偏愛映画音楽秘宝館 その5『ランナウェイズ』 | 空閨残夢録

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 2010年公開の米国映画の『ランナウェイズ』(原題:The Runaways)は、1970年代後半に活動し、日本でも人気を博したガールズ・バンドの草分け的な女性ロック・バンドであるランナウェイズの伝記映画である。


 ランナウェイズのボーカルのシェリー・カーリーは、当時ブロンドの15歳の少女で、そしてバンドの平均年齢は16歳、シェリーはコルセットにガーターベルトの殆んど下着姿で歌うことで当時はセンセーショナルな話題となる。



 原作はシェリー・カーリーの自伝的回顧録の『ネオン・エンジェル』をもとに、監督はミュージック・ビデオでマリリン・マンソンやデビット・ボウイの作品を手掛けてきたフローリア・シジスモンディがあたる。



 この映画は子役から人気の超カワイイ、女優のダコタ・ファニングちゃんが主演で、彼女はシェリー・カーリー役を演じているのだが、ランジュリー姿のステージ衣装を見てみたい気もするし、永遠に観たくもない気持ちもあり、とても矛盾した葛藤がココロにありつつも誘惑に負けて観てみました。


 でもでも、観て見て、正解である最高の作品でありましたが、ランナウェイズのギターリストのジョーン・ジェット役のクリスティン・スチュワートが最高の演技で、ダコタ・ファニングを超える存在感と、敏腕レコード・プロデューサーのキム・フォウリーの演技力にも圧倒される映画作品。



 然るに、この映画はシェリーとジョーンとキムが拮抗するように銀幕に存在力を漲ぎらせるが、もう一人重要な人物としてシェリーの双子の姉の存在が大きい物語にもなっている。








 知らなかったのだが、シェリー・カーリーは双子で姉にマリー・カーリーがおりまして、映画冒頭の場面でシェリーとマリーが町にくり出す処から物語は始まる。そして路上に一滴の血が滴るが、それはシェリーの初潮の徴だった・・・・・・、マリーはとっさに自分のパンツをシェリーに穿かせて、トイレで化粧を施し、今宵はマリーの‘パパさん’の車で行楽に街へ出かけるが、シェリーはオクテというよりも男には未だまだまだ関心は薄いのでありました。



 次の場面は、衣料品店で黒髪の少女が男物のレザースーツを物色しているところに切り替わる。この少女はおこずかいを叩いて‘スージー・クワトロ’になるべくレザー・ファッションでロックン・ロール魂を手に入れに来たシーンなのだが、ここでタイトルが出て、スージー・クワトロの『ワイルド・ワン』が流れると、ボクちんは、ジョーン・ジェットと同世代であるからして、このオープニングでウルウル状態で涙を浮かべて興奮してしまう。



 だってさ、だってだってガキの頃にスージー・クワトロにシビレっぱなしだったボクちんだもの、すぐにこの少女に感情移入してしまうのであるが、この黒髪の少女はランナウェイズのリード・ギターのジョーン・ジェットを演ずるはクリスティン・スチュワートがジョーンにそっくりに見えるので驚いてしまう。



 お次の場面は、コタちゃん(どうでもイイけどボクはダコちゃんと呼んでいる)演じるシェリーが学園祭でデビット・ボウイのメイクで口パクの「Lady Grinning Soul」を披露するが、観客には殆んど顰蹙モノのステージ場面。



 実はシェリーが双子だったとはいざ知らず、最初は年の離れた姉妹と思って映画を見ていたが、双子の姉のほうがメイクするとシェリー・カーリーにそっくりなのに驚く。そして映画では双子の姉妹の家庭環境もさりげなく描かれている。



 シェリーのパパはアルコール依存症で、やがてママと離婚して家を追い出される。そんなママにシェリーは不満を感じていているが、ママは再婚を期にインドネシアに移住しようと娘たちに持ちかけるが、パパとお祖母ちゃんと暮らすことを選択する。このママ役がテイタム・オニールなのだが、なんとも懐かしい気持ちになる。



 シェリーのお祖母ちゃんの家に、激写で有名な写真家である篠山紀信が下着姿のシェリーを激写する場面があり、フトドキ者と激写男をお祖母ちゃんが箒で叩く場面があるのが何とも笑える場面。



 さて、物語はロックンロール、ドラッグ、セックスと当然の如く物語は退廃的に加速していくが、シェリーとジョーンのレズビアン場面、ジョーンの前でドラム担当のサンディーがフェラ・フォーセットメジャースを思い浮かべながらシャワーでオナニーする場面、シェリーがドラックを求めて男にトイレで体を許す場面、ジョーンが気に入らない男のギターに放尿するシーンなどがあるが、何故かダーティーでもエロくもない場面が淡々とエピソードとして描かれている。


 やがてトレナーハウスで練習していたガールズ・バンドは、メジャー・レーベルと契約して日本にも来日して成功を収めていくが、シェリーの大胆なランジェリー姿で国内では色物扱いされて、バンド内部は亀裂をはたし破綻していく。そしてシェリーは精神的に動揺し混乱してバンドから脱退してしまいドラックに溺れていくハメとなる。



