THE UNION エルトン・ジョン&レオン・ラッセル | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森1日1枚-Sept12EltonJohnLeonRussell


◎THE UNION

▼ザ・ユニオン

☆Elton John & Leon Russell

★エルトン・ジョン&レオン・ラッセル

released in 2010

CD-0129 2011/09/12

Elton John-02, Leon Russell-03


 エルトン・ジョンとレオン・ラッセルの歴史的共演。


 昨日の続き。

 僕がエルトン・ジョンを本腰を入れて聴こうと思ったのはこのCDがあまりにも素晴らしいからです。

 

 このアルバムが昨年リリースされていたのは知っていてそれなりに興味はありウィッシュリストに入れていました。

 でも当時はまだエルトン・ジョンは苦手だったし、レオン・ラッセルも昔から知っているのにほとんど何も聴いておらず、その状態でこのCDを買っても楽しめるだろうかと思うと買う気になれずにずっと保留のままでした。


 しかし今年の夏にレオン・ラッセルのLIVE IN JAPANがリリースされて買ってみたところ気に入って僕の中にレオン・ラッセルの流れがきて、そうなるとこのアルバムも買う方向に気持ちが大きく傾きました。


 そんな折、札幌市内の桑園地区に僕がそれまで知らなかった古本中古CD店を発見しました。

 店はマンションの1階にあり、ブックオフなどのチェーン店系列ではない個人が営むいかにも古くからある古本屋といった趣きの店で、古くというのは僕が二十歳の頃からという意味ですが、あまり広くない店に入ると古本の匂いがしてCDもかなり充実していてある程度のマニアでも楽しめる店でした。


 そこにこのアルバムのDVD付き国内盤があったのでした。

 2580円と定価より1200円安いだけで少し迷いましたが、でも新品よりは安いし、なにより今まで知らなかったCDが充実した古本店を見つけたのがうれしくこのご時世でその店がなくならないよう応援のつもりで買うことにしました。

 運命論者の気がある僕としては、そこにこれがあったのはレオンを聴き始めたというタイミングだけにこれは僕が買うためにあったんだなとも思いましたし(笑)。


 聴くとすぐにとても気に入りました。

 だいたいこんな感じの音楽かなと想像し予想し期待したほぼその通りでしたが、その範囲内では最上の部類でした、極上というか逸品というか。

 いい意味で期待を裏切るアルバムに出会うとうれしいものですが、期待した通りの上に質がよいアルバムというのもうれしいもので音楽聴き冥利につきます。

 

 音楽の面でいえばまるでアメリカ音楽博物誌のようで、ブルーズ、R&B、ジャズ、ゴスペル、カントリー、ホンキートンク、ラグタイムにクラシックとほんとうになんでもありの音楽です。

 それはレオン・ラッセルがやってきたことそのままと言えますが、考えてみればエルトン・ジョンだってそういう姿勢があったからこそアメリカでもあれだけ受け入れられたということに、僕はここで初めて気づかされました。

 まあでも僕も予想通りだったということは、エルトンに対してそのように漠然と感じてはいたけど自分の言葉としてそれを認識していなかっただけかもしれないけど。

 2人は同じものを見ていたわけですが、でもエルトンは英国人でレオンはアメリカ人という違いがそのまま2人の色に反映されていて、アメリカ音楽という同じひとつのグラウンドから、エルトン・ジョンはその外にいて自分の心につながる部分を取り出してゆくタイプであるのに対し、レオン・ラッセルはその中に入り込んで外に送り出すというタイプだと思いました

 

 アメリカ音楽を基礎としたこのアルバムの2人の音楽はしかし、土臭いというよりは洗練された響きで余計な引っかかりなく心に入ってきます。

 最初はそれが意外だったのですが、聴いてゆくうちにそれは僕がレオン・ラッセルをよく知らなかっただけで、実際に彼の音楽を聴いて分かったのは、音楽としては確かに泥臭いスワンプ志向だけど音は結構細やかで洗練されていて聴きやすい音であるということでした。

 そうであるならエルトンと合うのも不思議はないですね。


 アルバムのコンセプトは、曲名や歌詞を見るとどうやら聖書に題材を取っており、一人の人間の行いとそれに伴う心情を連続した劇のように綴っているものと思われます。

 しかし残念ながら日本人であり幼少の頃から聖書が傍らにあるような生活を送ってこなかった僕にはそれ以上のことは分からないし書くことができません。

 でも、曲の根底に流れる2人の思いのようなものは確かに感じます。

 それはやっぱり音楽の力であり、この2人の偉大なピアノマンが歌うからこそ分からない人間にも確かな感動が伝わってくるのでしょう。


 このアルバムを聴き始めた頃に僕が感じたのは、「重たいけど軽く聴けてしかし残るものは非常に重たい」、ということでした。

 しかし聴き進めてゆくとそれは、内容の重さはやはり聖書に関係するからだと見えてきました。

 でも音楽的にはあの手この手でいろいろなスタイルの音楽を次々と繰り出して楽しませてくれる。

 そして聴き終わると何かずっしりと重たいものが心に残るからである、というのがこのアルバムで、こうした感想を持ったアルバムはほとんど初めてといっていい、不思議な感覚です。

