BORN AND RAISED ジョン・メイヤーの新譜 | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


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◎BORN AND RAISED

▼ボーン・アンド・レイズド

☆John Mayer

★ジョン・メイヤー

released in 2012

CD-0244 2012/6/1

John Mayer-02


 ジョン・メイヤーの新譜が出ました。


 少し前に新譜CDを予約注文した際に前作の記事を上げていて、そこでも書いたのですが、ジョン・メイヤーはクールさが持ち味。

 今回はカントリー路線に打って出ました。

 

 もっとも、正しくは、というか、あくまでも僕が感じた限りでいえば、ピュアなカントリー風もあるけど、カントリー風のロック、もしくは、曲はブルーズだけどジャンルはカントリーというか、カントリー・ブルーズ、そんな路線でしょうか、とにかくカントリーっぽい音を聴かせてくれます。


 これがいい、とってもいい!


 僕はそもそもアメリカンロックが大好きな人間であり、カントリー風味をまぶしたロックはいわば僕の真ん中だから、このアルバムは最初からもう気持ちが入りまくっていました。

 

 僕は、純然たるカントリーに分類されるアーティストも、一応だけど、聴くのですが、でもやっぱり、ロック側に軸足がしっかりと残った上でカントリーっぽい音を出す音楽こそが大好きであるのも再認識しました。

 それは多分、僕のデフォルトがビートルズだからでしょうね。
 前に何かの記事でも書いたことですが、「アメリカン・ロック」なるものを確立させたのは他でもないビートルズだ、という主旨の本を書店で見かけてさらっと見たことがあって、それはなんとなくそうじゃないかと前々から考えていたことだったので、そうかやっぱり、と思ったものです、本は買わなかったけど・・・
 

 まあ、「確立させた」は言い過ぎかもだけど、でも、カントリー音楽を、アメリカ人ではない洗練された英国人の感覚でロックの中に入れ込んで多くの人に聴かせたビートルズの功績は大きいのではないか、と。

 あ、話が逸れましたね、そっちに行くのか、という方向に・・・(笑)・・・


 ジョン・メイヤーはクールでと書きましたが、もうひとつの見方として、このアルバムを聴きながらなんとなく思ったことを書きます。


 ロックという音楽はブルーズの呪縛の中にあり、ロッカーたちはブルーズとの葛藤の中で自らを表現してきたという歴史があります。
 ロックがブルーズを起源としている以上、それは仕方のないことだし、それは演じ手のみならず聴き手側もそうであり、この僕自身もやはり、これはブルーズっぽい、ブルーズを感じる、ブルージーだ、などという表現を多投しながら記事を書いています。
 それがうっとうしい人も結構いらっしゃるかもしれないと思いつつ、僕自身は呪縛から解かれていないことを分かって書いています。


 ジョン・メイヤーは1977年生まれ、僕より10歳年下ですが、彼の年代は、ロックの歴史の中で初めて、ブルーズの呪縛から解かれ始めた世代なのかもしれない。

 ブルーズとはこうあるべきだ、ブルージーに演奏しなければいけない、という考えは特になく、ただ自分が好きな音楽であるブルーズを、自分なりにカッコよく演奏できればそれでいい、という考えがあり、そんな皮膚感覚を持った人なんじゃないかな。


 しかし、自分の気持ちを表すに及んで、歌でもギターでも、彼は彼なりにブルーな気持ちで歌って演奏しているのはよく伝わってきます。
 ただ、それが、既成のブルーズの観念とは違うというだけの話でしょう。
 いわば、ブルーズから距離を置いたところで自分らしさを発見し、それを表現したところで結局はブルーズに近づいているかもしれない、ということなのだと思います。
 まあ、そういう人は彼が初めてじゃないでしょうけど。


 もちろん、ブルーズの先達への尊敬の念は忘れていなくて、ライヴではもっとブルーズっぽいことをやるのでしょうけど、それはライヴであってレコードは別という意識かもしれないし、それこそが自分の個性と認識しているのでしょう。


 このアルバムに戻って、カントリーはブルーズほどの熱さはないので、持ち味であるクールさがより素直に映し出されていると感じます。

 ブックレットの写真では、カントリー風に成りきっているジョン・メイヤーの姿を見ることができますが、でもその写真は、前作の短髪でクールというイメージとは少し違って、最初はなんだか意味もなくおかしかった。
 微妙にジョニー・デップを意識しているようにも感じるし・・・
 でも、もちろん、その気持ちは伝わってきます。



 1曲目Queen Of California、1曲目からもう雰囲気どっぷり。
 いきなり"Goodbye"と爽やかに歌うこの曲にはこんな歌詞が
 "Looking for the sun that Neil Young hung After the Gold Rush of 1971"
 もうなんだかうるうるしてきました(笑)。
 さらに同じ部分の2番の歌詞はこうです。
 "Joni wrote "Blue" in a house of the sea"
 このアルバムの音楽世界を宣言するにはもう最高のくだり。


