◎MY LIFE II...THE JOURNEY CONTINUES (ACT 1)
▼マイ・ライフ2
☆Mary J. Blige
★メアリー・J・ブライジ
released in 2011
CD-0194 2012/1/29
メアリー・J・ブライジ10枚目のアルバム。
なお、タイトルをすべて書くと文字数制限に引っかかるので、タイトルでは短く書きました(不承不承)。
僕はメアリーJが大好きです。
このアルバムは1994年の彼女の2枚目のアルバムにして大ブレイクし彼女をスターダムにのしあげたMY LIFEの続編というコンセプトで作られました。
僕は当初はラップ・ヒップホップ系は大嫌いでした。
理由は簡単で、歌じゃないから、そう思っていたから。
「ベスト・ヒットUSA」が1989年に終わったのは、ヒットチャートでラップ・ヒップホップ系が躍進してきたことと無関係ではないと思っています。
そんな保守的で頑固な僕の心を開かせてくれたのがメアリーJでした。
MTVで彼女の曲が流れていて耳にしているうちに、なんだよく聴くと基本は普通の歌じゃないかと気づきました。
ヒットしたラップ・ヒップホップ系の曲を聴くと、どんなに喋りまくっていても、サビの部分は普通にちゃんとした歌であることにもそのうちに気づきました。
例えば、クーリオのGangsta's Paradiseはスティーヴィー・ワンダーのPastime Paradiseのサビは歌メロそのままにヴァースをラップにしていますが、やはりサビの歌メロの強烈さがあったからこそNo.1ヒットになったのでしょうし。
やはり人間は歌があってこそ。
ラップ・ヒップホップが出てきたことでかえってそのことの意識が強くなったのは思わぬ副産物でした。
それから18年。
今ではラップ・ヒップホップを経た音楽が普通のポップスとして定着しています。
「ベスト・ヒットUSA」も復活してたまに見ていますが、ヒットチャートはやはりそういう曲ばかり、でも、今ではもうだからといって違和感もあまりなくなってきました。
ラップ・ヒップホップ系は1990年代に入って、当初僕が思っていなかったほどに日本にも受け入れられたようですし。
メアリーJはその間ずっとヒップホップを一線で引っ張ってきた人として今ではリスペクトの対象になっているのでしょう。
僕の中ではまだまだ若手なのですが、それでももう20年にもなろうとしているのか、どうりで僕も年を取ったはずだ(笑)。
ちょうど10枚目ということで、ブレイクしたアルバムの続編を作りながら自分の半生を振り返ったというのがこのアルバムだと思います。
果たして地に足が着いた人生を送ってこられたのか。
メアリーJは前作が僕はいちばん好きですが、それはヒップホップを通した上でのソウルといった音作りで、僕がソウルに傾聴した直後にこんなアルバムを作ってくれてありがとうと思ったものです。
詳しくはそのアルバムをいつか記事で取り上げるとして、前作があまりにもあまりにも素晴らしかったがために、今作はヒップホップ色が濃くなっていて最初は少しがっかりしました。
まあ、続編ということは買う前から分かっていたので僕の予習不足というか心構えが足りなかったのだとは思うけど、でも、心の底に響いてくるというよりは、心の周りを煽り立てられるような感じがしました。
だけど、せっかく買った新譜だし毎日聴いてゆくと、3日目くらいで気づきました。
なんだ、やっぱり普通の歌じゃないか、しかもとってもいい歌ばかり。
そしてメアリーJのヴォーカルはやっぱり素晴らしい。
僕の意識が過剰だったのかもしれないけど、歌の部分よりも外側の音作りの部分に惑わされていて、当初はあまり響いてこなかったのです。
いきなり会話でアルバムが始まっているし、そこからは人の声も演奏も強い音を選んで突き進んでゆきます。
メアリーJの歌は、ちゃんと歌うというと言い過ぎかもだけど、とにかく歌の部分は、まるでパイ生地のように幾重にも折り重なった幾つもの感情を織り交ぜながら人の心を揺さぶるのが特徴だと思います。
くどいといえばそうかもしれないし、怨念がましいといえばそうかもしれない、恐いというか、いずれにせよ爽やかに気持ちが突き抜けて心が解放されるのではなく、心の中に入り込んでまとわりついてくる感じ。
その上でとてもポップなセンスを持った人だから、音としては印象に残りやすい。
このアルバムとてそれは同じ。
長いので聴きどころを何曲かかいつまんで。
