WALLS AND BRIDGES ジョン・レノン | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

自然と音楽の森1日1枚-June29JohnLennonWB


◎WALLS AND BRIDGES

▲心の壁、愛の橋

☆John Lennon

★ジョン・レノン

released in 1973

CD-0089 2011/06/29


 ジョン・レノンのこれは何枚目のアルバムといえばいいのやら、スタジオで新しく録音された曲が入ったアルバムとして数えればソロ5枚目になるのか。

 

 僕が初めて買ったジョン・レノンのアルバムはこれです。


 高校1年の時、当時よく行っていた札幌の狸小路3丁目にあるレコード店「キクヤ」でLPを買いました。

 そこの洋楽コーナーの当時35歳くらいの男性店員と仲良くなり、毎月お小遣いをもらうとビートルズのLPを買いに行きその度にTシャツやら非売品の店頭展示用ディスプレイやらをもらったりしていました。

 そのお兄さんにそろそろジョン・レノンのソロアルバムを聴いてみたいんだけどと相談したところ真っ先にすすめてくれたのがこれでした。

 どうしてかは思い出せないのですが、魂でもイマジンでもなくこれでした。

 僕はその日はお金が足りなかったので次に行く時まで考えて結局はこのLPを買いました。


 このアルバムはジョンがヨーコさんと別居して飲んだくれてロック仲間とバカをやっていた時に作られたことはジョンのインタビューを読んで知っていました。

 そういうアタマで聴くと曲はそこそこ以上かなりいいんだけどアレンジに落ち着きとまとまりがないように感じられました。

 ジョンのヴォーカルも声が荒れているような。

 高校生だというのに生意気ですね(笑)。


 成人してからCD化された際にまたすぐに買いましたがそれらのことはだいぶ気にならなくなりました。

 それもジョンの素直な姿なんだと思えるようになったのでしょう。


 このアルバムは今にして聴くとファンクの影響がかなり色濃く出ていますね。

 当時はそのことには気づかなくて、でも全体のノリがビートルズにはないおかしなリズム感だなとは感じてはいたので、それを適切に言葉で表すことができなかったということでしょう。

 それがファンクの影響だと気づいたのはいつも言う3年前にソウル系を真面目に聴き始めてからのことで、気づくまで四半世紀かかったというわけですね・・・

 まあともかく「おかしな」リズム感だと書いたのはやっぱり違和感があったからですが、でも考えてみればジョンこそが最先端の黒人音楽を競うように聴いて育った人だから、30歳を過ぎても周りで流行っていた新しい音楽には敏感だったのでしょうね。

 もしくはビートルズ末期からの数年は精神的にも病んで内向的だったのが別居で弾けたのか外の世界に目が向きやすくなっていたのかもしれない。

 ともあれジョンもなかなかやるなというところ(笑)。


 ファンクの影響が強い曲についてまずはいきなり1曲目からGoing Down On Loveはボンゴで始まるというのがジョンにしては意表をついているしヴァースの後半のブラスがそれっぽい。

 What You Gotは影響ではなくひとまず本格的にファンクをやってみたというところでしょうけど本物に成りきっていないぎこちなさが逆に親しみが持てる部分です。

 この曲のヴォーカルはいま聴いても力みすぎと思うのですがそれも楽しい部分です。

 Surprise, Surprise (Sweet Bird Of Paradox)は軽やかだけどジョンの歌い方が暑苦しいでも微笑ましい。

 Beef Jerkeyは遊び心いっぱいだけどどこか上滑りしているのが面白くていい。


 このアルバムでもうひとつ僕が若い頃に気になっていたのがオーバープロデュース気味なところです。

 Nobody Loves You (When You're Down And Out)なんてアコースティックギター弾き語り風で始まっていい感じだなと思ったところで不器用に厚塗りしたようなストリングスが入ってきてあれれ・・・と若い頃には思いました。

