H2O ダリル・ホール&ジョン・オーツ | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-March20HallOatesH2O


◎H2O

▼H20

☆Daryl Hall & John Oates

★ダリル・ホール&ジョン・オーツ

released in 1982 

CD-0219 2012/3/20

Hall & Oates-03, Daryl Hall-04


 ホール&オーツ絶頂期の脂の乗り切った大ヒットアルバム。

 前回がテンプテーションズでしたが、その2人、デヴィッド・ラフィンとエディ・ケンドリックスとホール&オーツが共演したライヴ盤があるというつながりも意識して。


 僕は、早くから、聴きたいものは自分で買わないと気が済まなくて、友達にカセットテープに録音してもらったもので全曲そらで覚えるまで聴き込んだアルバムはたったの2枚しかありません。


 1枚はポール・マッカートニーのTUG OF WARで、ビートルズ聴き始めの中学生でまだお金が十分になくて、一緒にビートルズを熱心に聴いていた友達O君と話し合い、当時は僕がジョン派でO君がポール派だったのでそれをO君が買って僕が録音してもらうことにしました。


 もう1枚がこのアルバムです。

 中学3年の頃ですが、当時はO君も「ベストヒットUSA」を見るようになり、ジャーニーとホール&オーツが特に気に入ってこのアルバムはO君が買うと言い出し、確かもう冬だったと思うけど、一緒に市電に乗ってタワーレコード札幌店に買いに行きました。

 僕は翌日くらいに、カセットテープに録音するのに1日だけ貸してもらいました。

 僕は当時、カセットテープはSONYのBHFの46分を買いだめしてLPを買うと録音していたのですが、これはB面が終わり切る前にカセットが止まってしまい、時間が足りなかったので、家にあったAHFの60分テープに録音し直しました。

 AHFに録るのは新譜はビリー・ジョエルだけで他は名盤といわれていたいいアルバムと決めていたのですが、これは不承不承AHFに入れたわけで、しかし結果としてはとても気に入ったしよかったのかなあ、と。


 そういえばジャーニーのFRONTIERSもO君に借りて録音させてもらったはずだけど、それは当時熱心に聴いたという思い出がなく、CDの時代になって自分で買って好きになりました。

 
 高校に入り、初めての登校日に今はさいたまに住んでいるM君と隣になった時、僕はM君に、音楽を聴きますかと質問しました。

 M君はアース・ウィンド&ファイアが好きだと答えて、棒はビートルズが大好きで他にビリー・ジョエルやホール&オーツといったロック系が好きだと答えました。

 するとM君はいきなり、ホール&オーツはロックではなくブルーアイドソウルだと言いました。

 僕はブルーアイドソウルの定義は当時はうっすらと知っていたのですが、どんなアーティストがそこに当てはまるか分からず、それはおろかブルーアイドソウルというのは70年代の音楽だと思っていたので、M君の言葉には衝撃を受けました、即座に否定されたという行為にも(笑)。

 ブルーアイドソウルも広い意味ではロックなのでしょうけど、そこにこだわるというのが、なんかすごい人だなと思ったり。

 でもそれでブルーアイドソウルがなんとなく分かってきたのは確かです。

 M君とは今でも友だちで1年に1回くらい会っているのですが、当時の話は今でも盛り上がりますね。


 ワム!の記事でもソウルの焼き直しの話をしましたが、ソウルを焼き直して自分の味付けをして聴かせるのは結局のところアメリカでも英国でも当時のひとつの流れだったのでしょうね。


 ホール&オーツはこれを買った後にさかのぼって前作のPRIVATE EYESを自分で買って聴いたのですが、このアルバムはPRIVATE...よりも黒っぽいというか本格的ソウルっぽい感じを受けました。
 というか逆で、PRIVATE...はすっきりとしたポップだったんだと気づいたと書くべきですね。

 曲自体もPRIVATE...のものはきらびやかな印象が強い曲が多いけど、こちらはもっとアーシーな感じもします。

 次のアルバムは再びポップさを強調するほうに振れたのですが、続いて出るアルバムの色合いが違うというのは、創作意欲が盛んだったことを物語っていますね、これは彼らに限らずどんなアーティストでも。

 

 1曲目Maneaterは当時うっすらとモータウンというものを理解してきていて、これがモータウン風のベースということが分かりました。

 ベースが印象的なロックの楽曲でも筆頭格でしょうね。

 歌メロがすごくいいというよりは楽曲のち密さとダリルのヴォーカルの迫力で聴き通す感じがしますね。

 ビルボードで4週連続No.1になり、彼らでも最大のヒット曲となりました。

 思い出深い1980年代ソングのひとつです。

 「マンイーター」つまり「男食い」、大人になってそういう女性には気をつけようと思ったっけ(笑)。


 2曲目Crime Pays、Maneaterのビデオクリップが夜の路地裏のようなセットでしたが、この曲はそのイメージをうまく引っ張ってきているほの暗いちょっと怪しいミドルテンポの曲ですね。

