ARC OF A DIVER スティーヴ・ウィンウッド | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

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◎ARC OF A DIVER

▼アーク・オヴ・ア・ダイヴァー

☆Steve Winwood

★スティーヴ・ウィンウッド

released in 1981

CD-0339 2013/1/1


 新年あけましておめでとうございます


 来年も「おめでとう」と言える状態であることを年初より願いつつ・・・


 節目や数字に割とこだわる僕だから、やはり年明け最初の1枚にはこだわり、スティーヴ・ウィンウッドを選びました。

 新年とは関係ないけれど、僕の中では基本であり、現役では最大限に尊敬しているミュージシャンであるから。

 実際、今朝も、初日の出を見て新年最初の野鳥観察から帰宅して、最初に聴いたアルバムがこれでした。


 余談ですが、年明け最初に聴いたアルバムは、起きたのが4時半過ぎ、ポール&リンダ・マッカートニーのRAM、元気づけ、景気づけ、そしてもちろんポールだから。




 スティーヴ・ウィンウッドはすごい人ですが、すごいという概念が普通一般的なものとは違う、というのが僕の見方です。


 このアルバムを聴けば分かりますが、極めて気持ちよく響いてくる軽い音楽に聴こえます。

 スティーヴは、そこがすごいのです。


 スティーヴ・ウィンウッドは、まだ10代のスペンサー・デイヴィス・グループの頃からブルーズ、R&Bやソウルが何たるかを頭ではなく心と体で理解し、しかも自分のものとして表現することが出来てしまう、そこが神童と呼ばれた所以でしょう。

 スペンサー時代は特に、グループに名前を冠しているスペンサーと比べることができてしまうので、それがよく分かります。

 

 以降、トラフィック、ブラインド・フェイス、再びトラフィックそしてソロとキャリアを重ねてゆく中で、スティーヴは「軽快に聴こえるけれどずしりと重たい音楽」を目指して進化してゆきました。


 そしてソロ2作目、齢33にして、スティーヴの「すごい音楽」が完成を見た、それがこのアルバム。


 スティーヴは音に対する神経が細やかな人で、細かなことを丹念に積み重ねて音楽を作ってゆく。

 だから最初は力で圧倒されるわけでもなく、聴き過ごしてしまう部分であるけれど、何度も聴いてゆくとそこに気づき、センスの鋭さ、技術、心遣いに感銘を受ける。

 

 スティーヴ・ウィンウッドの音楽は、一聴するとルーツが丸見えの音楽ではない。

 しかしそれも、彼独自のセンスで包み込んでいるだけで、先達への敬意は決して忘れていないことも、聴いてゆくとじわじわと、しかし後に広く深く感じ取ることができます。

 ロックって、やっぱり、ブルーズへの敬意が基本だと思う。

 これはブルーズを聴くようになってあらためて感じたことだけど、スティーヴほどその感覚が洗練されている人も、世の中にはいないでしょう。


 いわば、スティーヴ・ウィンウッドの音楽は、スポーツ選手が高度なプレイをいとも簡単にやっているように見えるのと同じことで、それが可能なのは基本にあくまでも忠実だからでしょう。


 などと深く考えることはない、楽しく聴いてくれればそれでいい、と或いはスティーヴは言うかもしれない。

 その余裕、度量の大きさが、やっぱりすごいんですよね(笑)。


 幾重にも要素が重なりつつも、あくまでも口触りが軽い。

 スティーヴ・ウィンウッドの音楽は、まるでミルフィーユ(笑)。




 1曲目While You See A Chance

 僕がスティーヴ・ウィンウッドという人を知ったのは、「ベストヒットUSA」でこの曲がチャートインして流れていたのを耳にした時でした。

 この曲はビデオクリップが作られておらず、その場合あの番組はLPのジャケットを写しながら曲を流す、だから僕は、スティーヴ・ウィンウッドという人よりも先にこのジャケットを覚えました(笑)。

 当時からいい曲だと思ってはいましたが、でも僕はその後不幸にしてスティーヴを嫌いになってしまい、この曲を真面目に聴くようになったのは、一昨年、そうか年が明けたのでもう2年前か、スティーヴを好きになってからのこと。

 アップテンポでロックンロールともいえる曲だけど、ほのかに切ない雰囲気、それは、うまくいっていない現状の中で灯りを見つけ出そうと勇気づけてくれる不思議な力を感じます。

 スティーヴは「チャンスをつかめ」と諭すように語りかけてくれる。


 ちなみに、「チャンス」について、外来語として日本語に入り定着している意味よりも、本来の英語の"chance"は偶然性が高いものであり、日本語の「チャンス」は"opportunity"に近いことが多い、ということを大学時代に英語の授業で教わりました。

 つまり、目標に向かって準備をしてきた過程で得られた好機は"opportunity"、一方、特に何もしていないところにやってきた好機は"chance"というわけ。

 というわけでこの曲は"chance"と言っているところに、何かもやもやしたものを感じさせるのでしょう。

 ただし、英語の意味も今は変わり、日本語の「チャンス」に近くなっている可能性もありますね、なんせ四半世紀も前に教わったことだから。


 余談が長くなりましたが、スティーヴで最も好きな曲のひとつでもありますね。

 札幌でのエリック・クラプトンとのコンサートでももちろんというか演奏してくれて、僕は感動。

 しかし残念なことに、会場は休み時間的な雰囲気に・・・

 そんな中、左斜め前15mほどにいた僕と同じくらいの年代の男性が、この曲がかかると全身でうれしさを表しているのが分かり、この曲を待っていたんだなあとこちらも感激しました。

