◎SHAKE YOUR MONEY MAKER
▼シェイク・ユア・マネー・メーカー
★The Black Crowes
☆ザ・ブラック・クロウズ
released in 1990
CD-0202 2012/2/17
ブラック・クロウズの1枚目のアルバム。
僕は、「グルーヴ感」」というものが、二十歳を過ぎるころまでは分かりませんでした。
雑誌のインタビューなどでよく接した言葉ですが、最初は、単にノリがいいことだと思っていました。
しかしいろいろ聴いてゆく中で、なんとなく分かってきました。
僕が思うところをつたない言葉で表すとこんな感じ。
「グイグイ引っ張られて体が自然と突き動かされる、タテノリとヨコノリが組み合わさった粘つくリズム感でありそれを聴くと爽快な気分になる音楽」
ノリがタテノリ系のロックンロールが必ずしも「グルーヴ感」がいいわけではなく、大事なのは「粘つく」という部分、後に引く、クセになる、そこだと僕は思います。
僕は、ブラック・クロウズが出てきた頃は大嫌いでした。
どこがいいのか分からないのにやたら流行っていて不気味な存在でした。
MTVで見る彼らの姿もふてぶてしくて不気味であまり親しめない人たちだと感じたのです。
しかしそれ以上に僕にとって問題だったのは、歌メロがいいと思える曲がなかったことでした。
とはいいながらも、一方で流行もののアメリカンロックは看過できない性分なので一応買って聴きましたが、やっぱりダメなものはダメでした。
でも、僕も音楽を聴き進める中で「グルーヴ感」というものが分かってきて、30歳を過ぎた頃から歌メロだけにはこだわらなくなったのもあって、そんな中でこのアルバムを久しぶりに聴くと、これがよかったのです。
「グルーヴ感」、それは「感覚」だから、頭で考えて聴く音楽ではなかったのですね。
特に車で聴くとそれがよく分かりました。
ブラック・クロウズは、サザンロックとブリティッシュ・ブルーズ・ロックを足しで2で割ったような感覚の音。
ヴォーカルのクリス・ロビンソンは無類のレコードコレクターで、15,000枚ものレコードを所有しているのだとか。
それだけ集めるのだから当然のごとく音楽は多岐に渡り、ブルーズを中心として、カントリー、ソウル、R&B、ゴスペルそしてもちろんロックなど、幅広い音楽を貪欲に聴き、それがバンドの音にも反映されています。
しかしだからといってルーツそのままではなく、どの曲を聴いても少なくとも2つの音楽の要素を感じ取ることができ、ルーツ音楽を上手く消化吸収し昇華している楽しさがありますね。
彼らの音楽にはある種の古臭さも感じますが、でも、1990年代は音楽の趣味が聴き手も演じても多様化して何でもアリになったことと、彼らの感覚自体は新しいものなので受け入れられたのでしょうね。
音楽のせいかふてぶてしさのせいか(笑)、妙な大物感があるバンドですね。
クリス・ロビンソンも、90年代以降に出てきたヴォーカリストでは随一ともいえるロックシンガーだと僕は思います。
1曲目Twice As Hard、最初から粘ついていて、スロウでブルージーな曲だけど速い曲と同じように引きずり込まれる曲、つかみは上々。
2曲目Jealous Againはこのアルバムで僕がいちばん好きな曲。
曲の形状が割合ストレイトなロックンロールであるがために、彼らの「グルーヴ感」はタテノリだけのものとは違うことが実感できます。
中間部のツインギターだけをバックに歌うクリスが英雄的にカッコいい。
ともすればギターとリズムが合っていなくて外れそうなすれすれのところがなんともスリリング。
3曲目Sister Luckはソウルバラード風の曲で、ローリング・ストーンズっぽいといえるかも。
4曲目Could I've Been So Blindは再びアップテンポのロックンロール。
僕はクリス・ロビンソンは素晴らしいシンガーだと思うけど、歌メロを作るのがあまり上手くないのが欠点かなと思う。
