MCLEMORE AVENUE ブッカー・T&ジ・MGズ | 自然と音楽の森

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☆Booker T. & The MG's

★ブッカー・T&ジ・MGズ
released in

CD-0240 2012/5/16


 ブッカー・T&ザ・MGズのベーシストとして活躍したドナルド・ダック・ダンが亡くなりました。

 日本での公演を終え、東京のホテルで亡くなっていたということです。

 ご冥福をお祈りします。


 このCDは少し前に買って聴いていてそのうち記事にしようと思っていたのですが、そのうちがこのようなことになってしまったのは残念でなりません。


 ブッカー・T&ジ・MGズのメンバーということは、スタックスのソウルの名曲の多くで演奏しているわけで、洋楽を普通に聴く人ならおそらくほぼすべての人が、それとは意識しなくても一度は彼の演奏を聴いたことがあるに違いありません。


 僕がドナルド・ダック・ダンというベーシストを知ったのは映画「ブルース・ブラザース」です。

 今思うと、高校時代にテレビで見たこの映画は、僕にとってのソウルの原点のひとつであり、そこで見て得られたものがその後もずっと続いている、そんな感じがします。

 ダンはブルース・ブラザース・バンドのベーシストとして出演し演奏しており、バンドのギターは朋友のスティーヴ・クロッパーで、最初に見た時はそのことは情報以上のものでしかなかったのですが、後になって、この2人はあのスタックスの名曲の数々を作ったすごい人だったんだと分かりました。

 2人は続編の「ブルース・ブラザース2000」にも出ています。

 それからは、エリック・クラプトンのアルバムに参加したり、もちろん僕がスタックスのソウルを聴き始めたりと、いろいろなところで接するようになりました。


 つい最近リヴォン・ヘルムも亡くなりましたが、やはり昔から知っているアーティストが亡くなるのはなにがしかの寂しさを覚えますね。



 哀悼の意を表する記事がビートルズになってしまったのは、もっと他にないのかと言われるかもですが、僕らしいともいえるかもしれないので敢えてこのまま続けます。


 ブッカー・T&ジ・MGズ及びブッカー・Tの音楽は昨年の後半から凝りだしたのですが、ジャズでもフュージョンでもないR&Bを基調としたインストゥルメンタルというのは僕はそれまでほとんど聴いたことがなく、あったのも彼らの代表的なアルバムくらいで、僕にとってはその音の響きが新鮮でした。

 

 彼らがビートルズをカバーしたこのアルバムが出ていたのは知らなくて、ブッカーTの他のアルバムを買った後にAmazonにおすすめされて存在を知り、すぐに買いました。

 Amazonのおすすめは実は僕にとっては大きな情報源なのです(笑)。

 普通にAmazonの新品で買うより、海外出品者から新品を買う方が送料込みでも安かったのでそこで注文し、届くまで1週間ほどが待ち遠しかった。


 アルバムはその通り、ビートルズのABBEY ROADの曲を彼らなりに解釈し演奏しているものですが、曲順は変えており、演奏されていない曲もあります。

 ジョージ・ベンソンも同様のアルバムを出していて僕も持っていますが、それはまたの機会に。


 このアルバムを聴いて思ったのは、ビートルズの音楽はミュージシャンにとってはチャレンジングなものなのではないかということです。


 ビートルズの音楽は神経を細やかに突き詰めて作り込んだという響きではなく、どこかに余裕が感じられます。

 100%の力を出してやっていないように感じるというか。

 もちろん4人は真剣に作っていたに違いないのですが、でも、あのサージェント・ペパーズだって、ものすごい時間を手間をかけて作り込まれた割には、聴き終ると何かこう余裕のようなものを感じ、遊び心というべきかな、決して神経質ではありません。


 そこが、ミュージシャンにとっては、つけいる隙というと変かもしれないけど、俺たちならここはこうしたいと思いやすいのではないか、ゆえにカヴァーをする人が多いのではないかと僕は考えます。

 

 またビートルズは、単に技術面だけの話をすれば、ミュージシャンとして最上の部類に入るような人たちであるという話は聞いたことがないので、技術面でも同様のことが言えるのではないかと。


 もちろんそれは、曲がとにかく素晴らしいという基本中の基本があってのことですが。



 ブッカー・T&ジ・MGズのここでの演奏は、そんなビートルズの余裕と遊び心をタイトな演奏と極上のグルーヴで徹底的に遊んでしまおうという心意気を感じます。


 トラックは以下の通り


 Tr1:Medley : Golden Slumbers - Carry That Weight - The End - Here Comes The Sun - Come Together

