3日前の火曜日、東京に向かった。
火曜、水曜それぞれに用事があったので、
今回は1泊の行程だった。
往路は、
最近よく使う京成バス千葉イースト運行の高速バスを利用した。
国際医療福祉大学成田病院10時27分発の便だ。
しかし、
実に珍しいことが2つあった。
【その1】
始発なのに出発時刻を過ぎてもバスが来ない。
驚いた。
いつもは少し離れた場所でバスは待機していて、
出発時刻が近づくとバス停に着車する。
ところがこの日は、
そもそもバスの姿がなかった。
出発時刻を過ぎる。
5分、6分。
バスを待つ客は7名ほど(それだけ多いのも珍しいことだが)。
皆、時計を見たりキョロキョロしたりと、
不安な様子になってきた。
「遅いですね」
隣りのアジア系医療実習生風の若い男性が声をかけてきた。
「そうですね。いつもはこんなことはないのですけどね」
と返す。
「日本なのに珍しいですね」
との言葉には苦笑して頷くしかなかった。
バスの営業所に電話してみることにした。
「電話できるのですか?」
と男性。
少しはいいところを見せなければいけない。
スマホを手に電話してみる。
営業所にはダイレクトにはつながらず、
まずは音声ガイダンス、というよくあるパターン。
ようやく女性オペレーターが出る。
京成電鉄バスグループの総合案内のような部署らしい。
バスが来ないことを伝える。
確認する、とのことで保留メロディーが流れ続ける。
少しすると、バスが遠くからやって来るのが見えた。
電話は切って、乗車した。
バスが到着する。
「誰かが乗ってますね」
と男性。
新人運転士と最前席に指導教官、みたいなカンジのよく目にする光景だった。
実際には新人なのかは不明だが、
「遅れてすみません」
と腰の低そうな中年運転士が乗客に言っていた。
ただ、遅れた理由に関しての説明はなかった。
着席すると、スマホが鳴る。
先ほど電話で話した女性が、
折り返しでかけてきたのだった。
「バスが来ましたので今、乗りました」
「バスが来てよかったですね」
よかった、とかいう話ではない気もする。
「何かトラブルでもあったのでしょうか?
と、不安なので訊いてみた。
「営業所に確認しないとわからないですね」
と明るく話す女性。
面倒なので、それ以上話を続けるのはやめた。
10時41分、バスが出発した。
始発なのに、定刻14分遅れだった。
回送途中の道路渋滞、
不慣れな運転士の問題、
理由はどちらでもない気がした。
その後、
三里塚公園(乗客なしで通過→これも珍しい)
インターナショナルリゾートホテル湯楽城(乗客数名)
富里七栄スクエア(乗客なしで通過)
を経由して走る。
運転も問題なさそう(上から目線)。
ところが、さらなる謎の事態が発生した。
高速道路に入る前の最後のバス停である
富里バスターミナル到着前、
運転士から驚きの車内アナウンスがあった。
【その2】
途中で別のバスへ乗り換えさせられる。
「次の富里バスターミナルで、停車中のバスへの乗り換えをお願いします」
のような内容だった。
バスが停まっている。
ここは「バスターミナル」を名乗るも、
発着するのはこの路線だけだ。
降車し、乗り換える乗客。
乗り換えたバスは座席のリクライニングが倒れたままだったり、
周到に準備された様子ではなかった。
急きょ配車された車両のように感じられた。
謎は深まるも、ともかく出発。
ここでも、
遅れた理由も、
乗り換えの理由も、
説明は一切なかった。
その後、トラブルなどはなかった。
東京駅日本橋口に到着したのは12時31分。
定刻20分遅れ。
乗り換えも含めた所要時間は1時間50分だった。
運転士に状況を訊くことはせず、
2つの謎を抱えたまま降車した。
おそらく、この運転士はまったく悪くない。
余計な話しかけは、迷惑以外のなにものでもない。
おとなしく、混雑する東京駅の中へと歩いた。
【追記】
しかしながら、やはりモヤモヤする。
無事に東京に着けたので、
それでよいだけの話なのかもしれないが、
いろいろと考えてしまう性分である。
しかも、
何かを隠蔽しているような疑念すら感じる。