 それを成し得たのはやはり音楽に真摯に向き合うとともにエンターティナーである2人の人生が刻まれた音楽だからでしょう。


 16曲のうちわけは以下の通り。

レオン・ラッセルひとりで書いた曲=3曲

エルトン・ジョン&バーニー・トーピンの曲=9曲

その2人にプロデューサーのTボーン・バーネットが加わった曲=1曲

そこにレオン・ラッセルとスタッフが加わった曲=1曲

エルトン・ジョン&レオン・ラッセルの共作=1曲

レオン・ラッセル&バーニー・トーピンの曲=1曲

 面白いのはレオン・ラッセルがバーニー・トーピンと組んだ曲があることで、このプロジェクトが単なる思いつきの寄せ集めではない「本気度」が伝わってきます。

 

 僕がこのアルバムのクライマックスと思う12曲目The Love Is Dying、朗々としたバラードでいかにもエルトン・ジョンの曲ですが、エルトンのようにひとつの「カタ」を持っている人は強いなと思いました。

 この曲の歌メロや曲の流れ、説得力、大きさや深さは誰が聴いてもエルトン・ジョンの音楽として納得し得るものです。

 しかしそれがレオン・ラッセルとの共演でもうまくいっているのは、レオンは逆に相手や周りに合わせるのが上手くそこを引き出すことに長けているのだと思いました。

 そうですよね、シェルター時代にロックからブルーズからソウルからいろいろ手がけた人ですからね。

 2台のピアノをスタジオに持ち込んでスタジオライヴ形式で録音されたというこのアルバム、ゲストとしてブックレットに名前を見つけてうれしかったのが、キーボードで3曲にブッカーT・ジョーンズがに、そして1曲コーラスにニール・ヤングが参加していることでした。

 なんだかどんどんと重みが増してゆきますね(笑)。

 さらには僕が買うCDの4枚に1枚は参加しているのではないかというジム・ケルトナーが2曲を除いてドラムスを務めているのもうれしい限り。

 そろそろシメに入りますがもうひとつ感じたのは、エルトン・ジョンはエルトン・ジョンの声で歌っているけど、レオン・ラッセルは70年代に比べると声のアクが減って声のしゃがれかたもがさつき感が減ってずいぶんと優しくまろやかな声になったな、もっといえば声が若くなっているなということでした。

 その結果2人の声が驚くほど似ている、いや似てはいないけど(笑)、同じ感じで2人で歌い継いでいてまったく違和感なく融合しています。

 ただこれ、僕はエルトンは昔からほぼずっと聞いて(聴いて、ではなく)きたけど、レオン・ラッセルは近年の活動はほとんど知らない上に今は70年代のものばかり聴いているからそう感じるのであり、実際はレオンの声もだんだんと今のようになったのでしょうね。


 そして僕はレオン・ラッセルの影響力の大きさを感じ、その力はミュージシャンの間だけに作用するのではなく聴き手にも伝わってくることがよく分かりました。

 だって、あんなにエルトン・ジョンが苦手だった僕が、今は聴きたいと自然と思えるようになったくらいですから(笑)。

 とにかくすごいのです。

 こんなにすごいアルバムがまだ作られていなかったということに感動すら覚え、この先も新しく作られる音楽を聴き続けてゆく上では希望や勇気を与えられたようにすら感じます。

 若い人には響かない音楽かもしれないですが、音楽が好きであり続ける以上はきっとこの良さやすごさが分かる時がくるに違いありません。


 奇跡のようなアルバムですが、でもその奇跡を成し遂げるのは確かな人間の歩みであることが分かります。


 この2人で全米ツアーに出たことをレオン・ラッセルのLIVE IN JAPANのブックレットで知りましたが、今にして、行ってみたかったと思い始めています。



 それにしてもレオン・ラッセルのこの姿はもはや仙人ですね。

 ロック仙人、スワンプ仙人、音楽仙人。

 小学生に仙人の絵を描いてごらんというと、みんなこのレオン・ラッセルみたいな絵を描くことでしょうね(笑)。