キネマ秘宝館 その2“パラレル・ワールド”『決死圏SOS宇宙船』 | 空閨残夢録

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 『決死圏SOS宇宙船』(原題: DOPPELGANGER、米題: JOURNEY TO THE FAR SIDE OF THE SUN)は、1969年にイギリスでジェリー・アンダーソンとシルビア・アンダーソンが作った特撮SF映画であるが、日本では劇場公開されずに、4年前くらいにやっとこさっとこDVD化された幻の名作である。



 日本での公開は劇場では上映されなかった作品なのだが、1972年にNET(現・テレビ朝日)「日曜洋画劇場」で放映されている。さらに、その4年後の76年にもゴールデンタイムで再放映されている。その後は深夜放送またはローカル放送で編集されて放映されていたが、近年、念願のDVD化と近年に相成る。



 制作と脚本のジェリー・アンダーソンは、かつて70年代の少年たちを魅了した『サンダーバード』『キャプテン・スカーレット』『ジョー90』などのスーパーマリオネーション(特撮操り人形)で有名だ。さらにTVシリーズ『謎の円盤UFO』『スペース1999』の実写作品にも根強いファンが今でも多い作品である。



 本作の最大の見どころは、何といってもセンスのよいメカデザインと、ミニュチュア特撮である。特に未来カーは秀逸な美しさで『謎の円盤UFO』にも流用されている。宇宙船や小型探索機のデザインやメカ描写も心奪われる。



 監督は『007/カジノ・ロワイヤル』のロバート・パリッシュ、主演は米国のテレビで主に活躍していた『インベーダー』(67~68年)で人気となった男優の、ロス大佐役のロイ・シネス。



 あらすじは、欧州を中心とした宇宙開発組織のユーロセク(The European Space Eeploration Centre = EUROSEC)により、太陽系に新たな惑星が発見されることで、ユーロセクとNASAから惑星探索の資金を調達する会議が始まるが、資金は連盟国も米国も支援しない旨を述べるが、敵国のスパイにより惑星探索の計画を知られてしまう。



 その惑星は太陽系内ではあるが、地球の周回軌道上に、太陽を挟んで点対象位置の位置に惑星が存在する事が判明した。調査のためロス大佐は宇宙ロケットで発進したが、目的の惑星に着陸する寸前に墜落して負傷、意識を失う。程なく意識を取り戻した時、自分は何故か地球にいて、上司や妻に何故地球に帰還したのかを厳しく問われる始末。しかしどこかが発進前と違う・・・・・・、ロス大佐は鏡に映る文字や時計を見た途端、ある異変に気が付く・・・・・・。



 それは、地球とは真逆の世界で、文字も時計も自分の内臓まで逆さまで、鏡に映さないとロス大佐には認識できないパラレルワールドだったのである。



 パラレルワールドとは、ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指す。つまり「四次元世界」「異世界」「異界」「魔界」などとは違う「別世界」である。



 つまり、我々の宇宙と同一の次元を持つ並行世界、あるいは、鏡の中の世界みたいな反映であり鏡像の世界であり、並行宇宙や並行時空といった観念で捉えることもできようが、精神の分裂した世界もある意味その範疇といえるかも知れない。



 いずれにしてもSF映画の設定としては今ではポピュラーな次元なり世界観を構築した物語なのだが、ボクはこの映画が好きで、スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』は個人的には何度観てもあまりにも退屈するけれども、タルコフスキーの『惑星ソラリス』の次ぐらいにはSF映画の傑作と感じている作品なのである。