◎APPETITE FOR DESTRUCTION
▼アペタイト・フォー・ディストラクション
☆Guns N' Roses
★ガンズ・アンド・ローゼズ
released in 1987
CD-0246 2012/6/9
ガンズ・アンド・ローゼズの、もはや名盤といわれて久しい1stアルバム。
僕はヘヴィメタル系もよく聴くので、伊藤政則はいわば古くからの付き合いというか、当然向こうはこちらを知らないけど(笑)、出ていると気になる人ではあります、良くも悪くも。
先日、メタルマニアの弟が、「イトー先生(とわが家では呼んでいる)の新しい番組をケーブルテレビ見つけた」といって、HDDRに録画してあった番組を再生し始めました。
番組名を忘れてしまいましたが、イエス、ラッシュ、スティックスなどメタル系以外も取り上げられ、最近のライヴ映像が流れたあと、その映像が収録されたDVDが紹介され、今なら送料無料と、つまりはロックの通販番組であることが分かりました。
最後にイトー先生は、「またいつの日かお会いしましょう」と締めくくっていて、ははあ、これはその会社が出すDVDのネタが揃ったところでまたという意味だな、と。
まあ、テレビで洋楽が見られるならなんでもいいかな(笑)。
今回このアルバムを選んだのは、その番組で、スラッシュの最新映像作品として、Sweet Child O' Mineが流れていたからです。
歌っているのは現在のスラッシュのバンドのヴォーカリストのマイルズ・ケネディでした。
このアルバムはもうひとつ、イトー先生とつながってきます。
1988年頃、TBSの関東ローカルで「ピュア・ロック」というヘヴィメタル礼讃番組がありました。
覚えておられる方もいらっしゃるかと。
イトー先生とグラフィックデザイナーの和田誠(丸谷才一などの絵のイラストを描く人とは同姓同名の別人)が、なぜか人形を交えて夜にパブでヘヴィメタルについて語り合うという番組で、ちょうど大学で東京に出てヘヴィメタル系も聴くようになった頃だったので、毎週録画して見ていました。
この番組については話し出すと長くなるし、面白い話がたくさんあるので、今後ヘヴィメタル系を話題にする際に少しずつ話してゆきたいと思います。
ガンズ・アンド・ローゼズはその「ピュア・ロック」でWelcome To The Jungleを初めて見て聴いて心惹かれるものを感じました。
でも、でも、なんというのか、この猥雑な世界を受け入れたくないという自分がいることも同時に感じました。
渋谷のタワーレコードに行くとCDが目立つように置いてあり、買おうかどうか、店内3周くらい迷ってその日はやめました。
ところがすぐ後に、ジャケットが女性がレイプされたことを想像させるとして発売禁止処分となり、店から一時的にCDがなくなりました。
正直いえば僕は、3周迷ってやめたのはそのアートワークが気に入らなかったからです。
なんというか、うちにこれがあるのは、ちょっとどうかなって。
しかし買えないと分かった途端、やはりもう1周して買えばよかったと後悔しました。
アートワークが気に入ったわけではなく(今でも好きじゃないですが)、後に値上がりを期待するのでもなく、ただ単に、買う機会があったのに買えなかったのが残念であるのと、発売禁止になる前から、さらにいえば大ブレイクする前から目をつけていたというロックファンの某かの矜持を味わいたかったからです。
少ししてジャケットが差し替えられたものが店頭に並び、今度はすぐに買いました。
買うのを迷ったもうひとつの理由が、やっぱり彼らの猥雑さかな。
ロックンロールには暴力と酒と煙草と薬がつきものと昔は言われたようですが、僕は、暴力をふるったことがあるのは小学校低学年の頃までだし、酒は人と会う時しか飲まないものでなくても生きていけるし、煙草は吸いたいと思ったことはなくもちろん吸ったこともないし、薬はまるで興味が持てない。
もうひとつ、俗に言われるロックンロールにつきものについて、それだけは普通程度に興味があります、念のため(笑)。
それはともかく、ガンズの音楽には、欲望に向かって突っ走るロックの原初のパワーを感じました。
1980年代も後半になり、ロックはすっかり大人も聴くものになり(少なくとも向こうでは)、昔は不良でロックを聴いていた世代が社会の中心を担うようになると、やはり、たいていは社会の枠からはみ出ることが許されなくなり、ロックという音楽がきれいになりすぎてパワーを失っていた。
そんな頃にガンズが出てきて、それは違うだろうと叩きつけた。
僕だって欲望もあるだろうし、社会からはみ出たいという部分もあったかもしれず、ガンズのこれはそこにストレイトに訴えかけてきました。
