STATE OF CONFUSION ザ・キンクス | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

自然と音楽の森1日1枚-June17KinksSOC


◎STATE OF CONFUSION

▲ステイト・オブ・コンフュージョン~夜なき街角

☆The Kinks

★ザ・キンクス

released in 1983

CD-0077 2011/06/17

The Kinks-002


 キンクスの本国英国での流れでは20枚目のスタジオアルバム、1983年発表。


 今日のキンクスは昨日までの2枚とは一応関係ありません。

 白状すれば遠征の前に記事を書いてタイマーでセットしておこうと思ったものが文章が書けずに保留していたのでした。


 キンクスのこれがつながっているのは遠征の前の記事のローリング・ストーンズで80年代のベテランという流れでふと聴きたくなったことだから、いわば頭の回路が遠征の前に戻ったというわけ(笑)。


 僕がキンクスを初めて聞いたのはこのアルバムのCome Dancingのビデオクリップを「ベストヒットUSA」で見たことで、記憶ははっきりしないけどリリース年が83年ということは高校1年の時でしょう。

 少し暗い廊下みたいなところにレイ・デイヴィスがいるシーンが印象的で曲も覚えが悪い僕にしてはサビは一発で覚えました。

 でも当時は、今だから正直に話しますがビートルズと同じくらい昔からやっている人の新譜にはあまり興味がわかずLPを買おうとはまるで思いませんでした。

 この辺りは前に記事にした1980年代前半のボブ・ディランと同じ感覚であり、いつも言いますが当時はまだまだ「親父ロック」なるものはなくロックは若者が聴くものだったからまあ仕方ないでしょうね、と自己弁護・・・


 キンクスはほんとうに30歳になってから聴き始めました。

 もう10年が経つのか早いなぁ・・・

 キンクスくらい曲がよくていいアルバムが多い大物を30歳まで聴かなかったのは逆に言えば楽しみが残っていたわけで僕は一時期三十路を過ぎていたにもかかわらずキンクスに夢中になりました。

 

 このアルバムはもちろんその頃に初めて買って聴いたのですが、ほぼ唯一リアルタイム当時に接していたのがなんだか少し恐いというか妙に気恥ずかしい思いがしました。

 

 聴くとしかしもう懐かしさの嵐に見舞われました。


 それはCome Dancingが懐かしいというのではなくこのアルバムのサウンドに懐かしさを感じたのです。

 このアルバムにはもろ80年代サウンドを感じます。

 時代の音、時代の共通感覚というのは確かに存在するんだなと思うしまたそれが不思議でもありますね。


 ただし贅肉たっぷりのキーボードが鳴り続けるといった無節操な80年代サウンドではなく、ロックが正常に進化して行った上での80年代サウンドという感じでシャープに響いてきます。

 正直言えば僕はこのアルバムはもっと無節操なサウンドを聴かせているのかと勝手に想像しそこが恐かったのです。

 思いすごしでした。

 60年代から続けてきた20年選手(当時)のキンクスが80年代サウンドにこれほどまでにぴたりとはまるというのが僕には驚きでした。


 なぜキンクスのこのアルバムが80年代サウンドにはまったのか。

 それはキンクスが元々追い求めていたサウンドが80年代型だったからではないか。

 つまりキンクスが時代に追いついたのではな時代がくキンクスの理想に追いついた。


 もうひとつ見逃せないのが80年代はノスタルジーがある種のブームになっていてそれまでは笑い草だったのがみんな本気でノスタルジーを求め始めたことでしょう。

 ノスタルジーがブームになったのはキンクスにとっては最大の追い風だった。

 だって何も考えることなくそれまでやってきたことをただやりさえすればよかったのだから。

 曲はみなどこかで聴いたような雰囲気ですっと胸に収まるしロックンロールというスタイルに立ち返ること自体もノスタルジー込みでのことでしょう。

 しかも曲自体の質が高くてみんな印象的だし口ずさめる曲も多い。


 アルバムでいえばCome DancingからPropertyそしてDon't Forget The Danceの3曲の流れは冷戦当時の混迷を深めていた世の中で踊ることの大切さと意味を見直そうと呼びかけています。

 この3曲は映画で見る1960年代前半までの古き良きアメリカのイメージにつながってきて特にPropertyは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で見たような体育館でのパーティのダンスシーンにぴったりの響き。

 

 壊れた機械のようなギターの音が響くLabour Of Loveや「革命が終わったって聞いてないの?」と問いかけるYoung Conservativesといったちょっと左寄りの曲があるのは冷戦の時代にはひとつのアンチテーゼでありかつそれもノスタルジックに響いてきたのではないかな。

 「コンサバ」なんてもう死語ですよね、てもちろん僕もそんな言葉を日常的に使ったことはなく大学時代に授業で初めて聞きましたが。

 切れのいいギターに導かれたほの暗いロックンロールのState Of Confisionで国家の危機を宣言しながらも音楽の力を信じて前に進もうというメッセージが強烈に響いてきます。

 突き放すようで実は包容力があるキンクスらしさもそのままに。

 

 このアルバムは僕にとっては二重のノスタルジーなのです。

 僕は80年代サウンドが懐かしい、でもその80年代にさらに昔をしのぶ音楽を作っていた。

 まあその昔は僕はまだ生きていなかったけど、ノスタルジーというのは実は音楽において人の心に訴えるかなり大きな要素ではないかと僕は考えていてこれはまさにその通りの音です。

 

 このアルバム、僕は野球に喩えるのが好きなのですが(笑)、バッターが右打者で外角のストライクからボールに逃げるスライダーが来ると予想していたところど真ん中に144km/hくらいの直球を投げ込んで反応出来ずに打てなかったような感触があります。

 あ、キンクスは英国だから野球はしないかな(笑)。


 僕はこのアルバムが大好き。

 出来というか内容の深さという点ではやはり70年代前半までの作品に譲る部分はあるかもしれないけど、曲が粒揃いで聴きやすいという点ではキンクスでも上位に来るアルバムです。
 なにより80年代は僕が育った時代ですからね。


 そして。


 今の日本はまさに「混迷の国家」となっているわけですがそんな時にこのアルバムを聴くのはいろいろと考えさせられるものがありますね。