想像するにこのバンドは、ギターなりピアノなりで誰かが「曲」を作ってそれを作り上げるのではなく、ジャムの中からいい「グルーヴ感」が出てきたところでそれを曲に発展させるというスタイルなのではないかと。
歌メロもだから流れの中からなんとなく浮かんできたフックを発展させたもので、歌メロとして作ったのではない、だから歌としては印象が弱くなって「グルーヴ感」の中に埋もれてしまう。
それを踏まえてこの曲を聴くと、サビ、というかタイトルの言葉の部分は歌としては迫ってくるものが希薄に感じます。
5曲目Seeing Thingsは3拍子の朗々たるR&Bバラードで、ゴスペルの雰囲気も漂う感動的な曲。
当時はまだゴスペルは音楽が好きな人だけが知っているものだったけど、今は誰もがゴスペルを知っている、時代は変わったなと思いますね(笑)。
6曲目Hard To Handleは僕が最初に好きになったクロウズの曲。
それはずばり、唯一、歌メロに引かれたからで、それもそのはずというかこれはカバー曲。
オーティス・レディングも持ち歌にしていたもので、カバーであることを僕は後で知ったのですが、彼ら自身も「欠点」を意識していたのかあるいはレコード会社の要請か、歌メロがいいカバー曲を入れたのかもしれません。
それにしても完全に自分たちのものにしているし、間奏のギターの応酬も何もかもカッコいい。
7曲目Thick N' Thin、ここにきてアップテンポの曲が続きますが、冒頭に車の衝突音のSEが入っていて、車で聴くとちょっと慌てます(悪いジョークだと思います・・・)
8曲目She Talks To Anglelsはアルバムのクライマックスともいえるカントリーの影響が濃いブルージーなバラード。
歌メロがよくないと書いてきていますが、これはそんなこともない、普通にとてもいい歌です。
アコースティック・ギターのリフも歌っていて自然と口をついて出てくる素晴らしい曲。
9曲目Struttin' Bluesは僕がよく聴く普通のロックっぽい曲でなんだかほっとする。
10曲目Stare It Could、アルバムの最後は盛り上がる曲で、8曲目のバラードがともすれば重過ぎたところで軽く終わるという流れもいいですね。
しかし逆に8曲目の後だから、この2曲は、フックはいいけれど歌メロは流れてないな、と感じます。
まあ、雰囲気や流れは壊れていないので、アルバムとしてはこれで満足なんだけど。
ジャケットはオールドブルーズやソウルの香りが漂うもので、いい意味で古くさくてとってもいいですね。
アルバムタイトルはエルモア・ジェイムスの曲からとられたのでしょうけど、ジェームス・ブラウンのSex Machineの中間部でもJBが"Shake your money maker"と歌うというか繰り返しつぶやくので、ブルーズとファンクへの二重のオマージュということなのでしょう。
グループ名のBlack Crowesだけど、流行っていた頃に友だちが「カラスって黒いのが当たり前じゃないのか」と突っ込んでいました。
そうですね、体に白い部分があるコクマルガラスのような種類もいるけど、基本はやっぱりカラスは黒いものでしょうね。
でも彼らは、音楽においてはとっても大きな意味を持つ"Black"という言葉を入れて黒いことを強調したかったのだと思います。
なんだかんだと文句をつけてきましたが、今はほんとうに大好きな1枚で、時々無性に聴きたくなる、それがなぜか昨夜でした。
ブルージーで適度にハードなロックというのは、やっぱり僕の基本なんだなあ。
そうそう思い出した、10年くらい前に家の近くに白いカラスがいたんです。
ハシブトガラスの突然変異体で、自然界では白い個体は目立つのですぐにやられていなくなってしまうと言われていますが、その個体は敵が少ないカラスだからか、3年くらいに渡って見ることができました。
一時期はよく現れる場所がだいたい分かっていたんだけど、今この記事を書いていて突然、白いカラスの写真を撮っていなかったことを激しく後悔しました(笑)。