![自然と音楽の森1日1枚-Sept20WillieDixon](https://stat.ameba.jp/user_images/20110920/08/guitarbird9091/89/a7/j/t02200147_0360024011494869147.jpg?caw=800)
◎I AM THE BLUES
▼アイ・アム・ザ・ブルース
☆Willie Dixon
★ウィリー・ディクスン
released in 1970
CD-0133 2011/09/19
ウィリー・ディクスンが「俺こそはブルーズだ」と宣言した1970年のアルバム。
1970年という年がこのアルバムの場合とても重要なのです。
ウィリー・ディクスンは、ブルーズの名曲をたくさん作った人として名前と存在は10代の頃から知っていました。
もちろん、レッド・ツェッペリンを通して。
考えてみれば僕にとってのブルーズの入り口はZepだったんだけど、でもそれはきっと真剣にブルーズを聴いておられるかたの中には疎ましいと思う人もいるかもしれないですね・・・
ただ、少しだけ自己弁護すれば、僕は新しい音楽を通して古い良い音楽を知って興味を持って今は真剣に聴いているわけで(かなり遅れたけど)、そのことには意味があるのではないかと思います。
演奏する側だって自分が好きな古い曲をより若い世代に知ってもらいたいのだろうし。
と書いていて、新しいといっても40年前、より若いといっても40代、なんですが(笑)、まあそれはともかく音楽は聴き継がれてゆくものだと思います。
このアルバムは、ウィリー・ディクスンがハウリン・ウルフやマディ・ウォーターズなどに提供し世に出て知られた曲を後に自らが歌ったものということです。
ブルーズについては僕はまだ勉強中でよく分からなくてそれは調べて分かったことですが、しかしここからはいつも通り僕が思ったことを書きます。
このアルバムは元来ロック人間の僕にはとってもうれしい1枚ですね。
理由は簡単、ロックのアーティストにカバーされた曲がたくさん入っているから。
ロック以外も含めてこの中で僕がカバーをよく聴いて知っている曲を挙げてみますが、※がついたアーティストはこのアルバムの後にカバーしたものであって本筋とは少し外れるので参考程度にという意味です。
I Can't Quit You Baby - Led Zeppelin
Spoonful - Cream
I Ain't Superstitious - Jeff Beck Group、※Megadeth
You Shook Me - Jeff Beck Group、Led Zeppelin
I'm Your Hoochie Coochie Man - ※Eric Clapton
The Little Red Rooster - Sam Cooke、Rolling Stones
このアルバムは1970年に録音されていますが、それは1968年を絶頂期として主に英国でブルーズロックが盛り上がり完成したことと無関係ではないでしょう。
ブルーズロックの動きを見たウィリー・ディクスンは自らの遺伝子が受け継がれ思ってもみなかったほど広がっていったことに喜びを覚える一方で、真似されたり改作されたり安易なまがいものを勝手に作られたように感じて歯がゆい部分もあったのではないかな。
だから「俺こそがブルーズだ」と名乗ることで世の中を納得させたかった。
このアルバムには当時のロックの動きに対して本家ブルーズ側からの解答、意見、反論、文句、そして新たな提案といった意味が込められているのだと思います。
また同時にウィリー・ディクスン自身のキャリアをこのあたりでひとくくりしておこうという意味も込められているのではないかと思います。
要は、若い世代にブルーズとはこういうものだと見せつける必要性がそこにあったのでしょう。
しかしそこでベスト盤を出すのではなく新たに録音するというのは、ミュージシャンとして若い人たちに影響を受けたのであって、本人はそこもうれしかったのかもしれない。
内容はその通りで、余裕の演奏、余裕の歌唱、楽しく聴きながらも温故知新で納得させられる深いアルバムです。
ウィリー・ディクスンの歌声や歌い方は僕がかつて描いていた典型的なブルーズマンのイメージそのもので、太くて低い声で少ししゃがれていて粘つくように歌うものです。
実際はそんなことはないかもしれないけど、でも僕も頑固だからその固定概念がなかなか拭い去れなくて、この声この歌い方を聴いただけでも「これぞブルーズ!」とうならされ納得させられました。
どの曲もタイトルの言葉を歌う部分がとてつもなく印象的でほんとうに心に頭に魂にそして時には体にもまとわりつきからみついて離れません。
気がつくと自分の体の一部になっている、望む望まないにかかわらず、そんな粘り強さと吸着力があります。
あの声でこんなからみつく旋律を歌うのだからそれはもう呪詛的ともいえるほどで僕も最初のうちは寒気や恐さをすら感じながら聴いていました。
1曲目の表題曲でいきなり♪ あぁ~ぃあぁぁむぅ、と粘っこく歌い始められた瞬間からもう呪文にかけられてしまう。
Spoonfulの粘つき具合はもう癖になる以上に中毒を起こすほどすさまじくて聴き終わって耳が勝手に再生しているくらい。
試しにこの歌い方を真似してみたんだけど、とてもこんな声では歌えないですね。
当たり前のことだけど(笑)、自分でやってみて分かることもあるから、そこはただただすごいと。
Seventh Sonも粘り具合がすごいですね、この2曲が今回は特に印象に残りました。
でも慣れてくるとウィリー・ディクスンの声が実は意外と愛嬌があって楽しげに歌っているのが見えてきます。
このアルバムはきっと、渾身の1枚を作ってやろうという意気込みなんてさらさらなくて、余裕をもってとにかく楽しく録音していったのではないかと想像します。
バックのメンバーもチェス時代のミュージシャンを起用しているということで、昔を懐かしみながら若者をおちょくるかのような冗談を言いつつ録音作業が進んでいった、そんな光景が目に浮かぶようです。
I Can't Quit You Babyはレッド・ツェッペリンのものに割と近い演奏だけど、一方のI Ain't Superstitiousはジェフ・ベックのとはだいぶ違います。
その両者が競って演奏したYou Shook Meは意図的にロックぽさを排してブルーズの本流のような演奏をしているようにも感じます。
フーチークーチーマンなんてこれと比べるとエリック・クラプトンの歌い方はまるでティーンエイジャーですね(笑)。
特筆しておきたいのは、これはもうほぼどんなアルバムにも共通することだけど、とにかく曲がいい。
しかも歌としていいものばかりで、意識しなくてもサビを自然と口ずさんでいる自分を発見します。
そしてウィリー・ディクスンという人はポピュラー音楽の作曲家として類い稀な才能を持った人であることが分かり、歌人間としてはそれがまたうれしいですね。
僕がもうひとつ気づいたのは、僕はベースが目立つ曲には特に引かれるのですが、それはやっぱりブルーズから来ているものなのかなということで、気がつくとベースにも聴き入っている自分を発見します。
このアルバムの存在を知ったのは例のAmazonのおすすめで実はたかだかひと月前のことでしたが、すぐに注文して聴いてみると、こんなアルバムがあったのかってうれしくなり、ほっとした、やっぱりな、落ち着くべきところに落ち着いた、そんな感じを受けました。
今の僕のヘヴィローテーションの1枚です。
繰り返し、僕だってまだまだブルーズを聴き始めていくらも経ってない人間なのにこんな言い方も申し訳ないと思いつつ敢えて言えば、このアルバムはほんとうにロック人間のブルーズへの入り口の1枚として家にあるととてもいいと思います。
逆に、ブルーズに聴き始めていくらも経ってないロック人間、僕こそがその人間であるから、このCDはとっても魅力的に思えた、これが正直なところです。
なんて、結局はまたブルーズに戻ってしまいましたね(笑)。
明日以降はまた戦略を立て直すとするか、それともこのまま突き進むか・・・