A TREASURE ニール・ヤング | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

自然と音楽の森1日1枚-June25NeilYoung


◎A TREASURE

▲ア・トレジャー

☆Neil Young

★ニール・ヤング

released in 2011

CD-0085 2011/06/25

Neil Young-002


 ニール・ヤングの新譜が出ました。

 今回は新録音ではなく発掘音源集です。



 先ずは僕が買った輸入盤のビニールにも貼ってある帯の代わりのレコード会社による叩き文句とニール・ヤング自身のコメントを引用します。

 なおいつものように引用者は文意を損なわない程度に表記などで手を加えています。


▼これぞお宝! 音楽のタイム・カプセル!!

 1984年から1985年にニール・ヤングがインターナショナル・ハーヴェスターズと共に、宣伝するアルバムもない、当時のレーベルのサポートもないという特殊な状況で行ったツアーの音源を集めたアルバム。5曲の未発表曲(Tr1、Tr5、Tr8、Tr11、TR12)を収録。


▼「常軌を逸していると言われても構わない。それでも一貫性は保っている。一貫して常軌を逸しているのだからね。このアルバムは大変気に入っている。これらのテイクを聴くのは実に25年ぶりだったが、発見したとき、共同プロデューサーのBen Keithはこう言ったんだ。「これはお宝だ」とね」-ニール・ヤング



 1984-85年はまさに僕のリアルタイムで洋楽熱が人生最大級の上昇気流に乗っていた頃。

 でも当時僕はニール・ヤングを聴いてはいませんでした。


 いちばん大きな理由は「ベスト・ヒットUSA」で新曲がかからなかったことです。

 寝てしまったことがあったので完璧にすべて見たわけではなくたまたま寝てしまった日に放送された可能性はあります。

 しかしチャートで20位以内に入ってもいなかったので曲の断片すら聴いた記憶がありません。

 唯一覚えているニール・ヤングは「タイムマシーン」のコーナーでかかったLike A Hurricane。

 その曲はとってもよくて録画してあったのでたまに見て聴いていたんだけどすぐにはレコードを買わず。

 その姿はまさに伝説そのものであり、僕が伝説の人たちのレコードを聴きたいと思うようになったのはもう少し後のことでした。


 思えば1980年代中頃は60年代から活躍していたベテラン達が一度終わりかけていた時期でしたね。

 ポール・マッカートニーが初めてアルバムチャートTop10入りを逃したり、ローリング・ストーンズも諸問題を抱えて煮詰まっていたし、エリック・クラプトンは路頭に迷い、ロッド・スチュワートはそこそこ売れ続けていたけど作品的にはつまらなくなっていた。

 ボブ・ディランやキンクスの記事でも触れたように当時はまだまだロックは若い人が聴くものという意識が強かったと今振り返ってもそう思います。

 90年代に入ってそれらベテランはみな大復活したのは何かが変わったからでしょう。


 今回の新譜の曲が録音されたのはゲフィン時代のEVERYBODY'S ROCKIN'とOLD WAYSの間ということですね。

 それらのアルバムについてはまた別の機会に譲るとして今聴くとどちらも聴きどころがある面白いアルバムで僕も好きですが、当時は評価とは別に売れなかったこともなんとなく察しがつく内容ではあります。


 1980年代に一度ゲフィンに移ったのもニール・ヤング自身が行き詰まりを感じたからかもしれないですが、当時は勢いがあったゲフィンをもってしてもニールは復活できずにワーナー系に戻ります。


 だけどやっぱりニール・ヤングには言いたいことがたくさんあったのでしょうね。

 新譜に伴わないしレコード会社の後ろ盾もないツアーをしてまで何かを伝えたかった。

 ニール・ヤングはきっと「伝えたいお化け」ですね、生来のものかもしれない。


 一度埋もれてしまったこの音源を、では今の時代に問いかける意味はと考えて・・・

 それはやっぱりニール・ヤングがただただ伝えたいからにすぎないということで僕の中では落ち着いてしまいます。

 もしかして今後もこのBLOGではニール・ヤングについてはそれで終わってしまうかも・・・(笑)・・・


 それはともかく曲自体が未発表のものがあるというのはいまさらながら驚きましたが、ニールのコメントから推し量るに自分でも忘れかけていたものを思い出して気持ちが盛り上がったのでしょうね。


