◎BENT OUT OF SHAPE
▲ストリート・オブ・ドリームス
☆Rainbow
★レインボー
released in 1983
CD-0065 2011/06/01
レインボーの7枚目のスタジオ作にしてひとまずは最後となったアルバム。
ヴォーカルはジョー・リン・ターナー、ベースはロジャー・グローヴァー。
このところアメリカ音楽の小旅行を続けていたので(笑)、月も変わった今日はまた英国ものを。
僕がレインボーを聴き始めたのは30歳になってからですが、それまではアメリカではあまり売れなかったけど日本でやけに人気があるバンドでだから自分にはとっつきにくいかなという先入観をずっと持っていました。
しかし1992年か93年頃に一度近づく機会がありました。
当時弟がヘヴィメタル系を本格的に聴くようになり東京にいた僕が休暇で札幌に帰った時に弟にいろいろと聴かされたCDの中の1枚がこれでした。
僕はそれを聴いて、なんというかこう、うまく言えないけど気持ち悪かったのです。
全体的にほの暗くて感情を押し殺した抑圧的な曲ばかりが並んでいるように聴こえて心の中で壁を作ってしまいました。
少しだけ言い訳するとその頃は精神的に少し弱くなっていた頃だったのでなおのことそう聞こえたのでしょう。
まあだからといってカラッと明るい音楽ばかりを聴きたい気分でもなかった気はする、そうだな音楽から気持ちが少し離れていた時期かもしれない。
ともあれ僕がレインボーを聴くまで時間がかかったのはその体験もあったからだと今にして思います。
しかし今はこのアルバムは大好きです。
昔は気持ち悪いと思ったまさにその部分が大好きです。
僕も大人になったのでしょう(笑)。
クラシックにも造詣が深いリッチー・ブラックモアが作り出す音楽はヨーロッパ的な様式美の世界であり、解放感とは縁遠い抑圧された感覚はそこからきているものでしょう。
実はそれも10代からアメリカンロックが好きだった僕には敷居が高かった部分です。
しかし僕は30歳になった頃からクラシックも少しだけ聴くようになりそこでようやくレインボーの音楽を受け入れる下地ができたのでしょう。
あらためてきちんと聴くとこのアルバムは最初に感じた通りみな同じようなほの暗い感じの曲で占められていますが、それは意図的なのだと僕は考えます。
実際によく似たタイプの曲が幾つかあるのです。
でも似ているからといってこの場合は手を抜いているとか曲ができなかったとかそういう軽薄さは微塵も感じず、意図的にそうしたとしか思えない部分があります。
リッチーの中にある様式美的意識の結晶であり、その意識を一度清算したかったのかもしれません。
このアルバムを聴くと胸が詰まる思いがします、切なくなります。
抑圧的なものからなんとか逃れられればと願いにも通じた思いにかられます。
ストーム・ソーガソンが手がけたジャケットはまさにそのイメージそのものであってこれは秀逸なアートワークです。
世の中にロックのアルバムはたくさんあれど、これだけの雰囲気を持っていてしかもそれで圧倒させてしまうアルバムというのはそうはないと断言します。
当時は若者が夢中になったようだけどこれはむしろ精神的にいろいろな体験を重ねてきた大人が聴くべきハードロックだと思います。
当時聴いていた若者も今聴くときっと違って聴こえるのではないかな。
僕はレインボーのアルバムではいちばん好きだし、全ハードロック・ヘヴィメタルの中でも特別な存在のアルバムです。
Tr1:Stranded
曲相としては軽快に響く曲でアルバムは始まるけどやっぱり抑圧的な響き。
リッチー・ブラックモアのギターはもちろんソロも最高だけどこの曲を聴くとバッキングもまた素晴らしいことが分かります。
エドワード・ヴァン・ヘイレンもそうだし素晴らしいギタリストとはそういうものなのでしょう。
この曲はバッキングのギターを口ずさむことがあるくらいです。
Tr2:Can't Let You Go
ジョー・リン・ターナーもいいヴォーカリストだなと心底思える感傷的なバラード。
これとTr7とどちらが好きかとよく話題になりますが僕はこっちのほうが好きです。
Tr3:Fool For The Night
これもAメロ後半の歌の後ろで流れるギターの「旋律」がいい。
このアルバムはどの曲もからっと明るくない分気持ちが入っていきやすいですね。
Tr4:Fire Dance
ハードロックとトラッドがこれほどまで見事に融合するとは。
この曲を聴くと夏の夜の蛍を思い浮かべます。
Tr5:Anybody Here
このアルバムでもうひとつ野心的なのはインストゥルメンタルがLPでいう各面に1曲ずつ配されていること。
やはりリッチーはここで何かひとつ達したものがあったのでしょうね。
Tr6:Desperate Heart
イントロのアコースティック・ギターが印象的だけどリッチーは近年トラッド的な路線で一応の成功を収めていてこれはその予兆とも言うべき曲。
曲自体はメロディアスなハードロックで、今日このアルバムを取り上げる気になったのは昨夜突然この曲のサビを半ば無意識に口ずさんでしまったから。
Tr7:Street Of Dreams
Tr2と対をなす似たようなタイプのほの暗いバラード。
LPでいうとA面B面同じ場所にこの2曲があるに及んで間違いなくこのアルバムは統一感を出そうとしているkとを感じました。
このアルバムの「邦題」はシングルカットもされたこの曲のタイトルになっていますね。
Tr8:Drinking With The Devil
その実素軽いロックンロールなんだけどやっぱりこのアルバムのほの暗さに染まっています。
歌詞にも"I'm just a rock and roll rebel"とありますし(内田裕也のことではないと思いますが・・・)
Tr9:Snowman
後半のインストゥルメンタル曲。
リッチーもロマンティックな人なんだなって。
ファンのかたごめんなさい、この曲を聴くまでそんなことはまったく思ってもみなかった(笑)。
長い冬を家の中で暖まりながら耐えているイメージ。
余談で、僕はバードウォッチングが好きでエナガの北海道の亜種のシマエナガは正面から見るとまさに雪だるまみたいに白くてかわいいのですが、冬にシマエナガを見ると僕はこの曲が頭の中に浮かんできます(笑)。
Tr10:Make Your Move
インストをはさんで対になっているやはり素軽いロックンロール。
アルバムの最後の曲として最初はどうかと思っていたのですがあまり意味深ではないこの曲でさらっと終わるがために逆に後に引くものが残りまた聴きたくなるのだと聴いてゆくうちに気づきました。
これもリッチーの魔術かな。
最初はこのアルバムは流れがあるようでないと感じていたけど、最近は流れがないようであると思うようになりました(笑)。
そうそう最後にひとつ言わなければならないことが。
このアルバムに参加している当時のメンバーのうち、キーボードのデイヴ・ローゼンタールとドラムスのチャック・バーギの2人は近年はビリー・ジョエルのバックバンドに参加しています。
だから僕も2006年と2008年の来日公演の際に2人を見ているし今年リリースされたビリー・ジョエルのシェイのライヴ盤にも名前を連ねています。
レインボーとビリー・ジョエルがつながるというのも面白いですね。
ちなみにビリーはDave Rosenthalの苗字を「ローゼンソル」と、Chuck Burgiを「バージ」と発音していました。