◎MONEY AND CIGARETTES
▼マネー・アンド・シガレッツ
☆Eric Clapton
★エリック・クラプトン
released in 1983
CD-0161 2011/11/20
Eric Clapton-04
※このCD注目の1曲:I've Got A Rock N' Roll Heart
エリック・クラプトンのソロ名義では8枚目のアルバム、通算すると何枚になるんだろう(笑)。
エリック・クラプトンとスティーヴ・ウィンウッドのコンサートを終えて最初の平常運転の1枚はやはりエリックでいきます。
しかし選んだのがいきなりこんなアルバム・・・
あの素晴らしくすごかったコンサートの後でこのアルバムを聴くと、つくづく、時代は変わるものだと思いました。
僕がエリック・クラプトンという人を知ったのはもう何度か書きましたが、ビートルズに参加していたからでした。
それについてはもう説明は要らないですね。
僕はビートルズの信奉者ともいえる人間である上にジョージ・ハリスンの親友ということで、エリック・クラプトンはその音楽を聴く前から僕の中では一目以上置かれた特別な存在の人でした。
僕が初めて聴いたエリック・クラプトンの新曲が、ここに収められているI've Got A Rock N' Roll Heartでした。
確かまだ中学生の頃だったと思って調べると1983年の2月にリリースされているのでぎりぎりそうですね。
これまたいつも言うようにその頃は洋楽聴き始めでとにかくいろいろ聴きたくて、NHK-FMの洋楽の新曲が流れる番組をいつもエアチェックしてカセットテープで聴いていました。
この曲はそこで流れました。
「FMファン」の番組表でエリック・クラプトンの名前を見つけ、あのホワイトアルバムにいるエリック・クラプトンか、これは録音しなきゃと。
おまけにタイトルが「ロックン・ロール・ハート」だから僕はかなり期待しました。
実際に聴いてみると・・・
なんだこのふにゃふにゃした曲は!?!
ミドルテンポで今の言葉でいう脱力系の塊のような緩い曲で、これがロックンロールなのかと若かった僕は怒りさえ覚えた気がします。
15歳の僕がそんな曲に引かれるはずもなく、当然LPも買いませんでした。
僕がエリックをリアルタイムで買って聴き始めたのはCDの時代になったAUGUSTからで、このアルバムは大人になっても買うことなく、漸くリマスター盤が出た2000年に初めてCDを買ってアルバムとして聴きました。
ボブ・ディランのINFIDELSでも話しましたが、1980年代前半は1960年代から活躍してきた人たちのほとんどが、そろそろ終わりかな、という感じで世の中で捉えられるようになっていました。
現役ではなく伝説の中の人たちになり始めていた。
ましてや若かった僕たちのような世代では、まだやってるの? というのが正直に思ったところです。
エリック・クラプトンが伝説の中の人ではなく「生ける伝説」になったのは、直接的にはUNPLUGGEDの大ヒットがもたらしたものであり、広く見れば「大人のロック」が確立された、いずれにせよ1990年代に入ってからのことです。
今回はコンサートの後だからこの際は僕とエリックとのなれそめを記事で書こうと思ってこのアルバムを選んでみました。
しかしいざCDを聴いてみると、3日前に目の前にいた「生ける伝説」と、このアルバムの頃の「伝説になりかかっていた落ち目な人」とのあまりのギャップに自分でも驚きました。
ただしエリックを60年代からリアルタイムでずっと聴いてきた年代の人には「落ち目」だとまでは思わないまだまだ頑張っているんだと元気つけられた存在だったのかもしれません。
しかしそう書いたのは僕が確かにそう感じていたからで、それは年代間の認識のずれということだと思います。
ええ、僕も当時は若くてとんがったロック野郎でしたから(笑)。
このアルバムで少し救われるのは、まだ80年代サウンドに染まり切っていないところでしょうか。
サウンド的には70年代レイドバック路線がまだかろうじて続いているという響きで、エリックを普通に聴くようになった今聴くと、ああこれはエリック・クラプトンのサウンドだなと素直に思えます。
しかし一方、今聴くと救われるという部分は、当時からすれば時代遅れと感じられたのではないかと。
僕は1曲聴いただけですが、確かにそう感じていました、何か違うぞと。
エリックはしかし幸か不幸かこの次のアルバムBEHIND THE SUNで、時代の人だったフィル・コリンズがプロデュースをすることによりついに時代の波にのまれてゆきました。
