McCARTNEY ポール・マッカートニー | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-Jan31PaulMcCartney

 

◎McCARTNEY

 

▼マッカートニー

☆Paul McCartney

★ポール・マッカートニー

released in 1970

CD-0195 2012/1/31

Paul McCartney-04

 

 ポール・マッカートニーの初のソロアルバム

 

 ポールの新譜が来週に出ますね。

 

 話を聞いたのは昨年末だったかもう少し早かったかな、いずれにせよ今回はアナウンスがあってから出るまでが割と早いと感じています。

 もちろん楽しみですが、なんでも聞くところによれば、アメリカン・スタンダードを歌ったものということで、正直、2/7くらいはがっかりしたのですが、でもそれもポールの今の素直な気持ちということでしょう。

 つべこべ言わず楽しみに待つこととして、日々期待が高まっています。

 今回は予習にはならないけど、ポールのアルバムを。


 1970年4月10日、ポール・マッカートニーは、ビートルズからの脱退を宣言。
 この後裁判沙汰になりましたが、区切りとしては、この日がビートルズ解散の日といえるでしょうか、少なくとも僕はずっとそう思ってきました。
 トム・ハンクス主演の映画「アポロ13」では、トム扮する宇宙飛行士が地上と交信したシーンで、彼の娘が、「勝手に辞めてしまったポール・マッカートニーなんて大嫌い」と言う台詞があったかと思います。
 

 その1週間後の4月17日、ポール・マッカートニー初のソロアルバムが発売されましたが、当時、ポールの脱退宣言はアルバムの宣伝のためじゃないか、などと口が悪いマスコミに言われたそうで。 

 でも、ポールももう心が切れてしまっていたのでしょうね。

 

 僕がこのアルバムを最初に聴いたのはもうCDの時代、二十歳になった頃でした。
 CDが出るとすぐに買って聴いたわけですが、正直言うとかなり戸惑い、これでいいのか、とすら思いました。
 これはラフな作りであるのは知っていたのですが、それにしても。

 

 僕はビートルズは作りがしっかりした後期のほうが好きな人間だから、そこからいきなりこれという落差にまず戸惑いました。

 さらには、音が、音質がよくないことにもっと戸惑いました。

 作りがラフなことはそれが狙いであるならそれなりに納得できるのですが、音質がよくないというのは、どう考えても意図が読めませんでした。

 このアルバムはリンダ・マッカートニーのコーラス以外はすべての楽器をポールひとりで演奏して歌ったものであり、スタジオではなくポールの自宅で主に録音作業を進めたもので、そうであれば音質が劣るのは家庭的な雰囲気を出したいという意図があることも理解はできます。
 しかし、ビートルズであれほどまでに音質にこだわって録音してきたポールが、この音で出してしまったというのが、僕には感情面では納得できなかった。

 おまけにこのアルバムでポールはかなり荒っぽい声で歌っています。
 調子が悪かったというよりも、それもなんとなく意図を感じないでもないけど、でも実際に疲れていたのかもしれない。

 しかし後に、そこには、ビートルズという巨像(虚像)を壊したいというポールの意図があったことが想像できるようになりました。
 

 裏ジャケット写真では、にこやかにほほ笑むポールが着た厚手の上着の胸元に赤ちゃんが顔を見せる写真が使われていてとっても印象的ですが、そこに象徴されるように、もう誰の手にも負えないほど大きくなりすぎてしまったビートルズから離れて、ひとりの人間として生きてゆきたかったのでしょうね。

 そこまで考えたところで、敢えてこの音で出したことも理解でき、最近になってようやく納得できるようになりました。
 

 いずれにせよ僕は、これはすぐに気に入ったわけではありません。
 いい曲はあるんだけど音が、という点にとらわれ過ぎていました。

 このアルバムを見直すきっかけとなったのは、1991年、ポールがUNPLUGGEDでここから3曲を取り上げていたことでした
 バンド形態で演奏されることで作りもしっかりとして音質もよくなり、そうなると僕の耳にはそれら3曲がとっても魅力的に響いてきたのです。
 

 1曲目The Lovely Linda、アルバム冒頭でいきなり途中から始まったようなイントロの、サビだけ何度か歌ってすぐに終わってしまうなんだか妙な曲。
 まあ、人を食っているといえばそうなんだけど、よく考えると、ビートルズが終わるかもしれないという切羽詰まった状況で、逆にここまで開き直れたポールの精神力もなかなかですね。
 ところでこれ、人名に"The"がつくのに違和感があったんだけど、「リンダは世界にひとりだけ」という意味かな、春風亭柳昇師匠のように(笑)。

 2曲目That Would Be SomethingはUNPLUGGEDで演奏された1曲目で、アンプラグドでは落ち着いた歌メロを生かすアレンジになっていてとてもよかった。
 この曲はベースがかなり強く動き回っていて、ベースが好きな僕はそれについては最初からおお凄っ、と思っていました。
 ちょっと気取った歌い方がいいですね。

 3曲目Valentine Day、 エレクトリック・ギターが強く弾けて鳴るインストゥルメンタルだけど、最後の方でアコースティック・ギターのカッティングがロカビリー風に不意に入ってくるのがカッコよく、ポールさすがと唸らされます。

