THE WORKS クイーン | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

自然と音楽の森1日1枚-Sept14Queen


◎THE WORKS

▼ザ・ワークス

☆Queen

★クイーン

released in 1984

CD-0130 2011/09/14

Queen-05


 クイーンのサウンドトラックを除いた10枚目のスタジオアルバム。


 クイーンのアルバムがユニヴァーサル傘下のアイランドから再リリースされていることは何度も触れてきていて僕はその度に記事にしています。

 この9月には最後の5枚が出ましたが今回はその中から前との続きという意味合いも兼ねてこれを記事にしました。

 

 僕がリアルタイムで初めて聴いたクイーンはこのアルバムからの最初のシングルRadio Ga-Gaでした。
 洋楽を聴き始めてから初めて出たのはこの1つ前の以前記事にしたHOT SPACEでしたが、その頃はまだ「ベストヒットUSA」も見ておらず、ラジオでも聴いた覚えがなく聴く機会がないままクイーンという名前を覚えました。

 「ベストヒットUSA」の翌日の朝に高校の教室で話したことは今でも忘れません。

僕:「クイーンのRadio Ga-Gaってなかなかいい曲だったね」

CMT:「えっ、ウソだろ、ガガってなんだって笑っちゃったよ・・・」

 CMT(=Class Mate T)は学校の帰りによく僕の家に寄って僕が買ったLPを聴いてお菓子を食べながら洋楽の話をしていて仲は良かった人ですが、何に対しても結構辛口で強くものをいう人で恐いという印象もありました。

 こんなふにゃふにゃな僕とよく仲が良かったよなって今にして不思議ですが(笑)。
 それはともかくCMTの言葉に表されているように、当時クイーンは落ち目でした。
 キャリアも10年を越え、ベストアルバムも出し、世の中とのかい離が見え始め、クイーンとしての力が明らかに落ちていました。
 おまけにこの頃は当時アパルトヘイト政策をとっていた南アフリカの白人の保養地「サンシティ」でコンサートを行ったことが非難されたり。

 まだ若かった僕はそんな悪いタイミングでクイーンと出会ってしまい、曲は良かったけど買おうという気持ちにはなりませんでした。


 買わなかった理由のもうひとつはやはり個人的なタイミングの問題で、このアルバムが出る前にわが家で初めてビデオデッキを買っていてビデオクリップを録画して曲を聴くようになり、このアルバムからの4曲を録画して観て聴いていたということもありました。


 しかし次のアルバムA KIND OF MAGICは気に入ってすぐに買い求め、その流れでその時のひとつ前であるこのLPも買って聴きました。
 その間に僕の身にあったこととして書いておきたいのは、MTV番組でBohemian Rhapsodyを録画して何度も何度も観て聴いていたことで、これはすごい人たちなんだとすっかりクイーンを大好きになっていたのでした。


 このアルバムの特徴を短くいうと「音楽的なコンセプトがない」ことですかね。
 歌のイメージとしては「機械文明の中で生きる人々」で統一していますが、でも音作りは、1曲できる度に煮詰めていって集まったところでアルバムにしたという印象です。
 これは前作でファンク的手法を大々的に取り入れて失敗したことと、その後メンバー間で少しぎくしゃくしたことと関係あるのではないかと思います。

 コンセプトなしにばらばらに作ると散漫な印象を受けがちですが、しかし不思議なことにこのアルバムからはそういう印象はあまり受けません。


 ひとつは前述のように思考的なイメージの統一感があること。


 もうひとつ、クイーン自体がもはやコンセプトといえるものであり、クイーンとして4人が集まって作ったこと以上のコンセプトは必要なかったのではないか。
 この後ソロ活動が盛んになっていきましたが、もしかしてこの時点で4人はビートルズのABBEY ROADのようにクイーンはもう終わりかなと思いながら意識的にクイーンであることを「演じて」作ったのかもしれません。
 そうであるなら、散漫ではあってもクイーンらしいことは理解し納得できます。

 またこのアルバムから強く感じるのは、クイーンが真にクリエイティヴな集団であり彼らはそれを誇りに思っていたことです。
 ただ「仕事」とだけ題したアルバム名からしてもそれが伝わってきます。

 

 このアルバムからはRadio Ga-Ga、I Want To Break Free、It's A Hard Life、Hammer To Fallと4曲のシングルが切られてそれらのビデオクリップが作られました。

 クイーンは以前からヴィジュアルにも力を入れていて、このアルバムでは世の中がそれを認めたというか、MTV時代になり世の中がクイーンに追いついたともいえるのではないかなと。

 なおその4曲は順にロジャー・テイラー、ジョン・ディーコン、フレディ・マーキュリー、ブライアン・メイが作曲していて、4人の曲がひとつずつあるのは逆に言えば当時の彼らの関係がぎくしゃくしていたことを表しているようにも思います。

 

 

 1曲目Radio Ga-Ga、ロジャーは晩成型の作曲家といえますね。
 実際グレイテスト・ヒッツには彼の曲だけ収録されていなかたけど、ロジャーは最初から積極的に曲作りを続けていて、ついにここでシングルA面を得て大ヒットし後にクイーンを代表するまでの曲になりました。
 ビデオが普及した世の中でラジオへの郷愁を歌い上げた曲で、バグルスの「ラジオ・スターの悲劇」の続編みたいなものでしょうか。
 この曲は1985年に行われた「ライヴ・エイド」で演奏されその日いちばん盛り上がった曲として今では伝説となっていますが、ビデオクリップ絡みで面白い話をひとつ、ブライアン・メイがビデオクリップ集のDVDで語っている話を紹介します。

