映画と食卓(銀幕のご馳走)その6『オズの魔法使(林檎)』 | 空閨残夢録

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デカダンよりデラシネの戯言

 


 1939年公開の映画『オズの魔法使 (The Wizard of Oz)』で、主人公の少女ドロシーと愛犬のトトが食事をする場面が3度出てくる。

 映画の冒頭はドロシーとトトが暮らすカンザスの農場で、この場面はモノクロームの映像である。そしてドロシーのヘンリーおじさんさんとエムおばさんさんに、原作には登場しないヘンリーおじさんの農場に雇われている3人の農夫たちである、ハンク、ジーク、ヒッコリーに、近所の意地悪な大地主のガルチ婦人、そして、なにやら胡散くさい旅芸人の占い師マーベル教授が出てくる。

 農夫の3人組は、やがて、ドロシーとトトが行くオズの国で出会うことになる、つまり、かかし男、ブリキ男、弱虫ライオンで、ガルチ婦人が西の悪い魔女、マーベル教授がオズ大魔王として、やがて登場する伏線になる人物たちなのである。 

  さて、そこで3度の食事のうち2度は前半のカンザスの農場で、エム叔母さんが焼いたお菓子を農夫たちとドロシーが食べる場面に、マーベル教授が焼いているソーセージをトトが失敬する場面である。

 そして、竜巻に家ごとオズの国に運ばれたドロシーとトトが、脳みそが無いかかし男、ハートの無いブリキ男、勇気の無いライオンたちと、オズ大魔王に願いを叶えてもらうために、黄色いレンガ道を辿ってエメラルドの都に行く途中で、ドロシーはお腹が空いたので、林檎の木から実をとる場面がある。

 このオズの国からカラー映像の総天然色に変わるわけだが、原作では北の良い魔女から、ドロシーは銀色の靴を貰うのだが、カラー映像の効果からルビーの色の紅い靴に変えられている。因みに原作の南の良い魔女グリンダが、北の良い魔女にも変わっている。

 さて、林檎を木から採ろうとしたドロシーは、リンゴの木の精から咎められたが、かかし男の機転で木の精からリンゴをまんまといただくのでした。この場面で流れる曲は1905年に発表されたスタンダードナンバーである。







♪リンゴの木の下で


リンゴの木の下で
明日また会いましょう
黄昏れ赤い夕日
西に沈む頃に
楽しく頬よせて
恋をささやきましょう
真っ赤に燃ゆる想い
リンゴの実のように


楽しく頬よせて
恋をささやきましょう
真っ赤に燃ゆる想い
リンゴの実のように

In the Shade of the Old Apple Tree

In the shade of the old apple tree
Where the love in your eyes I could see
When the voice that I heard
Like the song of a bird
Seemed to whisper sweet music to me

I could hear the dull buzz of the bee
In the blossoms as you said to me
"With a heart that is true
I'll be waiting for you
In the shade of the old apple tree"

(instrumental passage)

I could hear the dull buzz of the bee
In the blossoms as you said to me
"With a heart that is true
I'll be waiting for you
In the shade of the old apple tree"

作詞:Harry H. Williams、作曲:Egbert van Alstyne
訳詞:柏木みのる、唄:ディック・ミネ


  1905年にアメリカのH.ウィリアムズとE.アルスタインによって作られたこの曲は、昭和12年(1937)にディック・ミネの唄でレコードが発売されると、ダンスホールの人気ナンバーの1つになった。

 しかし、昭和15年(1940)10月31日にダンスホールが閉鎖され、ジャズが「敵性音楽」として禁止されると、表立って歌われることはなくなったが、戦後、ディック・ミネ自身や、進駐軍のキャンプ回りをする歌手たちによって、再び歌われるようになる。

 さてさて、ドロシーが食べた赤いリンゴは毒リンゴではなかったが、その後、エメラルドの都を目前にして、紅い罌粟(ケシ)の花の草原で、花の香気にある毒性の匂いで眠ってしまうのであった。









 『オズの魔法使い』(The Wonderful Wizard of Oz)は、米国の作家で、ライマン・フランク・ボームの作品、これは1900年に発表されたものが、後に、舞台化されミュージカルとして、また映画化もされたわけである。

 主題歌の『オーバー・ザ・レインボー』はあまりにも有名で、原作の『オズの魔法使い』には挿絵があり、W・W・デンスローの絵もお馴染みである。

 主人公のドロシーは映画と同じく、原作でもカンザスの大草原に、ヘンリーおじさんと、エムおばさんと、愛犬トトと幸せに暮らしていた。ところが或る日、愛犬のトトと一緒に家ごと竜巻に巻き込まれて、やがてオズの国へと辿り着く。

 そこで、脳みその無い案山子男と出逢う。更に、心臓の無いブリキの樵(きこり)と、臆病なライオンと出逢い、それぞれの願いを叶えてもらうために、魔法使いのオズに逢いに行くため、エメラルドの都へ黄色いレンガ道を辿っていく、お話しなんですが、作者のライマンは、或る日、自分の子供(男の子)を寝かしつける為に、この物語を創って聞かせていたのだが、ベッドの中のライマンの息子は、その冒険物語に質問をしてきた・・・・・・。



 「それは、どこの国のお話なの・・・・・・?」



 その時、ライマンは部屋の隅にある整理棚に目がいった。その引き出しの一番上には、《AーG》と、整理用ラベルが貼られていたが、二段目には、《HーN》、そして三段目には、《OーZ》とあり、咄嗟にライマンは息子に、三段目のラベルにあるアルファベットから、それは「《OZ》オズの国のお話さ・・・・・・」と答えた。つまり、その引き出しの中から、この物語は生まれたわけである。