BATTLE STUDIES ジョン・メイヤー | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-April22JohnMayerBS


◎BATTLE STUDIES

▼バトル・スタディーズ

☆John Mayer

★ジョン・メイヤー

released in 2009

CD-0232 2012/4/22



 ジョン・メイヤーのソロ名義では4枚目のアルバム。



 ジョン・メイヤーの新譜が5月に出るというので、期待を込めて今回は現時点での最新作を。


 僕は、1999年頃までは、割と積極的にMTVを観ていて、「新しい人」のCDを買って聴いていました。
 しかし2000年頃についにMTVを観るのをやめると、札幌に帰ってからはFMはまったく聴かなくなっていたし、情報以上の音楽に接する機会がなくなっていたので、必然的に「新しい人」を聴かなくなりました。

 ジョン・メイヤーは、今世紀に入ってから出てきた「新しい人」のようなので、音楽に接する機会もなく、こんな人がいるんだ、というくらいの認識でした。

 

 でも、僕が接していた数少ない情報の中には、「ああ、売れてる人なんだな」以上に僕にとっては大きな意味があることがあったのです。

 Fender U.S.A.から、ジョン・メイヤーのシグネイチャーモデルのストラトキャスターが出ているのです。

 或る日、Fender U.S.A.のサイトで、他のものを探していたところ、なんて包み隠さずいえば、アイアン・メイデンのメンバーのシグネイチャーモデルが出ていないかと探していたところ、ジョン・メイヤーのそれを発見して驚きました。

 彼はギターが上手い、それは情報として知っていましたが、シグネイチャー・モデルが出ているということは、人気がある上に実力も認められたギタリストであることの証明であり、それが出ているジョン・メイヤーといはすごい人なんだなぁ、と。
 

 そうしているうちにたまたまこの新譜が出ることを知り、買って聴くことにしました。


 聴いてみると、正直、予想していたよりはるかに良かったのです。


 全体の印象としては、よい意味で「クールな人だな」と感じました。

 決して熱くならないというか、歌の中で感情がこもって力が入ることがあっても、熱くはならず、さらっとやり過ごす感じがします。
 彼は歌の中で高音になると声がファルセットになることがありますが、それにより、声や音楽に「熱さ」をこもらせずに、「熱さ」を逃がしている、そんな感じで響いてくる。
 

 歌、曲、ギターの音は、とにかく心地よさを追い求めていて、その辺も熱くなりすぎていないと感じる部分です。
 そうですね、「涼しい心地よさ」ですね。
 これは新しい感性なのかな。

 もうこの年代になると、どんな音楽の影響を受けている、ということを具に見るのは意味がないとも思いますが、いろんな音楽のいい部分を消化吸収していき、「涼しいけれど心地よい音」を持ち味としているのでしょう。
 とにかく、すぅっと気持ちが自然と高ぶり、またすうっとすぐに落ち着く、そんな音です。

 そしてもちろん、歌心はとてもある人であり、僕はそこが気に入りました。
 

 この人の声は、もう少し太くすれば荒れた声、もう少し細くすればハスキーというぎりぎりのところで踏みとどまっている感じの、決して美声じゃないけど、かなり独特な声で、やっぱり声もまた重要な部分であることも分かります。



 しかし一方で、BATTLE STUDIES「戦いの科目」というタイトルが引っかかりました。

 ジョン・メイヤーは、優男というほどでもないけど、僕が抱いたイメージからして、「戦い」という言葉が似合わないように感じていたからです。
 でも実際このアルバムには、少なくとも3曲の曲名に、直接的に「戦い」に関係する単語が入っていて、他も「戦い」に関すると解釈できるものがあります。

 だけど歌詞を読んでも、例えばアイアン・メイデンのように直接的に戦場のことを歌っているわけではないし、声高に反戦を歌っているわけでもないようなので、やはりこれは「男女の仲」であったり、現代社会において人間はいろいろと「戦っている」ことを象徴的に表したものであると僕は読みました。

 その上でのこのタイトル、そうした「戦い」に備えた気持ちのありようを科目として上げた、ということでしょうか。
 ジャケット写真、コートの襟に手を当てるジョンは、戦いに備えている心持をよく表わしていると思います。

 アルバムはジョン・メイヤー自身とドラムスのスティーヴ・ジョーダンのプロデュース。
 1曲のカバーを除いてすべて作曲はジョン自身。
 ベースは、今のザ・フーにいるピノ・パラディーノそしてキーボード数曲にはあのフェイシズの名オルガニスト、イアン・マクレガンが参加しています。
 若いのに、こうした名のあるベテランをバックに起用しているというのは、やはりギタリストとして認めてられるのだろうし、それ以上に、彼が古きよきロックの伝統を受け継いだ「正統派」であることも表わしていると思います。

 他のゲスト参加ミュージシャンについては、曲を追う中で触れてゆきます。
 



 1曲目Heartbreak Warfare、イントロのフェイドインしてくる楽器の音が、ベートーヴェンの第九の最初に似ていて、そこからもう「なんだろうなんだこれは」と引き込まれました。
 軽やかに鳴り続けるエレクトリック・ギターが心地よいミドルテンポの、曲名とは裏腹に、爽やかな曲でスタート。


 2曲目All We Ever Do Is Say Goodbye、2曲目にしっとりとしたバラードを持ってきて「落とす」のはちょっと反則気味だけど、でも、いい流れを作っている、ぐぃっと気持ちが入っていきます。
 言ってしまえば、雰囲気がちょっとジョン・レノン風の曲(また言ってるか・・・)

 そう感じた時点でこのアルバムは素晴らしいと思いました(まったくもって単純な・・・)