 2曲目The Age Of Worry、ジョン・メイヤーは聴き始めてまだ浅いけど、この手の歌の旋律が彼らしいといえるものなのだろうな、となんとなくつかめてきました。

 ゆったりとしたワルツで基本的には音が上の方にありつつも、ゆらゆらと気持ちよく流れていく、そんな歌。

 またジョン・メイヤーの歌の基本には現代社会における不安があると前のアルバムで感じたのですが、この曲も爽やかなようでいて、どこか寂しいところにそれを感じます。
 全体的に包み込まれるような音であるのも、抑圧的というか、重たくはないけど何かが覆い被さっている、そんな気持ちになります。


 3曲目Shadow Days、サビで同じ抑揚で単語を次々と繰り出してゆくのが印象的で、熱く訴えるのではなく静かに感情を重ねるのがまたクール。
 それでも曲の最後のほうはじわじわと盛り上がります。
 ペダルスティールがとってもいい雰囲気。
 そうそう、今回気づいたけど、僕はジョン・メイヤーの声も実は結構、かなり好きかもしれない。
 前作の記事では、そこそこかな、と書いていたけど(笑)。


 4曲目Speak For Me、速いアルペジオのカン・・・と、もう言わなくてもお分かりかと(笑)。
 歌い出しが"Now the cover of Rolling Stone"、半自伝的な歌かな。
 ひとり寂しくいるけれど今の自分の気持ちに合う音楽はないから、誰かここに来て話しかけてほしい、と いう内容の曲だけど、でも朝にはぴったりの爽やかな響き、でもでも途中のハミングはちょっと寂しげ。
 "Some-one come speak (for) me"の部分で1音に対して1拍ずつ区切って歌うのが印象的で、曲作り、フック作りが上手い人だなと。
 そして僕はこんな感じでアコースティック・ギターを弾けるようになりたい。
 といまだに思っている自分を発見して少しほっとしました(笑)。
 言うだけではなくもっともっと練習しないと。


 5曲目Something Like Olivia、これはきっとスワンプ風なのだと思う。
 僕はそちらはまだよく聴いていないのだけど・・・
 つまり曲としてはソウルっぽいものも感じる。
 でももちろんジョン・メイヤーはクールに歌う。
 アメリカーナというべきかな、そんな1曲。
 この曲のみジム・ケルトナーがドラムスだけど、またいた、うれしい、まだ調べていないけどきっとうちにある中でいちばん多くのCDに参加しているミュージシャンに違いない人。


 6曲目Born And Raised、そしてついにこの曲ではニール・ヤングが乗り移ってしまった!
 もうそれに気づいた時に感動してうれしくなりました。
 曲自体もいかにもニール・ヤングだし、ハーモニカの音色もそう。
 もしこれをニール・ヤングが歌えば、知らない人であれば、100%ニール・ヤングの曲だと思うに違いない。
 おまけにこの曲は、手が込んでいるというか、コーラスにはなんとデヴィッド・クロスビーとグレアム・ナッシュが参加しているのです。
 その通り、コーラスはまごうことなきデヴィッド&グレアム。
 こんな曲が作れてしまうジョン・メイヤー、そして大胆にもこんな曲をやってしまうジョン・メイヤーにはもう脱帽するしかないですね。
 ほんとうに心の底からうれしくなる1曲に出会えました。


 7曲目If I Ever Get Around To Living、ファルセットにはならないけど高音でのびやかに揺らぐように歌うのはブルーグラス風の高音のギターと呼応しているようできれいな響き。
 そしてこの高音がますますクールに感じるところ。


 8曲目Love Is A Verb、「愛は棘」。
 これは音楽スタイルとしてはピュアなカントリーだけど、そこに行き切っていないところが僕の側の世界、かな(笑)。
 そうですね、カントリーに分類される人のCDを聴いていると、よその家にお邪魔したみたいな感覚がまだ僕の中にはあるんです。
 これはきっとカントリー系の人がカヴァーすると映えるでしょうね。