 Tr2:Something

 Tr3:Medley : Because - You Never Give Me Your Money

 Tr4:Sun King - Mean Mr. Mustard - Polythene Pam - She Came In Through The Bathroom Window - I Want You (She's So Heavy)


 メドレーが3つとなぜかSomethingだけ独立した4つのトラックから成るこのアルバム、特にI Want YouをB面メドレーにくっつけたのが編曲の面で上手いと思った部分です。


 ブッカー・Tのオルガンはヴォーカルの役割を果たすわけですが、オリジナルの歌詞の言葉を大切にしているような響きを感じたのがうれしいですね。 

 まさに語りかけるオルガン、そこが彼のすごいところで、言葉が好きで歌が好きなはずの僕がこれだけ好きになれるのは、その部分ではないかと思います。

 ただしひとつ興味深いのは、The Endの最後の部分で、ブッカー・Tが歌っているのかな、歌が入ることと、Come Togetherの"Shoot"も言葉が入っていることで、それは楽器で代わりをするに忍びないと感じたのでしょうかね、でもそれは必然と感じます。

 スティーヴ・クロッパーのギターは裏で潜っているのかと思えば突然前に出てきて主張したり、ギターワークの面白さを感じます。


 アル・ジャクスン・Jr、僕はドラムスは演奏できないのでなんとも言い難いのですが、やはりリンゴ・スターよりは粘りがあるのだと思います、そう感じます。

  

 そしてドナルド・ダック・ダン、ベースはきっと、ポール・マッカートニーなる人物はなかなかやるなと思いながら弾いていたのではないかな。

 トリッキーなプレイはあえてやめておいて、それ以外は割とオリジナル通りに弾いています。


 4人が演奏する姿を想像すると、ほんとうに楽しそう、音楽を愛し音楽で遊んでいることが伝わってきて、思わずにやりとしてしまいます。

 アルバム全体は、しっかり聴き込むと強いけど、流しているとゆったりと感じるような響きで、真剣に演奏しているけど遊びがあることを感じますね。

 

 ところで、僕としてはやはり、演奏されていない曲があり、なぜそれが演奏されなかったのかが気になるので、曲目を書き出して、僕なりに理由を考えてみました。


 ×Maxwell's Silver Hammer=まあ選ばなかったのは分かります(笑)、ピアノがメインなのでやりにくかったのかな。

 ×Oh! Darling=これは俺たちの本業でやらなくてもいいや、と思ったのか・・・でも逆にこれは聴いてみたかった。

 ×Octopus's Garden=リンゴの曲だから、と書いてそれが説得力があるのかどうか、この曲が大好きな僕にはいまいちよく分からないけど・・・

 ×Her Majesty=まあそもそもがおまけのような曲ですからね。


 と書いて結局、何も見えないですかね(笑)。


 

 なお、このCDには6曲のボーナストラックが入っています。

 Tr5:You Can't Do That、この曲はひそかに大好きなので演奏してくれてうれしい。

 この中ではいちばん古い曲ですが、さらにもっと古くした感じがします。

 Tr6:Day Tripper、こちらはゆったりとした中、オルガンの音にはオリジナルにはない陽気さを感じます。

 Tr7:Michelle、このまま誰かに歌わせたいくらいアレンジがいいですね。

 Tr8:Eleanor Rigby、オリジナルにはないイントロから始まって緊迫感がありますね、これもいい。

 Tr9:Lady Madonna、ミドルテンポのファンクで急いた感じが希薄になっていて、のどかな感じ。

 Tr10:You Can't Do That (Alternate Take)、おまけにこの曲がもう一度入っているのはうれしい(笑)、こっちは少し落ち着いた演奏。



 それにしても、McLemoreなんて、よくぞぴったりの名前の通りを見つけたものだなと。

 裏ジャケットに通りの標柱が写った写真があるので実在の場所だと思うのですが、なんせ、マックレンをモア、ですからね(笑)。

 

 さらっと聴くにはいいし、真面目に聴く音楽の間の休みに聴くのもいいです。

 まあ、そんな時は普通は音楽を聴かないものでしょうけどね(笑)。 


 あらためて、またひとり、よく知ったミュージシャンが鬼籍入りしました。

 ご冥福をお祈りします。