 ギターには、元プリテンダーズそして元ポール・マッカートニーのバンドで僕もステージで観たロビー・マッキントッシュが参加しているのはとってもうれしい!
 新しく出てきた曲で、こんなにも美しい曲に出会ったのは久しぶりだったし、2年以上が経ってもやっぱりこの曲は素晴らしいと心底思う。

 何年か後には、新たな「さようなら」の歌の定番になりそうな予感の「名曲候補」の曲。


 3曲目Half Of My Heart (with Taylor Swift)、ミドルテンポの素軽くてポップでいかにみおヒットしそうな曲。

 それもそのはずというか、カントリー界の新歌姫テイラー・スウィフトが参加でわざわざ名前が表に出ています。

 彼女はこのアルバムを聴いた当時はまだ名前しか知らない人でしたが、この後にアルバムを買って聴いた、だから僕にはこの曲が初めてのテイラー・スウィフトでした。

 朝の散歩に似合いそうな曲ですよ。



 4曲目Who Says、カントリータッチの軽やかで落ち着いた曲、アコースティック・ギターの響きがまたいい雰囲気。 

 そのアコースティックギターのゲストは名手ワディ・ワクテル。

 ギタリストがギタリストをゲストとして招く、このことからも先達への敬意が感じられます。
 ところでこれ、「日本にひとりで旅行しようかと考えた」という歌詞があるのが新譜として聴いた頃から気になっていたんだけど、ジョン・メイヤーは、昨年の東日本大震災のチャリティCDにも曲を提供していて、日本が好きであるのは間違いないようですね。



 5曲目Perfectly Lonely、打って変って少し硬質なエレクトリック・ギターのイントロがその場の空気をゆっくりとかき回すように切り込んでくる、ミドルテンポの明るい曲。
 だけどタイトルはやっぱり寂しい、はず。
 そこをさらりと表すのが新しい感覚、都会的なのかな。
 かといって強がりにも聞こえない、自然体で響いてきます。
 ギターソロも待ってましたという感じ、ストラトでしょうけど、でも独特な響きで鳴ってきます。

 6曲目Assasin、この曲名Assasin=暗殺者は特に最初は違和感がありました。
 重たくて暗い曲で、サビが印象的で、"Assasin"と歌う部分はナイフのように胸に突き刺さってきます。
 でも、やっぱり、熱くはないんです、さらっとしている感じ。
 しかし、暗殺したいような気持というのは・・・後からじわっとしみてくる曲。

 7曲目Crossroads、これあのクロスローズですよ、クリームで有名なロバート・ジョンソンのあれですよ。

 ええっ、と最初は思った、彼の「熱くないところ」がよく出ているのがこれ。
 ぜんまい仕掛けのおもちゃみたいな軽いギターリフとリズム隊で、さらっと歌っているこれは、クリームと比べて聴くと、タイとスウェーデンくらいに温度感覚が違います。
 でも僕は意外とこれが気に入りました。


 8曲目War Of My Life、これはいかにも80年代風という感じで、僕が育った年代だし、安心して聴けるポップソングです。
 だけど歌詞をじっくりと読むと、何か尋常ではない恐怖心が描かれていて、音の心地よさとこの歌詞の心持ちのアンバランスさが不思議ではあります。
 しかしこれ、曲としてはむしろ元気づけられる系で、敢えて軽く表わすことで前向きさを訴えているのかも。

 9曲目Edge Of Desire、泡が沸き立つみたいなギターのイントロが印象的なワルツの、全体的にふわふわした響きの曲。

 10曲目Do You Know Me、アコースティックギターの高音のアルペジオが印象的な、アルバムでいちばん静かな、落ち着いた曲。
 微妙にアフリカのリズムを思い起こさせるのは、やはり音楽がいろいろと混ざり合った上で表現されている、そんなことも感じました。
 アルバムの最後に向けては静かな曲が続きます。

 11曲目Friends, Lovers Or Nothing、最後の曲はピアノの短いイントロを受けた後、気持ちがゼロから一気に舞い上がったようなとろけるようなギターの音が心地よい、もう絶品。

 この感じはどこかで聴いたことがある、そうだ、Wonderful Tonightのイントロのギターの雰囲気だ。

 歌もアルバムでいちばん気持ちがこもっています。
 テンポは遅いけれど決して静かではなくむしろ盛り上がる曲で、これもまた将来の名曲候補だけど、そういう曲が少なくとも2曲あるのが、このアルバムの充実を物語ってもいます。
 ゆったりと構えた曲でアルバムは幕をおろし、「涼しくて気持ちいい」時間が終わります。


 これを聴いて、ジョン・メイヤーという人は、人と人とのつながりを大切にする人なんだなと思いました。
 4曲目で書いたように、後に彼は東日本大震災のチャリティアルバムに曲を提供していて、やっぱりと思ったものでした。

 

 彼を聴いていると、「クール」であるのと「人間として冷たい」ことはまったく別物だというのが分かります。

 それも現代っ子だからかな。

 といって彼は僕より10歳しか年下じゃないんだけど、でも10歳も違うと、かなり違うかな(笑)。



 来日公演してくれないかな、ぜひ行きたい。


 その前に来月の新譜が今からとっても楽しみ。




 最後に余談。

 僕はこれを買ってから、ジョン・メイヤーは「現代3大ギタリストのひとり」であることを知りました。

 他の2人はデレク・トラックスとジョン・フルシアンテだということですが、それを知って僕は、そうかやはり今でもそのようにして「付加価値を付けて」盛り上げるということが行われているんだな、この業界は意外と体質が古いままなんだな、と思いました(笑)。

 ちなみに、デレク・トラックスはその後にCDを1枚買い、ジョン・フルシアンテはレッチリのを既に持っていました。