 このライヴアルバムは総じてカントリーの世界です。

 ニール・ヤングはロックサイドのアルバムとカントリーサイドのアルバムを出していますがそれにしてもこれはかなりカントリー色が濃いです。

 「インターナショナル・ハーヴェスターズ」なるバンドにはスプーナー・オールダムやティム・ドラモンドといったおなじみのメンバーもいますがわざわざそう名乗るところにもメッセージが込められていそうです。

 カントリー色が濃いと書きましたがニール・ヤングの中ではカントリー&ウェスタンというよりはアメリカやカナダのカントリーサイドの音楽という意識なのかもしれません。


 そこまで書いてふと思い出したのが「ファーム・エイド」です。

 アメリカの農業が疲弊してきて立ち行かなくなりそうな特に小規模農家を救おうという動きがアメリカのミュージシャンの中から起こってきて、ジョン・クーガー・メレンキャンプ(当時)はそれを題材に取ったアルバムをヒットさせました。

 調べてみると、ぴたり、「ファーム・エイド」は1985年に始まっていてニール・ヤングも賛同し現在まで活動しています。

 ニール・ヤングのその頃の大きな関心事は農業の問題だったであろうことは、このバンド、このジャケットそしてこの音楽から聴き取ることはさほど難しいことではないでしょう。

 2曲目には名盤HARVESTからのAre You Ready For The Country?を歌っていることもそのことを宣言しているように受け取れます。


 全体的に和やかで緩やかな雰囲気でコンサートが行われたことは伝わってきてこれは聴きやすいアルバムです。

 バンジョーもフィドルもフルに活躍しカントリー色が濃いとは言ってもそこはニール・ヤングのことだからロック的なあたりの強さも失っていません。

 そこが僕にはやっぱりいいなぁと。

 しかし最後のGrey Ridersはカントリーの雰囲気がだんだんと力強いロックに押されやがてそこまで築き上げてきたカントリーの世界をエレクトリックギターが派手に壊してアルバムが終わります。

 こんな曲が未発表だったというのはニール・ヤングの奥深さをまた知った気がしました。


 うれしいのはバッファロー・スプリングフィールドでも特に大好きなFlying On The Ground Is Wrongを歌っていることですね。

 ニールが作曲したにも拘わらずオリジナルでは前半はスティーヴン・スティルスに声を被され後半はリッチー・フューリーの独唱となるこの曲、ニールが歌うとこうなるのか。

 緩いですね(笑)。

 オリジナルではまったく突然に前半から後半にすぱっと切り替わるところはどうするのかなと思って聴いているとそこは間奏を少し入れて間を持たせていました。

 曲の良さを再認識するとともにバッファロー・スプリングフィールドのアレンジの良さも再確認できました。


 次のMotor CityではみんながTOYOTAに乗り始めたけどアメリカの車は大丈夫だろうかといういかにも1980年代「日米貿易摩擦」の時代の曲ですがそれも今となってはなんだか懐かしい。


 それにしてもニール・ヤングはほんとに毎年何かを出し続けていてあきれ、あ、いやただただ驚嘆し尊敬するのみ。

 昨年のまったく新録音の新譜が出たのは秋だったから1年も経たないうちにこれが出たことになります。

 ニール・ヤング支持者のひとりとしてはうれしいんですけどね。

 こうなるともはや次に何を出すかが楽しみです(笑)。

 そしていつまでも出し続けて欲しい。



 最後に余談ですが、このアルバムの邦題は「ア・トレジャー」、日本でも「ア」つまり冠詞をつけるようになったんだなってそんなところにも時代の移ろいを妙に感じました(笑)。

 でもじゃあA HARD DAY'S NIGHTの新しい邦題が「ハード・デイズ・ナイト」だったのはどういうこと・・・