映画の食卓(銀幕のご馳走)その25『ドラキュラ(血)』 | 空閨残夢録

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デカダンよりデラシネの戯言









 吸血鬼をモチーフにした映画は数多く製作され公開されている。ちょいと調べただけで以下にほんの一部の作品がある。


○1922 吸血鬼ノスフェラトゥ 独 F・W・ムルナウ
○1931 魔人ドラキュラ 米トッド・ブラウニング
○1932 吸血鬼 独仏合作 カール・テオドール・ドライヤー
○1958 吸血鬼ドラキュラ Dracula 英 テレンス・フィッシャー
○1960 血とバラ Et mourir de plaisir 伊仏合作ロジェ・ヴァディム
○1967 吸血鬼 The Fearless Vampire Killers 米英合作 ロマン・ポランスキー
○1968 吸血鬼ゴケミドロ 日本 深作欣二
○1970 バンパイア・ラヴァーズ The Vampire Lovers 英 ロイ・ウォード・ベーカー
○1972 ドラキュラ`72 Dracula A.D. 1972 英 アラン・ギブソン
○1974 ドラゴンvs7人の吸血鬼 英 香港合作 ロイ・ワード・ベイカー、チャン・チャー
○1978 ノスフェラトゥ Nosferatu: Phantom Der Nacht 西独仏合作ヴェルナー・ヘルツォーク
○1979 ドラキュラ Dracula 米 ジョン・バダム
○1983 ハンガー The Hunger 英 トニー・スコット
○1985 スペースバンパイア Lifeforce 英 トビー・フーパー
○1986 ティーンバンパイヤ My Best Friend Is a Vampire 米ジミー・ヒューストン
○1987 ニア・ダーク 月夜の出来事 Near Dark 米キャスリン・ビグロー
○1988 バンパイア・イン・ベニス Nosferatu A Venezia 伊 アウグスト・カミニート
○1992 ドラキュラ Bram Stoker's Dracula 米 フランシス・フォード・コッポラ
○1992 イノセント・ブラッド Innocent Blood 米 ジョン・ランディス
○1994 インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア Interview With The Vampire: The Vampire Chronicles 米 ニール・ジョーダン アン・ライスの『夜明けのヴァンパイア』の映画化
○1995 ヴァンパイア・イン・ブルックリン Vampire In Brooklyn 米 ウェス・クレイヴン
○1995 レスリー・ニールセンのドラキュラ Dracula: Dead and Loving It 米メル・ブルックス コメディ
○1996 フロム・ダスク・ティル・ドーン From Dusk Till Dawn 米 ロバート・ロドリゲス
○1998 ヴァンパイア/最期の聖戦 John Carpenter's Vampires 米 ジョン・カーペンター
○1998 ブレイド Blade 米 スティーヴン・ノリントン
○1999 フロム・ダスク・ティル・ドーン2 From Dusk Till Dawn 2: Texas Blood Money 米 スコット・スピーゲル
○2000 フロム・ダスク・ティル・ドーン3 From Dusk Till Dawn 3: The Hangman's Daughter 米 P・J・ピース
○2000 シャドウ・オブ・ヴァンパイア Shadow of the Vampire 米英合作ルクセンブルク E・エリアス・マーヒッジ
○2002 ヴァンパイア/黒の十字架 Vampires: Los Muertos 米 トミー・リー・ウォーレス
○2002 クイーン・オブ・ザ・ヴァンパイア Queen Of The Damned 米 マイケル・ライマー
○2002 ブレイド2 Blade II 米 ギレルモ・デル・トロ 『ブレイド』の続編
○2003 リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い The League Of Extraordinary Gentlemen 米
チェコ独英合作 ティーヴン・ノリントン
○2003 アンダーワールド Underworld 米 レン・ワイズマン










