偏愛映画音楽秘宝館 その14『パット・ギャレットとビリー・ザ・キッド』ボブ・ディラン | 空閨残夢録

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デカダンよりデラシネの戯言






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 西部劇とは、つまり“ Westen” の訳語であるが、ハリウッド製の西部劇ならびに、またマカロニ・ウェスタンの全盛期には、歴史的に米国の開拓期である1860~90年代が主な舞台である。その時代背景にある映画もしくはテレビのドラマが多くを占めている物語を西部劇というジャンルに包括している。

 

 また東部劇である日本の時代劇というジャンルは、西部劇よりも時間軸の幅が長い。黒澤明の『七人の侍』は戦国時代が背景であり、幕末に新撰組が活躍するのだが、戦国から幕末の時代まで300年の時間軸が長く展開している。



 時代劇やチャンバラ映画は、さておくが、ボクが映画館に通うようになる頃には西部劇の終焉の時代であった。ジョージ・ロイ・ヒル監督の1969年の作品である『明日に向かって撃て!』(原題: Butch Cassidy and the Sundance Kid)という作品は、すでに西部劇ではなくて、アメリカン・ニュー・シネマと呼ばれていた。



 この映画の主人公であるブッチ・キャシディーとサンダンス・キッドはワイルド・バンチ(強盗団)を結党して列車強盗を繰り返すも、やがて賞金稼ぎに追われる身となり、たかとびしたボリビアで殺されたのが1908年の事。








 サム・ペキンパーの1969年の映画である『ワイルド・バンチ』はテキサス国境の町サン・ラファエルから物語は始まるが、時代は、既に1913年であり、強盗団の拳銃はリボルバーから、M1911A1の自動拳銃を手にしているのが記憶に残る。つまり、この拳銃は通称でコルト・ガバメント(ハンド・キャノン)という軍用拳銃として知られるオートマティック式なのである。



 1976年のジョン・ウェイン主演による最後の映画である『ラスト・シューティスト』(原題: The Shootist)は、ドン・シーゲル監督による本当に最後の西部劇であろう。物語はネバダ州カーソン・シティーに、有名なガンマンであるJ・B・ブックスが、1901年に帰還するところから始まる。


 カーソン・シティーの冒頭シーンでは、カメラワークは電線を張った電柱から、やがてメインストリートにゆっくり降りて、鉄道、電気、電話、そして自動車が西部の町にも普及してきたことをさり気なく写して行く。つまり、時代は20世紀に移行したことを、さりげなく、淡々と描写しているのだ。



 19世紀の西部は、「自分の命は自分で守る。そのために人を殺すことは悪いことではない。」という常識の時代から、治安は国家に包括されて、文明は次第に開化していく。映画で語られるJ・B・ブックスの信条は、「中傷や侮辱は許さん、干渉もだ、わしもしないし、他人にもさせない」、という強靭な西部流の個人主義は、やがて、それを凌駕する国家的な概念が幅をきかせていく時代に呑みこまれていく。


 正義も悪も個人主義の概念から霧散すると、ならず者や無法者も黒白が法的に鮮明となり、単なる犯罪者でしかなくなる。こうしたアウトサイダーがやがて世間に浮かび上がるのは1930年代の禁酒法の時代まで待たねばならない。



 さて、『ワイルド・バンチ』で、西部劇に引導を叩きつけたと思わしかったペキンパー監督は、1970年に『砂漠の流れ者』(The of Cable Hogue)を撮る。この映画は1908年が物語の舞台であり時代背景なのだが、ペキンパー節の暴力は全く描かれていない温和な作品でコミカルでさえある珍しい作品で、これこそペキンパー西部劇の終焉劇だといえる傑作であろう。



 しかし、ながら、ペキンパーは1973年にビリー・ザ・キッドを題材にしてウェスタンを再度撮るのであった。この映画は『ビリー・ザ・キッド 21歳の生涯』(原題:Pat Garret & Billy the Kid)なのだが、あいかわらず邦題がお粗末でありながらも、主役は主演のジェームス・コバーンが保安官パット・ギャレット役で、悪名高きビリー・ザ・キッドがクリス・クリストファーソン、ボブ・ディランが全篇に音楽を担当しながら共演した作品。



 ビリー・ザ・キッドは21歳で1881年に死んだ伝説化された西部の有名なアウトローである。本名はウィリアム・ヘンリー・マカティー(自称:ウィリアム・H・ボニー)、ワイアット・アープやジェシー・ジェームスと並ぶ西部の伝説的ガンマンである。



 保安官になったパットとお尋ね者ビリーは旧知の友であったが、なりゆきで追う者と追われる関係となる。この映画はペキンパーのバイオレンス感覚がかなり抑制されて描かれていて、男と男の、男と女の、愛と友情が静逸に画面を漂うのが印象的な映像である。だからこそ、ボブ・ディランの音楽がシンミリと画面に響きわたる所以でもある。



 ボブ・ディランも、ビーリ・ザ・キッドを演じたクリス・クリストファーソンもミュージシャンであり、ペキンパーは配役の主要人物に配したキャスティングは、この映画では成功しているといえよう。



 ボブ・ディランの劇中歌で最も印象的なのは『天国の扉』("Knockin' on Heaven's Door")である。この曲は映画のサウンド・トラック版からシングル曲として1973年にリリースされた。ビルボードのランキングでは12位にチャートされたヒット曲となる。