1973年公開のオカルト映画『エクソシスト』は衝撃的なホラー映画でもあった。76年公開の『オーメン』もこれまた恐怖と怪奇を体感させてくれた。77年に公開されたイタリア映画の『サスペリア』もダリオ・アルジェットの映像とゴブリンによる音楽で恐怖を震撼させてくれたのを記憶している。
今、あらためてこれらのオカルト・ホラー映画の映像を観て音楽を鑑賞してみるに、リチャード・ドナ監督による『オーメン』の映画音楽が秀逸と感じられる。『エクソシスト』も『サスペリア』も恐怖感という体感を音楽から強く感じられるが、『オーメン』の音楽性から感じられる恐怖は魂の深淵にまで響く奥行を感じられる。
『オーメン』のあらすじであるが、米国の外交官であるロバート・ソーン(グレゴリー・ペック)は、ローマの産院にて、死産した我が子の代わりに、同時刻に誕生した孤児である男子を養子として引き取り、ダミアンと名付ける。ほどなくして駐英大使に任命され、その後も公私共に順風満帆な生活を送るロバートであった。しかし、乳母の異常な自殺を境に、ダミアンの周囲で奇妙な出来事が続発する。疑惑を持ったロバートは調査を開始するが、ついにダミアンの恐るべき正体を知ることになる。
この映画の音楽を担当するは、ジェリー・ゴールドスミス(1929~2004年)である。彼はアメリカ合衆国カリフォルニア州出身。父は建築家、母は教師。幼少の頃、母親がピアノを習わせたところ非凡な才能があると言われたため、ジェイコブ・ギンペルについてピアノを習い、さらにマリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ に理論を学ぶ。
最初はピアニストを志したが、後に作曲家へと関心が向かい、ロサンゼルス市立大学に進学したのち『白い恐怖』を観て映画音楽に興味を持ち、同映画の音楽担当ミクロス・ローザが南カリフォルニア大学にて講義を受け持っているのを知ると、1年間聴講し指導を受ける。
事務員としてCBSに入社し、当初タイピストをしていたが、すぐに音楽部門へ転属。ラジオドラマから料理番組まで放送用音楽を作り、アルフレッド・ニューマンの推薦などで、50年代半ばからTVや映画の音楽を書き始める。生涯において170作品を超える映画を手がけ、アカデミー賞に18回ノミネートされて、その後、『オーメン』で受賞した。またエミー賞を5回受賞している。
以下の映画が音楽を担当したゴールドスミスによる代表作品。
『危険な道』In Harm's Way(1965年)
『ブルー・マックス』The Blue Max(1966年)
『電撃フリント/GO!GO作戦』Our Man Flint(1966年)
『猿の惑星』Planet of the Apes(1968年)
『パットン大戦車軍団』Patton(1970年)
『トラ・トラ・トラ!』TORA!TORA!TORA!(1970年)
『パピヨン』Papillon(1973年)
『チャイナタウン』Chinatown(1974年)
『風とライオン』The Wind and the Lion(1975年)
『オーメン』The Omen(1976年)
『ブラジルから来た少年』The Boys from Brazil(1978年)
『カプリコン・1』Capricorn One(1978年)
『エイリアン』Alien(1979年)
『大列車強盗』The First Great Train Robbery(1979年)
『スタートレック』Star Trek: The Motion Picture(1979年)
『アウトランド』Outland(1981年)
『ランボー』First Blood(1982年)
『ポルターガイスト』Poltergeist(1982年)
『トワイライトゾーン/超次元の体験』Twilight Zone The Movie(1983年)
『サイコ2』Psycho II(1983年)
『アンダー・ファイア』Under Fire(1983年)
『グレムリン』Gremlins(1984年)
『スーパーガール』Supergirl(1984年)
『未来警察』Runaway(1984年)
『スティーブ・マーティンのロンリー・ガイ』 The Lonely Guy(1984年)
『レジェンド / 光と闇の伝説』Legend(1985年)
『ロマンシング・アドベンチャー キング・ソロモンの秘宝』King Solomon's Mines(1985年)
『ランボー/怒りの脱出』Rambo: First Blood Part II(1985年)
『ポルターガイスト2』Poltergeist2 : The Other Side(1986年)
『ライオンハート』Lionheart (1987年)
『ダブルボーダー』Extreme Prejudice(1987年)
『レンタ・コップ』Rent-a-cop(1987年)
『インナースペース』Innerspace(1987年)
『ランボー3/怒りのアフガン』Rambo III(1988年)
『リバイアサン』Leviathan(1989年)
『スタートレックV 新たなる未知へ』Star Trek V: The Final Frontier(1989年)
『トータル・リコール』Total Recall(1990年)
『グレムリン2 新・種・誕・生』Gremlins 2: The New Batch(1990年)
