名作映画である『第三の男』の名匠、キャロル・リード監督の遺作になった1973年公開の『フォロー・ミー』(Follow Me!)は、ピーター・シェイファーの舞台劇である『The Private Ear And Public Eye』を原作にしている。
物語はロンドンの街を舞台に、ミア・ファロー演じる米国人のベリンダと、その夫である英国人の紳士で会計士のチャールズ、そしてチャールズに依頼されるおかしな探偵との三角関係を綴っている。
ここに登場するトポルが演じる探偵のクリストホルーが調査の仕事中でも、煎餅のような、クッキーみたいな、お菓子を常に頬張っているのだが、それがマカロンだとわかったのは、つい最近のことである。それまでは、頬張っているのは焼き菓子だとは認識していたが、あまり関心もなかったので見過ごしてきた。
このマカロンであるが、日本にマコロンなるお菓子があり、これはマカロンを真似た仙台市で発祥したお菓子で、原料のアーモンドをピーナッツで代用された焼き菓子なのである。それはさておき、そもそも、マカロンは13世紀の昔に、海外の航路から運ばれてきた積荷のアーモンドが、ヴェネツィアに到着したことから物語は始まる。
このお菓子は、ナンシーに住み着いた二人のカルメル会修道尼によって、18世紀のフランスで評判を得る菓子と、やがてなるのだが、カルメル会修道院の尼僧たちはアーモンドの木を栽培して、17世紀初頭以来、サン=サクルモンの修道院のマカロンのレシピを秘蔵としていた。
アヴィラの聖テレジア(スペインの修道女でカルメル会の改革者)は、この修道女たちのことを斯様に語ったという。「アーモンドはお肉を食べないここの娘たちに好いものなのです」と・・・・・・。
フランス革命後、1792年に憲法が修道会を廃止したのだが、それまでにマカロンのレシピはフランス各地の修道会に広まっていたようだ。また各地の地域でマカロンのレシピも製法にも独自に発展したようである。
今ではマカロンの正統な流派を決めれないほどに、各地で 正当性を主張するマカロンが多く存在しているが、その中でも、一般的に有名なマカロンは、サン=テミリオンのマカロン、サン=ジャン=ド=リューズのマカロン、パリのマカロン、ニオールのマカロン、モン=モリヨンのマカロン、ボルドーのマカロンなどがある。
現在の日本で一般的に流通しているマカロンはパリ風の“マカロン・パリジャン”であるようだが、さて、このお菓子をはじめて食べたボクもパリ風で、パリのサンジェルマン通りにあるジェラール・ミロのマカロンであった。
英国映画の『フォロー・ミー』で、探偵さんが食べていたロンドンのマカロンの詳細は知らないが、変種のマカロンは国境を越えて数え切れないほどあると思わしい。基本的なレシピは、アーモンド、卵白、砂糖によるフランス風のメレンゲ菓子の総称をマカロンと呼ぶ。
さて、映画の物語のあらすじだが、英国の上流階級出身で一流の公認会計士として働くチャールズ(マイケル・ジェイストン)は、或る日、食事をしたレストランでウェイトレスのベリンダ(ミア・ファーロー)と出逢い心惹かれる。
自由気ままな旅行をしていた米国生まれのベリンダとチャールズはやがて恋に落ちる。そして二人は結ばれて結婚する。ここまではシンデレラのストーリーと何ら変わらない。ヒッピーみたいな女の子とプチ・ブルジョワジーとの恋談義である。
しかし、物語は、二人の愛は、早くも急展開する。自由気ままなベリンダは家事はできず、社交的交友もままならず、チャールズの言うところの「育ちの違い」なのか、二人の間はやがてギクシャクしていく。
約束の時間を守れず、家を空けてばかりのベリンダにチャールズは浮気を疑いはじめる。そして素行調査をある興信所に依頼した。そこの探偵クリストフォルーがマカロン を食べながら、ベリンダの尾行を始めるのだが、ロンドンの街を彷徨う彼女に探偵は未熟ながら尾行を気づかれてしまう。
しかし、依頼された仕事を全うするために探偵がとった作戦は意外にも大胆な行動であった。・・・・・・ネタばれになるので、あらすじはここまでにするが、この探偵のとった意外な行動と、ベリンダと探偵の関係性がロンドンの街を舞台に描かれる描写が、この映画の最大の見どころであり醍醐味なのである。それはマカロンよりも美味しい人と人との愛と孤独のふれあいの味わいを醸し出されている。