1960年代にイタリア映画のヌーヴェルバーグの旗手となったベルナルド・ベルトリッチは、映像とタンゴを深く結びつけた作品を撮った監督である。1970年公開の『暗殺の森 Il Conformista』ではタンゴを重要な場面に使っている。
この映画はイタリア・ファシズムを心理的描写で浮き彫りにしていく。反ファシズム派の指導者で大学教授とその妻(ドミニク・サンダ)を暗殺する主人公のファシスト(ジャン=ルイ・トランティニャン)の妻(ステファニア・サンドレッリ)が、同性愛的なムードを漂わせて踊るタンゴのシーンは官能的で美しい魅力を放っている名場面である。
ベルトリッチといえばその代表作として世界を騒然とさせた問題作の『ラスト・タンゴ・イン・パリ』で、中年の男ポール(マーロン・ブランド)と20歳のジャンヌ(マリア・シュナイダー)が酒に酔ってふざけてタンゴを踊る場面も印象的であり、タンゴの審査員に咎められてポールはズボンを下ろして尻まで見せる悪態ぶりは名演技である。
この『ラスト・タンゴ・イン・パリ』の音楽を担当したガトー・バルビエリは、この映画音楽で世界的に有名になったアルゼンチン生まれのサックス奏者である。12歳でチャーリー・パーカーに憧れてクラリネットを始める。その後、アルト・サックスに転向する。プロのオーケストラで活躍して、50年代にテナー・サックスに転向して自ら率いる楽団を結成し、活動拠点をヨーロッパへと移す。
バルビエリはタンゴの奏者ではなくて、フリー・ジャズの畑で演奏をしていた。やがてジャズ・フュージョンや生まれ故郷のタンゴなどを創作の枠の中に収めて、あの独特な『ラスト・タンゴ・イン・パリ』の音楽性に至る。然るに、この映画はタンゴという世界からは、ピアソラのモダンなタンゴを越えて、ある種、前衛的な異色な音色をかもし出している。
当初は、アストラル・ピアソラがこの映画の音楽を担当する予定だった伝わるが、ピアソラといえば、75年の『サンチャゴに雨が降る』や85年の『タンゴ~ガルデルの亡命』の映画音楽を担当していた。95年のテリー・ギリアム監督のSF映画『12・モンキーズ Twelve Monkeys』では主題曲に、「プンタ・デル・エステ」組曲がピアソラの演奏で使われていたこともある。
1996年のテリー・ギリアム監督による映画『12モンキーズ(Twelve Monkeys)』は、主演にブルース・ウィリス、ブラット・ピットが出演のSF映画。テリー・ギリアムというえばモンティー・パイソン、そしてボクは1981年の『Time Bandits(邦題:バンテッドQ)』の大ファンでもある。この映画はファンタジーというよりも時空を越えたスラップ・スティック・アドベンチャーであった。
さて 『12モンキーズ(Twelve Monkeys)』なのであるが、この映画のサウンド・トラックがテリー・ギリアムこだわりの作品でもある。まずはテーマ曲にアストル・ピアソラの「プンタ・デル・エステ組曲」のバンドネオンの響きが超印象的に映画全篇に一際耳に残り胸にざわめく。
劇中にカー・ラジオから聴こえるBGMはファッツ・ドミノの「ブルーベリー・ヒル」もいい響きで、美空ひばりの歌う「ブルーベリー・ヒル」もお薦めですネ。
1959年の全米1位の大ヒット曲は、サント&ジョニーのインストロメンタル曲である「Sleep Walk」をB・J・コールがギターで演奏するのもいい感じだ。
映画のエンディング・クレジットに流れるルイ・アームストロングの「この素晴らしき人生(What a Wonderful World)」も実にしめくくりとしてはうまい演出であった。
さてさて、いずれにしても、ベルトリッチ監督はタンゴ狂のようで、64年の『革命前夜』、69年の『暗殺のオペラ』の作品でも象徴的にタンゴを使っていた。映画とタンゴを語るにはガルデルについても述べなければならないのであろうが、ボクはまだまだ若くて?・・・・・・タンゴを語るには青二才である悪しからず。
(了)