アリスとヘンテコな住人たち (その3 / ハンプティーダンプティー) | 空閨残夢録

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デカダンよりデラシネの戯言









 『鏡の国のアリス』は1871年に発表されたが、『不思議の国のアリス』の続編であろう作品。主人公の7歳の少女アリスと前作のいかれた帽子屋も登場する。その他のキャラクターは新たなオカシナ住人たちである。

 「鏡の国」の物語の軸になっているのは、ゲームの”チェス”だ。 冒頭に”チェス”の説明があって、アリスが駒となって”チェス”のゲームの進行通りに物語が進んでいく。
 
  「不思議の国」はウサギの穴に落っこちて反世界の地下に迷い込んだけど、今度は鏡をくぐり抜けてワンダーランドへと入っていく。

 チェス盤は8つの列と8つの行からなるマス目がある。前後に白の陣と黒の陣に分かれて、左右に西がクィーンの翼、東がキングの翼となる。盤の淵をバンドと呼び、その4つ角が隅で、中央の4つのマスが大中央、その周縁を小中央、8つの行を下からアラビア数字で表し、8つの行をアルファベットで左から表記する。この盤にキングが1つ、クィーンが1つ、ルークが2つ、ビショップが2つ、ナイトが2つ、ポーンが8つの駒で対局するが、日本の将棋と同じ原型のゲームである。「鏡の国」はチェス盤の8列から8章の物語へ1マスごとに進行していく。

<一つ目~二つ目のマス>

 アリスが家の外へ出てみると、そこはチェス盤を巨大化した世界だった。 マスとマ スの間は小川で仕切られている。 ここで「赤の女王」が登場して、とりあえずアリスは「白の女王」の「歩(ポーン)」になって、これから進む方向を指南してもらう。

<三つ目のマス>

 ここではいろんな動物といっしょにアリスは汽車で進む。 山羊、カブトムシ、蚊などである。あっという間に小川を越えて、四つ目のマスに入ってしまう。

<四つ目のマス>

 最初アリスは「名なしの森」に入るけど、入ったとたんに自分が誰だか思い出せなくなってしまう。 「名なしの森」を抜けると、2人の太った相似形のちび男と遭遇する。そやつらは「トゥィードルダム」と「トゥィードルディー」であった。 いきなり三人で輪になって踊ったりもするが、 だけど、 この2人のソックリさんは、新品のガラガラ(おもちゃ?)を弟が壊したとかで兄弟ゲンカになってしまう。

 お次は自分のショールを追っかけて「白の女王」が登場。 この女王さま、記憶が前後左右に働くらしく、まだ起こらない事も思い出すことができる妙な予知能力を有する。

<五つ目のマス>

 小川をわたると女王さまは、編物をしている羊になってしまう。 編棒がオールになったかと思うと、二人は小さなボートに乗って流れに乗り進んでいく。そして言葉の<買う>と<カニ>がひっかかって、アリスは卵を買うハメになる。

<六つ目のマス>

 ところが卵がだんだん人の顔みたいになっちゃって「ハンプティ・ダンプティ」の登場。 彼はアリスに次々に謎なぞを仕掛けてくるが、ここはかなり難解で苦戦する。 「ハンプティ・ダンプティ」と別れたあとは、「白の王」や使者の兎と「不思議の国」にも登場したマッド・ハッターが現れて、ライオンとユニコーンの戦いを観戦する。

<七つ目のマス>

 ここはほとんど森のようだけど、親切な「白の騎士(ナイト)」が登場。定年した騎士みたいで馬から落ちてばかりで、おかしな発明がお得意みたいだ。さて、騎士はとりあえず 森のはずれまで、アリスを無事に送りとどけてくれた。

<八つ目のマス>

 ここは最後のマスになる。気がつくとアリスの頭に王冠が乗っていて、自分が女王さまになっていた。 そして、いつの間にか両脇に「白の女王」と「赤の女王」が座っている。ここでの女王の謎々の問いかけは難題を極める。

 さてさて、アーチのある扉が開くと、いよいよアリスのディナー・パーティが始まった。ここでの飲めや歌えの大宴会はシュールなイメージの洪水で圧巻だ。 羊の腿肉がお皿の中で立ち上がって、女王アリスに会釈したりする。宴会の大騒ぎの張本人である「赤の女王」に、ついにキレたアリスは最後に女王をつかまえて”小猫”にしてしまう・・・・・・。

<おさらい>

 めくるめくシュールな会話とイメージが、あいかわらず凄くてナンセンスとペダントリーの大盤振舞である。 知性(数学&論理学)と狂気が、バチバチぶつかり合うキャロル・ワールドはあいかわらず健在だ。 ただアリスもすこし成長してしまったのか、「不思議の国」よりも大人しい雰囲気を漂わせる。