当時のエリックは前に進みたくてもがいている状態だったようで、そのアルバムはフィルがやり過ぎだとかなり言われていましたね。
僕はそのアルバムは大好きなのですが、それはいつか取り上げた時に。
アルバムの話ですが、今聴くと全体的に軽くて力が抜けていてなかなかいい響きです。
実際に僕もCDを買ってから、まあ最初は緩いのが気になったけど、でも1年半に1回くらい妙に聴きたくなることがあります。
記事にするにあたってまた聴くと、もうコンサートで魔法にかけられたせいで(笑)、今はまったくもって聴きやすくていいアルバムだと思っています。
何より明るくて軽やかなので前向きに感じられる響きであるのがいいところかな。
ギタープレイはエリックらしいものだけど、今から比べるとまだ「確信」とまではいえないものも感じます。
ヴォーカルも同様で、僕がコンサートでとにかく驚嘆したのがヴォーカルのうまさでしたが、この頃はまだ「ただ枯れていてそこがいい感じ」くらいで、ギター同様「確信」とまでは至っていないかな。
10曲中6曲がエリックのペンによるもので、他はカバー曲。
僕が最初に聴いた4曲目I've Got A Rock N' Roll Heartはまったくの外部のライターが書いていますがエリックのための新曲で、カバーではなくこれがオリジナルということになりますね。
今思うに、やはり売れるために外部の作曲者も積極的に起用していたのかな、それとも関係なくただ単にいい曲にめぐり会ったのかな。
この曲はビルボードで最高位18位となっており、さらにはアルバムも最高位16位、実は僕が当時思っていたほど「落ち目」ではなかったようで、それはアメリカだからなのかなと思いました。
アルバート・キングでおなじみのブルーズ・ナンバーである8曲目Crosscut Sawをやっているのは今回気づきましたが、これは僕が知る限りのブルーズの中でも特に軽い曲なのでこのアルバムには合った選曲だと思います。
3曲目Ain't Going Downはオリジナルだけどジミ・ヘンドリックスのAll Along The Watchtowerに似た感じなのは意図的なのかな。
迫りくる感じがなかなかいい曲だけど、この場合は逆にエリックが気が抜けすぎていて、今ならもっとびしっとカッコよく演奏してくれるんじゃないかなと思いました。
そういえばこのアルバムからの曲はめったに演奏されないですね、まあ仕方のないことでしょうけど。
10曲目Crazy Country Hopはカバーだけどなかなかいいですよ。
Lay Down Sallyを彷彿とさせるリズム感でアルバムは最後まで明るく楽しく前向きに終わります。
エリック・クラプトンは、今にして思えば、もがいていたことがその先につながって良かったのでしょう。
酷評されながらも前に進んで何かを得たエリックは、ついにUNPLUGGEDで時代に追いつきそのまま一気に時代とは関係ない「生ける伝説」になったのでした。
僕はこのアルバムの曲でエリック・クラプトンと出会い、最初はLPを買っていなかったけどMTV番組やFMを通してずっと接し続けてきていて、エリックが今のようになるまでを見てきていたので、コンサートを見て感激した上に、このどん底時代のアルバムを聴いて、なんというか思いもひとしおですね。
先ほど「時代は変わるものだ」と書きましたが、それはエリック・クラプトンの場合は正しくないと書きながら思い直した。
エリック・クラプトンが変わった。
エリックは信念を貫き通しながらも寛容で柔軟な部分もあったことで今のようになれたのでしょう。
そういう意味でも逆に、このアルバムの頃のような時代がエリックにもあったというのは、人間臭さを感じて何かほっとするものを感じます。
僕の場合はその思いが懐かしさとつながっていて、このアルバムは段々と好きになってきました。
日本でも「マネシガ」と呼ばれて年代を超えて聴かれる作品になるといい(笑)。
最後に、僕が初めて買ったエリックのレコードはもうレコードではなくCDの時代で、1987年に買ったベスト盤CDのTIME PIECESでした。
もちろんというかLaylaが聴きたかったのですが、それは僕が最初に買ったCD10枚に入るくらいかなり初期に買ったCDだから、やっぱり早くから聴きたかった人であったのは間違いのないことなのですね。
ともあれ、この世の中にエリック・クラプトンというい人がいてよかったと、今は心底思っています。
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