 その人もきっと「ベストヒットUSA」で静止画像を見たのでしょうね(笑)。

  

 2曲目Arc Of A Diver

 この曲は古いリズム&ブルーズ的なものが一聴して割と見える曲ですね。

 軽い響きの重たい曲の代表格かな。

 興味深いのは、歌詞に"My Rock 'N Roll"と出てくることで、スティーヴのロックンロールはやはりブルーズ的なものを大きく引きずっているんだなと。

 歌詞は割と理屈っぽいんだけど、スティーヴの場合はそれがかえって素直に感じてしまう(笑)。

 結局は、失恋した翌日の虚しさを吐露しているようです。

 ちなみに、このタイトルは、ジャケットの絵の通り、弧を描いてえびぞりするダイヴァーの姿に美を見出し、自分の気持ちに重ね合わせたものだと思われますが、お正月からえびぞりは縁起がいいかも(笑)。


 3曲目Second-Hand Woman

 おやおや、「中古の女性」というのは、ちょっと心が捻じれていないかい・・・

 キーボードの音がいかにも1980年代だけど、でもスティーヴはキーボード奏者だから、あの軽薄な80年代的な響きには決してなっていない、そこが今でもしっかりと聴ける部分でしょう。

 音はあくまでも軽快だけどどこか空虚な部分を感じるのもスティーヴの特徴かもしれない。

 ぶつぶつ文句を言うようなキーボードの音が面白い。


 4曲目Slowdown Sundown

 落ち着いたバラードで、日暮れの頃には気持ちも落ち着いたのかな。

 ただ、中間部だけテンポが速くなるのが、まだそうは言いきれない部分かも。

 この曲は、バラードが上手い歌手が歌うともっとロマンティックに仕上がるのではないかな。

 僕がスティーヴに相性がいいのは、ロマンティック過ぎないところだと思っています。


 5曲目Spanish Dancer

 スパニッシュというからにはほのかにラテンっぽいのり、歌のバックのギターもスパニッシュギターを意識しているといえばしている。

 しかしあくまでもスティーヴ・ウィンウッドの世界からははみ出ていない。

 気持ちを込めたくても込められないというように、ちょっとぶっきらぼうな歌い方が、しんみりとしたものを感じます。


 6曲目Night Train

 これはいい。

 一度70年代ソウルとファンクを経た上で遡ったR&B的な曲で、鉄道をイメージさせるイントロのぶつぶつなるギターが、ファンクからフュージョンまでの70年代から80年代前半の雰囲気をたたえた響き。

 サビというかBメロの曲名を歌うところで音が下がるのが逆に印象的。

 普通はサビは力が入って盛り上がるものですよね。

 この曲はベースが曲を引っ張っていて、キーボードは割と控えめ、つまり低音で勝負する曲。

 こんなことができるのもスティーヴのすごさ。

 最後に近くなって整った印象のギターソロが入りますが、それもスティーヴの演奏。

 コンサートの時に思ったのは、スティーヴはギターもとても上手くて、ギターでも普通にお金を取れる人だということ。

 ただ不幸だったのは、その時一緒にいたギタリストがエリック・クラプトンという名前の人だったこと(笑)。

 まあ、上手いけれど、押しが強くないのでしょうね。

 それはスティーヴの音楽を通して言える個性だから、仕方のないことでしょうけど。


 7曲目Dust

 「塵」という最後の曲はバラード。

 恋に破れてついに「塵」になってしまったのか・・・

 寂しさがこぼれ落ちてくる曲で、振り絞るような高音で歌うスティーヴの声がしみてきます。

 最後の方は「友情は強くなっていく」と強がりともとれる心情を歌に乗せています。

 でも、スティーヴは歌への感情の入り方が過剰ではなく、そこもロック的なものを強く感じさせることですね。

 僕の弟のようにそもそも声が苦手という人はいるけれど(笑)、感情移入過多ではないところも、軽くて聴きやすい部分だと思います。

 この曲もバラードが上手い歌手向きかな。

 もちろん、スティーヴだから好きなのですが、僕は。



 40分で7曲しかない、割と長めの曲が並んでいるわけですが、演奏部分を聴かせることにも神経が行き届いていて、冗長に感じることはない。

 むしろ、7曲で終わってしまうのが、もったいないというか。

 まあ、LPの時代だから仕方ないのですが。


 スティーヴは、大ヒットしたのはこの2つ後のアルバムですが、アーティストとしてより充実した姿を見せて聴かせてくれるのはこのアルバムのほうでしょう。

 この音楽はもはやスティーヴ・ウィンウッドの世界でしかない、そこまで到達した1枚です

 

 尋常ではないくらいに気持ちがいい響きで、一度聴くと癖になるアルバムですね。

 今朝聴いて、それで気持ちが足りなくて、もう1回聴きながら記事を書きました。



 ところで。

 While You See A Chanceの歌い出しは、朝の情景を詠み込んだ透明感が素晴らしい歌詞。

 今朝僕は初日の出を見に行きましたが、その心象風景と重なるものがあり、もしかして帰宅してこれを聴きたくなったのはそのせいかもしれない。


 というわけで、新年最初の記事は、2013年の札幌の初日の出の写真で終わります。


 本年もよろしくお願いします!


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