THE SINGLES プリテンダーズ | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-Feb23PretendersSingles


◎THE SINGLES

▼ザ・シングルズ

☆Pretenders

★プリテンダーズ

released in 1987

CD-0206 2012/2/23


 プリテンダーズのシングルA面曲を集めた事実上の最初のベスト盤。

 今回も「ベスト・ヒットUSA」つながりで記事を書こうと思ったCDです。


 世の中に数多のアーティストによるベスト盤は数あれど、このCDは僕がいちばん好きなベスト盤です。

 僕はこういう話をする時によくビートルズとそのメンバーを除きますが、今回は正真正銘、ほんとうにいちばんです。

 ただ、僕も素直じゃないので(笑)、いちばんが3枚あって、他の2枚は、ジョン・レノンのSHAVED FISHそしてクイーンのGREATEST、この3枚がいちばんです。


 ベスト盤には大きく分けて2つあります。

 ひとつは、曲を年代順に並べたもの、もうひとつは年代に関係なく編集したもの。

 今はベスト盤用の新曲が入っていることもありますが、基本はその2つは今でも変わっていないと思います。


 僕がいちばん好きな3枚のベスト盤のうち、ジョン・レノンとクイーンは後者、年代に関係なく恣意的に並べられたもの。

 このタイプは、アルバムとしてトータルで聴くことによりその曲が持っていた以上の意味を見出そうというもので、特に曲の並びが変わることにより曲と曲とのつながりや間が有機的に働いてくるようなことになれば、アルバムとして素晴らしいという感想を持ちます。


 一方プリテンダーズのこれは前者で、シングルカットされたA面の曲を年代順に並べたものです。

 具に見ればシングルのリリースの順番とは違うのですが、オリジナルアルバム単位で考えると、最初3曲が1st、4曲目から7曲目が2nd、8曲目から12曲目が3rd、13曲目から15曲目が4thそして最後16曲目はボーナストラック的扱いの曲となっています。

 

 アルバムとして聴くことを考えて編集されたものが素晴らしいのは理屈抜きで納得できると思います。


 しかし、プリテンダーズのこれは、言ってしまえばただ順番に並べただけなのにこれほど素晴らしいというのは、逆にいえばちょっと不思議な気もします。


 僕は考えることが好きなので、それはどうしてか昔から考えてきましたが、結論は出ていないのですがなんとなくこうという考えがあるにはあります。


 プリテンダーズは、クリッシー・ハインドは、決してぶれることなく真っ直ぐ進むそのさま自体が彼女の表現そのものである。

 余計なことを考えなくても、歩んできたままを表せば筋が通ったものとして聴かせることができるのでしょうね。



 1曲目Stop Your Sobbing、いきなりアカペラで曲が、アルバムが始まるのがなんともクール。

 ミドルテンポの明るい曲はキンクスのレイ・デイヴィスのペンによるもので、後にキンクスのヴァージョンが発表されたので書き下ろしということになるのでしょう。


 2曲目Kidsはオールディーズ風のギターのイントロに導かれるどこか懐かしい響きの曲。

 ラモーンズもAC/DCもオールディーズの焼き直しのロックンロールが基本と思うんだけど、プリテンダーズもそうなのでしょう。


 3曲目Brass In Pocketはソウル以前のR&Bを鋭くしたような響き。

 A→B→Cの構成になっていて、Bメロの部分がよく聴くとものすごく単純に同じ旋律を繰り返しているんだけど、クリッシーの表情が豊かで逆にそここそ聴き入ってしまう。


 4曲目Talk Of The Townはクリッシーのクールな魅力が全開、いや全開するのはクールじゃないな(笑)、抑えた中に感情が行き交う独特のヴォーカルスタイルに聴き惚れます。

 サビで"Maybe tomorrow"と歌う部分の"tomorrow"で「とぅもぉおおおおおぉろぉぅ」の段々と音が下がっていくのが口ずさむ時に微妙に音がとりにくいんですよね(笑)。


 5曲目I Go To Sleepは最初に聴いた時にちょっとオカルトチックで恐かった。

 イントロに入るホーンの音色がまたクリッシーの声に合っていてぞくぞくっと来ますね、いい意味で。


 6曲目Day After Dayは最初のほうで"Tokio"と出てくるのを聴いて急に親近感を覚えました(笑)。

 そういえばクリッシーはこのアルバムの後の曲のビデオクリップでZo-3ギターを持っていたけど、親日家なのかな、少なくとも興味があるのでしょうね。

 割と目立つところで"Mr. Moonlight"と歌うのも気になるところ(笑)。


 7曲目Message Of Loveはギター弾きにはたまらないキレ味鋭い曲。

 こちらは歌詞にブリジット・バルドーが出てきますが、ボーイッシュなイメージのクリッシー・ハインドとセックスシンボルのバルドーというミスマッチ感が楽しかった。


 8曲目Back On The Cain Gang、僕がプリテンダーズでいちばん好きな曲であり、1980年代ソングスでも特に思い入れが深い1曲。
 洋楽を聴き始めたごく初期に「ベスト・ヒットUSA」でビデオクリップを見て曲を聴いて心打たれたのですが、ケーブルテレビのベストヒットを見てそのことを思い出したのでした。
 歌メロがよくギターがカッコよくて気に入ったのですが、これを最初に好きになったのは運命だったと後で思いました。
 この曲は、サム・クックのChain Gangへのオマージュであり、「うっ、はっ」という労働者風のコーラスも入っているけど、僕は当時はサム・クックを知らず、大学時に聴くようになり、そうかそういうことだったのかと頭の中でつながりました。
 だからこれは音楽のタテのつながりを僕に意識させてくれた曲であり、ルーツをたどって聴くことの楽しさを教えてくれた曲です。

