キネマ秘宝館 その3“時空を超えたボードヴィル”『バンテッドQ』 | 空閨残夢録

空閨残夢録

上層より下層へ 
中心より辺境へ 
表面より深淵ヘ 
デカダンよりデラシネの戯言

  


 





 1981年製作の英国映画の『TIME BANDITS』は、本邦では83年に公開された映画で、邦題のタイトルは『バンテッドQ』という作品。英国の中産階級の住宅地にケビン少年はパパとママと静かに暮らしていた。ケビンは10歳ぐらいの歴史好きの少年で、パパとママはバラエティーTV番組に夢中だが、古代ギリシアの軍事に興味を示す、なかなかの物知りの男の子なのである。



 古代史の本をもっと読みたいケビンをパパは寝室に追い込み寝かしつけるが、しかたなくベッドに入るケビンの部屋に、突然、クローゼットの内部から騎乗の騎士が忽然と現れる。ケビンの寝室は森と化して騎乗の騎士は壁の中に消えて行くのであった。翌日の夜にケビンは昨夜の幻が起こる期待に早く寝床へつくと、今度はクローゼットの中から、六人の小人が登場する。



 製作と監督はテリー・ギリアム、少年役はクレイグ・ワーノック、アガメムノン王と消防士役でショーン・コネリーが出演しているのだが、この映画の冒頭のあらすじを述べると、一見ではイギリスのファンタジー映画風なのであるが、この作品はそう簡単なシロモロではないのである。



 登場する六人の小人は創造主、つまり、神の創造を手伝う仕事をしていたのだが、樹木係担当の仕事に不満を抱いて、タイムホールの地図をボス(神=創造主)から盗みだし逃亡する。そしてケビン少年を仲間にして六人の小人たちは世界の時空を越えて、財宝を盗む悪事を企むのであった。創造主のボスに追われ、悪魔がこの地図を横取りする算段に巻き込まれながら、時空間を越えた超ドタバタ劇、スラップスティックな展開を見せる。



 つまり、この映画は『ハリー・ポッター』やイギリスのファンタジー系の映画好みには、多分に期待を裏切られる事であろうが、ボードヴィルとしての映画の原点が満載されていて、ファンタジーを装ったSF風のボードヴィル・ショウだから、大人向けの風刺映画でもあり、モンティ・パイソンの愛好家にはたまらない映画作品なのである。



 そもそも、ボードヴィル(vaudeville)とは、米国においての舞台での踊り、歌、手品、漫才などのショー・ビジネスのことであり、ボードヴィルを演じる者はボードヴィリアン(Vaudevillian)と呼ばれる芸人。米国におけるボードヴィル(イギリスでのミュージック・ホールに該当する)は、初期サイレント映画の歴史の中で重要な位置を占めている存在。



 トーマス・エジソンは最初の映画の題材のいくつかにボードヴィルの見せ物を取り上げている。また、ボードヴィルやミュージック・ホールのための演芸場は、映画を観客に見せるための最初の公共の場所(巡回公演もその一つ)でもあった。



 ボードヴィルやミュージック・ホールのための出し物をフィルムに記録することは、初期映画にとって重要な要素であり、ボードヴィルやミュージック・ホールには他の人気のあった劇場とともに、多くの演者(見せ物師)がいたからである。



 チャーリー・チャップリンやバスター・キートン、ローレル&ハーディ、マルクス兄弟、ジミー・デュランテといった、1910年代から20年代のスラップスティック・サイレント・コメディの有名なスターたちは、ボードヴィルやミュージック・ホールに出演したのちに映画産業に入った。



 そして彼らはボードヴィルの伝統をトーキー映画の時代になっても続けていった。しかし、結果的に映画はボードヴィルという形態を、皮肉にも衰滅させた主要な要因になってしまう。



 その衰退したボードヴィルを映画によって再生しようとする試みを感じさせてくれる作品が、この『バンテッドQ』なのだが、およそ日本の配給会社もその真意を捉えきれずに、円谷プロの「ウルトラQ」でもあるまいし、愚かしき邦題を冠してくれた訳なのだが、それはさておき、ケビンの寝室から最初に時空を移動した場所は、1796年のカステリオーニの戦場であった。そこはナポレオンがイタリアに遠征して布陣した場所に、巡回するボードヴィリアン一行がナポレオンのご機嫌を伺いながら興行のシーンがある。



 次の時空移動は中世のシャーウッドの森で、つまりケビンと六人の小人は国際的な時空盗賊団として、ロビン・フッドに挨拶にいくようなエピソードの後に、アガメムノン王の時代へ移るのだが、ここでも古代のボードヴィルを六人の小人たちは演じている。因みにアガメムノン王を演じるのがショーン・コネリーであり、ケビンは王子として迎えられるのだが・・・・・・。



 アガメムノン王の養子になるつもりだったケビンを六人の小人はタイタニック号の船中に連れて行くのであった。この航海で六人の小人は伝説時代の世界最高のお宝があると伝わる暗黒城を目指す計画を練る。そこは全知全能の創造主である神が、悪魔を封じ込めた場所でもあった。



 すべてあらすじを述べると、この映画を見たこと無い人の興を削ぐので、ここらでやめるが、暗黒城に辿り着いたケビンを含めた七人の小人は、ケビンのパパとママが楽しんでいたTV番組の、「モダン・キッチン社」提供によるボードヴィル・ショウのステージで、悪魔と七人の小人と、これに神様が三つ巴の超ドタバタ最終戦争に巻き込まれるのであったが、悪魔に挑む六人の小人は三人のカウボーイ、中世の騎士団、はてまて戦車に、最新鋭のハイテク戦闘機で応戦する場面は、もはやモンティ・パイソンのドタバタ劇を彷彿とさせるテンヤワンヤの圧巻なのである。



 この映画はファンタジーやSFというジャンルを装ったスラップ・スティックな時空を超えたボードヴィル・ショウなのであるが、モンティー・パイソンのファンであれば屈託なく楽しめる映画作品である。