『ロシア・ハウス』The Russia House(1990年)
『氷の微笑』Basic Instinct (1992年)
『ミスター・ベースボール』Mr. Baseball(1992年)
『私に近い6人の他人』Six Degrees of Separation(1993年)
『ルディ/涙のウイニング・ラン』Rudy(1993年)
『激流』The River Wild(1994年)
『トゥルーナイト』First Knight(1995年)
『パウダー』Powder(1995年)
『コンゴ』Congo(1995年)
『ゴースト&ダークネス』THE GHOST AND THE DARKNESS(1995年)
『スタートレック ファーストコンタクト』Star Trek: First Contact(1996年)
『チェーン・リアクション』Chain Reaction(1996年)
『エグゼクティブ・デシジョン』Executive Decision(1996年)
『L.A.コンフィデンシャル』L.A. Confidential(1997年)
『ザ・ワイルド』The Edge(1997年)
『エアフォース・ワン』Air Force One(1997年)
『ムーラン』Mulan(1998年)
『スタートレック 叛乱』Star Trek: Insurrection(1998年)
『スモール・ソルジャーズ』Small Soldiers(1998年)
『ザ・グリード』Deep Rising(1998年)
『追跡者』U.S. Marshals(1998年)
『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』The Mummy(1999年)
『13ウォーリアーズ』The 13th Warrior(1999年)
『インビジブル』Hollow Man(2000年)
『ネメシス/S.T.X』Star Trek: Nemesis(2002年)
『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』Looney Tunes: Back in Action(2003年)
エクソシスト
http://www.youtube.com/watch?v=ONGXB6uEh7k
サスペリア
http://www.youtube.com/watch?v=egUxn_bb448
オーメン 「アヴェ・サターニ」
http://www.youtube.com/watch?v=bWpdbXTQfnE
オーメンのアヴェ・サターニは、カール・オルフの『カルミナ・ブラーナ』のように荘厳な響きで圧倒的に人間の不安感を揺さぶる力を感じてしまう不吉な魅力がある。
ジェリー・ゴールドスミスの映画音楽『オーメン』のサウンド・トラック盤は、カール・オルフの『カルミナ・ブラーナ』に類似している。このオルフによる『カルミナ・ブラーナ』の序曲をジョン・ブアマン監督は『エクスカリバー』で効果的に使用している。
カルミナ・ブラーナ(Carmina Burana)は19世紀初めにドイツ南部、バイエルン州にあるベネディクト会のボイレン修道院で発見された詩歌集で、カール・オルフがこれに基づいて作曲した同名の世俗カンタータがある。
カール・オルフ(Carl Orff、1895 ~1982年)はドイツの作曲家。ミュンヘンに生まれ、同地で死去。オルフは作曲家としてジャンルを特定させない特異性を持っていた。彼の作風は独自のジャンルを作り出しているからである。オルフ自身は、自分の音楽劇を、単なるオペラではなく、メルヘン・オペラ(Märchenoper)と呼んでいた。
オルフによる1937年6月8日、フランクフルト・アム・マインの市立劇場で初演された「カルミナ・ブラーナ」 (Carmina Burana) は大成功を修めドイツ各都市で上演された。
しかし、第2次世界大戦の勃発によってドイツと他国との文化の交流が断絶したため、カール・オルフの名は同世代のイベール 、プロコフィエフ 、オネゲル、ミヨー 、ヒンデミット等よりも国外で知られるようになるのは遅かった。結局国際的に名が知られるようになったのは1954年で、オルフが59歳頃でレコード化された後である。
オルフはカルミナ・ブラーナの成功によって自信を得て、出版社に寄せた手紙の中で、「今までの作品すべて破棄して欲しい。と言うのは私にとってカルミナ・ブラーナが本当の出発点になるからである」と記している。
カルミナ・ブラーナ「おお、運命の女神よ(合唱) O Fortuna (Chorus)」
http://www.youtube.com/watch?v=snxEhsGwAls
ジョン・ブアマン監督は映画『エクスカリバー』でオルフの曲以上に、ワグナーの音楽も映画に強く意識的に使用している。楽劇『神々の黄昏』からジーク・フリートの葬送曲、『トリスタンとイゾルデ』の第一幕の前奏曲である愛の旋律、『パルシヴァル』の前奏曲と聖杯の動機などである。これだけでワグネリアンとしては痺れるにふさわしかろう作品になっている。
またパゾリーニも『ソドムの市』でオルフの『カルミナ・ブラーナ』の「麗しき春の場」を使用していたが、「おお、運命の女神よ」が最も効果的に映画・TVドラマ・CMなどで今でも多く使用されている名曲である。