 終幕の場面で健康を取り戻し雑貨店でアルバイトをするシェリーの姿が映しだされるが、このシーンではシェリーというよりは素のダコタ・ファニングそのもので、とってもカワイイ・・・・・・、それはさておきアルバイトのお店にラジオが流れているが、その放送にゲストでジョーン・ジェットが出演していた。シェリーは思わず電話でラジオ局に電話をしてジョーンに挨拶をするが、この場面泣ける終幕シーンである。



 さてさて、この映画のミドコロは敏腕レコード・プロデューサーのキム・フォウリーがジョーン・ジェットと出逢い、ドラム担当のサンディの二人を磨きにかけるが、ヴォーカルに新たな顔を加えることを思いつきシェリーをスカウトする場面。



 そして、キムやジョーンの練習場所であるトレーナー・ハウスにオーディションへ訪れるシェリーはペギー・リーの『フィーバー』を歌うと言い出すが、他のバンド・メンバーから馬鹿にされてしまう。



 意外にもシェリーはデビット・ボウイは好きでも口パクでしか歌ったことはなく、ママの好きなペギー・リーの曲しか歌ったことはなかったのだ。そこで、機転を利かせてキムはジョーンのギターの力を借りて即興のシェリー用の歌を作ることにした。


 それが、あのランナウェイズの最初で最後のヒット曲『チェリー・ボム』である。さてさてさて、このあまりにも卑猥すぎる歌詞にシェリーはたじろぎ、歌えないと尻込みするが、ここがダコタ・ファニング演じるところの初々しさったらありゃしない!



 ここで歌詞を披露しようと思いましたがヤメテおきましょうネ・・・・・・、因みにチェリーボムとは、サクランボの大きさであるカンシャク玉である爆弾の事で、チェリーの隠語はバージンを表している。



 この映画の最初に流れる曲は、Sweeney Todd の『ロキシー・ローラー』、次の場面のカットでは『ルイジアナ・ママ』が店内でBGMで流れる。そしてタイトルとジョーン・ジェット役のクリスティン・スチュワートが、おこずかいをはたいて買ったレザー・スーツを着て馳走するシーンで、スージー・クワトロの『ワイルド・ワン』が流れる。



 続いて場面はシェリー・カーリーが学園祭でデビット・ボウイのメイクをして口パクの『Lady Grinning Soul』を歌う?・・・・・・、デビット・ボウイの曲は敏腕レコード・プロデューサーのキム・フォーリーとジョーン・ジェットが金髪のボーカリストをスカウトする時に『レベル・レベル』が流れ、シェリーとキムとジョーンが出逢う最初のシーンでも流れる。



 その後は、ランナウェイズの曲と終幕でジョーン・ジェットの曲が中心となるが、途中でセックス・ピストルズの『プリティ・ヴェイカイト』なども挿入されている。この映画のオリジナル・サウンド・トラック盤の挿入曲は以下に・・・・・・




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〔アルバム収録曲〕



01. ロキシー・ローラー/ニック・ギルダー作


02. ザ・ワイルド・ワン/スージー・クアトロ


03. イッツ・ア・マンズ・マンズ・マンズ・ワールド/MC5


04. レベル・レベル/デヴィッド・ボウイ


05. チェリー・ボム/ダコタ・ファニング


06. ハリウッド/ザ・ランナウェイズ


07. カリフォルニア・パラダイス/ダコタ・ファニング


08. ユー・ドライブ・ミー・ワイルド/ザ・ランナウェイズ


09. クイーンズ・オブ・ノイズ/ダコタ・ファニング&クリステン・スチュワート


10. デッド・エンド・ジャスティス/クリステン・スチュワート&ダコタ・ファニング


11. アイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグ/ザ・ストゥージズ


12. アイ・ワナ・ビー・ウェア・ザ・ボーイズ・アー(ライヴ)/ザ・ランナウェイズ


13. プリティ・ヴェイカント/セックス・ピストルズ


14. ドント・アビューズ・ミー/ジョーン・ジェット



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 もちろん映画ではサントラ盤の曲の他にペギー・リーとか、ロックンロールてんこ盛り状態であるが、伝説のレコード・プロデューサーとして登場するキム・フォーリー曰くに、ランナウェイズはコンセプト・ロックの失敗例と映画の中で述べているが、年頃の少女たちにショービジネスの世界でロックンロール魂で大人にすることは甚だ難しいことを感じるとキムは語っていた。



 薬物依存症となるシェリー・カーリーは、その後、双子の姉マリーと音楽活動を再開したり、映画などにも出演し演技を磨くが、再び薬物による使用で業界から消えてしまう。現在は薬物依存症の問題を抱える患者のカウンセラーをしているシェリーである。



 ジョーン・ジェットはランナウェイズの解散にともない英国へ渡りパンクの洗礼を受ける。そして帰国してから、ジョーン・ジェット&ブラック・ハーツを結成して全米でヒット曲をくりだすことになる。ジョーンの軌跡はスージー・クワトロの模倣から、そしてパンク・ムーブメントを通過して、やがて80年代にロックンロールの独自の世界を開花していくのであった。