WILLIE AND THE POOR BOYS C.C.R. | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-May19CCRWillie


◎WILLIE AND THE POOR BOYS

▼ウィリー・アンド・ザ・プア・ボーイズ

☆Creedence Clearwater Rivival (C.C.R.)

★クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル (C.C.R.)

CD-0241 2012/5/19


 クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルの4枚目のアルバム。


 僕はC.C.R.が大好きで、ロックを聴く上では根幹の部分に位置するバンドのひとつです。


 C.C.R.は19歳の時、大学入学が決まった3月に初めてベスト盤を買いましたが、それは僕が買ったCDでも最初の10枚か15枚に入るくらい早くに買っていたものでした。

 ジョン・フォガティのソロは、以前記事にしましたが、高校時代にLPを買っていて、その人はどうやらすごいバンドのすごい人らしいと知って興味が高まっていたのでした。


 それが気に入り、オリジナルアルバムを聴いたてみようと考えていたところ、アルバムとしてはこれが最高傑作と言われているということを何かで読んでこれを買うことにしました。
 ただ、普通であれば、ベスト盤でいちばん気に入った「雨を見たかい」が入ったアルバムを買いそうなものですがそれを選ばなかったのは、どうやらその頃はもうC.C.R.は下り坂に差し掛かっていたという風の噂のようなものを聞いていて、最初にそれを聴くのはちょっと恐かったのでした。

 聴いてみると、これはほんとに素晴らしかった。

 ベスト盤に入っていたのは2曲しかないのですが、これはいい曲がたくさん入っているというよりは(もちろんいいんだけど)、アルバム全体の流れを楽しむものだと感じました。
 当時の僕はもうアルバム至上主義者に成りかかっていたので、「これこれこういうアルバムを求めていた!」と一発で気に入りました。

 このアルバムはアメリカ音楽の勉強になりました。
 当時は僕はもうアメリカンロック人間と化していたのですが、その中でも特にC.C.R.やジョン・フォガティはアメリカ音楽の要素を色濃く感じる存在として注目し始めました。
 当時は僕もまだ向学心があって(笑)、このアルバムはそんな彼らの背景を知りたくてライナーノーツがある国内盤を買いました。
 輸入盤も当時は高かったですが、でも国内盤ほどではなく、ほんとに当時は力が入っていたんだなと今にして思います。
 アメリカ音楽の勉強というか、なんとなく感じていた雰囲気を言葉として著されたものに触れて頭の中に固着した、という感じでしょうか。

 彼らは「南部で生まれた」と歌っているのに南部出身ではないことは、当時の僕はもう知っていましたが、僕自身もちろん、それ以前にアメリカ人ではないので、南部出身ではない者が南部の音楽を再現するという距離感が自分に近くて共感を持てました。

 このアルバムは、C.C.R.が「ウィリー・アンド・ザ・プア・ボーイズ」というバンドに扮して南部音楽を探求するのがテーマで、他のバンドに扮するのはビートルズのSGT. PEPPER'Sの影響かもしれません。
 彼らが求めたのは、貧しくてもつらくても楽しもうじゃないかという、ブルーズの魂を今(当時)のロックで再現してみることで、その心意気がほぼ達成されたと僕は考えています。

 実際にトラディショナルソングのカバーも入っていますが、あくまでも庶民の目線で書かれた曲ばかりが並んでいます。
 まあそれはこれに限ったことではないのですが、彼らの音楽の背景にはベトナム戦争が色濃く影を落としていて、実際に出兵したジョン・フォガティの庶民目線はそこが大元になっているのでしょう。
 

 ジャケットは南部の街角で楽しげに演奏するバンドの4人が写し出されていて、雰囲気は伝わってきますね。
 ただし、4人の服装、色使いは地味だけどどこかパリッとしている、どこか浮いた感じがあって、これはやはり南部出身ではない彼らの距離感を微妙に表しているようにも思います。
 ロックという音楽は、本物になろうとするところが魅力だけど、決して本物になってはいけない、ということも僕は学びました。
 だからここでは変名バンドを名乗る必要があったのでしょう。

 後にローリング・ストーンズのビル・ワイマンとチャーリー・ワッツがまさに「ウィリー・&・ザ・プア・ボーイズ」というプロジェクトバンドを立ち上げて古い音楽を焼き直したのは、C.C.R.がここで再現した魂が受け継がれていることを物語っていますね。
 僕はそれが出た時はうれしくてすぐにCDを買いました。
 久しぶりに引っ張り出して聴いてみようかな。