 さて、話は変わり、ビートルズの曲にマザー・グースの童謡歌が強く歌詞に影響している楽曲が2つある。その最初の1曲目は1967年はジョン・レノンの『I am the walrus (アイ・アム・ザ・ウォルラス)』である。この曲はジョンのサイケデリック・サウンドの真骨頂であり、その総決算ともいえるような作品でもあるのだが、これはアルバム『マジカル・ミステリー・ツァー』に収録されている。

 『マジカル・ミステリー・ツァー』はテレビ放映もされているので、その映像も今では残っている。歌詞の冒頭は 「 I am he as you are he as you are me and we are all together.」と始まり、翻訳すると「君は彼で、君は僕で、だから僕は彼で、つまり皆一緒だ」って感じの歌詞である。

 そして、最後のフレーズで繰り返される「am the eggman, they are the eggmen. I am the walrus, goo goo g'joob g'goo goo g'joob.」の意味なのだが、「僕は卵男、彼等も卵男、僕はセイウチ、goo goo g'joob g'goo goo g'joob.」・・・・・・実にナンセンスでよくわからない歌詞なのであるが、この所以は、ルイス・キャロルの『鏡の国のアルス』にもある。それは『鏡の国のアリス』にある「セイウチと大工」のエピソードと、ハンプティ・ダンプティーのパロディーを織り交ぜた歌謡になっているみたいだ。

 日本人からすれば英国のナンセンスな童謡であるマザー・グースのなぞなぞ唄も難解だと思われるのだが、それでは、その謎々の歌詞を以下に掲載しておこう・・・・・・








Humpty Dumpty sat on a wall,
Humpty Dumpty had a great fall;
All the king's horses,
And all the king's men
Couldn't put Humpty together again.


ハンプティ・ダンプティが塀の上に座ってる
ハンプティ・ダンプティが落っこちた
王様の馬も
王様の家来も
みんな集めてもハンプティ・ダンプティを元に戻せなかった



 つまりハンプティ・ダンプティーは卵頭であるから、落ちて割れたら元には戻せないという訳であり、そんな意味なのであろうネ。この位の謎々ならカワイイのだが、ジョンの I am the walrus は謎々の域を超えて超難解な歌詞であるのだが、韻を踏んだ楽曲はサイケ・サウンドの傑作ではある。「ググーギジュー」と聴こえるのはセイウチの鳴き声らしいが、ここにも意味深長が秘められている。

 さてさて、次はポール・マッカートニーによる1969年の作品は『Golden Slumbers(ゴールデン・スランバー)』である。この曲はビートルズの最後の録音となったアルバムの『アビー・ロード』のB面でメドレーの最初の曲である。

 さてさてさて、この Golden Slumbers という曲の歌詞は、ほぼ、マザー・グースの子守唄をベースにしている。16世紀~17世紀に活躍した英国の劇作家のトーマス・デッガーが、この子守唄の作詞家なのであるが、以下にビートルズ版の歌詞そしてマザー・グース版の歌詞を載せよう。



「ビートルズ」版 Golden Slumbers の歌詞はサビ部分のみ


Golden Slumbers fill your eyes,
Smiles awake you when you rise.
Sleep pretty darling do not cry,
And I will sing a lullaby.


黄金のまどろみが君の瞳に溢れ
朝には微笑が君を起こしてくれるはず
おやすみ、かわいいルースよ、泣かないで
ぼくが子守唄を歌ってあげるから

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「マザー・グース」版の子守唄


Golden Slumbers kiss your eyes,
Smiles awake you when you rise,
Sleep, pretty wanton; do not cry,
And I will sing a lullaby:
Rock them, rock them, lullaby.


黄金のまどろみが君の瞳にキスをする
朝には微笑が君を起こしてくれるはず
おやすみ、かわいい甘えん坊、泣かないで
ぼくが子守唄を唄ってあげるよ
ねんねんころりよ、おころり♪



 この曲は、ポールが実父ジムの家に遊びに行った際に、義妹・ルース(実母のメアリーはポールが14歳の時に癌で死亡している。このアルバムの製作に取り掛かっていた頃は実父ジムが再婚した女性の連れ子)にマザー・グースの絵本を読み聞かせたことで創作された楽曲と伝わる。

 いずれにしても、ビートルズも、ルイス・キャロルも、“マザー・グース”という伝承的な童謡歌に時代を超えて影響されているようで、英国の文化にこのナンセンスの影響が著しく大きく作用されているのであろう。

 ハンプティ・ダンプティHumpty Dumpty)は、英語の童謡のひとつである『マザー・グース』に登場するが、童謡のなかではっきり明示されているわけではないけれども、このキャラクターは一般的に擬人化された卵の姿で親しまれており、英語圏では童謡自体とともに非常にポピュラーな存在であるみたいだ。

 この童謡のもっとも早い文献での登場は18世紀後半のイングランドで出版されたもので、メロディは1870年ジェイムズ・ウィリアム・エリオット がその著書『わが国の童謡と童歌』において記録したものが広く用いられている。童謡の起源については諸説あり、あまり、はっきりとはわかっていないのが実情である。