ビアトリクス・ポター | 空閨残夢録

空閨残夢録

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中心より辺境へ 
表面より深淵ヘ 
デカダンよりデラシネの戯言









 『ピーター・ラビットのおはなし』は愛くるしい兎の挿絵を描いたビアトリクス・ポター(Helen Beatrix Potter)である。彼女は1866年にロンドンに生まれた。それは『不思議の国のアリス』公刊の翌年にあたる。


 イギリス帝国のヴィクトリア朝時代の裕福な子供たちがそうであったように、ポターは幼少時代はベビーシッターとメイドとガヴァネス(家庭教師)によって育てられる。 また、他の子供たちとあまり関わることもなく、庭でイモリ・蛙・蝙蝠・兎などを飼い幼少期を育った。



 少女時代のポターは何時間も飽くことなく小動物や植物を観察し、外出や遠出の際にペットもよく一緒に連れて行っていた。ピーターラビットのモデルになった兎も、この頃に飼っていたようだ。いつも飼っているペットの小動物をよくスケッチしていたと伝わる。 夏は、パースシア地方、スコットランド、湖水地方などの貸し別荘にて過ごしていたと伝わる。



 やがてポターは湖水地方のニア・ソーリー村の風景を30歳の時に斯様に日記へしたためている。




 「かつて住んだことがないほどほぼ完璧な、こじんまりとした場所、素敵なオールドファッションな村人たち・・・・・・」




 このニア・ソーリー村を中心に兎のピーターをはじめ、家鴨のジマイマや子猫のトムのお話の舞台として村の家並みや自然が描かれた。村で唯一のパブである「タワー・バンク・アームズ」は『あひるのジマイマのおはなし』に登場する。パブ(Pub)とは、アメリカでいうバー、フランスのカフェで旅館と飲食店を兼ねた店である。



 このパブと同じ棟に宿泊できるインという「バックル・イート」があり、『パイがふたつあったおはなし』に描かれている。絵本の印税でポターは村のヒルトップ農場と家を購入するのだが、こちらは『こねこのトムのおはなし』の舞台として描かれている。


 ワーズワース兄妹を中心とするいわゆる湖畔詩人たちのゆかりの地でもあるポターが愛した湖水地方は、ウィンダミア湖、ダーウェントウォーター湖畔などの風景を一度目にしてみたいものだが、エドラダワーの小さな蒸留所でウィスキーを煽ってみたいものである。