◎DEDICATED
▼デディケイティド
☆Steve Cropper
★スティーヴ・クロッパー
released in 2011
CD-0123 2011/09/01
スティーヴ・クロッパーの新譜が素晴らしくとってもいい!!
ブッカーT&MG'sのメンバーとしてスタックスの数多の名曲のバックを務めたギタリストという説明はもはや不要のスティーヴ・クロッパー。
彼が影響を受けた人が1960年頃の黒人コーラスグループザ・5・ロイヤルズ The 5 Royalesのロウマン・ポーリング Lowman Paulingというギタリスト。
スティーヴはまだ駆け出しの頃にダック・ダンのつてで彼らと知り合いロウマンと話をした際に、ロウマンが使っていたストラップがカッコよくてそれを真似てみたのが始まり。
もちろん影響を受けたのはストラップだけではなく、リズム、フレーズ、ソロと何でも聴かせてしまうロウマン・ポーリングの中にギタリストの理想の姿を見つけ出した。
時を経て、ザ・5・ロイヤルズに捧げるアルバムを作ってみたはどうかと言われたスティーヴは、なんていいアイディアだ、なぜいままで思いつかなかったのだろうと制作を始めた。
これはCDのブックレットにあるスティーヴ自身のライナーノーツの要約です。
ザ・5・ロイヤルズは僕は名前すら聴いたことがなくここで初めて見て知りました。
記事を書く際にネットでいろいろ調べて彼らについても触れるべきかもしれない、
だけど僕はある程度知っていることをネットで調べて補足することに吝かではないけれど、知らないことを調べて書くのはよしとしないので、ザ・5・ロイヤルズについてはここでは触れることができません。
しかし僕も知りたいので、戦中戦後から1960年代前のアメリカと日本のポップスに詳しく自費制作のCDにライナーノーツを書いたことがある友だちにこのCDをおすすめして、きっとザ・5・ロイヤルズは知っているだろうから友だちから話を聞けないかとメールを出してみました。
楽しみです、なんて勝手に言ってますが(笑)。
ザ・5・ロイヤルズの曲はいかにもオールディーズという響きでひたすら楽しく聴けます。
歌メロがよくてついつい口ずさんでしまう曲ばかりなのはさすがポップス王国の往時の人たちの曲だなと。
スティーヴ・クロッパーのギターワークも影響を受けた人に捧げるだけあって充実したプレイとなっており、ギター弾きの端くれとしてはとにかくギターの響きがきれいで演奏が素晴らしい。
今のスティーヴ・クロッパーというギタリストはまさに自らがロウマン・ポーリングに見出したギタリストの理想像そのものであり、充実したプレイはそこからくる満足感や達成感がもたらしたものかもしれません。
音質が全体的に少し硬めでもたっとしたところがなく、ギターはもちろん切れがいいので全体的にシャープでおしゃれな感覚の音になっているのも聴きやすいところです。
歌がある曲は多彩なゲストを招いて歌ってもらっていますが、ここでは数曲かいつまんで話してみます。
Tr1:Thirty Second Lover with Steve Winwood
僕が今年から大好きになったスティーヴ・ウィンウッドがいきなり歌ってくれますが、ウィンウッドがここにいるのを僕は極めて当然の流れとして受け止めました(笑)。
声がだいぶ低くなった感じはするけどこの能天気なまでに楽しい曲を味わい深く歌っています。
Tr4:Dedicated To The One I Love with Lucinda Williams & Dan Penn
ルシンダ・ウィリアムズはこの気持ちが入りやすい曲をソウル以上にソウルフルに歌っていて凄味があります。
ダン・ペンは名前は知っていて多分どこかで耳にはしているでしょうけどここに参加していることでそろそろアルバムも聴いてみたいと思いました。
Tr5:My Sugar Sugar with John Popper
ジョン・ポッパーは僕は知らないのですがこれは楽しいというよりハッピーでいいですね。
同じ単語を2回繰り返しそれが"sugar"というのもいかにもオールディーズ。
Tr6:Right Around The Corner with Delbert McClinton
デルバート・マクリントンも僕は知らない人でしたがこの曲はこのアルバムで2番目に気に入りました。
「やっきぃだっきぃゆぅわっ」という楽しいコーラスで始まる単純な3コードの曲は途中の後追いコーラスも雰囲気を出しまくっていてひたすら楽しい曲。
Tr8:I Do with Brian May
僕が勝手にこのアルバムの白眉と決めたのがブライアン・メイを招いたこの曲!
ここでブライアンはギターはもちろんリードヴォーカルをとっていますが、ちょっと頼りなげなブライアンの歌い方がこの緩い曲には最高に合っています。
考えてみれば、僕が記憶している限りではブライアン・メイがリードヴォーカルとして他の人に呼ばれて客演した例はなく、僕にはそこが新鮮であり、ブライアンにヴォーカリストとして目をつけたスティーヴ・クロッパーはさすが「生き字引」、そのセンスに脱帽しました。
Tr11:The Slummer The Slum with Buddy Miller
バディ・ミラーは名前しか聞いたことがない人ですが、この曲もすっかりお気に入り。
Tr5同様に同じ単語とその派生語を並べた言葉遊び感覚が僕は大好きで、気がつくと「ざすらまぁざすらむ ざすらまぁざすらむ」と楽しいコーラスを口ずさんでいます。
おまけにこの曲は歌のバッキングとしてのスティーヴのギターの真骨頂で、それこそ彼がロウマン・ポーリングに見出した「リズムもフレーズもソロも」素晴らしい仕事をさらりと聴かせてくれています。
Tr12:Someone Made You For Me with Dan Penn
ダン・ペンはきっと僕が持っているCDのどこかに参加しているでしょうけど自分の意志では聴いたことがない人です、先ほどからそういうのばかりで申し訳ないと思いつつ・・・
このバラードは心から素晴らしいですね、素敵というか。
ダン・ペンのアルバムが出ているのは知っているのでそろそろ聴いてみようかと思いました。
Tr13:Think
インストゥルメンタルは2曲あるうちのこれは2曲目ですが、ギターだけでも歌心をしっかりと感じますね。
ノスタルジーにひたります。
といった具合で多彩なヴォーカリストの声を聴くのも楽しいのですが、それは、このアルバムのタイトルが、スティーヴがザ・5・ロイヤルズに捧げると同時に、多くのミュージシャンがこの優れたギタリストに捧げるというダブルミーニングでもあることにも気づかされ音楽のつながりを感じます。
音はシャープで硬いけど全体的に暖かくて柔らかい雰囲気に包まれ、音楽は楽しくて素晴らしいことを実感できるアルバムです。
僕は毎年大晦日にその年の好きなアルバムの個人的なランキングをつけているのですが、今年は特に優れたものが多くて1位は何か早くも迷い始めています(笑)。