瞳に映るは君の幻覚、耳に残るは君の幻聴、今も其処に君の残像 -4ページ目

転校してイジメにあって白のコンバースと出会う

中学1年の3学期

春はもうすぐ其処まで来ていたが、まだまだ寒い日が続いていた。

そんな寒空の下風の強いこの町にあたしは引っ越してきた。

関西から関東へ

こっちでは絶対に関西弁なんか使わないと決めていた。

クラスで自ら浮く行為をするのは自殺的行為に近いと思ったからだ。

まだあたしが関西に居た時、周りの大人たちのおしゃべりをよく聞いていた。

「中学生なんて難しい年頃で転校なんてやめた方が良いわよ」

「登校拒否やイジメなんかに合うかもしれないわよ」

「せっかくいい子なのに不良になっちゃうかもよ」

ウルセークソババアども

影でそんな心配をしてる両親にもクソ腹が立つ。

あたしのことをネタにしてくっちゃべってんじゃねーよ。

だからあたしは絶対コッチで浮いたりするわけにはいかなかった。

イジメなんてとんでもない。

あいつらの思い通りになってたまるか。

クラスの裏リーダーとまで呼ばれたこのあたいを舐めてんじゃねーぞ。

しかしやはり世間の風は冷たかった。

関西といっても田舎に住んでいたあたしの中学に通うのは田舎のガキばかりで、

男子だって小学校の頃からの付き合いの奴らばかりだったからほんとガキにしか見えなかった。

なのに

関東の男の子って発育良すぎなんじゃない?