車両トラブルによる緊急性、といったものも感じられない。
以下は、
東京駅への車内であれこれと想像した、
自分の勝手な長い長い妄想である。
(備忘録的内容ゆえ、閲覧はおすすめせず)
***********************
乗務予定の運転士Aは前夜、深酒をしてしまった。
そのため乗務前にアルコールが検知され、運転できないことになった。
昔なら誰か替え玉が適当に処理したのかもしれないが、
最近では東海汽船の問題などもあるし、無理だ。
しかし、10時を回った営業所内に代替運転士がいない。
それでなくても運転士不足である。
一刻も早くなんとかしなければいけない。
元運転士で常務取締役のBは、
総務兼運行管理担当のCに声をかけた。
B常務「C君、急で申し訳ないが、ちょっと走ってくれないか?」
C「えー私がですか?研修でしか運転してないですし」
B常務「私も乗るから。これも勉強だと思って」
運転士ではなくても、事務方の幹部候補生として採用されているCは、
入社後に大型二種免許を会社負担で取得していた。
B常務が自分で運転してくれればいいのに、
とも言えず、Cは申し出を引き受けることにした。
C「高速道路なんて走れないですよ。東京の街を走る自信もないっす」
B常務「大丈夫。富里バスターミナルまでの下道だけでいいから」
二人は営業所を出発した。
すでに遅延確定の時間だ。
始発地の国際医療福祉大学成田病院へと向かう。
B常務は回送中の車内で、
他の高速バスの運行ダイヤを見ていた。
そして、まもなく都内から成田空港に到着する高速バスの運転士Dに連絡を入れた。
B常務「D君、急で申し訳ない。空港到着後、営業所回送でなく、急いでそのまま富里バスターミナルに行ってくれないか?」
成田空港から高速道路を走れば、富里までは15分とかからない。
乗務からのご下命である。
Dは承諾するしかなかった。
この日のDの勤務シフトは早番だった。
本来であれば、空港から営業所への回送後、帰宅できるはずだった。
それが、緊急の東京行き命令である。
朝から都内を2往復して、気分はすっかり帰宅モードだった。
気が滅入る。
B常務とCのバスが病院に着いたのは10時40分頃だった。
乗客に理由は言うな、とB常務から口止めされていたので、
Cは努めて穏やかに愛想良く、遅れのみを詫びた。
運転が本業ではないし、前職は別業界の営業。
慣れたものだと自分でも思った。
乗客は7名ほど。
幸いにして外国人客が多く、
クレームを言われることもなかった。
後方の座席に一人、
腑に落ちない表情の初老の日本人らしき男はいるが、
何も言われないからいいだろう。
順調に走り、富里バスターミナルが近づく。
研修以来の大型バス運転だが、
この辺りの平坦な道は、さほど難しくはなかった。
Dの車両が見え、Cは安堵した。
Dもまた、成田空港で全員を降車させた後にひたすら走った。
C運転のバスより先に到着し、安堵していた。
座席やカーテンをきちんと直したり、
車内点検をする余裕はなかったが、
これも仕方ない。
綱渡りのオペレーションの駒として、
任務はこなせている。
富里バスターミナルでは、
B常務、C、Dは顔を見合わせ、
なんとか連携を成立させたことに満足していた。
B常務「D君、悪いがよろしくたのむ」
C「Dさん、お願いします」
D「了解っす。行ってきます」
乗客全員の乗り換えが済み、Dは東京駅へと走った。
いつも以上にアクセルを踏んだ。
到着が定刻20分遅れ程度で収まったのは上出来だろう、と自分を褒めた。
東京行きのバスを見送った後、
B常務とCは営業所へ戻った。
B常務の机上には、
遅れについての問い合わせの電話が総合案内に入っていたことを知らせるメモが置かれていた。
いまだに、ペーパーレス化が進んでいない職場である。
B常務はすぐに電話した。
「遅延の理由は言わなかっただろうね?」
「もちろんです。先方もそれ以上は言ってきませんでしたから」
担当したという女性は明るい声で言った。
バス業界の人出不足は深刻である。
※この物語はフィクション(妄想)です。