 9曲Walt Grace's Submarine Test, January 1967、トランペットから入ってちょっとジャズっぽいのかなと思わせておいてから、軽やかにギターとマーチングドラムが入る、やっぱり静かなカントリー風。
 この曲はいろいろ思うところがあって、まずはタイトル、ある男のちょっとした物語を回想したものだけど、"Submarine"という単語が入っている時点で、普通のロック聴きであれば、嫌が上にも思い出すことがありますよね(笑)。
 ウォルト・グレイスという人物は「イエロー・サブマリン号」の乗組員だったのかな、と、勝手な妄想が広がります。
 しかも1967年というのが、ビートルズがYellow Submarineを発表した翌年というのも、偶然とは思えない。
 そしてそして、歌詞にはこんなくだりも出てきます。
 "The operator connected the call from Tokyo"
 日本人である以上は、どうしたって反応してしまう。
 ジョン・メイヤーは昨年の東日本大震災のチャリティ・アルバムにも曲を提供していましたが、その後に初めて出たこの新作では分かりやすい部分に「東京」と入れたのは、今でも日本を気遣ってくれていることのメッセージとして受け取れます。

 その優しさに感動、ますますジョン・メイヤーが好きになりました。


 10曲目Whiskey, Whiskey, Whiskey、あらま、酔いつぶれちゃったんだね・・・(笑)。

 サビはこうだから。
 "Whiskey, whiskey, whiskey, water, water, wataer and sleep"
 もうイントロのハーモニカからして酔ってますから(笑)。
 やっぱりロックと酒は切っても切れないもののようで、その点でも彼がロックの継承者であることが分かってほっとします。
 ただ、僕自身の生活ではロックと酒は切り離されているのですが・・・ただ、そういう曲は好きですよ、嘘ではなくて。
 まあそれはともかく、この"Whiskey"は"e"が入っているので、アメリカかアイルランドのウィスキーであってスコッチではない。
 何を飲んだのかな、そんなにまで、フォア・ローゼズかな、JDかな、それともワイルド・ターキー・・・
 世の中のお酒が大好きな人の新たなアンセムとなり得るか。
 でも、こんな楽しい曲を聴かせてくれるのもうれしいですね。

 インパクトとしてはこの中でいちばん大きい曲かもしれない。


 11曲目A Face To Call Home、このゆらゆら感、広がり感がジョン・メイヤー。
 僕は建築家だけど、と歌い出すこの曲もやはり空虚な心を歌っていて、でも自己憐憫にはならずに淡々とその時の気持ちを歌ってゆく姿には、よくそこまで冷静でいられるなと思ってしまう。
 誰かに頼りたいのか、女性に寄り添っていて欲しいのか、そうしてはいけないと感じる部分があるのか、どっちかにして、と言いたくもなるけど(笑)、そこがリアリティを感じる部分でもあります。
 

 12曲目Born And Raised (Reprise)、リプライスまで入っているのがうれしいですね。
 しかもいかにも最後の曲という楽しげなブルーグラス風の響きの曲で、ああ、この人はロックを継承してくれるんだなあ、と。
 大げさかもだけど、ロックは死なないことを実感しました。

 ところでこのアルバムは、リリース情報に接した時点で、タイトルからカヴァーアルバムなのかと勘違いしちょっと心配になりました。
 近年はポール・マッカートニーまでもがそうしたように、大物アーティストのカヴァーアルバムが流行っているからだけど、でも冷静に考えると、ジョン・メイヤーはまだまだそこまで趣味に走るほどの年でもない、むしろ若者だからそんなことをするはずがない。
 すべて自作の新曲というのは、ソングライターとしての自信のほどもうかがえ、それがまたこのアルバムの魅力ともいえるでしょう。
 ただ、ジョン・メイヤーのカヴァーアルバムというのも、それはそれで聴いてみたくはありますね、どんな人かがより感じられるだろうし(笑)。


 国内盤はボーナストラック1曲収録、でも僕が買ったのは海外盤、国内盤を買い直すかな。

 

 いや、待てよ。


 ジョン・メイヤーは日本が好きなようですが、新譜が出たということは、来日公演も近いうちに行われると考えるのが自然ですよね。

  このアルバムを聴いて、ジョン・メイヤーは、まだ決まっていない中では、今いちばんコンサートに行きたいアーティストになりました。

 来日するのであれば、レニー・クラヴィッツもそうだったように来日記念盤が出ることも予想され、だからそれを買い直すかな。


 札幌には来ないだろうなあ・・・

 でもコンサートで東京に行くのはもはや僕の楽しみの一つだから、


もしかして、"Tokyo"とわざわざ歌詞に入れたのは、もうひとつ、もうすぐ行くからね、というメッセージかもしれない(笑)。

 ここはひとつ、来日を楽しみに待ちたいと思います。


 その前に、ほんとうに僕の心の中に入り込んでくる曲ばかりで、正直いえば、これだけいい曲を書ける人なんだと驚いた、もちろんうれしい驚き、そういう感想を抱きました。


 あらゆる意味でうれしくなる1枚ですね。


 そうそう、もうひとつ大事なこと、この手の音楽は北海道を車で走るとほんとうによく合いますね。
 そうか、だから僕はカントリー風味のロックが好きなのか(笑)。



自然と音楽の森-June01JohnMayer2