GASOLINE ALLEY ロッド・スチュワート | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-March29RodStewartGasoline


◎GASOLINE ALLEY

▼ガソリン・アレイ

☆Rod Stewart

★ロッド・スチュワート

released in 1970

CD-0224 2012/3/29

Rod Stewart-03


 ロッド・スチュワートのソロとしての2枚目のアルバム。

 

 最近、ガソリンが高くなっていますよね。

 だからこのアルバムをふと思い出して久しぶりに聴きました。

 あ、この話はそれだけでそこから展開はしません(笑)。

 ロックでガソリンといえばもうこれですからね。

 他に数曲あって、歌詞に出てくるものもあるけど、やっぱり。


 ロッド・スチュワートはジェフ・ベック・グループを脱退した後フェイシズと行動をともにするようになり、一時期はソロ名義とバンド名義を交互に出すほどの超売れっ子となりました。

 これは、僕のリアルタイムでは、フィル・コリンズがソロとして人気が出てジェネシスと交互にアルバムを出していたことと重なりますが、それがあったがためにロッドが1970年代前半はいかに人気があったかを想像するのは僕には容易なことでした。

 

 ソロとバンドの音の違いはあるようでなくて、フェイシズは酔いどれロックンロール、でもそういう曲がソロにはないかというとそうでもない。

 バンドとソロを並行してやらざるを得なかったのは契約上の問題なのですが、賢くて野心的なロッドはその契約を逆手にとり、自分が歌いたいように歌ったアルバムを、普通のアーティストの倍のペースで作り続けていた、というのが実情かもしれません。

 まあそのおかげで、僕のようにロッドが大好きな人間は聴くべきアルバムが多いというのはうれしいことではありますが。


 ソロ1枚目は割と落ち着いたトラッドっぽさを出したアルバムでしたが、2枚目のこのアルバム、実はもうここでロッドの世界がすべて出来上がってしまったといっても過言ではない、それくらいの充実した深いアルバムになっています。 

 言ってしまえば、この後のロッドのアルバムはすべてこのアルバムをひな型として、何かの要素を足すか引くかしただけ、ということになるでしょう。


 ロッド・スチュワートは、キャリアが長くていい歌がとても多い割には、アルバムの出来についての評価が高くない人でした。

 特に大西洋を渡ってからは、いい歌は確かにあるけどそれ以外はただ溝を埋めるのに歌っただけ、みたいな感じに評論家筋には捉えられていたようです。


 そこで思い出すのがソウル。

 ロッドのアルバムは1960年代のソウルの雰囲気に近くて、いい歌があって、カバー曲があって、それらを聴き手が気持ちいいと思えるように歌えばそれでアルバムが出来上がり、という感覚でしょう。

 ソウルも、アーティスト達がアルバムとしての出来を本格的に追求するようになったのは1969年頃から、いってみればビートルズのサージェント以降のことでしたが、その頃はロッドは既にプロとしてキャリアを始めていました。

 ロッドはいわば、ロックの波には乗り損ねたわけです。

 もちろん、ATLANTIC CROSSINGのようにコンセプトのようなものを持って作ったアルバムもあるし、時々何かのコンセプトを持ってアルバムを作ってはいるのですが、それも長続きしない。


 ロッド・スチュワートは、それでいいんです。

 僕は、今まで何度か書いてきましたが、昔はアルバム至上主義のきらいが強かったので、20代の頃はロッドをアルバムとして聴こうとは思いませんでした。

 しかしソウルも聴くようになって、その緩さが、許せるを通り越して愛おしいものと感じられるようにもなりました。

 みんながみんな同じことをする必要はないわけですからね。

 今はロッドのアルバムもみんな、かけていると楽しくて気持ちいいですよ。


 しかし、その上でこのアルバムを聴くと、やっぱり出来が格段に違いますね。

 なんせひな型ですからね。


 事実このアルバムには名曲名演が多いのですが、でも、やっぱり根詰めてアルバムを作り上げたという意識はあまり感じられず、その時のロッドの琴線に触れる曲を歌っているだけ。

 ただ、アーティストとしての上昇気流がこの頃は最大級であったので、選曲もいいし何よりオリジナルのいい曲も出来てしまった、それがこのアルバムです。

 曲がよくて、勢いがあれば、いいアルバムにはコンセプトなんていらない、このアルバムはそんな素晴らしいアルバムです。



 1曲目Gasoline Alley、ロッドのみならずロック史に燦然と輝く名曲ですね。

 トラッド風の曲想にもたったようなつっかかるようなロニー・ウッドのギターが何とも味わい深い風情を感じさせます。

 イントロやAメロにはどことなく東洋風、中国風の響きを感じるのですが、面白いのは、ローリング・ストーンズも同じ頃にやはり東洋風の響きを持ったトラッドソングFactory Girlを作っていることで、やはり英国では当時は東洋風がひとつの流れというか意識だったのかもしれない。