背ぇ高すぎだろ。

正直、怖い。

見下ろしてんじゃねーぞコノヤロー

だけどやっぱり転校生マジックのおかげであたしはみんなの注目の的だった。

何もしなくても周りから寄って来るから、友達作りに気合入れようと思ってたけど、どうやら気合なんて必要無かったみたい。

まぁ容姿端麗だし、アイドル的存在になるのも遠い話じゃないかもね。

放課後、そんな風に調子こいていたあたしの下へと部活の勧誘の波が押し寄せた。

「部活もう決めた?バスケ部入んない?」

「バレー楽しいよバレー!一緒にやろ!」

とりあえずあたしはみんなに愛想良く笑いかけ、「考えとく」と言って軽くあしらっておいた。

その時チラッと、押し寄せる人の影から此方に睨みをきかせている人がいたことにあたしはまだ気づいていなかった。

一週間程過ぎた頃、それは突然訪れた。

あたしが美術部に入部して2日が過ぎた日のことだ。

階段を下から上へと上っていた時、背の高いキレイな顔をした少女と、やはりそれなりに背の高い、だが隣の少女程は背の高くない少女が上から下へと下って来た。

明らかにその2人はあたしを見て表情を曇らせた。

そして次にあたしの靴下へと視線を移した。

「ワンポイントの靴下履いてやがる」

「マジ調子こいてる」

それは小さなボソボソとした声だったから、よく聞こえなかった。

けれど確かに彼女たちはすれちがいざまに”ワンポイント”と口にしていた。

あたしは血の気が引くのを感じながらも階段を上りきった。

転校一ヶ月前

家族そろって中学に挨拶をしに来た日のことだ。

校長はいたって普通で、何処から見ても校長先生をしていた。

その隣でニコニコと愛想良く笑む学年主任は、七三黒縁眼鏡が異様に似合いすぎる男だった。

制服のことや校則のことを聞いている時に、あたしは思い出したように靴下のことを聞いた。

その当時はまだルーズソックスとう物が存在する前で、あたしの持つ学校用の白い靴下にはどれもワンポイントが付いたモノだった。

「靴下はワンポイントが付いたモノしか持ってないんですけど、大丈夫ですか?」

学年主任は愛想笑いを引きつらせ、困ったように話し出した

「ん・・・あ~いや、えーと、大丈夫ですよ」

明らかに焦った後、再び両親に向き直って校風について語りだした。

あたしはその態度を特に気にするでもなく、ワンポイントでも大丈夫という言葉に安心していた。

あのクソ主任め。

こーゆうことがあるんだったら早く言えよ。

おそらく、ワンポイントが校則で禁止されている訳ではないけれど、先輩たちは良くても1年生が履くのは生意気・・・といった所だろう。

先輩に目ぇつけられたりしたら友達減るじゃん。

その日はその後何事も無く過ぎていった。

次の日の体育の授業の後、再びそれは訪れた。

「朱華ちゃん足はやそ~」

「全然そんなこと無いよ!寧ろ遅いから」

「え~ウソ~陸上とか出来そうな感じだよぉ?」

何て話しながら教室の扉を開けた。

そして自分の机に向かうと、ひっくり返って中身が散らばっていた。

「!!!・・・きっと男子がふざけて倒しちゃったんだね」

1人がそう言ってあたしを励ましている間に、もう1人がゴミ箱を指差す

「アレ、朱華ちゃんの?」

ゴミ箱には見てくださいといわんばかりに筆箱がぶら下がっていた。

中身はもちろんゴミ箱の中だ。

「・・・・・・・・・」

あたしは何も言わずに頷く。

2人は他のクラスメイトが戻って来る前にそれらを元に戻す作業を手伝ってくれた。

戻ってきたクラスメイトの中に、明らかにあたしの様子を伺う人を数人見つけた。

おそらく彼女たちの仕業に違いない。

何が目的なのかは分からないけれど、嫌がらせを受けることも予想していたから全然へっちゃらだ。

ただ心配なのは、折角出来た友達を失うかということだった。

イジメに合ってる子の友達なんか誰でもやりたくないよね・・・だって自分もイジメられるかもしれないから。

数日後の土曜日の授業に、英語のカルタをやってみよう!というモノがあった。

5~6人のグループに分かれて行うんだけど、その中に以前あたしの机をおそらくひっくり返した犯人の1人が居た。

その子はあたしの隣に座った。

どーせあたしのこと嫌ってるだろうから、話さないよーにしよー。そう心に決めてカルタに取り組んだ。

しかしその子(サラサラなショートカットが似合う子)は突然話しかけてきた。

それも元気良く、や愛想良く、ではなく、何処か申し訳無さそうに。

「ねぇねぇ、前関西に住んでたんだよねぇ?」

「・・・そうだよ。」

「全然関西弁出ないねぇ。」

その後も普通に会話をした。

犯人は1人じゃないって分かってろけどこの子も絶対その1人のはずなのに・・・何で話しかけて来たりするんだろう?

あたしにはよく分からなかった。

カルタの授業が終わり、土曜日ということもありお昼には全ての授業が終わっていた。

女子トイレであの犯人らしき子達が固まって何か話しているのが見え、何となく気になったから意識しながらそのトイレの傍を通り過ぎると、何やら深刻そうな声が聞こえてきた。

「やっぱりあの子良い子だよぉ。あたしもうヤダ」

声からしてさっきカルタの時に話した子ぽかった。

続いて「あたしも」「あたしも」という声が聞こえてくる。

ほんとに何なんだこの子たちは?

じゃー始めからやらなきゃイイのに。

「くだらねー」そう呟きながらも、ほくそ笑みながら家路に着いた。

平和な日々を夢見て

三学期も終わりに近づいたある日、やはりそれは起こった。

机がひっくり返されることも筆箱がゴミ箱送りになることも無くなり、すっかり油断していたのだ。

だからと言ってワンポイントの靴下を履いていた訳でもない。

だけどだけどだけど、あたしは油断していたのだ。

以前一度だけ階段ですれ違った背が高くてキレイな顔をした少女と、やはりそれなりに背の高い、だが隣の少女程は背の高くない少女がその日は昇降口に居た。

何をしていたかと言うと、下駄箱チェックをしていた。

下駄箱チェックというのは、運動靴がブランド物かその辺で売っている安物かをチェックするというものである。

何故そんなことをする必要があるのかは不明。

もちろん1年生の下駄箱だけ。

そしてあたしの運動靴はプーマでした。

それを見つけた2人は何やら訳のわからないことを叫び吐き散らしながらそれを何処かにポイしてしまいました。

そんなことも露知らずにやって来たあたしは物凄い形相で2人に睨みつけられ

「クソ生意気!!」

「調子こいてんじゃねーぞブス!!」

といった言葉を浴びせられました。

そして2人は鼻息荒くその場を去り、あたしと友達の2人はしばらく呆然とその場に立ち尽くすはめとなった。

何が何やら状況を理解出来るようになったのは、自分の靴箱に移動した時。

ある場所にあるはずのモノが無くなっていたから。

あたしの靴箱を見た友達は同情するように・・・いや、同情していたんだろう。優しい口調で言った。

「上履きで帰るか」

その帰り道はあたしが13年間生きてきた中で最も情けない帰り道だった。

イジメられて上履きで家まで帰るなんて・・・ありえない。

そのことがあってから運動靴はジャスコの安物を買うようにした。

そうしたら、運動靴はやっぱり毎日無事に下駄箱にあった。

されるがままで居るということはすごくかっこ悪いことかもしれない。

でも、転校生のあたしには心強い味方や立ち向かう度胸があるわけでもなく。

ただ毎日を平穏無事に過ごすことが先決された。

前の学校なら人望も思いのままだったけれど、コッチに引っ越してきてからは、失うのは簡単でも得るのはとても大変だった。

たとえ得ることが出来たとしても、所詮は上辺だけの付き合いといった感じだ。

でも、全ては時間が何とかしてくれた。

2年生になり、あたしは唯一無二の親友を得ることとなる。

そして3年生の春、ふと下駄箱で1年の頃を思い出す。

そう言えば運動靴が無くなったことがあったっけ・・・

あの運動靴は何処にいっちゃったんだろう。

今もあたしは安物の運動靴を履いている。

3年になったんだから、もう誰にも文句を言われることはないと思うけど、面倒くさかった。

そうゆうことに関りあいたくないし。

視線をずらした瞬間、ハイカットの黄色がかった白のコンバースが目に入った。

「あたしはダメでこいつはイイのかよ」

出席番号13番、榊原祐

それから先ずっと、この白のコンバースはあたしの憧れの存在となる。