ANALOG MAN ジョー・ウォルシュの新譜 | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-June12JoeWalsh


◎ANALOG MAN

▼アナログ・マン

☆Joe Walsh

★ジョー・ウォルシュ

released in 2012

CD-0247 2012/6/12


 ジョー・ウォルシュの新譜が出ました。


 これがとってもいい!


 音楽について触れる前に、タイトルはもはや何を言わんかや、という感じですが、でもちょっと待った、僕は正直、このタイトルを見てちょっとした違和感を覚えました。


 ジョー・ウォルシュの音楽は、高揚するギターサウンドを中心としたまるでジェット機のような爽快感があって、その感覚はむしろデジタル的なものだと感じていた。

 ということが、このタイトルを見た上でこの新譜を聴いて、僕自身で気づいたことでした。


 まあ、ジェット機がデジタルなのかというのは多分違う、アナログの時代から飛んでいたわけだし、だからこれは多分に下手なレトリックなのですが、要はジョー・ウォルシュのサウンドは時代の先を行っていた、ということ。

 ジョーがイーグルスに加わって曲作りに絡んだLife In The Fast Laneなんて、それまでのイーグルスにはなかった疾走感、爽快感、切れの鋭さ、ジョーが「デジタル感覚」をアナログ的なバンドに持ち込んだ効果が表れていたのではないかと。


 もうひとつ、ジョーはかつてORDINARY AVERAGE GUY「どこにでもいる平均的な奴」というアルバムを出していたけど、でも、どちらかというと、いやどう見ても普通っぽくない癖があるジョーがそう言ってしまうというのが人を食ったところであると思っていたから、このタイトルも字義通りに受け取っていいものかという防衛本能が働いたのでした。


 そんなジョー・ウォルシュが「アナログマン」とはこれいかに。


 そこではたと気づきました。


 僕はアナログマンで昔から変わっていないよ、今の時代についてゆけてないよ、と言いながら、でも僕は昔から人より先に飛んでいたんだよ、だから変わる必要もないのさ、ということを言いたいんだなって。


 見るからに癖がありそうな、永遠のロック小僧ジョー・ウォルシュならではという感じがします。


 それにしてもこの新譜は聴きやすい。

 Amazonから届いて最初は何も予備知識なく聴き始めて、すぐにそう感じていましたが、数曲進んだところでブックレットを初めて見て驚き、納得。


 このアルバムは、ジェフ・リンがプロデュースしているのです!


 ジェフ・リンといえばかのトラヴェリング・ウィルベリーズの人!


 あ、ここで言わなければならないのは、ジェフ・リンといえば普通はELOの人、となるのでしょうけど、僕にとってはジェフ・リンはウィルベリーズの人なのです。

 

 ELOは、僕が洋楽を聴き始めた頃は人気が少し下り坂で、2枚ほど出たアルバムはエアチェックで聴いただけで、暫くは休みに入り、細かいことはまたにして、とにかく僕は、僕の年代の人の中では、ELOはあまり熱心に聴かなかったほうでした。


 その代わり、トラヴェリング・ウィルベリーズは心底心酔する信奉者と自認するほど。

 ウィルベリーズは僕の中ではアメリカンロックの完成形であり、至高の存在でもあるわけですが、その屋台骨を支え気難しい仲間をまとめたのはジェフ・リンであって、彼じゃなければ不可能だったかもしれない。

 さらにはジョージ・ハリスンとは親友になり、遺作をリリースにまでこぎつけてくれた人だし、僕はジェフ・リンには多大なる恩義を感じています。


 ジェフ・リンもまたアナログ時代にレトリックとしてのデジタル的な時代の先を行くサウンドを作っていた人だから、このアルバムは70年代80年代の雰囲気をたたえたアルバムになるのはもう必然のこと。


 というよりも、ウィルベリーズ的なサウンド、アメリカンロックだけど切れがあってまろやかでふくよかで気持ちいいサウンドがまた聴けたのが、もう涙が出るくらいにうれしい。

 このサウンドにはアコースティックギターがかなり重要であることもまたよく分かります。


 さらにうれしいのは、リンゴ・スターも数曲で参加していること。

 リンゴとジョーといえば、リンゴのオール・スター・バンドのジョーは1期生であり、武道館公演を実際に見た人だから、それもまたうれしい。

 こうなったら、ジョー・ウォルシュとリンゴ・スターを加えてウィルベリーズを再結成してほしいくらい。



 今回は楽曲もみな充実していて、半分ほどを何人かと共作はしているけど1曲を除いてすべてジョーが曲作りをしていて、ソロアルバムは久しぶりだけど、その間にいろいろなアイディアが浮かんだことがよく分かります。

 でも意外というか、ジェフ・リンは曲作りには絡んでいないことで、ジョーの曲が地味だとは言わないけど、やっぱりジェフ・リンは曲の良さを引き出す才に長けていることも証明されています。


 曲で面白いのは9曲目Funk 50、ジェイムス・ギャング時代のFunk #49の続編というか後日譚ということなのでしょうけど、これが楽しくてしょうがない曲。

 続く10曲目Indiaはデジタルサウンドの陽気なインストゥロメンタルで、今のインドはこういう感じなのか、ジョージ・ハリスンがThe Inner Lightでシタールを使って情景描写したような田園風景はどこに行った、という、でも、いかにもジョーらしくて笑ってしまう、だけどでもすごい。

 1曲目の表題曲Analog Manはブルーズを基本としたアメリカンロックで冒頭からギター炸裂。

 2曲目Wrecking Ball、3曲目Lucky That Wayとサウンドも歌詞もウィルベリーズ路線が続き、7曲目One Day At A Timeで120%ウィルベリーズの世界に到達、感涙もの。

 4曲目Spanish Dancerは中間部のメロディのうねうねしたところがジョージ・ハリスンっぽい、と、これはもはやウィルベリーズの世界であるがための勝手な思い込みかな(笑)。

 6曲目Familyはしみじみと聴かせるソウルバラードっぽい曲。

 他もほんとうにいい曲ばかりですよ。


 うれしいね、思わず丁寧語を抜かすくらいにうれしいアルバムだね(笑)。



 ジョン・メイヤーの新譜も気に入ったけど、同じくらい気に入りました、今年の1位候補。

 ジョン・メイヤーが「静」なら、ジョー・ウォルシュは「動」、どちらもアメリカーナのギターバカ(失礼!)だけど、音楽世界は雰囲気が違い、どちらも楽しく、気分によって選べるのもいいところ。


 
 正直言うと、ここまでいいとは予想していなかった。

 こういうアルバムに出会えるのはほんとうにうれしくて、音楽を聴き続けていてよかったなあと心底思える幸せな瞬間ですね。


 ジョー・ウォルシュも来日公演してくれないかなあ。

 ジェフ・リンかリンゴが一緒とか、ないかな、ないよなあきっと(笑)。