 この曲でひとつ気になるのは、2回目のBメロの部分で一瞬だけ歌と演奏が合っていないように感じるところです。

 演奏はAメロのままの流れのようでいながらロッドはBメロを歌い始めて、演奏は急にロッドの歌にアジャストしたような感じにとれないこともない。

 意図したものなのかな、それともたまたまそうなってしまったのが面白くて残したのか。

 いや、まさか、プロだからやっぱり意図したものでしょうね。

 曲が終わってギターの音だけが残るのがまるで鐘の音のように聞こえる、この抒情性がまたいい。

 何かこう、希望が先に続いているような気持になるのは、やはりロッド自身が歌手としての道が開けてきたと感じていたからなのでしょうね。

 ほんとうにいつ聴いても素晴らしい真の名曲。


 2曲目It's All Over Now、ボビー・ウーマックのカバー。

 ロッドは根詰めてアルバムを作らないと書いたけど、もし僕が同じ素材でこのアルバムを組み立てるとすれば、元気がよくてカッコよくてノリがいいロックンロールのこれを1曲目に持ってくると思います、それがセオリーだと思う。

 しかし勢いがある男ロッドはそんなこと関係なし、いちばん魅力的な曲を素直にアルバムの最初に持ってきたというわけ。

 僕がこのアルバムを聴く際には、アルバムをコンサートに見立てるとすれば、1曲目は前奏で2曲目から本番のスイッチが入るみたいな感じになります。

 でも、セオリー無視で最初から引きつけてしまうからこそこのアルバムは素晴らしいのでしょうね。

 なんてこの曲について話していなかったけど、カバーというのが信じられないくらい酔いどれロックンロールに染まっていてひたすらカッコいいですね。


 3曲目Only A Hobo、ボブ・ディランのカバー、いかにもディランという曲。

 この曲がアルバムにあるとないとでは印象がだいぶ違っていたかもしれないし、これがあるからこそひな型として成り立っているのだと思います。


 4曲目My Way Of Givingはベースで参加しているロニー・レインとスティーヴ・マリオット作のスモール・フェイシズの曲。

 ミドルテンポのほんわかとした感じの曲、もちろんロッドはどんな曲でも自分らしく上手く歌う。


 5曲目Country Comfortはエルトン・ジョンとバーニー・トーピンの曲で、エルトンは1970年3月にこの曲が入ったアルバムTUMBLEWEED CONNECTIONを発表していますが、ロッドはもうその3か月後にここで歌っています。

 でもこれ、エルトン自身もヴォーカルで参加していて、ロッドのほうは、カヴァーというよりは一緒に作ったという感覚なのかもしれません。

 これはトラッド路線のロッドの最高峰の1曲でしょうね。

 エルトンには悪いけど、もうこれは完全にロッドの歌になり切っています。

 小雨の中を傘をささずに歩いて家に着いたところで雨がやんで虹が見えた、みたいな光景を僕は思い浮かべます。


 6曲目Cut Across Shortyはエディ・コクランのカヴァーですが、1993年のアンプラグドでもロッドはこれを歌っていてお気に入りの曲のようです。

 この曲は"Cut across"とロッドが発音するのがとにかくカッコよくて、大学時代にロッド・スチュワートが大好きだった友達とどっちがうまくよりロッドに似た言い方ができるか競ったものでした(笑)。

 言葉にもこだわらせてしまうというのはロッドのヴォーカリストとしての魅力でもあるのでしょうね。

 イントロはトラッド風のちょっとたどたどしい響きが長く続いてインストゥルメンタルなのかと思わせたところでロッドが歌い始める。

 でも、歌が始まると演奏ががらっと変わるのかというとそうではなく基本はイントロと同じなのは面白いアレンジ。

 この曲は口ずさむことが結構あるのですが、歌と演奏が何か連動していないような気もしてきます(笑)。


 7曲目Lady Dayは落ち着いたトラッド風の中でロニー・ウッドのギターは相変わらずつっかかりっぱなし(笑)、でもそれがいい。

 最後に入ってくるギターの旋律もどこか東洋風のいい響き。


 8曲目Jo's Lamentはもっと本格的なトラッドで、スコットランドの大地からバグパイプが聴こえてきそうな響き。

 あ、行ったことはないですよ(笑)。

 トラッドっぽさはその後のロッドでも色を変えて時折顔を見せる、これはその大元になった1曲かもしれない。

 この曲のみロッド自身もギターを弾いています。


 9曲目I Don't Want To Discuss It、タイトな演奏のちょっとハードなソウル風。

 これはきっと、ブッカーT&MG'sみたいなことをやってみたかったんだと思う。

 最後の最後にきて鬼気迫る盛り上がりを見せるこの曲は、ロッドのすごみを感じる曲ですね。

 正直言えば、最後の3曲は曲としてはちょっと弱いかなと感じる部分もあるのですが、でもロッドの魅力は緩さだから、これはこれでいいと思います。

 ロッドには完璧も根性も似合わないですから(笑)。



 それにしても、たかだか25歳の若者がこれだけの落ち着きと深みがあるアルバムを作ってしまったなんて、つくづく、ロッド・スチュワートという人は歌うために生まれてきた人なのだと思いますね。

 


 ガソリンはいつまた値が下がり始めるのかな。