SONGS OF LEONARD COHEN レナード・コーエン | 自然と音楽の森

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◎SONGS OF LEONARD COHEN

▼レナード・コーエンの唄

☆Leonard Cohen

★レナード・コーエン

released in 1967

CD-0212 2012/3/6

 

 詩人・作家として活躍していたレナード・コーエンが音楽にも手を伸ばし初めて録音したアルバム。

 

 

 音楽的にいえば基本的には彼の弾き語り、そこに多少の、しかし様々な楽器やコーラスが絡むというシンプルな音づくり。

 

 このアルバムを聴いて感じたこと。

 かつて、こんなにも無防備な音楽を聴いたことがあっただろうか。

 

 あるとすれば、ジョン・レノンの「ジョンの魂」くらいかな。

 

 だけど「ジョンの魂」は、自らの心情を赤裸々に吐露はしていても、音楽的には「既成の形」に収まっているせいか、「無防備」とまでは感じません。

 その「形」を作ったのはジョン本人でもあるし、ジョンの場合はむしろ、「不必要に武装している」ように感じます。 

 

 このレナード・コーエン、味があるかどうかは別として単に技量として話すと、歌は決して上手いというものでもないし、ギターにしても下手じゃないというくらい。
 そんな彼が、それを包み隠さずそのままの姿で録音していて、そこを僕は「無防備」だと感じました。
 同じ弾き語りでも、ボブ・ディランはギター1本でもなんと強いんだろうと思ったり。

 しかしこのアルバム、不思議ととってもよく伝わってくるものがあります。

 

 とにかく表現したいという衝動に駆られていて、なんとしても自分で表現したい、そのためには自分の歌やギターの技量も音楽の知識も何も関係なく、とにかく表現するしかないんだ、という具合い。

 無防備であることのいい面でしょうね。
 

 僕は、10代の頃から、「無防備」とは正反対のヒット曲を中心に聴いてきていたので、このような音楽には免疫がまるでなかった、だから余計にいろいろ感じました。

 ぶつぶつと、もの悲しく、語るように歌う。
 微妙に明るい曲もあるにはあるんだけど、からっと明るいものはありません。

 ぬめっとした感じが漂っていて、その点ではピンク・フロイドのTHE FINAL CUTを聴いた時もそんな感じを受けたかな。

 でも、かといって、歌詞を具さに追ってはいないのでよくは分からないけれど、じゃあ重く暗くなるかというとそうではなく、むしろ希望の光のようなものも感じられ、聴いて落ち込むことはない、励まされる。

 ほんとに不思議な響きです。

 

 曲を幾つか。

 1曲目 レナード・コーエンは前から存在とこのアルバムが定評があることは知っていたのですが、以前からきっとこれは「無防備」な音楽に違いないというちょっとした恐怖感があってなかなか買えなかったのが、JTが歌ってくれたことにより買う踏ん切りがついたというわけ。

 アルバム1曲目から静かな弾き語りというのがまた、僕には慣れていない部分でした。

 

 6曲目So Long, Marianneはこの中では歌としても曲としてもいちばん盛り上がる曲。
 でも、大盛り上がりではなく、じわっと盛り上がってきて、そこに絡む女声コーラスと動き回るベースがいい感じです。

 

 だけど、タイトルを見ると、その盛り上がりは空元気、悲しいものなのか・・・

 9曲目Teachers、イントロに入っているアコースティックギターの「びゅうーん」というグリッサンドの音を聴いて驚き、その1音にこもっている気持ちの大きさを感じました。
 こんなギターの音は、今まで聴いたことがありません。
 自分で真似してみましたが、とてもこんな音は出せません(笑)。

 10曲目One Of Us Cannot Be Wrong、たおやかな弾き語りで淡々と進んでゆき、エンディングの部分で歌が終わると、まず口笛が入ります。

 これは軽やかでいい感じに響いてきます。
 しかし、次の瞬間、口笛をやめて、多分マイクから離れて「うめき」出すんです。
 ハミングではなく、音程を外してうめく。
 その遠くから聞こえる音が、なんともいえない悲しさを醸し出していて、不安になり、そして恐さすら感じます。
 こっちの世界とあっちの世界を行き来するような恐さ・・・
 いや、これはすごい「音」です。
 こんな音を出せるという時点でレナード・コーエンは詩人の枠を超えたミュージシャンだと思いました。

 

 

 

 ここまで他人の心の内部に触れてしまうと、ちょっとBGMには出来ないアルバムですね。
 それに、1日に何度も聴けない、聴くのには体力も気力も要ります(笑)。

 「感受性の塊」みたいなアルバムですね。

 でもこの場合はそこが気に入っているのであり、「自分を表現することの素晴らしさ」を伝えるという点では、今まで僕が聴いてきた幾千のアルバムと比べてもより高みにある、そんな感じがします。

 レナード・コーエンの「唄」という邦題には時代を感じますね。

 そしていろいろな意味で泣けてきます・・・

 でも、繰り返し、暗いまま沈んだまま終わるのではなく、なぜかそこから前向きになれるのです。

 それはレナード・コーエンが伝えたいこと、世の中は悪いことばかりじゃないというメッセージなのでしょうね。

 

 愛さえあれば。