 曲がいいだけにそれを生かそうとするジョンの思いが強すぎるのかもしれない。

 Old Dirt Roadはお喋りするようなギターをはじめアレンジ的にはいいかなと思うけど歌メロが少しこねくり回しすぎか。


 Scaredは僕はヨーコさんがいない孤独感をいちばん感じる曲だけど壁が不気味に襲ってくるような分厚い音はフィル・スペクターのことがちょっと頭にあったのかな。

 ジョンもドスを効かせて歌おうとしているけど何か頼りなげな部分を感じないでもない。

 このアルバムはもうひとつ曲の中で1度しか出てこない部分がある曲が過半を占めるのですが、ジョンはそれまでビートルズも含めて少なくとも半分以上ではなかったので曲作りでもいつもと違う気分だったのかもしれない。


 #9 Dreamは裏声で歌う(あえてファルセットと言わない)まさに浮世離れした曲でこれはストリングスも含めオーバープロデュースなのがかえって効果的なんじゃないかな。

 Steel And Glassはだんだんと音がせり上がって中間部のストリングスがいつ聴いても今聴いてもぎこちなくて煮え切らない、でもこの曲は煮え切らないことを表したいのでしょう。


 あと3曲。


 Whatever Gets You Thru The Nightはエルトン・ジョンをゲストに迎えジョンがソロで初めて全米No.1を獲得したロックンロール。

 だけどやっぱりファンクの影響が出てロックンロールでもちょっと変わってるなと10代の頃の僕は思いました。

 この曲を聴くとエルトンの歌い方をついつい真似てしまいますよね、「ほぅっみぃだぁ~りんかもんっれっすんとぅめっ」・・・

 ジョンの中では単純な曲だけど酒飲み時代に作ったんだから当たり前なのかもしれない。

 そしてジョンとヨーコさんがよりを戻すきっかけになった曲としても意味がある曲でしょうか。

 ちなみに僕は大好きですよ、ジョンの曲でもっとも気軽に聴けて気持ちだけが盛り上がるから。


 Bless You、ミック・ジャガーはほんとうにこの曲を聴いてMiss Youを作ったのだろうか・・・

 ジョンはインタビューの中でそれを責めてはおらず音楽が誰かの所有物だと考えているのは出版社の人間だけさと言っています。

 そしてエンジニアにこの曲を聞かせたところ、テンポを早くすればヒットソングになるのにと言われたそうで、ミックはその通りやって成功したとも・・・


 Ya YaはCome Togetherがチャック・ベリーのYou Can't Catch Meの盗作ではないかと問題になった際にジョンのレコードでチャックのその曲の著作権を持つ人の曲を歌うという交換条件に応じて歌ったものでジュリアン・レノンがドラムスを叩いて親子で遊んでいます。

 ミックの話との絡みでなんとも皮肉ではあります。



 いろいろ書いてきましたがもちろん今は大好きです。


 これまた生意気な言い方ですが若い頃は音楽としてどうかという観点が強すぎてオーバープロデュースだのヴォーカルが荒いだのと思ったのですが、今はそれもまたジョン・レノンという人間らしさを感じて好きな部分ではあります。

 このアルバムはジョン・レノンらしさが心の深刻な部分ではなくあくまでも音楽の面だけで出ていてジョンのアルバムの中では聴く時を選ばない1枚です。

 ヨーコさんと別居していて深刻だったのかもしれないけど、でもある意味独身貴族に戻れて楽しい部分はあったのかもしれない。

 或いはジョンは自分や周りが考えていたほど深刻な人間ではなかったのかもしれない、そう考えると救われる部分はあります。


 しかしジョンはヨーコさんとよりを戻すことを選んだ、やはりそれが本心だったのでしょうね。

 今にしてそのまま別れなくてよかったと思います。


 なんて書くと結局はこれはこれでジョン・レノンらしい1枚なんですね。

 

 最初にすすめられて聴いたアルバムがこれでよかったと今は思っています。


 ジョンのCDは昨年一斉にリマスター盤が出たので古いCDを今は車の中に積んであって聴きたい時にはいつでも聴けます。

 今朝がその聴きたい時でした。

 


 最後にどうでもいい話。

 来年も再来年も続いていればその先もきっと、この日はビートルズ関係の記事を上げると思います。


 それがなぜかが気になるかたは左上のプロフィールをご覧ください(笑)。