◎OLD IDEAS
▼オールド・アイディア
☆Leonard Cohen
★レナード・コーエン
released in 2012
CD-0213 2012/3/8
Leonard Cohen-02
一昨日に続いてレナード・コーエン。
今日は今年出た新譜を紹介しますが、新譜の前に1枚紹介しておいたほうが流れとしてもいいかと思ったのが一昨日の1stアルバムでした。
レナード・コーエンはこのアルバムのリリース時点で齢77、当BLOGでの最高齢新譜記録を樹立です(笑)。
レナード・コーエンの新譜が1月下旬に出ていたことは知っていて、ウィッシュリストに入れて近いうちに買おうと思っていました。
それが、ビルボードのアルバムチャートを調べていた弟に、新譜が3位に入っているぞとの報告を受け、まるでそそのかされたかのようにすぐに注文しました。
いまだにチャートに左右されるんだなあ・・・(笑)・・・まあでもこれは遅かれ早かれだったので早くなっただけです、念のため。
なお、弟がビルボードのチャートを見てたのはそもそも、ヴァン・ヘイレンの新譜が何位に入っているかを調べるためで、最高位2位とこれまたうれしい、けどアデルは強いなあ、と・・・
ひとことでいえばいかにもレナード・コーエンという音楽です。
ただしサウンドはエレクトリックの普通のサウンドで、今風というよりは1990年頃風という感じ。
このアルバムはレナードつながりなのか、マドンナなども手掛けたパトリック・レナードがプロデュース一部は共作もしています。
だから1990年頃風のサウンドなのです、納得できます。
少し前風のサウンドに乗った吟遊詩人ですね。
もうひとついえば、カナダ人だけあってどことなくフレンチポップの雰囲気が漂っていて、低音で歌うとセルジュ・ゲンスブールのような感じもします。
フランスの香りは1stでも感じるところだったのですが、この新譜のほうがそれが強くなっています。
それにしてもレナード・コーエンの曲は、明確な歌メロがなくて語り風なんだけど、なぜか歌として印象に残るんですよね。
ラップも聴いていて気持ちがいいものだと思いますが(僕がそう思うようになったのはソウルを聴き始めてからでごく最近のことでしたが)、語りが気持ちよく響いてくるというのはだからさして不思議ではないかと。
ウィングスのBACK TO THE EGGにも歌ではなく英国の著名な人によるナレーションが入った曲があって、不思議と、あの語り口調は聴いていて引き込まれるものがあります。
もちろんレナード・コーエンもいわゆるサビの部分はちゃんとといってはなんだけど歌メロがあって、それもラップとも同じですね。
ラップが世の中を席巻した頃、僕はラップが好きではなかったのですが、ラジオやMTVでかかるラップの曲をよく聴くとサビの部分はちゃんと歌メロがあるのは、逆説的に、やっぱり人間歌なんだよって思ったものです、余談でしたが。
しかしレナード・コーエンの歌は、語りとして気持ちがいいという以上のものがあるように感じます。
歌なんですよ、やっぱり。
旋律は明確ではないとしても歌としか言えないものだと感じます。
何がと言われればそれは、確かな歌心を感じるからです。
詩人のレナード・コーエンは、詩という文字だけの表現及びその朗読だけでは自分が表現したいことを伝えるには限界があると感じて、シンガーソングライターとなってもう一つの表現を手に入れたかったのでしょう。
歌は歌詞の意味が分かってこそとよく言われるし、僕自身、歌詞の面白さもロックの魅力のひとつだとは思います。
でも、歌詞が具さには分からなくてもメッセージを感じられるのが歌であり、歌詞を読まないと分からないというのは、ある意味、音楽としては失格、失格は言い過ぎにしても魅力に欠けるのではないかとも思います。
レナード・コーエンが歌にまで手を広げたのは、そのことを証明していますね。
文字だけでは伝えきれなかった感情、文字と文字の間にあるもの、それらを表現するには音楽しかなかったのでしょうね。
音楽は、曲・歌と歌詞と両方でイマジネーションが広がるものでしょう。
レナード・コーエンの歌詞は宗教や思想的なものを織り込んでいるのですが、その背景が分からなくても、人間であれば人間として伝わってくるものがある、それでじゅうぶんだと思います。
だから、レナード・コーエンの歌には歌心を感じるのです。
歌でなければいけない必然性があるからです。
それを成し遂げることができるレナード・コーエンの作曲家としての才能はまさに孤高の存在といえるでしょう。
歌のようで語りのようでだけど歌というのは、一見するとちゃんとした歌を作るより簡単そうに思えるかもしれないけど、でもやっぱりレナード・コーエンにしかできないものです。
実際、歌はいいですよ。
1曲目Going Home、2曲目Amenでもうサビの部分を思わず口ずさんでしまい、おおこれは、と思います。
3曲目Show Me The Placeはどこか懐かしい響き。
4曲目Darknessは演奏がブルーズ風というかソウル風の節目節目の決めのフレーズがカッコいい。
5曲目Anyhowはバラードよりもゆったりとした観念的な響き。
6曲目Crazy To Love YouはBメロでちょっとした展開があって、階段をゆっくりと降りて踊り場でで振り返るとはっとするものを見たという感じがいいですね。
7曲目はぐっと胸にしみてきていい曲だなあ、僕が選ぶ今のところこのアルバムのベストトラック。
8曲目Banjoはその通りカントリー風の味付け。
9曲目Lullaby、このアルバムは女性コーラスが音楽としての質を高めていますがこれは特にまろやかに包まれる感じで、レナード・コーエンも温かく歌っています。
そして10曲目Different Sidesは最後だけどどこか落ち着かない響きで、まだまだこの先の活動を予感させます。
全編、愛、生きることへの強いメッセージを感じます。
でも、だからこのアルバムは、あまり軽々しく聴けないですね。
聴くならこちらも構えて聴かないとメッセージに打たれっぱなしになるし、だからBGMにはなりにくくて、1日何回も聴けるものではないかもしれない。
ただ、サウンドは心地よい、いい感じなので、あまりメッセージ性を深刻にとらえなければ聴きやすいかもしれません。
それは人によるのかもしれないし、僕自身も気分によって違うだろうし、この先聴いてゆくと、いい意味でもっと軽く聴けるようになるかもしれません。
いいアルバムです。
正直言えば、買う前に予想していたよりもかなりよかったです。
「古い考え」というタイトル、レナード・コーエンは昔から考えや姿勢、メッセージが変わっていないことへの自負と感じられます。
昨日の記事で、表現したいという意欲に敬意を表しましたが、それが喜寿を過ぎても変わっていないというのは、さらに高い尊敬の念を抱きますね。
77歳できっと、恋愛も現役なんじゃないかな。
明るく元気に励ましてくれるアルバムではないけれど、聴いていると生きてゆくことの素晴らしさを感じることができるアルバムです。