でも一方で僕は、欲望を表すことを抑えるように育てられてきた人間なので、たかがCD1枚買うにしても、果たしてそれでいいのだろうかと悩んだものでした。
だけど、どんな人でも、美しいものを美しい、きれいなものをきれいと思う心はあるはずで、ただ程度の大小と表に出るか出ないかの違いがあるだけで、音楽はそれを表現しているだけのものなのでしょう。
ガンズが不良だとは言わないけど(でも言ってるようなもんだけど)、きれいな女性はきれいに見えるし、いいものはいいし、そこは変わらないはずで(好みのタイプは違うかもしれないけど)、そういう素直な気持ちを持つのはむしろ人として当たり前のことだと。
人間の欲望に訴える音楽表現者はガンズだけではない、もちろんそうに違いない。
でも、これほどまでに理性ではなく感覚に訴える音楽というのも、僕のリアルタイムの実体験では他にはなかったのも確かです。
そこまで書いて僕の人生が変わったかというと、残念ながら、ガンズのCDを買って聴いて僕の欲望が解放された、ということはまったくなくて、でも、音楽を聴いている時は誰でも同じ気持ちになれるものという考えは持てるようになりました。
誤解を恐れずにいえば、ガンズのこの音楽は「美しい」と思います。
Paradise Cityなんて、歌ってみますか。
"Take me down to the Paradise City, where the grass is green and the girls are pretty,
Take me home"
なんて気持ちがいい旋律、歌詞のはまりもぴったりです。
ところで"grass"とはクスリの隠喩なのかな、と今ふと気づいた。
この曲はギターの音がおとなしめということもあるけど、他の曲だって、歌メロだけ口ずさんでみるときれいに流れていて「美しい」とも言えます。
Welcome To The Jungleは鼻歌で意外と映えますよ(笑)。
「美しい」曲が多いということは、ソングライターとしても優れた集団である、ということでもありますね。
また「美しい」というのは、ヘヴィメタルの様式美に通じるところがあり、だからガンズはメタルと言えるのではないかな。
ただガンズの場合、荒々しくて雄々しくて力強いギターの音には拡散していくパワーを感じ、交響的にまとめようという様式美メタルとは違う部分かな。
「美しさ」の究極はやはりSweet Child O' Mineでしょうね。
今回テレビで見たマイルズ・ケネディは女性でいえばちょっとコケティッシュな変わった声の持ち主だけど、やはりこの曲を歌うともうそれはそれは「美しく」て、最高に「美しい」」旋律の曲だなと。
イントロのギター、スラッシュがレス・ポールで奏でるあのフレーズからして、旋律も響きも美しいですよね。
当時は僕もまだ若くて、このイントロがなぜか一発で耳コピーできて、弾いてみてますますその「美しさ」に酔いしれました。
おまけに、一度しか出てこないパッセージを歌った後、待ってましたとばかりに始まるスラッシュのギターソロがもう絶品。
今回、遠征に向かう車の中で聴いていて、あのレス・ポールのサウンドが流れてきたところで涙が出そうになりました。
確かこの曲は、ネットで何かで見たけど、ロックのギターソロのランキングみたいなものでTop10に入っていたんじゃないかな。
ソロも当時は耳コピーしたけど前半だけで諦めました(笑)。
なお、スラッシュのライヴ映像では、"Oh-oh-oh sweet child o' mine, oh-oh-oh-oh sweet love of mine"の部分を会場に歌わせていて、それがまた「美しく」て感動しました。
ほんとうに素晴らしい、「美しい」曲です。
このアルバムでもうひとつうれしいのが、My Michelleで、もうそこから先は言わなくてもお分かりかと(笑)。
ビートルマニアはささいなことに敏感なのです。
なんて、いつもより大げさなことを書いた気がするけど(笑)、アートワークがどうであれ、本人たちがどうであれ、今でも時々とっても聴きたくなるアルバムには違いありません。
いろんな人間がいていいじゃないか、と思えます。
もちろん、法律や道徳を無視するのがいい、とまでは思いませんが、でも、音楽の中に限れば、美しいものは誰にとっても美しいのです。
今日は6月9日で「ロックの日」、そんな日にロックの最も原初的なパワーを感じるこのアルバムを紹介したけれど、特にそれは意識していなかった。
というのも、ほんとはこの記事は昨日上げるつもりでいたから(笑)。