 「ライヴ・エイド」ではこの曲の中間の♪ All we hear is Radio Ga-Ga, Radio Gu-Gu, Radio Blur-Blur
の部分がくると、観衆は一斉にまずは両手を上に上げ、ガガのところで頭の上で両手を打ち鳴らすという仕草をして感動したと。

 この曲は「ライヴ・エイド」で初めて人前で演奏した曲だったのに観衆がビデオクリップのそのシーンを再現したのはビデオの力も感じたということです。
 ラジオへの郷愁を歌いラジオに捧げる曲なのにビデオクリップの威力を知るというのは本人たちにも面白い皮肉だったでしょうね(笑)。
 そしてもうひとつ言わなければならないのは、21世紀になってレディ・ガガというこの曲から名前を取ったと思われる時代のスターが現れたことで、これにはロジャーもほくそ笑みつつ感謝していることでしょうね。
 クイーンのファンとしても若い世代にこの曲が聴かれているかと思うとうれしくなる部分はあります。
 ガガさんいろいろありがとう(笑)。
 でも、「レイディオ・ガガ」と「レディ・ガガ」だから韻を踏めるわけで、日本風に「ラジオ・ガガ」と言ってしまうと違ってきまいますね・・・まあいいか。


 2曲目Tear It Upはブライアン・メイお得意のストレートなハードロックでギターリフがとにかくカッコいい曲。
 一度しかない中間部分でフレディがなんだか追い詰められたかのように歌うのが割と単純な曲に変化を与えてより印象的にしています。

 3曲目It's A Hard Lifeを最初に聴いてオペラのアリアとハードロックがこんなにも見事に融合するなんてとただただ驚き感動しました。
 フレディがこの後オペラ歌手のモンセラート・カバリエと共演しBARCELONAを作ったのはいわば必然だったのでしょうね。

 4曲目Man On The Prowl、はっきり言えば「愛という名の欲望」の二番煎じのロカビリー。
 でもいいんです、緩いところがあるのもクイーンだから。
 なんといっても曲は素直にとてもいいですからね。


 5曲目Machines (Or 'Back To Humans')
 喋りにボコーダーを使ったりベースがコンピューターサウンドのようだったりと無機質なサウンドは機械に支配された人間の姿を描いているけど、その中で歌うフレディの声がなんと人間味あふれていることか。
 もうそれだけで十分にメッセージが伝わってくる曲。

 6曲目I Want To Break Freeは軽やかな演奏に歌いやすい歌メロと厚いコーラスの極めてポップな曲でジョン・ディーコン後期の名曲の一つ。
 ビデオクリップは60年代のアメリカのホームドラマ風で4人が女装しているのが当時話題になりました。

 ところで僕がこのビデオクリップを見て思ったのが・・・フレディは手が長い
 一度しか出てこない中間部になるとフレディは上半身裸になり大きく派手なアクションで踊りながら歌うけど、普通に立っていてもこぶしが膝まで届いていたんじゃないかなというくらい。

 ちなみに僕は太ももの真ん中辺りまでしか下がりません(笑)。


 7曲目Keep Passing The Open Windowsは隠れた名曲だとずっと思っています。
 全体的にはディスコの後のベース主導のサウンドの中で、フレディの歌い始めの部分の旋律が不似合いなまでに美しく、ノリがいいのに美しい、フレディにしかできない曲。

 8曲目Hammer To Fallはブライアンのハードロック路線の代表的名曲。
 僕はもともとハードなロックが好きだったようで、当時この曲を聴いて無条件で大好きになりギターを弾いている自分を発見したのでした。
 歌詞はちょっとニーチェの影響なのかな(笑)。
 最後はなんだかいい加減に打ち鳴らすように演奏が終わり"Give it to me one more time!"とフレディが叫ぶのがなんというかこうあまりにもカッコよすぎ!
 単純にカッコいいので一度聴くと何度も繰り返し聴きたくなる曲です。

 9曲目はIs This The World We Created...?、最後は耽美的な哀愁を帯びたもの悲しいバラード。
 ブライアンのアコースティックギターだけをバックに歌うフレディのあまりにも悲しげな歌い方には世の中の無情を感じずにはいられません。
 アルバム最後の曲は元気に終わってもらいたいのは僕の持論ですがこれは全く逆手に取ったいわば反則技、でもそれが効果的。
 まるでハンマーで破壊された後に残った世界のように・・・
 クイーンの奥深さを感じる隠れた名曲ですね。

 

 今回出た2枚組のDisc2は別テイクやライヴヴァージョン等が収録されていますが、注目はThank God It's Christmasが入っていること。
 この曲はこのアルバムの後にシングルがリリースされたので入っているのでしょう。

 毎年クリスマスになると聴くこの曲を先日久しぶりに聴いたところ、クリスマスじゃなくてもやっぱりいい曲ですね(笑)。

 ポピュラー音楽は人気商売だから、その曲そのアルバムが出た時の世の中の流れや動きとはリンクしていなければ必ずしも作品としてだけは評価してもらえずにヒットしない、そういうものなのでしょう。


 でも、アルバムとしてかたちが残ってしまえばいつか時代と切り離され、作品そのものの良さが見直される時が来る、そういうものでもあると思います。


 クイーンのTHE WORKSは、僕自身の中でその動きがあった、僕の体験としてそれが分かったという意味でも僕には大切な1枚です。

 このアルバムは昔より今のほうがずっと大好きですから(笑)。