 とにかくギターサウンドが最高なのですが、この頃のリードギターはロビー・マッキントッシュ。

 彼は1990年にポール・マッカートニーが来日公演を行った際のバンドのリードギターであり、この曲に参加していたことはそれまで知らなかったのですが、ポールに会えたことに加えて大好きな曲に参加していた人に会えたのはまたとってもうれしかった。


 9曲目Middle Of The Lordで僕は環境が音楽に与える影響について考えました。

 クリッシー・ハインドは生まれはアメリカ、ハイスクール卒業後に英国で記者をしていてロックをやるようになったという人。

 プリテンダーズは表面上の音楽はアメリカンロック、でもそれを支えるセンスの鋭さは英国的、と僕は感じたのですが、それはそうした環境の影響なのだろうなと思います。

 この曲はとりわけ土臭さを感じるんだけど、でもこのソリッドさはアメリカのバンドにはないものでしょう。

 

 10曲目2000 Milesはクリスマスソングじゃないクリスマスソングの代表的な曲。

 R&Bバラードを踏まえたやはり懐かしい響きは郷愁を誘う感動的な曲で、エレクトリックギターのアルペジオの響きが寒さや寂しさをうまく表していますね。


 11曲目Show Meは一度しか出てこない中間部、クリッシーが「おぅ」と嘆くように言いながら入って行くのですが、そこのコード進行、全体の演奏そしてクリッシーの嘆き声がもう最高。

 クールなニヒリズムに支えられたプリテンダーズのクールさの象徴のような曲。


 12曲目Thin Line Between Love And Hateは後にアニー・レノックスも歌っていますが、これが70年代ソウルグループのパスウェイダーズの曲だと知ったのはアニーが歌った時のことでした。

 80年代の英国はソウルの独自解釈が流行っていたようですが、プリテンダーズはあくまでもロックンロールにこだわっていたのかな、これは後にオリジナルを聴いて割とストレートに歌っていると感じました。

 ただしそこに込められた思いはクリッシーのもので、プリテンダーズの世界に染まっています。

 PersuadersとPretenders、そういえばなんとなく似てますね、偶然かな(笑)。


 13曲目Don't Get Me Wrongは高校時代にクラスで曲とビデオクリップが話題になりましたが、クラスメートのひとりが、意外とかわいい人なんだなって言ってたのを思い出します。

 そうですね、音の響きもそれまでよりまろやかになっていて、歌メロも分かりやすくてそれは言い得て妙だなと思いますね。


 14曲目Hymn To Her、僕はこれを最初に聴いて驚いたというか意外に思いました。

 先ほどからクリッシー・ハインドはクールだクールだと書いてきましたが、だから人に対して、冷たいというと言い過ぎかもしれないけど、シニカルな見方ばかりをする人というイメージを勝手に持っていました。

 だからこの曲の優しさが意外でした。

 母性愛というか、すべてを包み込む優しさ。

 だけど、支えはするけどそこから先に進むのはあくまでも自分の力というメッセージも伝わってきて、人との距離感を強く感じる、プリテンダーズの中でも人間臭い曲だと思います。

 僕はこのCDで知らなかった曲ではこれがいちばん好きになりました。

 15曲目My Babyは本編最後の曲という位置づけですが、それまでの足取りをさらっとまとめてあまり大げさになることなしに自分たちらしく前に進もうという気概を感じます。

 13曲目からここまでで、プリテンダーズは、クリッシー・ハインドは、このアルバムで少し方向が変わったように感じます。

 鋭いだけではいけない、硬いだけでもいけない、肩の力を抜くことを覚えたのかもしれません。


 16曲目I Got You Babeはクリッシー・ハインドがUB40に客演したもので、ソニー&シェールの名曲をレゲェで歌っています。

 UB40は後にエルヴィス・プレスリーのカバーで大ヒットしますが、僕の中ではここにこの曲が入っていたことがそれにつながって、やっぱり、と思いました。

 クリッシーもレゲェが大好きなのは、僕はさらに後になってよく分かりました。

 アルバムの流れとしてはアンコール的に出てくるのがまた素晴らしくてサービス精神を感じますね。

 記事にするのに久しぶりに聴いたけど、やっぱりすごい、とってもいい。


 プリテンダーズは2000年にこの後に出た曲を足してこちらから少し引いたベスト盤が出ていて、そちらの曲順は年代順ではなく編集されたものですが、正直言えば、アルバムとしての感動はこちらにははるかに及ばないものです、たとえこの後に出てきた名曲が入っているにせよ。

 一方でこのCDはまだ商品として生きていて、この時代までのオリジナルアルバムのリマスター盤が出ているにもかかわらず、それはやはりこのCDが編集が素晴らしいからかもしれないですね。

 

 このCDは冬に買ったのですが、そのせいかサウンドの鋭さのせいかクリッシーのクールさのせいか、冬によく似合うと思っています、もちろんクリスマスソングが入っていることもあるでしょうけど。

 今朝は重たい雪が積もった札幌ですが、それは春が近づいている証拠でもあります。

 春を迎える前にこのCDを聴いて記事にしたのは、春に向かうための心構えかもしれないですね。