 歌い出しが幽霊みたいとか思ったり。

 タイトルは「犯罪が割に合う」ということでしょうけど、不思議な語感だなあと。


 3曲目Art Of Heartbreak、「傷心の芸術」、シングルカットした曲ではないけれどアルバムを聴いてすぐに覚えた印象的な曲。

 今聴くとファンクの影響かな、手触りが荒くて硬質な響きの曲。


 4曲目One On One、実は当時、僕はこれが2ndシングルと知って「もう終わりだ」と思いました。

 最初はこの曲が好きではなくて、静かだけど地味で歌メロというよりは雰囲気重視の曲で、雰囲気は印象に残るけど曲はそこそこかなと。

 ところがこれもTop10ヒットとなり、ちょっと驚きました。

 しかし大学時代にバイト先のJ-WAVEでかかっていたのを聴いて、あれっ、こんなにいい曲だったかって、すぐにCDを買いました。

 つまりそこで僕は初めてこのアルバムを手に入れたわけです。

 ホール&オーツは「本物のプラスティック・ソウル」というか、ソウルの安っぽい真似事をしているんだけど真似事であると割り切った潔さがあって、安いからといってバカにしてはいけない、意外と高品質という感じがします。

 80年代は黒っぽさが薄まったブラコンが流行っていましたが、ともすればそれよりうんと黒っぽい。

 R&B系のバラード、今は大好きですよ、名曲だと思います、よく裏声で歌ったりします(笑)。


 5曲目Open All Nightは言葉を引きずりながらなんとなく進んで行くどちらかというと締まりのない曲だけど、でもそれも彼らの得意技の一つではあります。

 LPつまりカセットテープのA面の最後だけど、ここで一度まとめて次に行こうという感じですね。


 6曲目Family Manは3枚目のシングルとしてやはりTop10ヒット、当時はほんとに勢いがあって僕はその勢いをいまひとつ感じ取っていなくてこれがそこまでヒットしたのは意外でした。

 曲はマイク・オールドフィールドのカバーで僕はオリジナルは聴いたことがないのですが、カッコいいけど何か悲壮な思いをしょっているようなシャープだけど重たい、そんなアレンジでいいですね。

 曲が終わって次に入るところのパッセージの半音の半音チョーキングが不思議で真似して弾いたりしていました。


 7曲目Italian Girl、ジョン・オーツが作曲し歌う軽やかなポップロック。

 ふと思ったけど、前作でジョンはMano A Manoを歌っていて、それはイタリア語で"hand in hand"という意味で歌詞の中で英語でも歌っているけど、ジョンはイタリア人の血を引いているのかは、そういえばいかにも白人然としたダリルとは違ってエキゾティックな顔つきだな。

 と思ってWikipediaを調べると、母系がイタリア人とのことで納得。


 8曲目Guessing Gamesは前作のイメージの明るくてきらびやかな曲。

 もちろん曲自体もいいけれどこれは当時タイトルの言葉「腹の探り合い」という英語表現が面白くて興味深かった。

 Crime Paysもそうだけど、この辺りはいかにも中学3年の受験生という話ですかね(笑)。


 9曲目Delayed Reaction、アコースティック・ギターが入っているけど基本は強い曲。

 コーラスワークも冴えわたっていますね。


 10曲目At Tensionはリズムがほのかにラテンっぽい感じで、このアルバムの中では歌よりは曲全体に凝っている感じがします。

 実は9曲目と10曲目は当時はよく覚えていなくてCDを買ってからこういう曲と認識したので、だからすべてをそらで覚えていたと書いたけど、それはちょっと違うかもしれないと今思いました。


 11曲目Go Solo、ダリル・ホールはこうした大団円的に盛り上がる作りが緩いスロウテンポの曲が好きなようで、記事にしたソロアルバムにもそのような曲が最後に入っていました(ボーナストラックを除く)。

 One On Oneといいこれといい、イントロに出てくる「ひょひょっ」と鳴るキーボードがこのアルバムの音という感じがします。

 しかしアルバム最後に「ひとりで行け!」と突き放す辺り、もう無敵の勢いだったのかもしれないですね。



 ロックですよね、このアルバムは。

 でもM君はやっぱりブルーアイドソウルと今でも主張するかもしれないけど(笑)。


 「プラスティック・ソウルでどこが悪いんだ」というホール&オーツの音楽には英雄的な輝きがあって、特にこのアルバムはその心意気とクオリティが外野の声を圧殺して聴かせる、そんな出来ではないかな。

 

 中学時代にカセットテープで聴いていた当時から好きだったけど、CDを買ってもっと好きになり、ソウルを真面目に聴くようになってさらに大好きになりました。


 でも、こんな大人の味わいのアルバムを、中学生でも夢中になって聴いていたというのは、ホール&オーツの懐の深さと楽曲の良さがあってなせる業でしょうね。

 まあ逆に、大人のロック好きの人の間には、当時のホール&オーツはあまり評価が高くないのかもしれないけど(笑)。


 このアルバムのタイトルH2Oは、ロックのアルバムタイトルの中でも秀逸なもののひとつだと思います。

 Hはホール、Oはオーツの頭文字で2人だから間に2が入るという字面も素晴らしい。

 そしてH2Oが意味するところの水は、人間の身の周りに普通にあって人間には必要不可欠なものであり、自分たちの音楽もまるで水のような存在であってほしいという意味が込められているのだと思います。