 1曲目Down On The Corner、童謡のようなフォークソング的な楽しいギターのイントロは、ベスト盤で聴いた瞬間からギターで弾いていました。
 これはとにかく楽しいですね。
 歌詞の内容はジャケットをそのまま説明しているようであり、このアルバムは表題曲がないですが、この曲の歌詞の中に"Willie & the poor boys"と出てくる、表題曲代わりの曲です。
 また"kalamazoo"歌うのが最初から印象に残っていたんだけど、「カラマズー」が何かずっと分からなくて、それがつい数年前、Kalamazooは地名でありそこにGibsonの工場があると知って、そういうことかとつながったのでした。
 でも、調べるとKalamazooはミシガン州つまり北部の州で、じゃあこれは南部じゃないのではないかとまた別の疑念が。
 でも、歌詞をよく読むと楽器のことを表しているようで、それであるならやっぱりそうかと再び納得しました。
 ともあれ、僕の中でこの曲はそれから、Gibsonのギターのテーマ曲的な存在になりました。

 シンプルだけど奥深いC.C.R.の音楽の代表的1曲

 

 2曲目It Came Out Of The Sky、ジョン・フォガティが空のことを歌うとどうしても空爆を思い出す。
 典型的なC.C.R.スタイルの爽快なロックンロールだけど、歌っていることはかなり辛辣で時代を感じます。


 3曲目Cotton Fields、この曲を初めてCDで聴いた時に叫びました、これ知ってる!
 僕の洋楽原初体験の一つが「ひらけ! ポンキッキ」でした。
 ポンキッキではコーナーとコーナーの間に、ラジオでいうとジングルのような短い映像のお遊びコーナーがあったのですが、そこでかかっていたのが今思うとすべて洋楽の古い曲で、実はビートルズの数曲もそこで耳にしていたものを、自らの意志でビートルズを聴くようになって曲名とアーティスト名がつながったのでした。
 懐かしなあ、そしていかにも1970年代洋楽の時代だなあ。
 曲は1940年代の古いブルーズの焼き直しで、僕はオリジナルは聴いたことがないのですが、ここでの音がぱらぱらした感じのギターのイントロはいかにも綿花の花を想起させて面白い。
 歌い出しが1拍多いのが歌っていていつもあれっと思う(笑)。
 辛辣さを表に出さない心意気の陽気なこの曲は、ブルーズの魂をロックで甦らせるのにこれ以上ない選曲。


 4曲目Poorboy Shuffle、インストゥルメンタル。
 ベースはたらいに棒を立てて糸を張ったもの、打楽器は洗濯板と、身の周りにあるものを何でも楽器にして楽しもうという心意気を再現。
 アクセントとして効いている曲ですね。

 5曲目Feelin' Blue、前の曲が終わりきらないうちにフェイドインしてくる流れがいい。
 ブルーな気分と歌っていてブルージーな雰囲気だけど、ブルーズではないロック、そこが当時は新しかったのかも。
 これはいいですよ、隠れた名曲、よく口ずさみます。


 6曲目Fortunate Son、C.C.R.のロックンロールサイドの代表曲の一つ。
 これは明確にベトナム戦争の体験を心情として綴ったもの。

 「俺は大金持ちの息子じゃねえ、軍幹部の息子じゃねえ、上院議員の息子じゃねえ、運がいい奴じゃねえ」と戦争に行かねばならない身の人間が、戦争に行かなくても済む若者を皮肉たっぷりに歌う姿には異様な爽快感があります。
 そして注目すべきはこの曲のサウンド。
 重たいリズムに金属的な響きのこの曲の音は、ヘリコプターの音をイメージしているのではないかな。
 映画「フォレスト・ガンプ:一期一会」ではまさにベトナム戦争のヘリコプターのシーンで使われていて効果満点。
 爾来、この曲はヘリコプターのイメージの曲になったようで、何かのバラエティ番組でヘリコプターが出てくる場面でも使われていました。
 歌詞の中では"fortunate one"と歌っているけど、最後の最後、フェイドアウトで消える直前だけ曲名の通り"fortunate son"と一度だけ歌うのが面白い。
 とにかくカッコいい、壮絶なまでにカッコいい。
 そしてこの曲で僕はロックの歌詞の面白さに完全に目覚めました。
 U2がシングルB面曲としてカバーしていたのもよかった。