 2003年以降にも米国で吸血鬼映画は作られ続けていて、本邦や香港映画のB級作品を探せばいくらでもあるし、欧州にも埋もれた吸血鬼映画はまだまだあるであろう。



 ここにあげた吸血鬼映画のほとんどは観ていないが、フランシス・フォード・コッポラの作品は劇場で公開当時に観ているし、その後もビデオで繰り返し観ているお気に入りの吸血鬼映画のひとつである。



 コッポラの「ドラキュラ」はブラム・ストーカーの原作にわりと忠実に作品化された映画だ。吸血鬼映画の原作となっているのはブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』ばかりだけではない。



 シェリダン・レ・ファニュの『カーミラ』やポール・フェヴァルの『吸血鬼の村』などの長編小説も映画化されている。ほかにもジャン・ミストレルの『吸血鬼』、プロスペル・メリメの『グヅラ』、ジョン・ボリドリの『吸血鬼』、E・Th・A・ホフマンの『吸血鬼の女』、ジュール・ヴェルヌの『カルパチアの城』、マルセル・シュオップの『吸血鳥』、コナン・ドイルの『サセックスの吸血鬼』、ルイージ・カプアーナの『吸血鬼』、ベレンの『吸血鬼を救いにいこう』、ジェラシム・ルカの『受身の吸血鬼』、H・C・アルトマンの『ドラキュラ ドラキュラ』、ロレンス・ダレルの『謝肉祭』、ヴォルテールの『吸血鬼』、ドン・カルメの『吸血鬼たち』など文学としても跳梁跋扈して壮観である。



 吸血鬼はサディズム、マゾヒズム、死姦(ネクロフィリア)、人肉嗜好(カニバリズム)、同性愛など、エロチックな欲望の象徴として作家たちに夢見られた妄想の怪物であり、キリスト教的な倒錯と血のエロティシズムを彷彿とさせた夢幻の存在でもある。



 さて、コッポラの「ドラキュラ」は400年の時をさまよって、永遠の愛を求め続ける哀しき男として映画では描かれる。このドラキュラ伯爵にゲイリー・オールドマンが演じる姿は、御馴染みクリストファー・リーが演じる怪奇さよりは人間的である存在。



 自殺したドラキュラ伯爵夫人をウィノ・ライダーが演じるが、19世紀末にミナ(ウィノ・ライダー)役でジャナサン(キアヌス・リーブス)と婚約する二役を演じる。このジョナサンがトランシルヴァニアはカルパチア山脈に居を構える貴族を仕事で訪ねて行くことから物語りは展開する。



 婚約者の不在中にミナの親友であるルーシー・ウェステンラとの同性愛行為が謎めいていて、奥行きの無い映像になっているのが、このコッポラ作品で一番不満となる部分なのであるが、それ以外では、ドラキュラの使いである三人の女ドラキュラが妖艶であるのがお気に入りである。



 この三人の女ドラキュラをアンソニー・ホプキンス演じるところのヘルシング教授が、首を三つ片手に下げて退治するエピソードもたまらない妖しさを醸しだしている退廃的ムードを映像化している。



 さてさて、ミナとドラキュラ伯爵の恋の行方は・・・・・・?


 あらすじは以上にしておき、現実に血液を食材にしているのは、ソーセージのブーダン・ノワールを食べたことがあり、またスッポン料理で赤ワインと割った血を飲んだことがある。そのほかにも世界ではこの滋養に満ちた紅い食材を利用していると思われるが、肉食動物には血や内臓は特別のご馳走である。



 民俗学的に人間は血を飲み食材にするには宗教的に禁忌されていることが世界的に古今東西に事例が多いために、況してや人の血を啜る行為には倒錯的なエロティシズムを西欧のキリスト教社会では禁断の行為とされている。



 ブラム・ストーカーが著した吸血鬼ドラキュラはロマン主義の時代的な背景から登場した訳だが、その時代には背徳とオカルティシズムの匂いを彷彿としているだけでなく、血という象徴にエロティシズムの要素が強く作用している。エロスには食と連動していることはサド侯爵の小説にも描かれているが、食のなかで血は最たるご馳走でもある。