◎NIGHT BEAT
▲ナイト・ビート
☆Sam Cooke
★サム・クック
released in 1963
CD-0086 2011/06/26
サム・クックの1963年のアルバム。
僕がソウル系を傾聴するようになるにあたり1冊の本を参考書として購入して読みそれからずっと傍らに置いてよく目を通しています。
「魂(ソウル)のゆくえ」 ピーター・バラカン著 アルテスパブリッシング
元々は新潮文庫から出ていたものを2008年に出版社が変わって再編集されて新装版として出たものです。
ピーター・バラカンは「ポッパーズMTV」で知りその新潮文庫版は大学時代に出たので買って読んでいたのですが、しかし当時はまだソウル系を真面目に聴こうというよりはロックが影響を受けた音楽としてロックをよりよく理解するために読んだという感じでした。
2008年秋に僕はソウル系を真面目に聴き始めたわけですがその時にそういえばバラカンさんのあの本はどうしたっけと家内捜索したところ行方不明。
それではとネットで調べると新潮文庫版は絶版でしたが代わりにこの本が出ていることを知ってすぐに市内の郊外型書店に買いに行きました。
この本がまさに2008年に出ていたというのが僕にとってやはりソウルを真面目に聴くのはある種の運命だったんだなって思いました。
大袈裟ですか、そうですね、僕は大袈裟な表現が好きだし僕は多少の運命論者でもありますから(笑)。
「魂のゆくえ」では多くのCDが紹介されていますがこれもその中の1枚です。
僕がサム・クックという人を知ったのは高校時代に未発表ライヴアルバムが出た際にFMファンの記事で読んだ時です。
当時は曲も知らなかったけどサム・クックという人には何か引かれるものがあり、CDの時代になってすぐにそのライヴ盤とベスト盤を買って聴きました。
それから次のCDを買うまで実は10年以上が経っていたのですがサム・クックは僕にはずっと特別な人であり続けています。
しかしひとまずベスト盤の中から何曲も口ずさむ曲ができました。
このアルバムは「魂のゆくえ」を買う前から玄人受けするアルバムであると風の噂を耳にしていました。
その本で取り上げられていたのはやはりそうかと思いました。
ずっと欲しいと思っていましたが先日ようやく買いました。
確かにここには僕が最初に買ったベスト盤に収録された曲がなく、知った曲はあるけど別のアーティストによるものです。
しかしこれが素晴らしい。
このアルバムは雰囲気というか空気感がとてもよく伝わってきます。
それはまさに「夜の鼓動」。
1曲目のNobody Knows The Troubles I've Seenのイントロ、揺れるようなドラムスに乾いたベースそして抑えたギターの音は楽器だけでこれだけ的確に夜を表現できるものかと感動すら覚えます。
ストリングスを使わないコンパクトな演奏はナイトクラブのライヴの感覚を再現しているかのよう。
そもそもサムの声質が夜に向いているのかもしれない。
ミキシングもそんなサムの声を活かすべく他の楽器が控え目で乾いた音がするのもこの独特の夜の雰囲気を作り出しています。
いいですね、半世紀近くも前のものとは思えないきれいな音で響いてきます。
ジャケットのサムの表情も背景も夜の音のイメージにぴったり。
タイトルの文字にはポップな色がつけられているのですがもっと弾けたいところを押さえているといった色合いでイメージが統一されています。
サムのヴォーカルもいつもより丁寧に歌っていると感じます。
だから言葉の力が生きています。
♪ Nobody knows my sorrow
と歌うサムの言葉はエンターティナーとしてではなくひとりの人間の言葉として伝わってきますが、サム・クックの身にその後に起こったことを考えるとこれはほんとうに心のつぶやきだったのかもしれません。
サム・クックはヒット曲を生み出す必要があったがためにあえてポップスにすり寄った音でポップに歌っていたとはよく言われることです。
このアルバムは一方でサムがほんとうにやりたかったことを構えずに録音してみたものなのでしょう。
そしてサムはただのポップシンガーではないことを証明したかった。
これはまさにサム・クックのヴォーカルのうま味を味わうアルバムですね。
上手いんじゃないんです、うま味。
ここにはヒットするような派手な曲が入っていない分サムのヴォーカルに意識が集中してゆき、サムのうま味があらためてよく分かる、そんなアルバムです。
いや、あらためてよく分かるではないな、僕の場合。
このアルバムを初めてじっくりと聴いてようやくサム・クックという歌手のすごさが分かりった気がしました。
サム・クックがどういうことをやりたかったのかは残念ながらこのアルバムの後すぐに誰も分からなくなってしまいました。
このアルバムを聴くとサムがやりたかったことを想像させられるというちょっとした楽しみとそれと同じか少し大きい寂しさに襲われます。
寂しさに襲われるのはきっとそれが夜の音だからでしょう。
ここでサムはローリング・ストーンズも後にカバーした2曲、Little Red RoosterとYou Gotta Moveを歌っていますが、ミックやキースもこのアルバムが好きなのでしょうね。
またこのアルバムには当時まだ16歳だったというビリー・プレストンも参加しているなど英国ロックともまっすぐにつながっていく部分もあります。
これはあまりにも素晴らしいアルバム。
素晴らしすぎて時々真面目に聴くのが恐くなります。
なぜ恐くなるか、それは、自分の人生について深く考えてしまうから。
僕はスモーキー・ロビンソンがソウル系でいちばん好きな歌手だと書きましたが、サム・クックはまた別格別次元の人です。
サム・クックのことを書こうとするともはや僕の文章力の域を超えていると感じて記事にするのをためらいます。
だけど大好きだから紹介したくて今日は恥を忍んで記事にしてみました。
しかし一度書いてしまうと僕のことだから、これからも時々、恥を忍んでみたくなるに違いないのですが・・・(笑)・・・