3曲目Midnight Driveが彼女の典型で、最後に強烈な歌メロが入ってとにかくそこだけ印象に残ります。
4曲目Next Levelはバスタ・ライムスの客演でラップの部分と歌の部分がバランスよくて、なんだラップもなかなかいいじゃないかと単純な僕は思ってしまう(笑)。
8曲目No Conditionは曲の前半でアフリカ的なリズムを強調したところに掛け声が乗っかって不思議な雰囲気。
10曲目Why、11曲目Love A Womanは今のR&Bの標準的なバラードで、後者はビヨンセが客演、目玉といえるでしょうね。
13曲目Empty Prayersは2回目か3回目に聴いた時にはっとなり、こんな素晴らしい曲があるじゃないかと気づいたバラード。
"empty"という単語が入った曲は不思議と宇宙的な広がりを感じるのですが、これもその系譜。
14曲目Need Someoneも続いて広がりのあるバラードでこちらはワルツですが、こちらは温かみがある曲で彼女ではちょっと異質な感じの響き。
無情の向こうには、やはり人の温かさが待っているのかもしれない、希望にあふれた響きで救われます。
歌としてはこのアルバムのベストチューンはこれですね。
15曲目Living Proofは再び深刻な響きのバラードになりますが、スターとして生きた18年を振り返る映画の1シーンのような趣き。
13曲目が無情、14曲目で持ち直しかと思わせてまた落ち着く、心の揺らぎが感じられます。
静かな歌い出しからだんだんと盛り上げて感動的に展開します。
そうなんですこのアルバムは前半はヒップホップ色が濃い元気な曲が並んでいて、後半は落ち着いた、寂しげともいえる響きの曲が多くて、二部構成になっているような印象を受けます。
そして僕には圧倒的に後半のほうが訴えてくるものが多いですね。
16曲目Miss Me With Thatもバラードでこのまま終わるのかと思ったら、最後17曲目Someone To Love Me (Naked)は原点回帰ともいえる強烈なヒップホップ、リズムはレゲェだけど、でアルバムが終わります。
この曲のメアリーJの歌い方がなんだか面白いというか滑稽なのです。
意識して腹の底から出しているのを分からせるような声の出し方であり、妙にはきはきとしていて単語を一つずつ区切って発音発語するように聴こえます。
おまけにサビの部分で「うぉううぉううぉう」となんだか妙な声を出し、「いぇいいぇいいぇえぇ~い」というのも子どもが真似しているみたいな声。
でもその滑稽さは自分の中の大切な何かをさらけ出して捧げながら歌うようで、笑ってしまうというのとは違うある種の悲壮感があって、これができるメアリーJはやっぱりすごいヴォーカリストだ、ローリングストーン誌の例の100人で100位に入っているだけあると妙に納得したのでした。
だけどこの歌い方は子どもじゃなくても真似したくなりますよ、いぇいいぇいいぇいいぇえぇ~い。
このアルバムは普通にとてもいいと思います。
もしこれだけを聴いていれば、もっと早くからいいと心底思えるようになっていたでしょう。
しかし、前のアルバムが良かったその次というのは、期待も大きい、どうしても求めるものが大きくなってしまいますね。
しかも前作がそのアーティストでいちばん好きなアルバムになったというのは、僕にとってはちょっとした不幸でした。
まあしかし、同じことを続けないで前に進むという姿勢は多くのアーティストに求められることだから、僕も、前のアルバムはそれはそれとしてあまりこだわらずに聴いてゆきます。
このアルバムは"(ACT I)と銘打っているのは、そう遠くないうちに続きが出るのかもしれません。
あるいはそう思わせておいてまったく別の路線に走るとか。
いろんな意味で、次のアルバムへの期待も早くも高まってきました(笑)。
なんせメアリーJは、気がつくとほぼ毎年、3年に2枚くらいのペースでアルバムを出している人だから。
気がつくと4枚続けて女性ヴォーカリストの記事を上げています。
これは特に意図も何もない、そもそも僕はこのBLOGはまったくの思いつきでその時その日その頃に聴いたCDを取り上げているだけなので、これは単なる偶然です。
ただ、僕は、女性のCDの場合は必ずキャバリアのポーラとCDの写真を撮っていて、その逆は必ずしもそうではないのですが、ハウの出番がこのところないので、次は男性ヴォーカリストにしますかね(笑)。