◎FREAZE-FRAME
▼フリーズ・フレーム
☆The J. Geils Band
★ザ・J・ガイルズ・バンド
released in 1981
CD-0196 2011/2/2
J・ガイルズ・バンドの11枚目のスタジオアルバムにしてついに全米大ブレイクをバンドにもたらした1枚。
このアルバムは、記念すべき、僕がビートルズとそのメンバー以外で初めて買った洋楽のLPでした。
世の中、どんな小さなことでもいちばん最初には意味があるもので、このアルバムは僕にとっても洋楽の窓を開かせてくれた意義深くて大切な思い出深いアルバムです。
僕は1981年8月25日頃から1982年の夏休みに入った頃まで、ビートルズとそのメンバーの音楽しか聴いていませんでした。
そこを話すと長くなるので、事実だけ書いておきます。
ビートルズを介して洋楽に興味を持ち、父が購読していた「FMファン」をそのうち読むようになり、そろそろ洋楽をいろいろ聴いてみたいという時にFMで聴いて大好きになったのがこの3曲目Centerfold「堕ちた天使」です。
理由は言うまでもない、一目いや一聴瞭然、ひたすら陽気で楽しく曲が面白い上に歌メロがいい、好きにならないはずがないという曲。
僕がFMで聴いた頃はもうその曲はビルボードでNo.1になっただいぶ後だったのですが、当時その存在を知ったタワーレコード札幌店の初代の店に行ってその曲が入った輸入盤のLPをすぐに買いました。
僕はビートルズでジョン・レノンが好きだったせいか最初からリズムギター指向で、目立つのが苦手というのもあるんですが(笑)、当時はギターを弾き始めたばかりで、J・ガイルズの歌のバックのギタープレイにひかれました。
特に、サビの部分で本来なら歌が入る部分が1小節だけ歌が抜けてそこにギターによるイントロのフレーズが飛び込んでくるのがどうにもカッコよくて。
この曲の話を続けると、"centerfold"とは男性誌などの真ん中のページにある女性のグラビア写真およびその女性のことで、歌詞の内容は、高校時代にクラスのエンジェルだった彼女が男性誌のグラビアにいて驚いた、というもの。
そういう他愛のなさはビートルズにはほとんどなかったので新鮮な刺激でした(笑)。
アルバムを通して聴くと、ビートルズとの比較になってしまうけどビートルズしか聴いていなかったのでしょうがない、ワイルドで荒々しくて男性的だなと思いました。
当時は彼らがR&B指向のバンドだということも知らなかったので、アメリカンロックとはこういうものだと思ったのですが、後でいろいろ聴くと、彼らはアメリカの中でも特にワイルドな音を出すバンドだと分かりました。
でも今思うに、土臭い、というのとは何か違いますね。
彼らは北部の出身で、南部のいわゆるスワンプ的土臭さは体にしみついていないのかなと思います。
このアルバムでもうひとつ驚いたのが、9曲すべて気に入ったことです。
捨て曲なしというやつですが、大好きな曲が3曲目とかなり早い段階で出て来るにも関わらず、最まで集中して聴けましたね、カセットテープをひっくり返して最後まで聴けたということ(笑)。
それは単に新しい世界に飛び込んで好奇心のレベルが異様に高かったという個人的な問題かもしれない、それは分からないけれど、ほとんど刷り込みのように今でもこのアルバムは全曲が大好きです。
しかしそれが不幸だったのは、その後たくさんの洋楽のアルバムを聴いてゆくことになるわけだけど、アルバムというのは全曲が素晴らしいのが当たり前だと思いながら暫くの間は接するようになったことでした。
実際にそういうアルバムもあったのですが、一方でシングルの曲と他1曲くらいしか気に入らないアルバムも当時はたくさんあって、全曲が素晴らしいのは当たり前ではないことが分かってきました。
今は逆に、それほど思いを込めて聴かないので、基本的にこれはダメだという曲のほうが珍しくて、最後まで気持ちよく聴けて気に入るアルバムが過半になっていますけど。
1曲目Freeze-Frameは当時はカメラ小僧だったので写真がモチーフというのもうれしかった。
これはすっごくいい曲というわけじゃないけどシンプルでキャッチーなポップソングで誰もが好きになるタイプであり、"Freeze-Frame"という語呂を楽しむ曲でしょうね。
当時は知る由もなかったけど今聴くとモータウン風ですね。
最後の盛り上がりと男臭いコーラスがカッコいい。