 ところで余談。
 この曲はTr1のB面として最高14位と中ヒットしたのですが、これがシングルとして出ている間にビルボードのチャートの編集方法が変わり、A面B面の区別なく1枚のシングルとして
扱うようになったということです。
 ビートルズのSomethingとCome Togetherもまさにそのタイミングで1位になっていたので両方が1位として記録されたのですが、ということはそうか、このアルバムはABBEY ROADと同じ頃に出ていたんだ、と、僕の頭の中でまたひとつつながりました。

 7曲目Don't Look Now、これはロカビリー、リッキー・ネルソン辺りを思い出します。
 この手の曲は何かほっとするものがあります。
 

 8曲目The Midnight Special、僕が思うにトラッドソングのカバーとしてはロック界でも随一、最高の1曲。
 ギターの演奏だけでバラード風にヴァースが始まり、バンドの演奏になるとまずは裏打ちの波打つリズム、続いてロックンロールという3段変則リズムのアレンジもいいし、ブルージーなジョンのヴォーカルも最高にいい。
 もうこれは完全にロックとして甦っているし、C.C.R.の代表曲のひとつにも挙げられるのではないかな。
 コード進行が簡単なだけにすぐにギターを弾いて歌っていました。
 この曲は映画「トワイライト・ゾーン」において、ダン・エイクロイドが出ているの地の部分で効果的に使われていました。
 映画は4人の監督が1つずつ短編を制作してひとつのストーリーとしてつなげたもので、地の部分というのは、最初の切り出しと、最後のしめの部分のことです。
 救急車に運び込まれたダン・エイクロイドは、ラジオでかかっていたこの曲を耳にして"I love Creedence"と言ったのですが、 字幕ではそれが「この曲は最高だね」となっていて、僕は、当時はC.C.R.はで日本では当時は人気がないというか知名度が低いことを知りました。

 9曲目Side O' The Road、LPでいうB面にもインストゥルメンタルの曲がありますが、当時の僕は今よりもっと歌人間だったのに、今ふと思った、どうしてこのアルバムをそこまで気に入ったのだろう。
 C.C.R.はすごいというマジックにかかっていたのかな、と。
 ハードでシャープな演奏のこの曲を聴くと、ジョン・フォガティが卓越したギタリストであり、ギターサウンドもC.C.R.の魅力のひとつであること、そしてサウンドクリエイターとしても秀でていることが分かります。
 先ほどどうして僕は気に入ったんだろうって書いたけど、これはほんとに素晴らしくて、若い頃だから逆に邪念があまりなくて素直に気に入ったのかもしれない(笑)。

 10曲目Effigy、最後はマイナー調のブルージーな重たい曲。
 最初に聴いて、ビートルズのSexy Sadieに似ているなと。
 ここまでつらいことも明るく歌ってきたのに、最後の最後でこれだけ重たく歌うのは、やはり現実から目をそむけるなというメッセージなのかもしれません。
 "effigy"とは「肖像、(憎むべき)ひとがた」とありますが、いったい誰を憎むのだろう。
 怨念、という言葉がまさにぴったりの曲で、C.C.R.というバンド、ジョン・フォガティのすごみを感じる曲ですね。
 僕はアルバムの最後は明るい曲で終わってほしいのですが、後を引く曲もまたありなのかな、とも思いました。


 ところで、このアルバムをこの機会に聴いたのは、現行のリマスター盤には3曲のボーナストラックが収録されているのですが、そのうち1曲、Down On The Cornerのデモテイクが、ブッカー・T・&・ジ・MGズとのジャムセッションだからで、先日、ドナルド・ダック・ダンが亡くなったつながりでした。

 この両者に接点があったというのがちょっとした驚きであり、僕にはミスマッチ感覚がありました。

 でも、ロッド・スチュワートも大西洋を渡って最初にブッカー・T・&・ジ・MGズと共演したように、白人ロッカーにとって当時の彼らは憧れの的だったのでしょうね。

 そして逆に、彼らに認められたC.C.R.もやはり一目置かれていたのではないかと。


 C.C.R.は曲がおしなべてシンプルなのですが、聴いていても飽きない、シンプルだからこそ奥深い、といった趣の音を出すバンドだと思います。

 僕はC.C.R.を聴くと、まさに基本に返ったという思いをいつも抱きます。


 もちろん、また別のアルバムをいつか記事にします。