 4曲目Every NightはUNPLUGGEDで演奏された2曲目で、ハミングがさらに印象的になっていて、アンプラグド以降は僕の鼻歌ソングの仲間入りしました。

 

 5曲目Hot As Sun / Glassesはスコットランドの香りほのかに漂うトラッド風インストゥルメンタル。

 6曲目Junk、理屈っぽい言い方ですが、曲名表記上ではUNPLUGGEDで演奏された3曲目。

 というのも、アンプラグドで演奏されたのはインストゥルメンタルで、これは歌詞がある歌だから。
 この曲は最初に聴いた時からいい曲だとは思っていたのですが、アンプラグドでとどめを刺された感じ。

 

 7曲目Man We Was Lonely、リンダと一緒に歌うちょっと古臭い響きの曲で、これは最初に聴いた時にいちばん印象に残ったんだけど、多分それはリンダのコーラスのつけかたが、それまで僕が聴いたこともないようなスタイルだったからだと思う。
 ポールの曲におけるリンダのコーラスは重要ですが、ソロ1作目で早くもひな型を作ったという曲ですね。
 だけどどうして"Was"なんだろう・・・

 

 

 8曲目Oo Youはハードロック的ギターリフがカッコよくて、ポール流のR&B、Oh! Darlingの進化型、かな(笑)。
 "sing like a Blackbird"と歌詞にあるのはなんとも興味深い。

 9曲目Momma Miss America、そうだとは言わないけど、スワンプ風を意識したのかな、ポールにしては土臭くて黒っぽいフィーリングで面白い。

 10曲目Teddy Boyは幻のアルバムGET BACKに入っていて、僕はその海賊版をテープで聴いていたので、僕がビートルズを聴き始めた頃から聴きなじんだ曲でした。
 ビートルズの曲になれなかった曲だけど、でも、どうしてはじかれたのだろう。
 単純に考えればポールはこの曲に愛着があり、自分の意志とは関係ないかたちで編集されたビートルズの最後のアルバムには入れてほしくなかった、ということかな。
 もう少し考えると、Two Of Usとこれが両方入ると、ポールのフォーク系の曲が多いという判断だったのかもしれない。
 ビートルズの最終的なヴァージョンでは後半でジョンが喋りを入れるのがなんだかいいなと思っていたんだけど、でもこれはポールの曲だから。
 そばにいると心が安らぐ少年、という意味でしょうね、これ。

 11曲目Singalong Junk、というわけでUNPLUGGEDで再演されたのは実はこちら。
 でも理屈っぽいせいか(笑)、タイトルはただのJunkに。
 先に歌詞があるヴァージョンで歌ったので、インストゥルメンタルのこちらでは一緒に歌ってください、というのが茶目っ気たっぷりのポールらしいところですね(笑)。
 アンプラグドでもほぼオリジナルに沿って演奏されていたのは、ポールもこれにはよほど自信があるのでしょうね。
 そして歌詞がないこちらを演奏したのは、この曲に関してはポールも歌詞がないほうがいいと思っているのかな。
 実際、ポールには珍しく、この曲は歌詞がないほうがイメージが膨らんでいいと思います。
 僕もポールの曲で好きな10曲に入るくらい大好きです。
 この曲のピアノはとりわけいいですね。

 12曲目Maybe I'm Amazedはポールのバラードの名曲の一つですね。
 この曲は歌ってこそと僕は思います。
 "Maybe I'm amazed the way you love me all the time"
 歌い出しのここを声を出して歌ってみると、理屈も何も要らないほんとうに感動します。
 僕が英語の歌が好きなのは、そして洋楽しか聴かないのは、旋律と言葉とリズムの絡みを、言葉を口に出して歌うことにより得られる快感が好きだからですが、この曲はまさにそれ。
 後にライヴ盤WINGS OVER AMERICAのライヴヴァージョンがシングルカットされてTop10ヒットとなりましたが、最初にこれをシングルカットしなかったのはやはりビートルズと比べられるような見方をされるのが嫌だったのでしょうね、きっと。
 ギターソロも歌っているのもさすが。

 

 

 13曲目Kreen-Akrore、ポールは、例えばWild Honey Pieのように、ビートルズ時代から時々サウンドに異様に凝った曲を作る人ですが、この曲もそれ。
 なんとなく適当にやっているように思えるけど、最後の最後に入るエレクトリック・ギターのフレーズが印象的で、いかにもショーの終りという感じで、アルバムの流れとしては適当のようで実は考えられているのもさすがはポール。

 

 

 今は普通に大好きでむしろよく聴きます。
 まあ直接的にはリマスター盤が出たばかりというのもあるけど、昔あまり聴いていなかった分まだまだ頭の中に染み込んではおらず、かえって新鮮さが残っているからともいえるのでしょう。
 かつては、僕がロックミュージシャンとしてはいちばん好きなポール・マッカートニーの記念すべきソロ1作目だから、好きにならないといけないとすら思っていたのですが、そう思わなくなってからほんとに好きになった気もします(笑)。

 

 

 ジャケット写真は、これでも一応は写真を撮る人間として、想像力を刺激されてとても素晴らしいと思います。

 何かのベリーとそれを絞ったジュースが皿に入っているようですね。
 

 さて、記事を上げて気持ちがポールに向かってきたところで、ほんとに新譜が楽しみになってきたぞ。