2曲目Rage In The Cageは何かの警告を発するようなキーボードの音がずっと鳴り続けていて緊張感がある曲。
最後にベースで「テケテケ」が入るのが死ぬほどカッコいい。
3曲目がCenterfold。
4曲目Do You Remember Whenはミドルテンポの曲、募るばかりでどうにもならない思いを頑張れるだけ頑張って歌ってみたという胸に迫る曲。
この曲は最初からとってもいいと思っていましたが、大学時代にCDが出て買って聴いて、その少し後に失恋した時にこの曲がすごく胸にしみてきました。
"You're gone"と最後に3回繰り返し、その最後は15秒くらい声をずっと伸ばして歌うピーター・ウルフ、まさにその時の僕の気持ちでした。
爾来、僕の3大失恋ソングのひとつとして君臨しています。
曲で言うと、Aメロの最後のほうで"back"と歌う部分でハンドクラップが入るのがカッコよくて、聴いて歌いながらいつもそこで手を叩きますね、車の運転中も。
またAメロからサビに入る手前でバックで"tick-tuck"とコーラスが入るんだけど、そういえばこのアルバムはコーラスワークが面白くて、ビートルズでコーラスワークの楽しさに目覚めていたのですんなりと気持ちが入れたのかもしれません。
ああ、聴きながら書きながら虚しくなってきた・・・
5曲目Insane, Insane, Againはアップテンポで煽るようなせかすようなサウンドに凝った曲で、このアルバムは全体的に緊張感が漂っているのがいいところです。
途中の打楽器の乱打がなんだかすごくて、寝る前に聴いていてそこで目が覚めてそのままB面につながっていったのかも(笑)。
6曲目、ここからLPではB面になって、FlamethrowerはミドルテンポのR&Bでイントロに入るハーモニカの音量がすごくて、肺活量幾らぐらいあるんだろうって。
何年か後に、それを吹いているマジック・ディックのハーモニカには圧倒されたとピーター・バラカンが書いていたのを読んでなるほどと思いました。
7曲目River Blindness、このアルバムは緊迫感があると書いたけど、限定的な状況を表す単語が曲名に多く使われていることからもそれを感じますね。
これまた虚しさを10人分くらい集めて固めて音にしたような曲。
リズムボックスらしき音が入って時代の音を採り入れているけど、全体的には古くさい響き。
J・ガイルズは当然のごとくギターソロもまた聴かせてくれる。
8曲目Angel In Blueはアルバムで唯一ともいえる息抜きできるほっとする曲。
アルバムの曲はすべてをセス・ジャストマンが手がけていて、一部はピーター・ウルフと共作ですが、僕は、バンドの名前になっている人でもリードヴォーカルでもない人が音楽的な中心人物だと分かって驚いたというか、そういうことってあるんだって知りました。
優しい響きのオルガンの音には荘厳さすら感じます。
9曲目Piss On The Wall、"piss"は「おしっこ」で、あらま、そういう下品な言葉はビートルズでは出てこなかった、ビートルズが上品だとは言わないけれど、ロックって逆にこういうものなのかなって思った。
でも聴いていて嫌な気分にはならなくて、どうだかなあくらいは思うけど、音楽になってしまえば少なくとも聴いている瞬間はなんでも許せるのかなという気もします。
それにしても壁にするのにこんなに怒らなくても・・・
今更ながら気がついたことを書くと、このアルバムは1980年代でありながら、キーボードの音が薄くてサウンド全体のイメージを支配するというわけではなく、あくまでもギター・オリエンティドのサウンドであることが、僕が最初から気に入るに至った重要な点だと思いました。
もちろんCenterfoldのイントロのようにキーボードは使っているんだけど、センスがよくて、あくまでも装飾音程度、その上で楽器の音がシャープに響いてくる。
だから、今聴いても、逆に古臭さをまったく感じない。
全体的に怒りがモチーフになったアルバムで、ある意味カタルシス的なものなのだろうけど、その点ではコンセプト的なものも感じさせるアルバムですね。
今にして思う、僕は、洋楽の聴き始めでなんと素晴らしいアルバムと出会ったことかって。
人間、何事も、最初は大切にしたほうがいいのかもしれない。
記事を書くのに1回聴いたんだけど、そのままあと2回続けて聴いてしまいました(笑)。
僕はおそらく、死ぬまでこのアルバムは聴き続けるでしょうね。