はこの映画の頃は今の僕より年下なんですが、そう考えるとあの貫禄は余計にすごいと今思いました(笑)。


 それまでも名前は本やラジオで何度か耳にしていて、もはや伝説の人になりかかっていたのですが、映画で見て割とすぐにこのアルバムがリリースされたのだと記憶しています。


 最初はもちろん、ここからの1stシングルである1曲目Freeway Of Loveを「ベスト・ヒットUSA」で見て聴いたのですが、映画の後だっただけにちょっと注目して見て聴きました。

 当時はソウルが死にかけていた、というよりほとんど死んでいた頃で、ソウルという言葉も1970年代を表す言葉として認識していたくらいでしたが、この曲は普通のポップスで、歌っているのが黒人というだけという感じに当時は映りました。

 でも歌メロがよくて、僕はこの曲を一発で気に入りました。

 ビデオクリップでいえば、おかっぱ頭のおばちゃんとして翌日の朝のクラスで話題にもなりました(笑)。


 ただ、LPを買うのはまだ勇気が足りなかったし、ドーナツ盤なら買ってもよかったんだけど、当時はビデオデッキが家にきたばかりで、βでしたが、ビデオクリップを録画したものを見て聴くのが新たな楽しみになっていて、これはビデオで十分という感じでした。


 そうこうしているうちに、ユーリズミックスとの共演の5曲目Sisters Are Doin' It For Themselvesのビデオクリップが、ユーリズミックス側の新曲として流れるようになり、それも録画して見て聴いて気に入っていました。

 この曲も今の感覚でいえばソウル色が薄くて、ユーリズミックスなので当然かもですがロックからソウル側にアプローチしたというサウンドでしたが、これはユーリズミックスのベスト盤CDに収録されていたので割と早くにCDで聴くようになっていました。

 当時、ピーター・バラカンの「ポッパーズMTV」も札幌でも放送が始まり、それも見るようになりましたが、ピーター・バラカンという人は僕はそこで知りました。

 バラカンさんがこの曲を紹介する際、アニー・レノックスについて言ったことが印象的でした。

 「彼女ほど歌える白人女性歌手はいない」

 「歌える」に「きちんと」「しっかりと」「うまく」などの形容詞がついておらず、ただ「歌える」と言っていたのが逆に伝わるものが大きくて、僕も爾来、アニー・レノックスは白人ではいちばん上手い歌手かもしれないと思っています。

 この曲はある意味すごいですね、ソウルを聴くようになって余計にそのすごさが分かったような気がします。

 また、ユーリズミックス、アニーとデイヴ・スチュワートがいかにソウルが好きでよく知っているかも、昔よりよく感じられます。


 もう1曲、2曲目のAnother Nightは当時ビデオクリップをやっていたような気がする。

 この曲は1980年代のブラックミュージックといえばこんな感じという、ソウルというよりブラコン、曲はとってもいいんだけど今聴くとちょっと悲しくなる、そんな曲かな。

 サビの部分は思わず歌ってしまうものですが。

 

 このアルバムが先ごろ、シングルヴァージョンなどのボーナスマテリアル満載の2枚組Expanded Editionとしてリリースされました。

 僕は数年前にアレサのアルバムをすべて集める過程でこのアルバムのCDを買ったのですが、だから四半世紀を経て初めてアルバムを通して聴いたことになります。 

 

 アルバムを通して聴くと、「アレサ・フランクリンってすんごい人なんだって」という意気込みで10代の頃に聴いていれば、肩透かしをくらったかな、と正直思いました。

 当時のアレサは、とうよりも彼女のクルーは、アレサを伝説の中にしまい込むにはまだ早いと、当時の音の中で彼女のすごさをさらりと今の人に伝えたい、という考えのもとにこのアルバムを作ったように感じます。


 その役を務めたのは当時は時の人だったナラダ・マイケル・ウォルデン。

 彼は作曲にも絡んでいて、このアルバムは、新しいナラダと伝説のアレサの組み合わせの妙を楽しもうという趣向ともいえるのでしょうね。


 名刺代わり、という表現がよく使われるけど、僕は実はそれがどこまでを表すものなのかがあまりよく分かっていません。

 名刺だけでその人となりがある程度分かる人もいれば、単なる開示できる個人情報を書いているだけの場合もあるし。

 

 アレサのこれを聴いて、彼女のすごさが想像できるかというと、そこまでではないような気もします。

 アレサの情報は当時既に世の中に出回っていて、ネットはなかったけど、もしこれを聴いてその伝説を知った上で昔の彼女を聴くと、もっとすごいことが起こるよ、知らないよ、みたいなのりだったのかなと思います。

 

 音はほんとに80年代で、特に表題曲の4曲目Who's Zoomin' Who?はベースの音づかいやシンセサイザーの(安っぽい)音、ちょっと以上に甘い歌メロ、それらを包み込むすべてがどうしようもないくらいに80年代的で、最初にアルバムを聴いてあまりの懐かしさにくすっとなってしまったくらい。

 でもやっぱり、70年代はおろか90年代に比べてもつまらないと言われるかもしれない80年代も、僕が育った時代なので、やっぱり思い入れという点では他とは違うことも分かりました。


 3曲目Sweet Bitter Loveは往年のピアノ弾き語り調、6曲目Until You Say You Love Meも80年代のブラックミュージックのバラード、7曲目Ain't Nobody Ever Loved Youはカリプソ、8曲目Pushは当時はもう元J・ガイルズ・バンドのピーター・ウルフが参加したハードでR&B的でもいかにも80年代的な曲、最後9曲目IntegrityはソウルがUKに渡ってブリティッシュ・インヴェイジョンとして英国に戻ってきたのをさらに跳ね返したみたいなのりだけど、意外なことにアレサひとりの作曲となっています。


 まあいろいろと外野的な意見を書いてきましたが、それ以前に、彼女がまだまだ歌いたかったのかな、と素直に思いたい部分もあります。


 いずれにせよ、僕が多感な頃にFreeway Of Loveで僕の前に出てきたアレサは、それ以来ずっと一目置いている人であり続けています。 

 もっとも、アレサの輝かしきスタックス時代のソウルを聴き始めたのは、それから数年後のことでしたが、それはまたいつか話します。


 そしてFreeway Of Loveは、昔より今のほうがもっと好きかもしれない。

 アレサの歌い方を真似したりして今でもよく口ずさんでいます。


 アルバムタイトルに"Zoom"と入っているのは、写真が好きな僕としては妙にうれしかった、まあどうでもいいことだけど(笑)。

 

 最後に、アルバムジャケットにある女性の肖像画について、多分、これを見たほとんど人が思っていることを敢えて書いてみます。

 

 いったいいつの時代のアレサの姿なんだ?


 口が悪い人はこう言うかもしれない。


 嘘だろ!


 まあいずれにせよ、CDを買ったのは最近のことなのに、ずっと昔からよく聴いていたと錯覚するようなアルバムです。